テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
り ~ り 。
346
るーなね
72,507
なんでも許せる人のみ、お読み下さい!!
章の題名などAI使用(なので作者も意味を理解してないです)
第1章はA組全員出てきます!
言葉の使い方、誤字脱字は見逃してください…!
第0章_心の傷を数える部屋
最終決戦が終結し、焦土と化した世界にようやく復興の兆しが見え始めた頃。雄英高校の一角に、異例の面々が集結していた。
元No.1ヒーローのオールマイト。引退を選択したが、いまだに重厚な存在感を放つエンデヴァー。公安のトップとして戦後処理に奔走するホークス。負傷を乗り越え前線を支えるベストジーニストにミルコ。そしてセメントス、エッジショット(現在は極小化しているが、会議には参加している)、ファットガムといったプロヒーローたち。さらに、次世代を担う「ビッグスリー」の通形ミリオ、天喰環、波動ねじれ。
彼らが集まった理由は一つ。A組全員を対象とした、戦後特別メンタル&フィジカルカウンセリング。
あまりにも過酷な地獄を潜り抜けた若きヒーローたちの「心と身体の綻び」を、大人の、そして先輩の総力を挙げて見つけ出し、救い上げるための極秘任務だった。
部屋の中央には、最新のバイタルモニターと、生徒を緊張させないための柔らかなソファ。
呼び出しのチャイムが鳴り、1人目の生徒がドアを叩いた。
第1章_A組の足跡
カウンセリングは厳かに、しかし温かく進められた。
質問のフォーマットは一貫して4つ。
「この戦いが終わってどうだったか」
「体になにか違和感はあるか、体は痛いか」
「現在のバイタルデータの開示と説明」
「今思っている、モヤモヤしていたり悲しかったりすることを打ち明けてほしい」
大人たちは全員で言葉を紡ぎ、子供たちの声を静かに受け止めていく。
青山優雅
「終わって、ホッとしました。でも、僕の犯した罪は消えない……」
フランス風の軽快さを意識しつつも、青山の瞳は揺れていた。お腹のレーザーの違和感を問われると、「少し疼くけれど、大丈夫さ」と微笑む。
ホークスが「バイタルは安定、内臓への負荷も許容範囲内だ」と数値を告げる。
最後の質問に、青山は涙を流した。
「みんなの優しさが、時々とても痛いんだ。でも、僕は前を向きたい」
オールマイトがその肩を優しく包み込んだ。
芦戸三奈
「勝てて本当に良かったよぉ! でも……怖かったぁ……!」
芦戸はソファに座るなり、感情を爆発させた。酸による皮膚への影響はほぼないが、精神的な疲労がバイタルにも表れており、心拍数がやや高めに出ている。
「バイタル、自律神経が少し乱れとるな。無理せんときや」とファットガムが諭す。
「あの時、もっと早く動けてたらって、何度も夢に見るの。それが悔しくて、悲しくて」
ねじれが彼女の隣に座り、そっと手を握りしめた。
蛙吹梅雨
「ケロ。終わって、みんなが生きていてくれて本当に嬉しいわ」
梅雨ちゃんはいつも通り冷静に、しかし深く安堵していた。舌や手足の筋肉に若干の疲労が残る。
セメントスが「バイタル良好。ただ、冷えによる体調不良に気をつけて」と数値を読み上げる。
「友達が傷つく姿を見るのは、もう嫌。心の中に、冷たい澱が溜まっているみたい」
ミリオが「その澱を少しずつ、一緒に溶かしていこう」と力強く頷いた。
飯田天哉
「委員長として、全員が無事に生還できたことに安堵しております!」
飯田は生真面目に四角いジェスチャーを交えて答えた。ふくらはぎのエンジンに過負荷による痛みが残る。
「バイタルは極めて健全。だが、エンジン周辺の神経が過敏になっている」とジーニストが数値を提示。
