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開け放った窓からふりそそぐ陽射に紗理奈は目を覚ました、海の音が聞こえない・・・・
ここはどこ?
むくりと起き上がり、ふとあたりを見渡す、ここは自分の家ではない、体は少し疲労が消えどこかスッキリしていた
まず上を向いて確認した、自分は天蓋付きのベッドに寝そべっていた
ここの主のベッドは巨大で、部屋の奥まった一部に備えられていた、その横には山を見渡せるアーチ形の窓があった
ベッドと同じくだだっ広い部屋の奥には、大きな機械がずらりと設置されたPCルームと、ベッドルームが一続きになっていた
真っ黒で非常に男性的で贅沢な家具類を見て、紗理奈がイメージしていた部屋とぴったりだと思った
紗理奈は見慣れない部屋を珍しそうに、ベッドの上からじっくり眺めた、ここはずっと来たいと思っていた直哉の部屋だ
逢瀬を交わすのはずっと紗理奈の海沿いの家だったので、彼はどことなく得体が知れない人だったが
きっと今まで彼と遊んだ女性は誰一人ここまでは、たどり着けなかっただろう、ついに彼の懐にもぐりこんだ感じがした
「ひっ!」
壁には鹿の剥製の首がかかっていた、おそらく本物なんだろう、思わず小さく悲鳴を上げてドキドキした
コーナーにはギターのコレクションの数々、高価なブランドスニーカーが飾られた、ガラスのショーケース
この部屋はまるで直哉の頭の中みたいだ、大きくてゴシック風でまるでバッドマンの隠れ家か、不思議な塔に住む魔法使いになったような気分になった
そして気づいた、紗理奈の横にはレインボーキティのぬいぐるみが寝ていた
クス・・・・
「一緒に連れてきてくれたのね・・・」
さらに自分はナイトドレス一枚きりだってことにも、気が付いて頬を染めた、おそらく彼が着替えさせてくれたのだろう
床に散らばっている衣類に気づいて、拾おうと起き上がった時―
ヌッ!「おはようございます!奥・様・!」
「キャあぁぁぁぁぁぁ!!」
思わず紗理奈は悲鳴を上げて飛び上がった、60代ぐらいの小柄な女性が、銀のトレーを手に紗理奈のベッドの横に突然現れた
「まぁ!よかったわ、お目覚めでしたのね、お会いしたくてたまりませんでしたのよ!、私はこの成宮牧場の女中頭の「福」と申します、どうぞお見知りおきを―」
紗理奈は慌ててシーツを胸もとまで引き上げ、はみかみながら挨拶をした
「あ・・あの・・・ナオから聞いています、とても優秀な家政婦さんだって・・・わ・・・私は・・・・」
ペラペラペラ・・・
「え~!え~!存じあげてますよ!もう~っ本当にナオ坊ちゃまがいつ連れて来て下さるのか、あたくし達成宮牧場一同首を長ぁ~くして待っていたのですからね!!キリンさんになってしまうかと思いましたわ!オホホホホ♪特にアリスお嬢様は待ちきれずに先・生・の、お宅に牛乳を持って行くとおっしゃったのでね!あたくしも旦那様もお止めしたのですよ!!もちろん今年一番の採れたての成宮の牛乳は、国の検定を超えたとても島一番の良い濃度だったのですけれどもねぇ~、いくら坊ちゃまの義理の姉だからと言って、そんな、いきなり押しかけたら先生もびっくりされるってね!旦那様にも厳重に野次馬根性は出さないようにって釘を刺されましてね! あたくし達みたいに誰もがあけっぴろげな訳じゃないとおっしゃられてね、もう~旦那様はすっかり議長様の貫禄がお付きになられて、町民の信望も厚くていらっしゃって、あの方は戦士ですよ!んで!お二人を温かく見守っていきましょうという事に家族会議で決まりましたの!