朝、いつも通りに学校につく。
3年5組、俺の教室からは校門が見える。
続々と生徒が学校に入っていく。
その光景を見ながら今日のことを考える。
一限目は現文か。
また黒尾のやつが教科書借りにこねーといいけどな。
海も迷惑してたし。
そういえば放課後は部活がオフだ。
「あ。」
校門を見てたら、知ってる顔が見えた。
2人の女子が校門から入ってくる。
1人は小柄でもう1人の横をぴょんぴょん跳ねながら楽しそうに笑っている。
天野小春、だったか?
それを見ながらなにか飲み物飲んでいるもう1人は、○○だ。
美化委員が同じの1つ下の後輩。
この間俺の仕事を代わりに片付けてくれた子だ。
優しくて、仕事もちゃんとやって、礼儀正しい、すげーいい子だと思う。
初めて会ったのは多分俺が2年になってすぐだったと思う。
俺も、彼女も美化委員1年目で、俺が今よりはまぁまぁ委員会の仕事を真面目に取り組んでいた時。
初めて見た時から、顔立ちが良くて可愛いと思ってた。
けど別に委員会以外の話はしない。いや、その時は委員会の話すらしなかった気がする。
○○と話すようになったのはほんとに最近だ。
何故か俺が副委員長という立場なのも話し始めたきっかけかもしれない。
最近彼女と話す中で、少し気になることがある。
前までの○○はよくわかんねーけど、最近やたら元気がないように見える時があること。
この間コンビニいった時もそうだ。
○○はもしかしたら悩みがあるんじゃねーかな。
と言っても委員会が同じだけの先輩が、後輩の悩みに口出しするほどの勇気、俺には多分ない。
“ 多分 ” 、な?
けど、悩みには触れられないかもだけど、俺にだってなにか出来ないか考える。
だって○○は笑顔の方がずっと可愛いから。
俺はそれを1回見てるからか、余計にそれが分かる。
だから俺がなにかして彼女を笑わせられるなら、なんでもするわ。
…とか考えてる俺は最近思う。
俺は彼女に惚れているんじゃないか、と。
つーか俺1ヶ月ぐらい委員会の仕事してなくね。
確か担当の曜日とかあった気するし。
1ヶ月委員会にほぼ関わってなかった俺は自分の担当の曜日が定かではなかった。
確か1階に委員会の掲示板があったはずと思い、俺は教室から出て、階段をおりる。
階段すぐ横にある掲示板を見て俺は「まじかよ。」と声を漏らしてしまう。
『美化委員担当日』と書かれた下に『3年5組 夜久衛輔(木)』と記載してあった。
「木曜って、、今日じゃねーか、?」
俺は、その場に立ち止まり少々考えた。
まずい、仕事内容を全くもって覚えていない。
俺は、かといってサボろう!という選択肢はまずない。
しかも今日はちょうどオフの日。
仕事はするつもりなのだが、何をしたらいいか分からなかった。
俺は担当の先生に聞きにいくかと、少し気を重くして階段を降りようとした。
ん?待てよ?
もう一度、担当日が書かれた紙に視線を向ける。
『2年1組 ○○ ××(水)』
その記載を見たあと仕事のチェックリストに目を向ける。
【日付】5月16日
【場所】旧校舎教室
【備考】教材あと半分。
【担当】2-1 ○○ ××
「すげぇ…。」
チェックリストをパラパラめくると、ほとんどが彼女の名前だった。
2ヶ月前に俺の名前を1つ見つけた。
ぜんっぜんっ1ヶ月じゃねー。
自分に呆れ、その申し訳なさに頭を抱える。
つーか春休みも学校来て掃除してたのか…偉すぎるだろ。
しかも期限があるものは期限内にちゃんと終わっている。
俺はより申し訳なさでいっぱいになった。
○○、こんな俺を許してくれ。
「また後でねー!」
「うん、またね。」
2年1組の前で、天野さんと手を振りあっている○○を見つけた。
俺はフーっと一呼吸おいて彼女に話しかけた。
「あ、○○!」
「夜久先輩?」
「よ!今日は元気か?」
何となく世間話から入ろうと思った俺がそう言った時、自分でやべっと感じた。
絶賛彼女がもし悩んでいて元気がなかったら、悩みを掘り下げているようもんだと。
「はい、?あ、元気ですよ。」
最初は困惑気味だったが、○○は笑顔でそう応えてくれた。
この間見た時と同じ、可愛い笑顔だった。
「なら良かった!」
俺は安心して、緊張をほぐすため、彼女にバレないようにまた一呼吸おいた。
「ところで、なにか御用でしたか?」
首を傾げる彼女を見て、俺は目的を思い出して、途端に申し訳なさでいっぱいになる。
「あーそうそう。本当に申し訳ねぇんだけど。俺今日美化委員担当でさ、珍しくオフだからちゃんと仕事しようと思って。だけどしばらく休んでたからわかんねぇこと多くて。」
緊張がほぐされてなかったのか、少し早口で喋ってしまう俺。
「だから、頼む!手伝って欲しい!」
マジで先生に聞けって思うよな、ほんとにごめん○○。
