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「…ねえウィローさん。相談があるんだけど。」風樹がウィローに声をかける。ちょうどお昼休憩の時間だ。
ウィローはひとつため息をついて、
「なんだ。」
と言う。
「やっぱり新人が入ってくるのはめでたいですよねえ。」
「そうだな。それで?」
何かを見通したような口ぶりである。
「ここはお祝いってことで…飲みに行きましょうよ…」
「だろうな、言うと思った。」
「本当に歓迎の意を持っているのか?まあこれは翠たちに決めてもらうことだけど。」
「出来れば今日で!今日今日!!」
もう一度さっきより大きなため息を着く。
「翠たちはどうだ?」
教わった書類を慎重に記入していた俺はほとんど聞いていなかった。
「んえ?えっと…」
「飲みに行かないか、だと。」
「ディアさんナイスです!えっと…行きたい…です。」
「君ならそう言ってくれると思ったよ!さすがだ翠!よっしゃ飲み行くぞ!!」
風樹はテンションがまた上がった。
「風樹。わかったから。」
少し低めのトーンでウィローが言う。
「あ…えっとすいません…」
少ししょぼんとした風樹の近くで、がさり、と音がした。
「?」
ディアさんが反応する。
「さっきからうるさい、誰…」
奥から声がした。
「私、寝てたのに…」
眠そうな目をこすって顔を起こした。この人が幽だ。
「やっと起きたか!」
「えっと…幽さんですよね…?」
「うん。あれっ、もう来てるの…」
ぱっちり目を開けた。肩より少し下まで伸びた白い髪、その毛先はほのかに黒っぽい。瞳はこの上なく綺麗な白だった。まるで真珠のようだ。
「こっちが翠、でこっちがディアと言う。」
ウィローは咄嗟に説明した。
「なるほど…よろしくね。」
おっとりとした口調が耳に残る。少し低めの声は聞いていて心地良い。
「あっ、風樹。書類片付けて置いた…」
「ありがとうございます!めっちゃ助かりますよ!」
風樹は相変わらずテンションが高い。
「幽さんは夜に仕事するんだ。基本はね…」
まるで自分の事のように語り始める。
「でも討伐は昼でも夜でもビシッと決まってるんだ。1回見てみるとわかるよ!」
キーンコーン…
お昼休憩が終わるチャイムがなった。
先程まで日が差していて明るかった空は少し雲がかって来ている。
「あちゃあ、今日も雨か…」
ウィローがそう言った。
確かに雨が降りそうだ…
ーーーー
それから、お昼休憩の時とは打って変わって静かな時が流れた。誰もが仕事に就いている。
――これだけ少ないのは人を失ってきたからだ――
ウィローの言葉が頭の中で反響する。いつ失われるか分からない仲間とこれほど仲良くできるこの人々はすごいな、とつくづく思った。
ポツポツ、ポツポツ。
雨が少しずつ降ってきている。
「言っていたように、幽と上に報告に行かなきゃならない。ついでに…南地区に寄る。大丈夫だ、夕方までには帰る。」
「はあい。絶対だよ、ウィローさん、幽さん!」
ウィローが出張に行くらしい。え聞いてない…そんなもんか。
「はい。わかりました。」
と返した。
ディアさんには任せる仕事に困ったのか2課に入ってから仕事がない。今はすやすやとお昼寝中だ。知らない人が見たら普通に子供が寝てるようにしか見えない光景である。
再び静けさが訪れる。
「あのさ。」
風樹が書類に向かいながら言う。
「はい?」
顔を上げて耳を傾ける。いつの間にかくだけた話し方で話してくれている。
「ウィローさんは失い続けたから2課は人が少ないって言ったけど」
「実はそうじゃないんだ。」
ウィローの言葉を風樹は否定した。
「それはどう言う…」
「本当は僕たちのところにはね、滅多に人が入ってこない。」
「僕たちは端くれの集まりだから。」
「端くれ」?
この人たちは暖かい人達ばかりだ。ましてや未知の天界人である俺たちも受け入れてくれるような…
「僕たちはちゃんと管理所に所属して働いてる訳じゃない。ほとんどはね、拾われたんだ。」
「みんなみんな追い詰められて場所がなかった時にお偉いさんに拾われてここに入った。でも…」
そこまで話すと言い淀んだ。
「でも…?」
「でも、みんな…みんな一生働くためにここで生きてるようなもの。少しでも逆らえば場所が無くなる。だから僕たちはこうして与えられた仕事や討伐をしてる。」
「…」
返す言葉に困った。そんな事でここに集まったとは。
「まあ、ウィローさんが全部嘘をついてるってわけじゃない。たまには他の部署から移ってくる人もいるけど、大体は落ちこぼれなんだ。失敗を繰り返したり…ね。だから俺らはよく馬鹿にされるし、生き残ったやつは恐れられる。」
「…じゃあどうして俺らは…」
俺らは、どうしてここに連れてこられたのですか。そう聞こうとした。でも黙り込んだ俺を見て風樹は答えた。
「ごめん、僕たちは君のことを危険に晒すようなことをするためにここに来させたんじゃないんだ。…でも。」
「”でも”?」
「その…君たちが一般の人に恐れられるのが…怖くて。
君たちはあくまでも天界人。まだ世の中に馴染みのない君たちが誤解されるのは僕たち見てられなくて。」
確かに言っていることはおかしくない。彼は俺らを傷つけないようにそっと、そっと言葉を選んで話す。
「ごめん。なんか…馴染みがないとか言っちゃって。でも君たちの素質にも僕たちは気になって。…」
少し悲しそうに彼は言った。
「俺は大丈夫。むしろお礼を言いたいぐらい…です。」
「ここまで敬語を使ってくれるなんてね。」
彼は少しはにかんで笑った。
ーーーー
雨が酷くなってきた。ザアザアと窓の外側から聞こえる音が心地よい。
「よう。戻ったぞ。」
ガチャリとドアを開けてウィローさんが帰ってきた。
やはり明るい雰囲気を纏う人だ。
「おかえりなさい。」「んお?帰ったか!」
眠そうな目をこすりながらディアさんは起きた。よく寝たもんだ…
「おかえりなさいー、あれ、幽さんは?」
「ああ、あいつは下で話をしている。」
「そうですかー。」
そういうと風樹は再びデスクに向かった。
――てっきり飲みの話を持ちかけると思っていたが何故か大人しい。どうして?
そう思った時、ゆらりと風樹が立ち上がった。
「ウィローさん?少しそこにいてくださいね。」
彼はおもむろに腰の短刀を抜き出すとドアの前に立っていたウィローの方へ行く。
すると短刀をウィローの額へ向け、こう言った。
「騙されると思ったか。」
先程とは違う、苛立ちの籠った声。というか何が起きてるんだ…?
「ど、どうしたんだよ?!」
ディアさんが驚いた声を上げる。
ウィローさんに短刀を突きつけてる時点でもうおかしいのに。一体何が起きてる…?
つづく
この話バカ長くね?
あ幽メインじゃなかったですね、すいません。