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大学では講義の「お試し期間」が終わり、本格的な講義へと移っていった。
9月があっという間に過ぎ、10月へ。
9月も10月も同じ講義で同じ時間に終われば、妃馬と一緒に帰り、たまにデートもしていた。
ぎこちなく、違和感があったタメ口もだんだんと自然になっていっていた。…気がする。
10月始めはまだ夏の名残があり、気温が高い日も多かったが、初週を過ぎると
段々と夏の暑さもやっと和らぎ始め、汗拭きシートもお役御免になってきたある土曜日。
朝、母にニヤニヤ顔で、妹に「は?」的な顔で見送られ真新宿まで行った。
真新宿で待ち合わせ。すると鹿島、匠と集まった。朝早くみんなあくびをしたりしていた。
相変わらず匠の白い髪が珍しいのか、それとも匠の綺麗な顔を見ているのか、恐らく匠への視線なのだが
今回ばかりは自分への視線なのではないか?と勘違いしてしまう。全員漏れなく制服。
そう。今回は6人で制服シルフィー。ひさしぶりに猫井戸高校の制服の袖に手を通した。
別に高校に行くわけでもないのに、高校に行くときのような気分になり、少しワクワクと少し緊張していた。
「匠ちゃん白髪制服はヤバいね」
「なにが」
「アニメの世界。みんな見てるし」
「もう視線には慣れたよね。この髪の色だと」
「鹿島は〜…」
匠と2人で鹿島を足元から見る。鹿島はポーズを決める。
「チャラいな」
「チャラいね」
「めっちゃひさしぶりに着たわ」
「それはオレらもそうよ」
「だいたいこんな感じだったよ。いつも」
「チャラい高校だな」
「だな」
「怜ちゃんは〜…」
「今でも高校生いける」
「いけるね」
「いけないし、行きたくない」
真新宿からシルフィーランドの最寄り駅、愛浜駅へと向かう。東京駅で乗り換えし、愛浜へ。
慣れない路線、慣れない乗り換えが、修学旅行のような、でもどこか違う
夢の国への旅がもうすでに始まっている感覚だった。愛浜駅に着くとすでに女子陣は愛浜駅に着いていた。
妃馬に聞いたことはなかったが妃馬と森本さんの制服を見ればすぐにわかった。紅ノ花水木女学院の制服。
「おはよう!」
「おっはー」
「おっはよー!」
「おっはー!」
「おはよー」
「おはよ」
朝の挨拶を交わし、シルフィーランド、もしくはシーへ行く人の流れに乗る。
「妃馬って紅花(アカハナ(紅ノ花水木女学院の略称))だったんだ?」
「あ、そうだよ?言ってなかったっけ?」
「うん。初めて知ったわ」
「どお?」
「どお…、まあ、可愛い…ですよ?」
「んふー」
満足そうな妃馬。橋を進んでいくと曲がり角にアーチがあり、そこを潜ると
「Tokyo Sylphyland」と書かれた門が見え、そこも潜る。
そして進んでいくと橋の下に荷物検査の第一関門が現れる。
駅からここに来るまで、そしてその光景もひさしぶり過ぎて
どこかこそばゆいような、緊張もしていて心臓がドキドキいっていた。
スクールバッグを開けて中身を見せる。教科書もなにも入っていない当時のスクールバッグ。
お財布やらスマホ、モバイルバッテリー、使う時間はないだろうがなぜかサティスフィーも入れていた。
危険物などなにも持っていないので難なく通過。
チケット売り場には列が何列もできていた。男子陣と女子陣でわかれて並ぶ。
1万円近いチケットを購入する。係員さんにチケットを渡していざ入場。
花壇が現れる。その先にはお土産を買うお店がギュッっと詰まったストリート。
全員でそのストリートを歩く。パーク内の音楽が聞こえ始め
そのストリートの終わりが見えるのと同時に、シルフィーを作り上げた海外の方と
シルフィーといえばのキャラクター「ニッキー・トモウス」が
手を繋いでいるブロンズ像も姿を現す。そのブロンズ像の後ろに大きなお城が小さく見える。
そのお城に近づく。シルフィーで一番有名と言ってもいいほどの作品のお城。
「シルフィー、…きたぁ〜!」
「京弥うるさっ」
「写真撮ろうよみんなで」
「いいね」
音成がスマホを持ち、妃馬、森本さん2人が音成の横にその後ろに男子陣3人。
そのフォーメーションでみんなで写真を撮った後、各カップル毎にも撮った。
もちろん妃馬と僕も漏れなく撮った。
「うっしゃー!アトラクション乗りまくろーぜー!」
「おぉー!」
音成と鹿島がめちゃくちゃはしゃいでいる。シルフィーランドは10月からハロウィン仕様になっており
パーク内はカボチャ、ジャックオーランランのオレンジ色の空気に包まれていた。
「マップマップ」
「なにから乗る?」
「どうしよう」
「迷ってる時間ももったいねぇ」
「それな!」
「なっさんどーするぅ?」
「しまくんどーするぅ?」
「あれは?オレ「ライフと海賊」好きなんだけど」
「わかる!オレも好き。あのレストラン見える感じとか」
「懐かしぃ〜」
「行く?」
「どこ?」
「えぇ〜っとね…。24番。…後ろじゃん。通り過ぎてる」
「行こ行こ!」
ということで僕たちは映画「パイレーツ&ライフ」の世界を再現した
アトラクション「ライフと海賊」に行くことにした。お土産ストリートを出てすぐ左のほうにあるからか
すでに列ができており、10分ほど経って中へ入れた。ボートが流れるのを見ながら進む。
