テラーノベル
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「んふふ、じゃあ今から僕は若井のもの。ナニするかなんて、分かってるでしょ?」
「…もちろん、バカにしてる?」
「まさかぁ、聞いてみただけだよ。……怒った?」
りょうちゃんは椅子から立ち上がり、俺の首に手を回す。
無邪気でかわいい笑顔で俺の顔を覗き込む。
するする、とホールドされて心臓がまた、高鳴り出す。
「いや、怒ってないけど」
「そーお?良かったぁ。どうする?さっそくエッチ、しちゃう?」
上目遣いでのぞき込むように、ストレートな言葉で誘われる。
ぺろ、と口の端を舐める仕草がどうにも色っぽい。
妖艶な誘惑にゴク、と生唾を飲んだ。
しかしここで流されてはいけない、となんとか堪え、りょうちゃんが言っていたことを思い出す。
『僕の期待をとことん裏切って、僕の好意なんて無視してくれていいの。 』
りょうちゃんが求めているのはこんな人。
ならそんな人を演じなければ。
「はぁ?楽屋で?嫌だよ…、ムードないじゃん」
「あれ、意外とそういうの大事にするタイプ?んふ、嫌いじゃないよ」
誘いをしれっとかわすと、それは案外いい選択肢だったようでりょうちゃんは満足げに笑う。
別に、今ここで掻き抱いても全く問題は無い。
…言うほど、ムードなんて気にしないし。
きっとりょうちゃんはすぐにでも抱かれるを望んだのかもしれないが、こちらだって賭けに出た身だ。
思い通りになんてなってやらない。
「ねーえ、若井」
「ん?」
「こうやって付き合ってたら、僕のこと好きになっちゃうかもよ?」
りょうちゃんはキスするかのように顔を寄せ、俺を見て笑う。
長い睫毛に欲を煽られるが、りょうちゃんに絡められた腕を雑に払った。
「あん」
「そうやって今までの人を落としてきたんだ?……残念、俺はりょうちゃんを好きになったりしないよ」
「……ほんとかな?」
「本当。最初に言ったでしょ、暇つぶしだって」
そのまま何も無かったかのようにりょうちゃんから離れ、楽屋に来た本来の目的を果たす。
テーブルの上に置かれた俺のバッグを肩にかけた。
ーーここで、バレてはいけない。
俺の精一杯の強がりは、絶対に隠し続けねば。
「……いいね、そういうの」
背中で彼の声を受け止める。
ゆっくりと振り返ると、目を細めて俺を見るりょうちゃん。
その色気は計り知れない。
そのまま数歩歩いて俺に近づき、綺麗な指で俺の頬を撫ぜた。
「ねぇ、わかい」
「……何?」
「じゃあ家ならいいでしょ?これからおいでよ。……いっぱい、しよ」
ーーそんな妖しい表情で、そんな事言わないで。
その魅力に呑まれかねない 。
この人は自分の魅力とその魅せ方を知っているから、尚更タチが悪い。
誑かすような口調と妖艶な表情に心臓が脈打つ。
遊ばれてると分かっていても、その感覚にすら酔ってしまうのだ。
巧妙で、思わせぶりな手口。
そりゃあ最初は気がなくても、皆が皆、貴方に堕ちていくはずだよ。
「……そうだね 、まぁ、気が向いたら」
そう言って鼻で笑い、彼の頬を撫で返す。
するとりょうちゃんは一瞬きょとんとし、クスクスと笑った。
「つれないなぁ」
「りょうちゃんが思ってるほど、俺安くないから」
「……いいよ、そういうとこ、すごく好き」
「それはどうも」
「アハ、こんなイイコがこんな近くにいたなんて……早く気づけばよかった」
りょうちゃんは少し顔を紅潮させ、うっとりと言う。
貴方のそんな悦を得た嬉しそうな顔、見たことない。
この顔を見れただけでも、この大きな賭けに出て良かったと思えた。
彼はまたね、と俺に手を振る。
すれ違いざまに俺の耳元で「待ってるから」と耳打ちしていった。
その言葉に貼り付けた笑顔で返し、バタンと完全にドアが閉まって足音が遠のいた瞬間、
「…はあ……」
緊張が解け、一気に身体の力が抜けていった。
ズシンと身体が重く、その場にしゃがみこむ。
嬉しさなのか焦りなのか、よく分からない感情が俺を襲った。
目を閉じてゆっくりと呼吸を繰り返し、バクバクとうるさい心臓を宥めさせる。
「好き…好きだよ……、りょうちゃん」
決して聞こえてはならない思いの丈を、小さく小さく零す。
この感情だけは、俺たちの関係を保つ上で一番あってはならないもの。
ばれようものなら即刻関係を解消されるだろう。
だからこの感情は殺さなければならない。
彼の視線と存在を独占し、傍らに侍らすためにはこうするしかない。
そうしてまで、俺は………彼が、りょうちゃんが欲しいのだ。
『待ってるから』
最後に言われた彼の言葉が頭の中でリフレインする。
その場は「気が向いたら」と答えたが、ここを出たら俺は無意識にでも彼の家へと足を運び、……そのまま彼を抱くのだろう。
ーーでも、願わくば。
自分を偽らずに向き合い愛し合える、そんな関係になりたい。
りょうちゃんの口から「僕を愛して」と、その一言だけが聞きたい。
そして、どうか。
俺を「最後の」恋人に……。
……なんて。
言えるはずがない。
臆病な俺はいつまでも自分の本心を明かせないまま、彼を侍らせているのだろう。
けれどそれは、ひと時の彼の玩具になるだけで、何も変わらない。
何も生まれない。
この恋が本物になる日など、来ることはない。
所詮これは、臆病者の強がりが生んだ、泡沫の恋。
俺のこのはち切れそうな想いなど、彼に届くはずもない。
どうしようもない切なさに涙を流しても、もう遅い。
END
コメント
3件
うん好きなのかもしれないですけど やっぱり好きです(?)
うわあ…めっちゃ好きなタイプの駆け引きだ〜!!😭💕 若井くんの「好きにならないよ」って言いながら心の中ではもうめちゃくちゃ好きで、りょうちゃんの誘惑に必死で耐えてる感じがたまらん…!!「待ってるから」の耳打ちとか反則でしょ…ズルすぎる…!! 最後の「好き…好きだよ…りょうちゃん」って独白で一気に切なくなったよ…泡沫の恋って言葉が刺さる…!!🥺💔 続きめっちゃ気になる…!この後どうなっちゃうの…!?