俺は○○に深く頭を下げた。
「え、いやいやちょっと先輩!?頭あげてください!?」
頭を下げながら、どこまでいい子なんだと、俺は感動した。
彼女は慌てている様子だが、静かにこういった。
「もちろんです。手伝いますよ。」
「ほんとに!?」
俺は勢いよく顔を上げた。
微笑みながら彼女は俺を見ていた。
どんだけ優しい子なんだ。
「まじありがとう!すっげー助かる!」
嬉しすぎて彼女の手を握りそうだったが、さすがに耐えた。
「じゃあまた放課後迎えいくわ!」
俺は自分の顔が何となく熱くなってるのを感じ、逃げるようにその場を去った。
なんだかすごく一日が早かった。
授業が終わってから10分が経過している。
俺は異様な程に緊張していた。
試合前とはまた違う緊張。
これから、ただ委員会の仕事をするだけなのに、心が変にざわつく。
12分経過した今、ようやく俺は鞄を持って教室を出た。
朝の出来事から、今日1日ずっと○○のことを考えていた。
それでやっと気づいた。
俺は○○が好きということに。
正直いつからとか、明確なことは言えない。
けど、間違いなく俺は彼女が好きだ。
元気がない時も、友達と話してる時も、笑顔も、全部好きだ。
それを自覚した今だからこんなに緊張しているんだ。
きっと仕事に集中しちまえばこんな緊張どっか行く。
それを信じて2年1組の教室に顔を出した。
辺りを見渡して○○を探す。
だけど、○○はいなかった。
鞄は机に置いたままだったから、まだ校内にはいるみたいだった。
「あなたは…。」
黒板に書かれた授業の内容を消しながら、すらっとした男子が俺を見ていた。
黒板の字を消すのを一旦やめて黒板消しを置いた背の高いそいつは俺と対面した。
「この間もお目にかかりました。たしか美化委員の。また○○さんですか?」
俺を見下ろしながらメガネの下で少しにこにこしながらそういうこいつに、俺は勝手に苛立っている。
そうだ。この間○○を呼んでくれた男だ。
その時も、俺を見下ろす背の高いこいつを見て無性に苛立っていたのを思い出した。
「すみません、○○さんいないみたいです。けどさっき2組の天野小春さんとどこかに向かったのを見ましたよ。」
丁寧にそう説明するこいつ…いや、後輩に対して、俺はどんだけ子供なんだと撃沈した。
俺の周りで見下ろしてくるやつはあいつ(黒尾)だけで十分だ。
「おう、ありがとな。お前、名前、なんて言うんだ?」
「えっ?僕ですか?広瀬葵ですが…。」
葵、お前は絶対いい男になる。いや、既にいい男だ。
「葵、よろしくな。」
「えっと、あの?」
困ったように眉を寄せて話す葵の肩に手を乗せて、うんうんと頷き、俺はその場を去った。
今思えば、ただの変な先輩すぎた。
葵は天野さんとどこかに行ったって言ったか。
どこかって言われても俺に検討のつく場所は思いつかない。
教室に戻ってくるまで待つかと思い、戻ろうとした矢先、2年3組の扉の前で彼女たちを見つけた。
俺は葵と話したことで少し緊張がほぐれたみたいだった。
朝よりもちゃんと声を張ることが出来た。
「お、いたいた、○○ー!」
○○は俺の声に気づき、遠くからでも見えるぐらいに手を挙げた。
隣にいた天野さんに手を振って○○は俺に近づいてきた。
「ごめん待たせちまって。」
「全然大丈夫です!私こそ教室にいなくてすみません。」
「いや全然!んじゃ行こーぜ!」
できるだけ迷惑はかけないように自分が次どこでなんの担当なのかは一応先生に確認しておいた。
初めは旧校舎の壊れた椅子や、机を運んで欲しいと言われたがそれよりも新校舎の使わなくなった教室のものを整理して欲しいと頼まれた。
そこの担当だったやつがサボりにサボって仕事が山積みらしい。
俺は1階の1番端にある使われなくなった教室に○○と向かう。
○○は、俺の後ろをついてくる形で歩く。
後ろからついてくる○○の足音と、俺の心臓の音が重なってる感じがした。
だんだん緊張してきて俺は深呼吸をした。
その瞬間、後ろから聞こえていた足音が聞こえなくなる。
俺は途端に後ろを振り向いた。
○○は俯いて、立ち止まっていた。
俺は訳が分からず、立ち止まった○○に近づいた。
「?○○、どうした?」
俺は不安になり○○の顔を覗いた。
「す、すみません、なんでもないです、!行きましょう。」
「おう、」
○○が勢いよくそう言ったので、俺はそれに押し負けたように気の抜けた返事が出た。
いや、なんでもないわけない。
きっと本人は気づいていないだろうけど、顔を上げた彼女の表情からは、マイナスの感情が伝わってきた。
どこか切なくて、苦しそうな。
俺はそんな顔をした好きな人に、何もしてあげられねーのか?
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