テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「ん………ここは…?」
暖かいそよ風が吹き始めた時、俺は目を覚ました。
自分の目の前に映るのは、一面に美しく咲き誇る花々、青く澄み渡った空。
ただ。それだけ。
軽くなった自分の身体を起き上がらせ、花畑の奥へと進んだ。
そこにはほとんど何も無く、たった一つの画面の様なものが吊り下げられているだけ。
その画面に触れてみたが、すり抜けてしまう様だ。
自分はどうやら死んだらしい。
気絶する前には大きな川を渡っていった覚えがある。そこはおそらく三途の川。
そして、さっきの花畑はきっと亡くなった家族に会う為の場所なのだろう。
「あれ…家族ってなんだっけ。」
自分には…親なんてどうせ居ないがな。居たとしても、覚えていない。家族が居たことすら分からずにいた。
ふと、誰かの声が聞こえたかと思い、振り向いた。
振り向いた先にあった物は、吊り下げられている大きな映画のスクリーン。
その大きい画面には自分の姿が映っている。
その後ろに椅子があったので、座りながら画面を見つめた。
そこには自分がこれまでに生きて来た辛い過去が映っていた。
生前、同期から一つ聞いた事がある。それは、「人生の映画館」の話。三途の川を渡り、花畑を抜けた先に人生の映画館と言われているものがある…と。
そこでは、自分の生きた瞬間全てが記録されており、楽しかった過去も辛かった過去も一つ残らず再生される。その映画館で、死者の魂は自分の人生と向き合っていくのだ。
自分は半ば半信半疑のままその話を聞いた。
そもそも、死後の世界も、地獄も天国も信じていなかった。なので映画館もあるはずがないと思っていた。
だが、まさか本当にあったなんて思わなかった。
淡々と写し出されていく生前の自分の姿。そこには酷く傷だらけの自分も映っていた。
あまりの酷さに吐き気がしてくるほどだった。脳内にフラッシュバックする幼少期の思い出。
弟と一緒に物を盗んで生活する日々。”とても楽しかった?“。
いや、本当に楽しかったのかは、今の自分でもわからない。
まともに自分の人生を見る事が出来ずに、目を開いた時には自分が看守長だった頃の記憶が映っていた。
だが、これまでの自分とは全く別人のを見ているかのようだった。
何故ならば、看守長の自分は俺の一つの人格に過ぎない。謂わば別人と言う訳だ。
態度も振る舞い方もまるで違う。あのまま、バレないと思っていた。
「アイツらのせいで…………」
画面に映る自分はとても苛立っていた。今の自分もその姿を見て苛立っている。もう忘れる事は出来ない。万引きと脱獄の罪で捕まえた2人の少女。彼女達は後に自分の計画を邪魔して来た。アイツらが居なければ、自分だって今頃まだ生きていたのかもしれない。計画が順調に進んだのかもしれなかったと思うとはらわたが煮えくり返るくらいの苛立ちを覚えた。
そして、最後は自分に協力していた奴に裏切られ、あっけなく死んでいった。
あんなに強かった自分があんな奴に負けるなんて…認めたくない。アイツだって結局は死んだ。最初に俺がアイツに致命傷を負わせたんだから。俺の勝ちだ。
…なのになんでアイツらは勝ち誇ったような顔をしているのか不思議でしょうがない。
そうして、自分の人生は幕を閉じた。
生前、同僚から聞いた話の続きでは上映終了後、拍手が起これば天国、静まりかえれば地獄行きとの事だと言う。
拍手の音が聞こえないまま、刻一刻と時が過ぎる。その後も、拍手が鳴り響く事は無かった。
次に自分が瞬きをした瞬間、今まで目の前にあった大きなスクリーンは無くなっていた。
目の前に広がるのは真っ暗闇。
ああ、ここは地獄なのだろうと確信した。
俺は正面を向いて立ち尽くしたまま、ゆっくりと真っ暗闇に飲み込まれていった……
コメント
4件
団長さんかな? 凄くよきよき…