ですがここ最近のナオ坊ちゃまのご様子は本当にあたくしは見ていられませんでね、坊ちゃまと先生は破局したのではないかと牧場中に噂が広まってましてね、あら、奥様とお呼びしないといけませんね、オホホホホ、坊ちゃまの奇々怪々な行動も誰も止められませんで、旦那様も最近薔薇の花が盗まれていないし、いつも夕方になったらめかし込んで出かけていくのに一晩中肥料をあっちこっちに積み上げて回ってるものですから、主人も・・・ってああ、そうそうあたくしの再婚相手なんですけどね、いわゆる熟年結婚ってヤツですの、オホホホ♪お恥ずかしながら、あっちも神戸で運転手の本業を持っているものですからね!もうあたくし達ぐらいの歳になると、お若い人みたいに四六時中一緒にいたいわけではないでしょう?お互いの仕事もありますから週末にあっちがこっちに来たり、こっちがあっちに行ったりで・・・・熟年結婚の週末夫婦ですのよ」
オホホホホ♪と笑うお福に
紗理奈はついて行けず目をパチパチした
さらにお福のマシンガントークは収まらず
ベッドサイドに銀のトレーを置くと
ペラペラしゃべりながら
床に散らばった衣服を平然と集めはじめた
ペラペラペラ・・・
「ナオ坊ちゃまはお仕事はキッチリされているのに
ご自分の身の回りの事はてんで無頓着で― 」
お福は直哉がやったのだろう床に散らばっている
紗理奈の下着までおかまいなしに拾い集めて行く
紗理奈は頬を染め弱々しく微笑んだが
お福の方はそんな紗理奈の恥じらいにも気づかず
てきぱきと部屋を片付けながら
陽気にマシンガントークを炸裂させる
ペラペラ・・・
「夕べ遅く着いた時はお可哀想に
あんなにぐったりと疲れ切ったご様子で
坊ちゃまったら
あたくしがお顔を拝見する暇も与えずに
すぐ二階にお連れになって
お着替えもあたくしがお世話すると言うのを
奥様の面倒は自分が見るからと一点張りで
もう~・・・
それはそれはまるでお人形でも扱うように―」
「な・・ナオ・・・えっと・・
彼は?今どこにいるんですか? 」
ニッコリ微笑んでお福が紗理奈のブラジャーを拾って言う
「馬に乗っていらっしゃいます
毎朝の放牧の日課ですよ
奥様のご用意が整ったら
一緒に朝食をとるからとおっしゃってました
温かいミルクをお持ちしましたけど
お好きなだけお休みになってもいいんですよ?」
「いいえ・・・
もう目が覚めましたからっっ――ううっ・・・」
その時また朝のつわりがやってきた
「うおっ・・・うえっ・・・ゲホゲホ 」
思わずシーツを口に持って言って嘔吐えずく
幸いに空嘔吐えずきで中身は何も出なかった
当然だ、夕べから何も食べていないのだから
しかしつわりは日に日に酷くなっているようだった
いつもの不安が襲う
自分はどこかおかしいんだろうか・・・
「まぁまぁ!・・・
ナオ坊ちゃまから聞いていますが今何か月ですか?
大丈夫!シーツに吐いてもいいのですよ
洗えば済むのですからね 」
お福が優しく背中をさすってくれて
タオルを渡してくれた
しゃべれない紗理奈はタオルで口を押えて
暫く空嘔吐えずきを繰り返し
指で二か月だと知らせた
ああ・・・苦しい・・・
気持ちが悪い・・・
死にそうだ・・・
世のお母さんはみんなこんな壮絶な経験をして
赤ん坊を産んでいるのだろうか
初対面の人にこんなだらしない所を見られて
恥ずかしくて情けなくなる
こんなことで出産まで耐えられるのだろうか
早くも挫折しかけている
その時フム・・・と
お福が紗理奈のブルブル震えながら
空嘔吐きに苦しむ様子を見ていた
人差し指と親指で顎を挟んで
何やら考え込んでそしてこう言った
「5分お待ちください」