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中原生誕小説その2
「っ…⁉︎」
頭の中に何かが聞こえて、目を覚ます。いつの間にか寝ていたらしく、視線を動かすと机の上には書きかけの書類が散らばっている。自分が起きたことにより机に乗っていた紙が一枚、床へと降りていく。慌てて拾おうとしたが遅く、もう紙は床へと到達して、真っ赤に染まっていた。まるで、あの時見た光景のように、何色でもなかったものに、赤色という色が見えるようになる瞬間。
「……はは…ぐろ…」
『グロくはないでしょう。ねぇ、これ如きでグロなんて、どうかしちゃったの。』
ふはっ、とため息をついた俺の横で、何やら喋っている声が聞こえる。
『あ~あ。赤のインクが、水溜りみたいに広がってる。これじゃあ足の踏み場もないね。』
横で、何かが動く気配がした。煩わしくて、それを横目で追う。
『ほら、汚い。君のことなら、掃除はしてるかなぁ、と思っていたのだけれど。』
相変わらずペラペラと喋るその男は、真っ赤に染まった紙を、人差し指と親指でちんまりと掴んで、机の上に戻した。
「…おい、これ、もう使えねぇぞ。」
男が戻した紙は、インクで滲んでいてとてもかけたものじゃない。慎重に触れなければ、このまま避けてしまいそうに脆い。本来なら速攻ゴミ箱行きではないか。
『まぁ、いいじゃないか。』
男は俺をゆっくり一瞥すると、くるりと背を向けて、のんびりと話した。
『今日は君の誕生日だ。何も捨てたくない。』
そんな不思議な言い訳を溢した。なんだかこの男からは、目が離せない。離してはいけないと、本能が言っている。そんな気がする。
「なぁ、あんた。なんで俺の誕生日を知っている。」
マフィアの首領を受け継いでから、祝日なんて一切やっていない。だから、そんなめでたいものとはかけ離れていた。ここ数年、一回も触れていないものなのに、しっかりと記憶しているのは、それがきっと、自分にとって大事なものだからだ。無意識に、そう思っているのだからだろう。
『…私は君をよく知っているよ。誕生日だって。君の誕生日ができた日のことだって。』
そうだ、俺の誕生日は、初めからあったものじゃない。××と一緒に決めたんだ。
××が態々休みの日に呼び出して来て、誕生日を決めようって。
「尚更だ。そんなことまで、なんであんたが知っているんだ。あの日は俺と_」
「俺と……」
誰だっけ…?俺は誰とあの日、誕生日を決めたんだ…?。
『……嗚呼そうだね。あれは君と私だけの思い出だ。』
俺の言葉を引き継ぐかのように話す。その声は、煩わしくて煩わしくて、溜まったものでは無かった。ただ、話を遮る気にはならなかった。
『違う世界の君は、私と紅葉さんや森さん、過去の仲間たちに聞けてもらっていたね。でもこの世界ではそれが無理だったよ。森さんは追放しなければならなかったし、姐さんと縁を持たせたくない。それに、この世界だけでは、私と君の、二人だけで決めたかった。』
違う世界、姐さん…、言葉の意味を、脳が理解しようとした瞬間に、それらはするすると記憶から溢れていく。まるで、理解しなくていい、と暗示をかけられているかのように。
『君が理解できるのは此処からだよ、中也。』
男がしっかりと俺を見つめて、ふふっと笑いを溢した。
『中也、今日は君の誕生日だ。そこで、ここ数年頑張って来た君が、唯一叶えられなかった望みを叶えさせてやろうかと思ってね。』
そう言って、にぃっと笑う。そして、手を心臓部分に当てて、目を伏せた。
『そう、君が唯一叶えられなかった望み。』
ゆっくりと手を下ろしていき、最終的にはだらりと垂れる。なんの動作も無しに俯く男は、なんだか、寂しい存在のように思えた。
『それは、“太宰治”を、自らの手で殺すことだ。』
しかしその存在は、本当に寂しいものであったことに気づく。
「……ぁ、嗚呼…今思い出した…。手前は太宰だ…。くそ、なんで忘れてやがった…。」
そう、太宰は、寂しい存在だ。
「なぁ太宰」
嬉しそうな笑みを、にぃっと作って笑う彼に、俺は手を伸ばした。
『なぁに、中也、やっと思い出したかい。だったらさっさと_』
ペラペラと再び喋る太宰の首目掛けて。
『私を殺し、て…』
「……」
『は、はぁ…?なん、で…』
太宰が腕の中で困惑したような声を出す。
『きみは、僕 を殺したかったんじゃないの…?』
『ねぇ、答えてよ…、なんで、なんで僕を、抱きしめてくれるの……? 』
俺は太宰を抱きしめたのだ。首に手を回して。思いっきり抱きしめた。
『ねぇ中也…⁉︎』
「太宰‼︎」
『っ…⁉︎』