「私は、皆の足を引っ張っていなかっただろうか。もっと、救える手があったのではないかと、夜中に考えてしまうのです」
エンデヴァーが「お前のおかげで繋がった命がある。胸を張れ」と厳かに告げた。
麗日お茶子
「終わって……悲しいこともたくさんあったけど、私は、私の決めた道を全開で進みたいって思いました」
トガヒミコとの戦いを経た彼女の目は、どこか達観していた。個性過剰使用による一時的な平衡感覚のズレを認める。
ホークスが「バイタル、脳波ともに安定。少し睡眠不足気味かな」と数値を伝える。
「彼女のことを考えると、今でも胸が苦しくなります。これで良かったのかなって。でも、向き合ったことは後悔していません」
環が「君の優しさは、きっと間違いじゃない」と、壁に寄りかかりながら静かに全肯定した。
尾白猿尾
「大きな犠牲が出たけれど、平和が戻ってきて良かったと思います」
尾白は落ち着いて答えた。尻尾の筋肉の断裂痕が、天気の悪い日に痛むという。
セメントスが「バイタルは正常。筋肉のケアを怠らないように」と伝える。
「自分のような普通の個性が、あの戦場でどれだけ役に立てたのか。無力感を拭いきれない瞬間があります」
ミルコが「生き残ってここにいる! それだけで十分な強さだろ!」と笑い飛ばした。
上鳴電気
「いやー、マジで生きてて良かったっす! 終わった瞬間、腰抜けたもん」
いつもの調子で場を和ませる上鳴。しかし、体内の電気許容量を超えた反動で、時折指先が痺れる。
ファットガムが「バイタル、心電図ともに異常なし。ただ電気の使いすぎには注意やで」と告げる。
「実はさ、自分が前線でビビってた姿を思い出すと、なんか情けなくなっちゃって。皆かっこよかったからさ」
ミリオが「前線で踏みとどまった電気くんは、最高にかっこよかったよ!」と親指を立てた。
切島鋭児郎
「漢として、みんなと一緒に戦い抜けて誇りに思う!」
涙を浮かべながら熱く語る切島。硬化の限界突破による全身の関節痛が残っていた。
「バイタル、骨密度ともに極めて良好。だが靭帯への負荷が大きいな」とミルコが数値を指し示す。
「爆豪のことや、みんなのボロボロの姿を見て……俺がもっと漢になれてりゃ、あんな痛い思いさせずに済んだんじゃねぇかって、モヤモヤが消えねぇんだ」
オールマイトが「君の盾が、多くの命を救ったのだよ、切島少年」と微笑んだ。
口田甲司
「お、終わって……みんなとまた、おしゃべりできて、嬉しい、です……」
消え入りそうな声ながら、確かな意志を見せる口田。喉の酷使による痛みを隠さなかった。
セメントスが「バイタル正常。声帯の回復も順調です」と数値を告げる。
「戦いの中で、たくさんの生き物たちが傷つくのを見て、とても悲しかった……。夢に出てくるんです」
ねじれが「口田くんの優しい心が、動物たちを動かしたんだよ」と優しく声をかけた。
砂藤力道
「終わって、日常のありがたみが身に沁みてます」
砂藤は実感を込めて言った。糖分過剰摂取の反動による低血糖症のような倦怠感が時折ある。
ファットガムが「バイタル、血糖値コントロールともに問題なし。しっかり食うて戻そうな」と告げる。
「自分の個性が、もっと派手で強ければ、もっと早く敵を倒せたのかなって、お菓子を作りながら考えちゃうんです」
環が「君の砂糖菓子は……いつも僕たちを、精神的に救ってくれる」とボソリと言葉を添えた。
障子目蔵
「異形を巡る戦いも含め、終わったことは始まりに過ぎないと感じています」
障子は静かに、しかし重みのある口調で語った。複製腕の最大展開による神経痛が残る。
ジーニストが「バイタル、神経伝達速度ともに正常。負荷のコントロールが見事だ」と称賛。
