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「おい、コラ! いきなりなにをするんだっ、放しやがれ!」「ええっ!?」
(これは絶対、桃瀬に勘違いされる! それだけは、なんとしても阻止せねば)
「……周防とコイツ、もしかしてデキてるのか?」
「デキてるワケないでしょ! 誤解しないでよ!」
激しく否定しているのに、俺らを見つめる桃瀬の視線があたたかく感じるのは、気のせいなんかじゃない。
「またまたぁ。周防ってば、そんなふうに激しく否定しなくてもいいって。俺ら親友だろ、隠してくれるなよ」
隠すも隠さないも、俺はこんなヤツのこと好きなんかじゃないのに――桃瀬の鈍感! どうしてくれよう、この微妙すぎる心情。
「んもうぅ! 本当に違うんだって! だって俺は……くっ」
怒鳴りながら息を飲む。自分の気持ちを告げられないことにイライラしつつ、体にキツく巻きついた太郎の腕を、必死になって振りほどいた。
「周防?」
そんな俺の様子に小首を傾げて、不思議顔をする桃瀬。恋人のいる彼に、自分の気持ちを言えるわけがない。伝えても、どうせ無駄なんだから。
「どうした?」
桃瀬の視線をじと目でチラッと見てから、傍にいる太郎の手の甲を容赦なく、力まかせにぎゅぅっとつねりあげた。正直、これは腹いせになる。
「いって~!!」
「とにかく頼むからももちん、勘違いしないでよ。コイツはただの病人で、面倒くさい居候なんだから!」
肩をすくめながら桃瀬に伝わるように説明する俺の横で、太郎は悔しそうに、これでもかと恨めしそうな表情を浮かべる。
「タケシ先生とは一緒に寝てる間柄なのに、そんなに激しく否定しなくてもいいじゃん」
どうして必死に否定してる傍から、勘違いされることばかり、わざわざ言うかな! 今朝から何度目だろうか、怒りで血管がブチ切れそう。
「いい加減にしろ太郎! 余計なことを言うなよ! 桃瀬が絶対に誤解するだろ!」
――頼むからおまえとの仲を、桃瀬に怪しまれたくない。
「だって、一緒に寝てるのは事実だろ」
(ガーッ! このクソガキ!)
「だけど、なにもヤってないし起こってもいない! そして勝手に布団に忍び込んでくる、おまえが全部悪い!」
ぜーぜー息を切らして太郎を怒る俺の肩を、桃瀬はまぁまぁと宥めるように叩いた。
「そんなに叱るなって。太郎はおまえのことが好きなんだから、しょうがないだろ。見てるだけでわかるぞ」
「なっ!?」
「そうだよな、太郎?」
恋愛ごとについて普段読みを外す桃瀬が、太郎の心情を見事に読み取ったことに、心底驚いてしまった。
「ああ、そのとおりだよ」
肯定した太郎の言葉に、桃瀬はどこか嬉しそうな顔をする。
(……桃瀬は絶対に勘違いしているだろうな。こんなヤツとは、両想いなんかじゃないのに。あまりのショックで、さっきから言葉が出ない)
微妙な心情を感じてる俺の肩に置かれてる桃瀬の手を、太郎は叩くように払い除ける。
「俺はタケシ先生のこと、すっげぇ好きだし。誰にも渡すつもりはないから」
「そうか。周防のこと、大事に想ってやってくれよな。俺はただの親友だから、絶対に捕ったりしないぞ」
そうだよ、ただの親友だ。それ以上でも以下でもない――。
桃瀬の言葉に居たたまれなくて、俯きながらぎゅっと胸を押さえたら、そんな俺を背中で隠すように、太郎が前に出てくれた。
「……どうだかな」
「俺、恋人がいるし同棲もしてる。だから安心してくれ」
「周防先生、もう患者さんは見えないので、病院を閉めましたよ」
ベテラン看護師の村上さんが診察室に入り、俺たちを眺めた。桃瀬がすかさず右手を挙げて、爽やかに挨拶する。
「こんばんは、村上さん」
「桃瀬さんこんばんは。あらあら、なぁんかここ、よくない雰囲気が漂ってるわね。太郎ちゃん、ケンカしたんでしょ?」
(――ダテに年を食ってないな。こういう雰囲気を読み取る能力が長けてるから、仕事にも生かされているわけだし)
「してねぇし……あだっ!」
相変わらず口の減らない太郎を叱るべく、後ろから頭を殴ってやった。