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八月初旬――

今日は、月刊少女マリン九月号の発売日である。


ウチから徒歩数分の場所にあるコンビニ。トイレから出て来た私は、そのまま雑誌コーナーへと足を向けた。


少女漫画エリアへ平積みされたマリン。そして、ちょうどその前には二人組みの女子高生が立っていた。


ちなみに、その制服は私が高校時代に着ていた物と同じ物――つまり私の後輩である。

夏休みとはいえ、平日の昼間に制服でいるという事は、おそらく部活の帰りか何かなのだろう。


一冊の雑誌を、お互いに顔を寄せて覗き込んでる二人……


「ふ~ん、今月も豊田さんが描いてるのか……」


そんな、ひとり言の様な呟きが私の耳に届く。

そう、先月号に引き続き、今月号も作画を担当したのはトモくんなのだ。


「まあ、どっちが描いていても、私には見分けがつかないけどね」

「私も……でも、手を怪我したって言うけど、また治らないとか、そんな酷い怪我なのかな?」


いえいえ。もうスッカリ完治して、来月号は私が描いておりますよ。


そんな事を思いながら、名も知らぬ後輩達の会話にほくそ笑む私。


さて、私の怪我の事やトモくんが作画を担当した事を、どうして一般の読者が知っているのか……?


私は彼女達の隣に立ち、平積みのマリンを手に取った。

今月号の表紙を飾る、フラッシュ☆ガールズ。カラー原稿など殆ど描いた事のないトモくんが『ヒーヒー』言いながら描いていたのを思い出し、更に笑みがこぼれた。


パラパラとベージを捲っていき、お目当てのページ――フラッシュ☆ガールズの扉ページに辿り着く。


躍動的に踊るヒロインが描かれたページ。上段にはフラッシュ☆ガールズのタイトル。右側にはアオリ文。そして下段には、こう書かれていた――


『原作・工藤愛 作画・豊田まこと』と……


そう、あの日――編集社へ呼び出され日。編集長が言いたかったのは、この事なのだ。


あの時、編集長の机に広げられていた原稿。その扉絵のページにあったのは工藤愛の名前だけ。

翌日、徹夜明けで再び編集長室を訪れた私達に、編集長はその扉絵にあった工藤愛の名前を指差し、こう切り出した。


『改めて聞くが、コレは――作者名は、このままでいいのか?』


その言葉で全てを察した私達。

このままでよいと言いかけたトモくんの言葉をかき消す様に、私は変更して欲しいと声を張り上げた。


更に私は巻末に一ページ貰って、読者へのお詫びと事の顛末を掲載したのだ。


まあ、さすがに全てを話すワケにはいかないので、

『不注意で利き手に怪我してしまったのだが、その怪我を知った豊田まこと氏が代筆を申し出てくれた』

という事にしてある。


はたして、私達のした事は正しかったのか……?

