芥川がマフィアを追い出される話(2話)
俺は国木田独歩、探偵社員の端くれだ。 敵対組織のポートマフィアへの視察の任務を終え、 此の後は書類を片付ける予定だったのだが…。 何やら裏が騒がしい。 本来ならば任務外のことは首を突っ込まない主義なんだが。 警戒しつつも様子を見に行くと、凶悪そうな男たちが小柄な少年に暴力を振っていた。 事情は知らないが、あのようにか弱そうな少年を大人数で囲むなど何たる非道。 声を荒げ近づくと、探偵社に目を付けられたくないのかすぐに逃げ出した。 今すぐにでも捕まえたいところだが、少年の怪我の程度を診てやらねばならん。 急いで駆け寄ると、息も絶え絶えに瞳を涙で滲ませ、血だらけで横たわっていた。 雨の中、どのくらい此処にいたのかは分からないが、このままでは命に関わるだろう。 焦点が合っておらず意識を失いかけているようで 殆ど抵抗の意志は見えない。 怪我を刺激しないよう横に抱えると 余程寒かったのか擦り寄ってきた。 小刻みに震える姿が小動物の様で、つい強く抱き返してしまった。 少年は安心したのか、眠るように意識を手放してしまったが、 これ以上身体を冷やさないよう、外装を掛けておけば探偵社までは持つだろう。
探偵社に着くと、皆は少し動揺していたが介抱の準備を整えてくれた。 与謝野女医はまだ来れないそうだが、体を暖めて悪化しないようにすれば良い。 俺自身も雨に打たれたので着替えたいところだが、少年がいつ目を覚ますか分からん。 ポートマフィア関連の可能性も捨てきれないため、常に一人は見張る必要がある。 だが…、濡れた服を着替えさせようと服を捲ると 白い肌には幾つもの傷が付けられており、 先程の怪我も相まって酷い状態だった。 この少年の素性は知らないが傷をつけた奴が無性に腹が立つ。 ぬるま湯に浸けた布で顔の血を拭ってやると、体の緊張が少し緩まった気がした。 余り大人数で取り囲むと、起きたときに混乱する可能性を踏まえて、 この医務室には俺だけだ。部屋の外では皆が手当を手伝ってくれている。 顔色を伺うと少年の顔は僅かに火照っており、息も荒い。 熱を出している、長らく雨に打たれ続けていたのだから無理はないが。 額に手を当てると想像以上に熱く、熱を測ると39.7℃の高熱だった。 苦しそうに眉を寄せ、肩で息をしており、着替えさせた服も汗で濡れてしまっていた。 同じく探偵社員の賢治に服の替えと毛布を持ってくるよう伝え、服を脱がせる。 寝ている者に水を飲ませるわけにもいかず、多少喉が枯れてしまうだろうが仕方ない。 着替えさせ、毛布に包んでやると震えも少しばかり収まり、かなり落ち着いた。 与謝野女医の異能では病気は治せないが、怪我が治れば風邪も幾分良くなるだろう。 あの治療を受けるのは気の毒だが、意識のない今ならまだマシな方だ。
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