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一目見た瞬間運命だと思った。
僕には”彼女”しかいないんだ。と。
小・中と平凡な人生を送ってきた僕は無事に何事もなく第1希望だった高校へと進学することができた。
入学から数ヶ月が過ぎた日の晩、散歩をしていると、すずらんのように可憐で、触れたら死んでしまいそうな女の子を見つけた。
その子を眺めていると、彼女はこちらに気がついたのか、恥ずかしそうにどこかへ消えてしまった。
僕はその日から”彼女のことが頭から離れない。
授業中も、家でスマホを見ている時も、ご飯、風呂、ゲームをしている時でさえ、あのときの”彼女の姿がチラついてしょうがないのだった。
とある日の夜、僕は母さんに頼まれた卵と白菜を買いに、家から歩いて数十分の距離にあるスーパーへと向かっていた。
僕の住んでいる町は都会からだいぶ離れていて海に近い場所だ。
買い物を終え、夜風に当たりながら、ついでにとスーパ一で買ったコーヒーを片手に海沿いの道を歩いていた時、あれ、誰か前にいるな。と思い、僕は目を細めて正面を見た。
メガネの度があっていないこともあり、その人物が誰なのかよく見えない。
だけど何となく予想はついていた。
僕は胸の高鳴りを感じながら歩く速度を上げ、前にいる人物に追いつくと、この前見かけた”彼女”だったのだ。
再び会えた嬉しさで僕の胸はより一層高鳴った。
今話しかけないと絶対後悔する。と感じたので、勇気をだして”彼女”に声をかけた。
軽い自己紹介をした後、世間話や恋人はいるのかなど、色々な会話を“彼女”と交わした。
人生で1番幸せな時間を過ごした僕は家に帰ってからもずっとニヤついていたらしい。
歳が3つ離れた妹に「お兄ちゃんキモイよ。」と、言われてしまった。
きっと妹だって一目惚れした人と再会し、話すことができたら僕と同じようにニヤついてしまうはずだ。
テレビの電源をつけると、そこには妹が推している韓国アイドルグループが新曲を披露していた。
慌てた様子でテレビの前に駆け寄る妹を横目に、僕は自分の部屋へ向かった。
ベッドに寝転んで、さっき”彼女”と交換したチャットアプリのトーク画面を開く。
1番最初って何を送ればいいんだろう。スタンプとかの方がいいかな?など色々考えていると”彼女”から1件のメッセージが届いていた。
<夜遅くにすみません。先程はありがとうございました。初対面だったのに色々話せてとても楽しかったです。>
と。
僕は幸せ者だ。
こんなに幸せなことがあっていいものか。
今までずっと平凡だった僕の人生が今、こんなに輝いている。
僕はその日からよりいっそう”彼女の虜になっていた。
あれから時が経ち、僕は高校2年生になった。
夏休みに入る直前、この世で1番見たくなかったものを見た。
それは”彼女”が身長の高いイケメンな男と手を繋いで歩いている姿だった。
僕の心は一瞬にして真っ黒に染まった。
言葉にできない感情が僕を飲み込んだ。
憎い。
あの男は一体誰。
“彼女”の隣にいるべき人物は僕だ。
なんで僕じゃないのさ。
僕が”君”のことを1番理解しているはずだる。
何で。
何で僕が見たことない顔をあの男に向けるの。
毎日たくさん連絡してたのに、急に返してくれなくなったよね。
それも全てあの男のせいなの?
そうだ。
きっとそうだ。
あいつが僕の“彼女”をしたんだろう。
僕が”彼女”を助けなきゃ。
あの男は悪だ。
僕の“すずらん”を汚い色に染めた。
元 の真っ白な”すずらん”に戻さなきゃ。
僕が汚れた男から美しい”すずらん”を守らないと。
やっぱり僕がいないと危ないね。
僕だけが”君”を守れるんだ。
数日後、“すずらん”は僕の手によって元々より遥かに美しい色になった。
すずらんの中では珍しい色だろう。
何色であっても僕の気持ちが変わることはない。
「あ、このゴミもそろそろ捨てないとだな。身長が高かっただけあるな。すごく重いよ。臭いもすごいし、どこに捨てようか。」
僕は真っ赤に染まった1輪の”すずらん”に微笑みかけた。
返事は返ってこない。
これから先も返ってくることはないだろう。
それでも僕は僕色に染った“すずらん”だけを愛す。
僕の命の灯火が尽きるまで、僕は“すずらん”と共に生きていく。
“彼女”の冷たくなった左手をそっと胸に当て、僕はそう誓ったのだった。