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AISAC  ~確かにキミは此処にいた~

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AISAC ~確かにキミは此処にいた~

4 - 第4話 逃亡劇のファンファーレ

♥

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2024年08月18日

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◇◇◇◇


目を開ける。

外では秋の夜長を虫が鳴き通している。


「やべ。寝ちまった」

辺りを見回すと、棚にあるオートランプだけが、力なく隠れ家を照らしていた。

目を擦りながら体を起こし、伸びをする。

暗闇をボーッと見つめていると、外から物音がした。断続的に草木を踏む音。近づいてくる。こんな時間に?こんな場所に?足音はドアの前でピタリと止まる。

「兄貴か?」

勢いよくドアが開く。

「よかった!ここにいた!」

数時間前に別れたばかりの卓巳が肩で息をしながら、飛び込んできた。

「どうした、そんなに慌てて」

「……もしかして、お前、何も知らねーの?」

「何もって?」

卓巳は少し迷ったような顔をしたが、決心するように小さく頷くと、登山にでも行くのかと思われる大きなリュックからコネクトを出した。

「落ち着いて見ろよ?」

そういう彼の手がカタカタカタカタ震えていて、コネクトも震える。俺はただ事ではない親友の様子に息を飲んだ。

やがて動画が再生された。

「ここで臨時ニュースです」

氷の女王とあだ名をつけられた夜9時のニュースキャスターが、珍しく慌てた顔をしている。


「エンペラー上位6段に位置する秋元家の4代目家長、秋元詩織様が誘拐されました。繰り返します。元家の4代目家長、秋元詩織様が誘拐されました。詩織様と言えば、昨年、3代目の喜嗣様死去後、若干23歳で秋元家の家長となり、先日、高位3段の本条家2代目家長、本条眞氏との婚約が話題になったばかりであり、軍では関連があるか調べています」


額に汗まで浮かべて横でコネクトを覗いている卓巳を見て、思わず吹き出す。

「お前、まさか、これを俺に見せるために、そんなに走ってきたのかよ。さっき話題に出したから?」

「違う」

「そこまで好きじゃねえよ。てか俺は妹のほうにぐっときたっていっただけだって」

「違うって!黙って見てろ!」

普段は温厚で軽い卓巳の見たことのない表情に固まっていると、ニュースキャスターがまた慌てた顔でマイクに向かった。


「たった今、新しい情報が入りました。画像出ますか?視聴者の皆さん、画面をよくご覧ください」


叫ぶように言うやいなや、若い男の顔に切り替わる。


「は?……俺?」

画面一杯に浮かび上がったのは、生徒手帳に載っている自分の顔だった。


「軍は容疑者を特定し、全国指名手配しました。ゴールドポンド高校に通う、2年生、ポブレID782810064、如月梓17歳です。繰り返します。軍は秋元詩織様誘拐の容疑で、ポブレの高校2年生を全国指名手配しました。尚、有力な情報提供者には……」