びくりと震える気配がした。思わず、大きな声で怒鳴ってしまった申し訳なさに、頭を優しく撫でてやる。
「太宰、太宰、太宰…」
手のひらに伝わる、ふんわりとした髪の感触、抱きしめて伝わる体温。その全ての温もりに、思わず縋りたいという気持ちが溢れできてやまない。
『……なに、僕は…、私は、此処にいるよ…』
俺は知っている。太宰は、本当は弱い人間だということを。
俺は知っている。太宰は俺を、捨てたわけでないということを。
俺は知っている。太宰は、本当に寂しい存在になったとき、思わず子供になってしまうことを。
俺は知っている。太宰の全てを。近くにいた俺でしか、気づいてあげられなかったことを、沢山。
優しそうな声色で呼応する太宰に視線を戻す。
「なぁ…俺はもう二度と、手前を殺したくねぇ…。手前のその煩わしさが、すっごく好きなんだ…。」
太宰は世界一嫌いなやつだ。だから俺の手で殺してやりたかった。でも本当は、失うのが怖かったのかもしれない。太宰がよく呟いていた“ 計画 ”で、此奴が死んでしまう気がして。俺の側にはお前しかいないのに、嫌いな奴さえも、俺から離れるのか、なんて焦った。何もせず失うよりも、自分から失ってみれば、嗚呼俺は、自分から孤独になったんだと、心底安心できる気がしたからだ。
「太宰…、今日は、手前の体温を感じていたい…。」
『……』
「…駄目か…?」
顔を見るのが怖い。今更なんて都合のいいことを、と鼻で笑われるかもしれない、そう思って、思わず俯いた。
『嗚呼君は本当に“…いつも私の予想を超える…、』
すん、と鼻を啜る音が聞こえた。
『いいよ中也…、最後に、私の体温をいっぱい感じて…?』
顔を上げると、いつもの太宰の笑みはなかった。ただ、瞳から大粒の涙を流して、子供のように、無邪気に笑う、1人の弱い太宰がいた。
「嗚呼…」
その姿に心底安心した。
なんで中原の誕生日って時にスランプを背負うんだっっっっ…。多分やること多すぎてのストレスからなることかなぁ…??中原ぁ…新学期始まっての忙しい時の誕生日っって……。
【 一応解説 】
これはbeast軸のお話です。
このお話では、個人の見解で、キャラが作られている要素があります。
まずは太宰さんの登場。beast軸ではもうとっくに亡くなっているはずの太宰さんが出て来ますね…。まぁこれはあくまでちゅやの幻覚…と言ったところで終わらせたかった。でもスランプなので流石に無理でした。人が亡くなって最初に忘れるのは声だとか。一つを忘れたら、もう一つを忘れてしまう。虚しいものですね。今回のちゅやも、完全に太宰さんを忘れていました。はじめに描写した、紙が床に落ちて、真っ赤に染まるシーン。あれ、ビルから落ちた太宰さんにそっくり。そして、その紙を拾ったのは太宰さん。ゴミはすぐに捨てるべきですよね。でも捨てないでちゅやの執務机の上に戻しました。それはきっと、生き返って戻りたかった、的なことを表しているのではないでしょうか。それに対してちゅやは、本来なら速攻ゴミ箱行きではないか、と口述しております。それが普通の考えです。脆くなった紙、触って仕舞えばすぐに破けてしまう。なんだか、太宰さんが死んだ後に、もぬけの殻見たくなったであろうちゅやみたい。でも太宰さんは捨てなかった。理由としては中也の誕生日だから、とのこと。ちゅやからみれば本当に、不思議な言い訳ですね。でもこれは、遠回しに、捨てるように残してしまったちゅやへ、何か伝えたいような文だとも解釈できます。その後にでてくる誕生日の話。あれはこのノベルの一話目で出した、意味のわからない誕生日決めのお話のことです。beast軸では2人だけでしか決められないのでは。そう思って少し触れました。
で、最後。太宰さんが来た理由はちゅやの叶えきれなかった望みを叶えさせてやること。つまり、太宰治を殺させてやることでした。幻覚である太宰さんを、本当に中也の手で殺してしまったら……色々な意味で本当に死んでしまう。そうであって欲しい。妄想である自分を殺すことで、本当に(忘れられて)死ぬ。だから太宰さんは、嬉しそうな笑みを作ったんですね。でも中也はそうじゃなかった。(なんで殺さなかったかは本文に書かれているのでカット)。きっと殺さなかった中也をみて、太宰さんは少し安心したでしょう。友達のために死んだ太宰さんは、誰かに抱きしめられることもなかった筈。抱きしめてくれる人がいなかったから。だから思わぬ人に抱きしめられて、弱さが出たんだと。
切ないお話を書きたかった…。でも無理だったので、妄想した部分を↑のようにながったらしく書きました。余計困惑させてしまう場合があるので閲覧注意😌
来年も祝えるといいなぁ…。