やっと乗り場に着く。木造でできた少し古臭いボート乗り場。その奥には光り輝く街並みが見える。
1列4人乗りで森本さんと鹿島が知らない人と横並びになり先頭。音成、匠、妃馬、僕で横並びで2列目。
少し沈むような、不安定なような感覚で船に乗り込む。ゆっくりと動き出す。
ジェットコースターようにレールがあるんだろうが、しっかりと船のように揺れる。
「出た。レストラン」
「あそこ行ったことある?」
「ない」
など他のお客さんがいるし、小声の会話が聞こえる。
右手には街並みのような感じで本物のレストランが見える。
行ったことはないが恐らくあちらからもこちらが見え
船着場に近いレストランという雰囲気が味わえるのだろう。左側は青白く照らされた雑木林。
水上の小屋のようなもの。虫の声が自然らしさを一層増させる。
徐々になんの楽器なのかはわからないが弦楽器の音色が聞こえてきて
水上にある小屋のような家の入り口付近で、ロッキングチェアに人間そっくりの人形が座りながら揺れている。
船はゆるやかにカーブしていく。するとトンネルのようなものが現れ、上部には喋る海賊帽を被った髑髏が。
その声が響く中、水が勢いよく流れる音が聞こえてくる。
その音のお陰で覚悟ができた。船が傾き、急流の坂を雪崩落ちていく。
「キャー!」
音成だか妃馬だか他のお客さんだかわからないが悲鳴が上がる。
青白く照らされた洞窟に入り込んだ。そこには宝箱などがおいてあり
なによりも目を惹くのは、胸にカトラスと呼ばれる海賊の剣が突き刺さった
頭に海賊帽を被った骸骨。海賊帽の上にはハゲタカが留まっており
甲高い鳴き声を撒き散らしていた。争ったと思われ、周りにも骸骨が倒れていた。
嵐の音が聞こえてきて、雨の中舵を切る骸骨。
その後個人的に印象に残っている瓶に入ったお酒?を飲む骸骨のゾーンに入った。
勝手に果実酒だと思っているその飲み物を本来喉のある部分に流し込み
本来臓器が詰まっている部分に流れ落ちるのが骸骨なのでよくわかる。
「あ、私ここめっちゃ印象にあるとこ」
妃馬が体を寄せてきて小声で僕に言った。
「オレも」
段々と音楽もかかり賑やかになってきて、その先には金貨やアクセサリーなどお宝の山の上に座る骸骨。
そして滝に映る映画のボス。海鮮臭そうな顔に突っ込む。
その先には「お見事」としか言えないクオリティーの海賊船が。
海賊船の上では刀を持った海賊が指示を出して、僕たちに向かって大砲を撃ってくる。
船のすぐ側で水飛沫が上がる。街には海賊に囚われた人たちが縄に縛られていたり
井戸に吊るされてオモチャにされていたり、女性のドレスを着たマネキンに
あの超有名海外俳優が扮する映画のキャラクターが隠れていたりした。
左側では船長のような人が英語で喋り、樽に座った人が銃を撃ち
右側ではその銃の弾があたり割れた瓶の音がする。
橋の上ではヤギが鳴いており、個人的にはこのヤギも印象深かったりする。
隣の妃馬の肩をつつき、そのヤギを指指す。妃馬がうんうんと頷く。
その後も海賊に追い回されている街の人、それを真似して鳥も追いかけっこをしている。
街灯の下では呑気に瓶を片手に飲んだくれている海賊が。
その後ろの樽にはあの超有名海外俳優が扮する映画のキャラクターが隠れていて
顔をひょこひょこと出し、近くの犬には見つかったりしていた。
中には気弱な海賊なのか、逆に主婦に追い回されている海賊もいた。
猫に喋りかけながら飲む海賊を通り過ぎると海賊なのか、海賊の格好をした街の人なのか
少し頼りないような3人組が楽器を弾きながら燃えている街を他所に歌っている。
その燃えている街を過ぎると映画の名場面、燃えた街の牢獄に閉じ込められた
あの超有名海外俳優が扮する映画のキャラクター、主人公の伝説の海賊が鍵を咥えた犬を口笛で呼ぶシーン。
まあその伝説の海賊は逃げ出した後で全員街の人だったが。
その後樽に座った海賊だか街の人だかが対面にいるもう1人と銃を撃ち合っていたり
大砲に跨る海賊だか街の人だかが対面にいるもう1人と銃を撃ち合っていたり。そしてラスト。
なんだかんだでその超有名海外俳優が扮する映画のキャラクター、主人公の伝説の海賊が
王様の座るような豪華な椅子にお行儀悪く座り
金のカップで恐らくお酒を飲みながらオウムとともに僕たちに向かって語りかけている。
恐らくだが「こんなことがあったんだよ〜」的な
その超有名海外俳優が扮する映画のキャラクター、主人公の伝説の海賊の
体験した出来事を話していました。的な終わりなのだろう。
前の船の乗り物からお客さんが降りるためだろう。
その超有名海外俳優が扮する映画のキャラクター、主人公の伝説の海賊が語っているシーンの
特等席で止まる。その後進んでいくとキャストの方が
「おかえりなさぁ〜い」
と手を振って迎えてくれた。こんなこと冷静に考えるとしないが、さすがは夢の国。
魔法にかかったように、なんの恥ずかしさもなく、なにもわからない赤子のように
手を振られたら、なにも考えず笑顔で振り返していた。船から降りて、忘れ物がないかも確認して
足跡のついた動く歩道の坂バージョンのようなものに乗り出口へ。
外に出ると今まで薄暗いところにいたので、秋の陽射しがやけに眩しく感じた。