テラーノベル
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本田は手伝う気などさらさらないらしく、壁に背を預けて悠然と煙草に火を点けた。その横目で射抜くような視線を浴びながら、理人は自らの手で、教師の醜悪な性器を引きずり出すことを余儀なくされる。 屈辱に唇を噛み締め、震える指先で前を寛げた。まだ萎びているそれを視界に入れるだけで吐き気がしたが、意を決して、理人は本田の亀頭を口に含んだ。
「……っ」
舌でぐるりとなぞった瞬間、特有の饐えた体液の味が広がる。 正直に言って、吐き気がするほど気持ちが悪い。口内に広がる逃げ場のない苦味に、眉間のシワが深く刻まれていくのが自分でも分かった。
茎の根元を支え、唇を窄めて深く飲み込む。届かない根元を手で扱き上げると、口の中でそれは一回り、不気味な質量を増して膨らんだ。
「ぅ……はぁ、上手いな……。その辺のデリヘル嬢なんかよりも、ずっと素質があるんじゃないか? ほら、もっと奥まで……喉を鳴らして呑み込めよ」
うっとりと目を細め、本田が「愛玩動物」を愛でるような手つきで理人の頭を撫でる。その手がいっそ振り払いたいほどに疎ましかった。 理人は込み上げてくる嘔吐感を必死に呑み込み、言われるがまま、喉の奥へと猛々しい肉塊を押し進める。息苦しさに視界がチカチカとするのを耐え、懸命に頭を動かして奉仕を続けた。
限界まで張り詰めたそれは口内を圧迫し、喉の奥を突かれるたびに胃の腑がせり上がる。だが、それを許さない本田の手が、理人の後頭部をがっしりと掴んで固定した。
「……っ、ん……ふ、……っ、ぐうぅっ」
自分の動きに合わせて、口内の陰茎がビクビクと卑猥に脈打っているのが伝わり、激しい嫌悪感が胸を焼く。
(早く終わってくれ……。早く、消えてくれ……)
頭の中でその言葉だけを呪文のように繰り返し、ぐちゅぐちゅと唾液が音を立てるのも構わず、必死に本田への奉仕を続けた。
やがて、頭上で本田の荒い吐息が漏れた。肩に置かれた手に力が籠もり、逃がさないと言わんばかりに後頭部を無理やり押さえつけられる。
「……っ、出すぞ……ッ。君は、その口で全て受け止めるんだ。一滴も零すなよ」
一瞬、その言葉の意図を測りかねたが、直後に口内で熱いものが爆発しそうな気配を感じ、理人は咄嗟に首を振って逃れようとした。しかし、鉄の枷のような力で押さえつけられているため、それも叶わない。
「っ、いや、だ――っ!!」
理人は渾身の力を振り絞り、唇からペニスを無理やり吐き出した。 その刹那――。
「―――ッ!!」
ドロリとした熱い粘液が、理人の顔面に容赦なく降り注いだ。 鼻腔を突き刺す強烈な生臭い匂いと、目に入りそうなほどの飛沫に、理人は目眩を覚える。
「全く、飲めと言ったのに悪い子だな。まあでも、その汚された顔も中々……」
「……クッ」
舐めるような視線と、教え子を侮蔑しきった声に、全身の血が逆流するような怒りを覚えた。 怒りと屈辱で激しく震える身体をどうにか抑え込み、乱れた呼吸を整えながら、理人は精液にまみれた顔のまま本田を睨みつける。
本田は悪びれる様子もなくニヤつくと、指先で理人の顎をぐいっと持ち上げ、汚れた顔を至近距離で覗き込んできた。
「エロいね。気に入ったよ……これからもよろしく頼むよ、鬼塚くん」
「なっ……そんな……っ」
絶望的な言葉を遺し、本田は悠然と衣服を整えると、奪い取った写真を再び胸ポケットにしまい込み、部屋から出ていってしまった。 一人、静まり返った生徒指導室に取り残された理人は、膝をついたまま呆然と立ち尽くす。
最悪だ。一体、どうしてこんなことに。 蓮との関係も、この本田との「契約」も、理人の人生を根底から汚していく。
目の前が深い闇に染まっていくのを感じながら、理人はしばらくの間、顔を拭うことさえ忘れ、その場を動くことができなかった。
一体なぜ、こんなことになってしまったのだろう。よりにもよって、あんな下衆に決定的な瞬間を撮られていたなんて。 あの日、何が何でも無理やり帰ればよかったのだ。欲望に負け、足元の泥濘(ぬかるみ)に気づかなかった自分が情けない。
あの写真には、自分だけでなく蓮も写っていた。ということは、蓮も自分と同じように本田から脅迫を受けるのだろうか。
(――いや、あいつに限って、そんな無様に屈することはないだろう)
