テラーノベル
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カチ、と静かな音が響き、視界が真っ白な光に染まった。
「――う、あ……っ」
顔をしかめ、レイは本能的に素肌を隠そうと両手を胸の前に突き出した。だが、指先を包む漆黒の革手袋の感触を確かめ、すぐに安堵の息を漏らす。
手袋は、ある。これさえあれば、世界の手触りは遮断できる。他人の醜悪な記憶が脳内に泥流となって流れ込んでくる、あのおぞましい感覚から身を守れる。
目を細めて光に慣れると、そこは豪奢な劇場の客席だった。
ベルベットの赤い椅子。高い天井から吊り下がる巨大なシャンデリア。レイの周囲には、同じように椅子に縛り付けられ、パニックを起こして喚き散らす男女が九人。
「な、なんだよここは!」
「誘拐!? 警察、警察を呼んでよ!」
喧騒の中、レイだけは微動だにせず、冷めきった目で空間を観察していた。
突如、大音量の不協和音がスピーカーから鳴り響き、舞台の幕がするすると上がる。そこに立っていたのは、顔を隠す不気味な道化の仮面をつけた男――『支配人』だった。
「ようこそ、嘘つきの皆様。ここは人生の最終公演を行うラストシアターです」
支配人の歪んだ声が響く。彼が告げたルールは、あまりにも荒唐無稽で、そして残酷なものだった。
――あなた方は全員、過去にある未解決事件に関わった。
――今から与えられる台本に従い、会話劇を演じてもらう。
――ただし、作中で『嘘』をつくこと、そして他人の頭上にだけ見えている『NG行動』を踏むことは許されない。破れば、相応のペナルティが下る。
「ふざけるなッ! 誰がそんなおままごとに――」
一人の恰幅のいい男が、拘束の解けた椅子から立ち上がり、劇場の扉へ走ろうとした。
その瞬間。
*――ドンッ!*
激しい破裂音とともに、男の頭上からバチバチと青白い火花が散った。
「あ、が、あアアアアアッ!」
男は獣のような悲鳴を上げて床に転がり、激しく痙攣した。やがて痙攣が収まったとき、男の右腕は不自然にねじれ、ピクリとも動かなくなっていた。
「警告です。彼の今の行動は、台本を無視した『逃亡』。すなわちNG行動でした」
支配人が楽しげに肩を揺らす。
「さあ、第一幕の始まりです。お題は『自己紹介』。お互いの素性を探り合ってください」
劇場の空気が、一瞬で氷点下まで凍りついた。
全員が、恐怖に怯えながら互いの顔を見合わせる。
レイは、男たちの頭上に浮かび上がった半透明の文字を見つめていた。
『泣き落としをする』『自身の職業を明かす』『「知らない」と発言する』……。
それが、彼らに課せられたNG行動。踏めば、さっきの男の二の舞だ。
だが、レイの視線が止まったのは、そこではなかった。
怯え、取り乱す参加者たちの顔。見覚えがあった。毎夜、ニュースの画面を睨みつけ、その脳髄に刻み込んだ、あの忌まわしい事件の重要参考人たち。
(……ハハ、傑作だな)
レイの唇の端が、不自然に吊り上がった。胸の奥から、冷たい愉悦がせり上がってくる。
どいつもこいつも、あの時、のうのうと嘘をついて逃げ延びたクズどもじゃないか。
生き残るルールは単純だ。相手をハメるか、あるいは、その喉元に隠された『真実』を白日の下に晒すか。
「……お前たちの化けの皮、ここで全部剥いでやる」
レイは静かに顔を上げると、右の黒手袋の指先を、自らの白い歯でしっかりと咥えた。
キュ、と革が擦れる音がして、ゆっくりと、躊躇いなく左手の手袋を引き抜く。
現れたのは、陶器のように白い、男のものとは思えないほど綺麗な素肌。
しかしそれは、触れた者の過去を暴き立てる、最悪の凶器。
「ひ、ひいっ……どうしよう、私、何もしてないのに……!」
隣の席で、ガタガタと震えながら涙目を浮かべる若い女がいた。彼女の頭上には『他人に触れられる』というNG行動は見当たらない。
レイは、死んだ魚のようだった瞳に、わざとらしいほどの「怯えと優しさ」の光を宿らせた。
「大丈夫ですか? 落ち着いて、一緒に考えましょう」
無害な青年を完璧に演じながら、レイは素手の左手を伸ばす。
そして、女の華奢な肩へ、躊躇なくその指先を触れさせた。
*――ドクン!*
レイの脳内に、真っ赤な血飛沫と、女の狂気に満ちた高笑いが、濁流となって流れ込んでくる。
(見つけた、嘘つき)
手袋を脱いだレイの瞳が、獲物を捉えた猛獣のように、妖しく、冷酷に爛々と輝いた。
小説下手なので、攻めないで〜m(_ _)m
コメント
3件
うわああああ第1話からめっちゃ掴まれたー!!😭💕💕 まず冒頭の劇場の情景描写が一瞬で情景浮かんできたし、手袋を外すって行為が「能力発動」っていう設定がもうスタイリッシュすぎるでしょ…!!✨ 漆黒の革手袋を歯で咥えて引き抜くレイくん、ビジュアル最高にキマってる🖤✨ それでいて、「嘘つきどもの化けの皮を剥ぐ」っていう復讐者的なキャラ立ちがもうアガる!! 触れて相手の過去をのぞく能力、めっちゃ重そうだけどめっちゃ刺さる…! 実際に女性の肩に触れた瞬間の「見つけた、嘘つき」の切り返し、心臓ギュンてなった。続き待ってます、ぜったい読みます!! 📖🔥
#ミステリー風