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一人で、壁際の椅子に座る。本当はアルマと食べようとしたのだが、彼はどこかへ行ってしまい声をかけそびれてしまった。
緊張感溢れる尋問が起きた後だ。食欲が全くわかない。
一人の方が落ち着くと思ってしまうのは、ぼっちの極みかもしれない。もしアルマやその友達がいれば、こちらも気を使わないといけないし話す内容を考えないといけない。大層面倒くさいので、これでよかったと自分に言い聞かせホッと一息つく。
メニューはトレーに乗っている通り。フランスパンが二分の一、野菜入りシチューはちょっとだけ。飲み物はオレンジジュース一本で、おかずがない。なんとも貧しい食事なんだ。囚人たちはこんな料理をずっと食していると思うと、不思議な感覚になる。こんなのでお腹いっぱいになるのだろうか。うーんと唸ってしまう。看守に戻った方が美味しいもの食べられ……。
「この席空いてるわよ!」
隣にドカッとトレーを置いてきた人がいて、肩を震わせてしまう。一体何事だろうか。
隣に視線を向けると、緑の髪を三つ編みに結んでいる女が座ってきた。胸がふっくらと膨らみ、唇は薄ピンク色。まつ毛も少し長くて、顔立ちが整っている美人な女性だ。目が少し吊り目なのは残念……。
この船で初めての女性に出会ったためか、体が強張ってしまう。どう接すればいいのか、戸惑いを覚える。
「そんなに緊張すんなよ、お兄さん。あんた、こっから出たいんでしょ。あたしたちも船から脱獄する策略だから」
彼女が肩を組んできて、胸が左上腕に当たっていた。童貞の僕にはキツすぎる展開。アレがたっちまいそうだ。
「姉貴! それは言わないお約束じゃ……」
「そうだっけ?まあ、細かいことは気にすんな」
囚人の女だけあってか、態度がかなりデカい。肩から手を離した瞬間椅子にもたれかかり、大の字で座っていた。これ股が見えるんじゃ……恥じらいはないのか?と心配になってしまう。
そんな彼女の目の前には、褐色肌の男が座っていた。右目に包帯を巻いていて、怪我をしているのが分かる。左目は水色に近い瞳。
彼は女のツッコミ役としてはかなり優秀だ。知り合いだろうか。
男は丁寧に挨拶してきた。
「どうも初めまして。ボクはダニエル。あなたの隣に座っている彼女は、ルビー」
「よろしく〜!」
「二人は知り合い……?」
「恋人同士」
「ち、違うって!!」
ルビーがのっぺりした声で言うと、ダニエルの顔がトマトのように赤らみ慌てて隠そうとする。なんだ、リア充か……。僕には縁がないタイプだわ。逃げよう。
トレーを持って立ちあがろうとしたら、女に左腕を引かれた。彼女はにっこりと微笑ましい笑みを浮かべている。
「ねえ、お兄さんさ。アルマの知り合い?」
「え……?」
いきなり彼の名前が出てきて、戸惑いを覚える。この船では囚人同士だと番号しかわからないはずで、フルネームを知っている人は有名じゃなければ仲間や友達でない限り少ない。この人はアルマの知り合いなのだろうか?それとも名前だけ知っている?
僕はその場で座り、ルビーの赤い瞳に視線を移す。
「あたしこう見えて、元アルマの恋人なんだよね」
「恋人!?」
アルマも男である限り、好きな人と付き合うことくらいするだろう。青ざめるくらいショックではあるが、固唾を飲んで彼女の話に耳を傾ける。
「そう。2年くらい付き合ったかな? それでわかったことがいくつもあるんだ。聞きたい?」
「少しだけ……」
「ふーん。あいつのこと、好きとか思ってるの?」
「そんなわけないでしょ!? 相手は男だぞ。僕はノンケだ」
「性別なんて好きに関係ないわよ。あたしが言いたいのは、もしあいつに好意を抱いたら後で痛い目見るってこと」
それは、どういう意味だろうか?
彼女の話に興味を持った僕は、ルビーの話に耳を傾けることした。