テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
読み終わりました! 卒業式の喧騒が去った後に残る静けさと、文世さんの「心の不感症」という自己分析、すごくリアルで胸に響きました。あの、華やかな輪の中にいながらどこか一歩引いた距離感――そこに同級生の渋谷くんが突然現れて「サイコパス」と共通点を匂わせるラスト。なんだか不穏で、でもすごく気になる始まり方ですね。この先、二人の関係がどう転んでいくのか、全然読めなくてワクワクします!
1
-
最初は女子グループで集い別れを惜しみ、次に少し交流のあった男子学生たち
3人と、卒業と就職という新たな船出を祝い合った。
やがて1人、また1人と輪の中から抜けてゆき、気づけば、その場に残っていたのは
山倉美並と私だけになっていた。-
美並とはゼミで知り合い、自然と親しくなった。
私たちは、時々構内で会った時に話す程度の間柄で──
普段、大学では別のクラスだったため、あまり一緒につるむことはなかった。
ふたりきりになれて喜びの余韻に浸っていた時、美並の携帯が鳴った。
「彼から?」
「うん、門のところまで迎えに来てくれたみたい。悪いけどわたし行くね」
「オーケー。また連絡するよ」
「うん、じゃあごめんね。また……」
私は、座ったところから美並を見送った。
『美並は在学中からステディな彼氏がいて、ずっと毎日愛され上手な幸せいっぱいの女子だ』
――とはいえ、私だって交際を申し込んでくれる男子の1人や2人はいたけどね、
っていいたいところだけど。
何て言うのかなぁ、まだ好きな人っていうか夢中になれる人に出会ってない
せいだと思うけどっ、ていうか思いたいけど――
こんな心の不感症を患っているようじゃ、自分は一生結婚なんてしないのかもね。
そんな風に寂しいことを思いつつ──
さてと、私もぼちぼち帰ろうと椅子から立ち上がろうとしたところへ、同級生の渋谷圭悟から声を掛けられた。
彼とは同志社・社会学部・社会学科のゼミで2年3年と合同で同じクラスになり、
4回生だけで授業を取るゼミでも同じクラスになったことがある。
だが、ただの一度も個人的に親しく会話をしたことのない相手である。
そんなほとんど在学中、個人的に話をしたことのない渋谷から、卒業式の後の
パーティーで文世は声を掛けられたのだった。
髪の色は薄い茶色で、ゆるくパーマがかった長髪。
そして、クールな印象を与える切れ長二重瞼の魅力的な目元をしており、その瞳には
やさしい色を湛えている。そんな彼は知的なオーラを纏っていた。
更にそこには少しの色気が加わり、女子にかなり人気があることは、奥手の文世でも
知っていた。
もちろん、直接話したことのない相手である。
だから、渋谷に話し掛けられた時、文世は内心驚きを隠せなかった。
何事かと……。
設楽理沙
1
紫倉 紫
242
𝓗𝓪𝓶𝓾
972
耀聖(ようせい)
1,340
何故なら、自分は男子から誘いを受けるような類の女子にカテゴライズ
されないからだ。
大学生になると男女ともに多少は色気づき、自分磨きに余念がない。
親に財力のある者は特にその傾向が見受けられやすい。
女子なら、高価な洋服に鞄や靴と、あきらかにお金を掛けているのが分かる。
男子であれば収入もないのに、それなりにハイクラスの車を乗りこなして
いたりする。
もちろん、意中の綺麗な女子学生を乗せてブイブイいわすためだ。
そのように一部であれ、煌びやかな学生生活を送っている学生たちの中で、
文世はその他大勢の女子と同じように平凡という枠に収まり、卒業まで学生生活を
過ごしてきた。
ようするに、ある意味意図的に、地味で目立たぬよう、大学生活を
過ごしてきたのだ。
そんな文世は、自分に声を掛けてきた──
きれいな切れ長の魅惑的な瞳を携えている人物を見上げた。
◇ ◇ ◇ ◇
「永堀さん、ここいいかな?」
そう訊くや否や、彼は私の隣の席に腰掛けた。
断られるなんて1mmも考えていないような振る舞いだった。
「渋谷くん、いいの? 私の隣になんて1人っきりで座られたら、他の女子から
妬まれて私──怖いんですけど」
「ははっ、心にもないこと言っちゃって。俺の目は誤魔化せないよ」
『はぁ~? 知ったふうなことを……』
「確か私たちってゼミが被っていて3年間一緒だったよね?」
「その割にほぼほぼ接点というか、接触がなかったよね」
「うん、そうね。渋谷くんって高嶺の花っていうか、結構狙ってる女子が
多くって、覚悟もなしに親しくなんてしたらどんなことになるやら、それを
考えると気楽に話なんてできなかったのよ?」
「言うよね~。まっ、そういうことにしておきましょっ」
「人気者で渋谷くんと話したい女子がいっぱいいるのに、その隙間を縫って
私の隣にわざわざ来ているのは何故なのかな?」
「普通はさ、卒業式に異性から声がかかるとその意味は大抵の場合1つしかないと
思うんだけど、永堀さんって自惚れないタイプか、同性愛者なのか、はたまた
人見知りタイプなのか、どれなんだろうね」
「そりゃあ、3つめでしょ」
「「ははっ」」
「よく言うよ。まっ、そういうことにしときましょ。
いやまぁ、何で君に声を掛ける気になったのか自分でもわからないけど……
いや、違うな。ずっとチャンスがあれば話をしたいなって思ってたんだよね」
「告白でもなさそうなのに、どうして……」
「君の中に、自分の中にある同じような片鱗が隠されているのに
気が付いたからかな」
「同じような片鱗? なんだろう」
「サイコパス」
「サイコパス? なぁ~にそれ、ヤなこと言わないでよ」