卓巳が停止ボタンを押す。


「なあ、なんかの間違いだよな?!」

「あ、当たり前だろ!何だよ、秋元家って!詩織様って!!行ったことも会ったこともねーよ!」

「だよな!なんかの間違いだよな」

卓巳は安心したようにため息をついた。


「間違いなら、そのうち指名手配も解除されるって。それまでの辛抱だ」

困惑しながら、尚もコネクトを覗き込もうとすると、卓巳は早々にリュックにそれをしまい、代わりにカロリースティックを取り出した。

「じゃあ、それまで、ここに籠もってたほうがいいよ」

言いながら、さらにアルミボトルの飲み物、血栓までテーブルに並べだす。


「おい、お前のうちの食料がなくなっちまうだろうが。次の配給まで3日もあるんだぞ」


「大丈夫だって。うち、母親も妹もダイエット中で、食い物余ってるから」

「そういう問題じゃねえだろ。血栓だってこんなに持ってきて」

「いいから。誤解が解けたら返してくれればいいから。な?持っとけって」

言いながらテーブルに並べたものを、リュックにまた詰め込んでいく。


「じゃあ、時間見てまた来るから」

リュックを置いて、走っていこうとする。

「え、もう行くのかよ?」

思わず呼び止めると、卓巳は中途半端に振り返る。


「うちにも和合国軍が来たんだ。一回は帰ったけど、また来るかもしれない。そのとき、俺がいなかったら疑われるだろ」

「あ、そうか。そうだよな」


先程のニュース映像は9時のものだ。時計は今11時を回っている。軍の捜査も相当進んでいるはずだ。


「悪い。ありがとう。恩に着るよ」

言うと、卓巳はドアに掛けた手を止めた。


「どうした?」

「梓、俺さ……」

そのとき、ボロい木を組んだだけの秘密基地に、幾線もの光の筋が浮き上がった。


「如月梓!今すぐ出頭しなさい!」

響き渡る男の声が、基地を震わせる。

半ば呆然としながら窓を開けると、眩しい閃光が中に入り、ごちゃごちゃと荷物が積み重なった小屋の中を照らした。

「なんでここが……」


呟くと、卓巳が光を避けるように壁に張り付いて言った。

「コネクトだ。あれ、GPS付いてるから」

「いや」

テーブルの上に投げ捨ててあるコネクトを見る。

「俺のコネクト、壊れてんだよ」

「あ……」

僅かに卓巳の方にも漏れた光で、卓巳が汗だくなのがわかる。

「……お前が、軍に言ったのか?」

卓巳は壁に張り付いたまま、ずるずると座り込んだ。

「違う。違うんだよ。梓。俺、本当にお前の力になろうと思ってて、お前がそんな大それたことするわけないって思ってて。だからそのリュックに詰めたものだって、本当にお前を救いたくて」

両手を震わせながら顔を覆う。

「だけど、テレビでさ、有効な情報提供者には、ナシオンと同等の永久権を授与するって、言っててさ」

腹の底から叫ぶように言う。

「俺、嫌なんだよ。諦めんの。心咲ちゃんのことも、自分のことも、人生のことも!嫌なんだよ!!」

言いながら頭を殴っている。


俺はリュックを手に立ち上がると、座り込んだ頭にそれを落とした。

「わかってるじゃん。さすが俺の親友」

「……梓」

「それが懸命な判断ってやつだ」

涙をいっぱい浮かべた卓巳の顔を見ると、笑いがこみ上げてきた。

「まあ、俺が無事戻ってきたら、本物のメロンとキウイ奢れよ」

ドアに手をかけた瞬間、卓巳が呟いた。


「梓、こんなとき、どうして笑ってられるんだよ……」


と、小屋が壊れるかと思うほど大きな機械音がした。


『起動信号確認シマシタ 準備ニハイリマス』


「はは。本当に使えねえ・・・」

ほっといて行こうとドアノブを回すと、


『私は A.I.ナンバー376011 型式 は面倒なので割愛します』


初めての反応に思わず振り返る。青いヘッドライトを光らせながら、まるで瞬きをするように、チラッチラッと点滅する。


『我がマスターは 私のことを80%の確率で愛着をこめて アイザックと呼ぶので そう名乗ることにします』


「はあ?」


『小屋の外を取り囲む和合国軍の数 27名 うち銃などの殺傷兵器を持っている人数27名』


「全員じゃん」 思わずツッコミをいれる。


『極めて危険な状況と判断。マスターの許可なく行動を開始します』


ブルルンと変な音が響く。黒い煙と、何か燃えるような臭い匂いで狭い小屋が包まれる。


『和合国軍を突破し 公道に出られる確率60%以下 その後 公道を逃げきり 追撃を撒ける確率30%以下』


「……ねえ、低くない?」


『乗って下さい』


「怖いわ!!」


『マスターが決意するまでの時間 推定4分 軍の強行突破まで推定28秒 間に合いません マスターの意思を無視します』


言うなり、タイヤが回り、こちらに向かって突進してきた。腰への痛みと共に突き上げられた身体の下に、アイザックが滑り込む。


『グリップに掴まって下さい』


しょうがなく握ると、目の前にリュックがあった。


「卓巳……」

涙を拭きながらリュックを押し付けてくる。


『発進』

リュックを握るのと同時に、タイヤを空回りさせながらアイザックが発進した。明らかに俺たちより小さい窓に向かって速度を上げていく。

バキバキッ

伏せてもむき出しの頭には木の板がものすごい力で折れて飛び散る感触と痛みがそのまま響いてきた。


目を開けると、空中に投げ出されたバイクの遙か下に、青い軍服を着た和合国軍たちがライトを片手にこちらを見上げていた。


列の先頭に、やけに小さい人影が見える。瞳が大きく色も白い。


……すげえイケメン。


この緊急時にどうでもいいことを思いながら、空中で座り直す。地面に着地する衝撃に備え、足に力を込める。


ドンッ ドドンッ


「いて!!いてえええ!!!!」


臀部に響く熱いほどの痛みと地を擦る爆音は、予想もしなかった大逃亡劇のファンファーレだった。



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