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水の前に立つと、
いつも同じ音がする。
ちゃぷん。
誰かが落ちた音じゃない。
誰かが、留まっている音だ。
⸻
最初は、
引き上げるつもりだった。
腕を伸ばして、
名前を呼んで、
「戻ってこい」って言えばいい。
そのほうが正しい。
でも、
いむくんの目を見たとき、
それができなくなった。
⸻
あの目は、
助けを待っていなかった。
諦めでもない。
絶望でもない。
選んだ目だった。
沈むことを。
ここに留まることを。
⸻
「戻らなくていい」
そう言ったのは、
勇気じゃない。
覚悟だった。
引き上げたら、
また正しさに縛られる。
また、
壊れる。
それが、
目に見えていた。
⸻
呼ぶことだけを選んだ。
引き上げない。
説得しない。
正解を与えない。
ただ、
名前を呼ぶ。
それは、
救いじゃない。
でも、
存在を否定しない唯一の方法だった。
⸻
誰かに言われたことがある。
「それは、優しさじゃない」
たぶん、そうだ。
でも、
忘れることのほうが、
もっと残酷だと知っている。
⸻
いむくんが、
返事をしない日もある。
いや、
ほとんど返事はない。
それでも、
呼ぶ。
呼ばなかったら、
いむくんは“居なかったこと”になる。
それだけは、
選べなかった。
⸻
正解じゃない選択。
救えない結末。
それでも、
後悔していないと言ったら、
嘘になる。
ただ――
これ以上、
壊さない選択だった。
⸻
水の底で、
今日も名前を呼ぶ。
返事は、ない。
それでも、
俺は立ち去らない。
引き上げなかった理由は、
今も変わらない。
[END]
ここまで読んでくれてありがとうございました。不思議な物語だったかもしれないですがいかがだったでしょうか?こんなに見ていただけるなんて思ってませんでした。コメントで感想などお待ちしてます。