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前よりも別嬪になったかはさて置き、よく笑うようになったのは確かだろう。
娘らと同じく、根が笑い上戸なもので、ちょっとした事でもよく笑う。
ふと、小さな花房がひとつ、気の利いた蝶のように、細い肩先にひらりと止まった。
「どっか行くか? 今日」
「お? いいですね、デート」
「そうそう」
都合を得た心持ちで、これを彼女の髪に、そっと配う。
我ながら、まったく工夫のない寸法ではあるが、いまは早朝。 誰の目もありゃしない。
過去、彼女の頭髪を混沌と飾った髻華の類は、いまその痕跡を探そうとて、一寸も見当たりはしない。
「似合ってる似合ってる」
「えー?」
楽しそうな嫁さんを伴い、家路につく。
「どこ行きたい?」
「どこ……。んー………」
かつて世を苛んだ恨み巫女の現状は、こういう感じ。
取って付けたような花飾りを一つ、艶やかな女の命に配われようとも、笑って済ます可愛いヒト。
黒闇の気は、朝晴れの袂にそっと追いやられて久しい。
日が昇るにつれて、いよいよ花も本降り。
あぁ、フジの花言葉は、“決して離れない”