それに、あいつを心配してやる義理などどこにもない。自分自身の身を案じるだけで手一杯なのだ。
ふらふらと当てもなく歩いていると、湿り気を帯びた夜風が肌を撫でていった。日中の残暑は依然として厳しいが、夜になればコオロギや鈴虫の大合唱が響き、季節が確実に秋へと歩みを進めていることを実感させられる。 理人は足を止め、都会の濁った空を見上げた。明るすぎる街の光に遮られて星は見えない。それでも、わずかに澄んだ空気が、穢された心と体を微かに浄化してくれるような気がした。
「――お兄さん!」
「え?」
聞き慣れた声に、反射的に顔を上げる。気づけば、いつもの公園に足が向いていた。薄暗い闇の中から、見覚えのある小さなシルエットがこちらに駆け寄ってくる。
「……秀一……」
「良かった。もう会えないかと思った」
安堵の表情を浮かべながら、秀一は申し訳なさそうに視線を伏せた。
「この間はごめんね。僕、楽しみにしてたんだけど……姉さんが怒っちゃって」
「気にするな。また今度連れて行ってやるから。そんなことより……」
「ん?」
あの日、理人たちと接触したことで、秀一が何か酷い仕打ちを受けてはいないか。それだけが気がかりだった。街灯の下で見る限り、怪我をしている様子は見受けられない。
「いや、いいんだ」
だが、本人に直接問いただすのは躊躇われた。もし彼が傷ついていたとして、今の自分に何ができるというのか。 理人が首を横に振ると、秀一は何かを察したように、ふわりと儚げな微笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ、お兄さん。お兄さんが心配してるようなことは、何もないから。ただ……」
そこまで言うと、秀一は少しだけ悲しげな顔をして俯いてしまった。 続きを促すように黙って待っていると、秀一は意を決したように顔を上げた。
「あのね、僕の両親……やっと離婚が決まったんだ」
「……そう、か」
あまりにも唐突な告白に、理人は言葉を失った。 秀一が置かれていた過酷な家庭環境を考えれば、それは「救い」と呼ぶべきものなのだろうか。複雑な心境を抱えながら、理人は静かに相槌を打つことしかできなかった。
「うん。それで……神奈川に引っ越すことになっちゃって」
「神奈川……」
同じ関東圏内とはいえ、容易に会える距離ではなくなる。 気がつけば側にいて、タコの遊具の下で密やかな時間を共有することも、もう叶わない。理人の胸に、不意に鋭いが突き刺さった。
「いつ、行くんだ?」
「……明日の早朝。だから、最後にどうしてもお兄さんに会いたかったんだ。本当に会えるとは思ってなかったんだけど……良かった、今日会えて」
秀一は寂しそうに笑うと、理人の腰にぎゅっと抱きついてきた。別れを惜しむように、その小さな腕に力がこもる。
「お、おい……」
「僕、お兄さんのこと……好きだよ。絶対に、忘れないから」
今にも消え入りそうな、けれど凛とした強さを持った声が、理人の耳に届いた。少し触れただけで泣き出してしまいそうな切ない響きに、胸が締め付けられる。 そろりとその背に腕を回すと、秀一はいっそう強く抱き締め返してきた。
「たく、苦しいっての……」
苦笑しながら腰を屈め、目線を合わせる。月光に照らされたその貌は、ぞっとするほど整っていた。この先、彼が成長した姿を想像せずにはいられない。
「元気でな」
伝えたい言葉は山ほどあった。けれど、今の理人の口から出せるのは、手垢のついたその一言だけだった。
「うん。大きくなったら、絶対にお兄さんに会いに行くから!」 「ああ。楽しみにしてる」 「だから……負けちゃだめだよ、お兄さん」
その言葉の真意を、すぐには理解できなかった。本田に屈したばかりの自分を見透かされたような気がして、理人は一瞬息を呑む。 だが、真っ直ぐに見つめてくる秀一の瞳に応えるように、理人は深く首肯した。
やがて、いつものように迎えに来た姉に促され、秀一は去っていった。 「神奈川……か。少し、遠いな」
夜の闇に吸い込まれていく小さな後ろ姿を見送りながら、理人はぽつりと呟いた。 願わくば、転校した先で彼が二度と辛い目に遭わないように。自分のような、汚れた大人たちの都合に振り回されないように――。 祈るような想いを胸に、理人は一人、静まり返った公園を後にした。
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