今でも考えてしまう事がある。


しかし……


「でも、すっごい盛り上がってるトコだしぃ、ここで休載とかマジありえなかったよねぇ」

「うん、ぜんぜん違和感ないし。つーか、ホントに別人が描いてんのか、ってカンジ」


少なくとも、読者を落胆させる事はなかったようだ。

私が後輩達の会話に笑みを浮かべると同時に、見覚えのあるバイクが駐車場へと入って来るのがガラス越しに見えた。


ったく……やっと来たか。仕事はキッチリしてるクセに、プライベートはルーズなんだから。


私は、手にしていたマリンを平積みの上へと戻し、足早に駐車場へと歩いて行く。


「遅いっ! 十五分の遅刻っ!」

「道が混んでたんだよ」


バイクに跨ったまま、フルフェイスのバイザーを上げて眉を顰めるトモくん。

この時間、道が混んでるのは分かっている事なんだから、その分早く出て来なさいよ。


「大体、何でオレがオマエを迎えに来なきゃならんのだ? ったく……」

「言ったでしょ? 私の車は車検中」

「だったらタクシーでも使えばいいだろうが?」

「タクシー代が勿体無いでしょうが? アンタがタクシーチケットくれるなら使ってもいいけど」

「アホかっ! プライベートで|タクシーチケット《タクチケ》切って、経費で落ちるワケねぇだろ?」

「だったら、つべこべ言わない。大体、このバイクの直管を直してあげたのは私なのよ。もっと私を敬い、崇め奉りなさい」

「ちっ……」


痛い所を突かれて、眉をしかめるトモくん。


視線を逸して舌打ちをしながら、予備のヘルメットを私へ放り投げた。

そう、深夜にバイクで東京からコッチに来て以来、ずっとウチのマンションの駐輪場へ置きっぱなしだったトモくんのバイク。直管を直すまで、おおっぴらには乗れないと言っていたのを思い出し、私がこっそりと修理に出しておいたのだ。


私は受け取ったヘルメットをかぶり、その直したてホヤホヤバイクの後部シートへと跨った。


「ほら、今日はお祝いなんだから、不景気な顔してんじゃないわよ」

「っるせー、不景気なツラは生まれつきだ」


私のお祝いという言葉で、更に顔をしかめるトモくん。この表情が本心なのか、それとも単なる照れ隠しなのか……

まあ、おそらく半々なのだろう。


トモくんは仏頂面のまま上げていたバイザーを下し、ゆっくりとバイクをUターンさせた。


お祝い――


そう、今日はコレからお祝いの集まりがあるのだ。


私の快気祝いと、そしてもう一つのお祝い――

なんとっ、先月号のフラッシュ☆ガールズが読者アンケートで1位になったのだ。


過去に一度だけ1位になった事があるけど、あの時は富樫先生が原稿を落とした時で、たまたま1位に食い込んだだけ。

しかし今回は、マリンの作家陣が全員揃った状態での1位である。


まあ、その原稿を描いたのはトモくんだけど……


でも、フラッシュ☆ガールズに投票してくれたほとんどのハガキには、怪我をした私への励ましメッセージが添えられていたらしい。

ホントにありがたい限りである。


そして今日は、その1位の記念して元R-4のメンバーと元鬼怒姫のメンバーが合同で宴会を企画してくれたのだ。

場所は梅子ん家のお寿司屋さん。しかも、大将の|計《はか》らいで貸し切りにしてくれたそうだ。


「ほらっ! ただでさえ遅れてるんだから、早くしないと食べる物が無くなるわよ!」


片側二車線の国道。前を走る紅葉マークの軽自動車の後ろをノロノロと追尾して走るトモくんへ声を上げた。


「オレが着く前に食いモンへ手を着ける不心得者、|R-4《ウチ》にはいねぇよ」

「あらそう? でも|鬼怒姫《ウチ》の場合、こういう席じゃ無礼講だからね。今頃、よだれを垂らしながらお預けくってる男共を前に、出来立てのお寿司を美味しく頂いてるわよ、きっと」

「ちっ! これだから躾けのなってねぇ、あばずれは……」


トモくんはギアを一段下げると、一気にアクセルを吹かし追い越し車線へと躍り出た。


物凄い勢いで流れる景色と、全身に伝わる1000CCエンジンの心地よい振動。


そして目の前に広がるのは、トモくんの大きな背中……


そう、子供の頃からずっと見続けて――ずっと追い続けて来た背中だ。

きっとコレからも、私はこの背中を見続け、追いかけて行くのだろう。


いつか、この胸にある想いを打ち明けるその日まで……


「コレからもよろしくね、トモくん……」

「ああっ!? なんか言ったかーっ!?」


車の間を器用にすり抜けながら、大きな声を上げるトモくん。

私は蒼天の空を見上げ、その声に負けないくらい大きな声を張り上げた。


「何でもないわよっ、相棒~っ!!」


――Fin




――あとがき――


応援ありがとう御座いました。


元ヤンたちが、最も縁遠い少女漫画を中心に力を合わせる物語。

これで、智紀くんと千歳ちゃんの斜め上な恋物語は、とりあえずこれで一区切りです。


千歳ちゃんのギャップと空回りは、書いていて楽しかった(笑)。


拙い文章でありましたが、お付き合い下さりありがとう御座いました。


評判が良ければ第二部も考えておりますので、ぜひとも皆様のご意見やご感想をお寄せ下さい。


最後にもう一度。

応援、本当にありがとう御座いました。

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