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ルル
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「……おい、シエル。これを見ろ」要塞都市・クロードの最上層執務室。
私はデスクの引き出しの奥からそっと取り出した『ある代物』を、隣で苦めのコーヒーを淹れているシエルに突きつけた。
「……なに? クロード」
シエルが湯気の立つカップを置き、私の手元を覗き込む。
そこに転がっていたのは、綺麗に二つに折り畳まれた小さな紙切れと、真っ黒なインクが跳ねたペンだった。
紙に書かれていたのは、子供の落書きのような拙い文字。だが、その筆圧とレイアウトは、なぜか異常なまでに正確で、要塞の防衛配線図の構造を寸分違わず模写した「極めて高度な迎撃マニュアル」だった。
「今朝、俺の執務室の窓辺にこれが落ちていた。……犯人は、間違いなくあの二人のどちらかだ」
私の言葉に、シエルは静かに目を丸くした。
あれから数年。全宇宙を巻き込んだ大騒動の末、私とシエルの間には双子の娘が生まれた。
名前は、姉がルナ、妹がノア。現在、ちょうど3歳になる。
当時、セリスやエレナ、シャーロットの三人組が「私たちに似て爆発的で賑やかな子供が生まれるに違いないわ!」と勝手に大騒ぎし、アニやアザゼル、果ては宇宙人のゼゼまでが「宇宙一のプリンセス爆誕だ!」と祝いの品を送りつけてきたものだ。
だが——蓋を開けてみればどうだ。
我が家の双子の娘たちは、両親の遺伝子を完璧に受け継いだのか、驚くほど物静かで、感情をあまり表に出さない。
日向ぼっこをしながら風の動きをじっと観察していたり、私がメンテナンスしている消音拳銃のパーツをじっと見つめて「ここ、もう少しスプリングのテンションを上げた方が効率が良い」と言いたげな冷徹な視線を向けたりする、恐ろしく頭の切れる子供たちだった。
「……ルナも、ノアも、天才。……さすが、私たちの子供」
シエルは目を細め、我が子を褒めるようにふっと微笑んだ。
親バカと言われようが構わない。我が娘たちがこうして冷静沈着で合理的な美少女に育っているのは、紛れもなく私とシエルの優秀な血の結晶だ。
——だが、私とシエルは全く気づいていない。
この物静かで愛らしい3歳の双子たちの内側で、かつての記憶と魂が、全く別の意味で静かにスパークしているということに。
「……おい、姉者。今日のパパの動きは相変わらず無駄がない。朝起きてから3分で消音拳銃の油差しを終え、5分で苦いコーヒーを流し込む。……前世で私が彼に『お前の暗殺術は効率が悪すぎる』と説教した頃より、数段洗練されているな」
庭の隅のベンチで、小さなぬいぐるみを抱きながら、姉のルナが大人びた冷ややかな目で呟く。
彼女の正体は、かつて前魔王の配下として暗躍し、その傲慢さと非効率さを見かねた現魔王クロード(私)自身の手によって綺麗に「断罪・粛清」された、元・最高幹部の一人である。
死んだはずが、なぜかかつての宿敵にして主君であるクロードの娘として転生してしまい、現在はその圧倒的な過保護(親バカ)っぷりに内心戸惑いつつも、「……まあ、パパの淹れるミルクは意外と美味いから許す」と冷徹に受け入れていた。
一方、その隣で風に揺れる髪をそっと整えながら、妹のノアが小さくため息をつく。
「……ルナ、静かにしなさい。それより、あのパパの構えているスナイパーライフルのスコープ、風の抵抗係数の計算がコンマ03秒だけ狂っているわ。あとで私が風の軌道書き換え(リライト)魔法でこっそり修正しておくわよ」
「……ほう、流石は師匠。目の付け所が違う」
「当たり前でしょ。……私はかつて、あのバカ弟子(クロード)にすべての魔導戦闘理論を叩き込んだ、伝説の元・師匠なのだからね」
妹のノアの正体は、かつて若い頃のクロード(私)に「お前の剣技は粗削りすぎる!」とスパルタで魔法と戦術を叩き込み、寿命で静かに息を引き取ったはずの——前魔王クロードの「元・師匠」の生まれ変わりだった。
まさか自分が昔育てた教え子(しかも今は魔王としてすっかり丸くなり、自分の娘を溺愛する親バカと化している)の子供として産み落とされるとは夢にも思わず、転生直後は絶句したものだが、今の冷徹で合理的なパパ(クロード)と、無口で最高に手際の良いママ(シエル)に囲まれたこの要塞都市でのスローライフは、意外と悪くない隠居生活だと最近は満喫していた。
「……おい、ルナ、ノア。そこ危ないぞ」
執務室の窓から庭を眺めていた私が、ふと声を張り上げる。
「パパの特製の対物重力地雷の近くで虫を捕まえるな。……ほら、おいで。パパが高い高いをしてやるから」
私がちょっとバツの悪そうな顔(しかし目尻は完全に下がっている)で庭へ降りていくと、双子の娘たちはぴょこんと立ち上がり、全く同じ冷徹で無表情な顔のまま、しかしトコトコと私めがけて歩いてきた。
「……パパ、高い高いは不要です。ですが、その左肩のホルスターの革のなめし具合、もう少しオイルを塗布した方が耐久性が上がりますよ」
「……そうよ、パパ。あとうちのミルク、もう少し温度を2度ほど下げた方が、私の魔力回路に優しいわ」
「ははっ、生意気なことを言う。……よしよし、お前たちは世界一賢くて可愛い我が家の宝だ」
私は物静かで天才的な我が娘たちの頭を、我慢しきれずに両手でぐしゃぐしゃと撫で回した。
娘たちは「……もう、子ども扱いしないで」「……髪が乱れる」と小さく文句を言いながらも、嫌がる様子もなく私に小さな体を預けてくる。
その微笑ましい光景を、執務室の窓辺からシエルが淹れたてのコーヒーを片手に、とびきり穏やかな笑みを浮かべて見つめていた。
(……やれやれ。俺は世界を統べる魔王であり、この要塞の最高司令官だというのに……この家にいると、どうにも気が抜けて仕方がない)
だが、悪くない。
宇宙人が降ってこようが、天界の天使が突撃してこようが——この静かで、騒々しくて、最高に愛おしい要塞(我が家)だけは、私が死んでも護り抜く。
私は双子の娘を両腕に抱き上げ、夕日に染まる要塞都市の防壁を見渡しながら、不敵で幸せな笑みを浮かべたのだった。
コメント
3件
あ、今回も読みました〜! 双子ちゃんたち、パパの前では無表情でクールなのに、前世の記憶を持ってるっていう裏設定がもう最高に萌えますね…転生した元・部下と元・師匠って、重すぎる過去が今の仲良し家族に繋がってるの、すごく好きです。 クロードの親バカっぷりと、シエルの穏やかな目線に、思わず「尊い…」ってなっちゃいました。 今週も素敵な話をありがとうございます🌙