「社会の根深い闇に触れ、これから自分たちが背負うものの大きさに、夜、少しだけ息が詰まることがあります」
エンデヴァーが「その重みを知る者が、真のトップヒーローになる」と前を見据えた。
耳郎響香
「終わって……また音楽ができる環境に戻れて、本当に感謝してます」
耳郎は、失われた片方のイヤホンジャックの名残に触れながら静かに笑った。耳の奥での残響音が今も消えない。
ホークスが「バイタル、聴力データともに現在の状態で安定。無理のない範囲で慣らしていこう」と告げる。
「片方の耳を失ったこと、後悔はしてない。でも、ときどき音が歪んで聞こえる時、あの大爆音の戦場を思い出して、足が震えちゃうんだよね」
プレゼントマイクが「その震えを、最高のビートに変えていこうぜ、耳郎!」と優しく、しかし熱く語りかけた。
瀬呂範太
「生還できて丸儲けって感じっす。マジでギリギリだったからなぁ」
瀬呂は首の後ろを掻きながら笑うが、肘の細胞が一部壊死しかけた痛みが残っている。
セメントスが「バイタル良好。肘の組織再生も順調です」と説明。
「あの極限状態の時、実は頭が真っ白になっててさ。ヒーロー失格なんじゃないかって、ちょっとモヤモヤしてるんだよね」
ミリオが「頭が真っ白になっても動けた身体が、君のヒーローとしての本能だよ!」と励ました。
常闇踏陰
「終焉の闇は去り、光が戻った。だが、心の中の深淵は未だ深く……」
常闇は腕を組み、厳粛に語る。ダークシャドウの暴走による精神的・肉体的疲労が色濃い。
「バイタルは問題ない。だが精神的負荷が脳波に出ているな」とホークスが先輩として数値を指摘。
「我が心の闇が、再び暴走し、世界を侵食するのではないかという恐怖が、夜半に私を襲うのだ」
エンデヴァーが「お前の闇は、世界を照らす盾となった。恐れるな」と背中を押した。
轟焦凍
「終わって……家族とも、ようやく一歩を踏み出せる気がしている」
轟の表情は、どこか晴れやかで、どこか切ない。氷結と熱炎の同時限界駆動による、皮膚の感覚麻痺が一部に残る。
「バイタルは安定しているが、体温調節機能に若干のズレがある。無理はするな」とエンデヴァーが父親として、そしてプロとして告げる。
「燈矢の最後の笑顔や、あの時の炎が、目を閉じると今でも鮮明に焼き付いている。俺は、もっとやれることがあったんじゃないかって、今でも胸が塞がる」
オールマイトが「君は彼に、確かに届いていたよ、轟少年」と静かに語りかけた。
葉隠透
「終わって、みんなの顔がちゃんと見られて、本当に嬉しい!」
透明化の個性を限界まで絞り出し、光の屈折で戦った彼女。全身の神経細胞にチクチクとした痛みが残る。
ジーニストが「バイタル正常。光の透過率も安定している」と伝える。
「私が透明だから、みんなの傷を代わりに受け止められなかったのかなって、ときどき悲しくなっちゃうの」
ねじれが「葉隠ちゃんの光が、みんなの行く道を照らしたんだよ!」と抱きしめた。
緑谷出久
「終わって……すべての個性が去って、寂しさもあるけれど、みんなが笑える世界になって、本当に良かったです」
デクは、傷だらけの両手を見つめながら語った。ワン・フォー・オールを失った身体は、急激な細胞の再構成による強烈な倦怠感と鈍痛に見舞われている。
「バイタルは……一般人のそれに戻りつつあるが、細胞の疲労度は全生徒中トップクラスだ」とホークスが神妙に数値を告げる。
「死柄木の中の、あの泣いている男の子のことが、今でも頭から離れません。僕は、彼を救えたんだろうかって、今でもモヤモヤして、涙が出そうになります」
オールマイトが「君は彼を、間違いなく救った。私が保証する、出久少年」と、その頭を優しく撫でた。
峰田実
「終わって……もう怖い思いしなくていいんだよな!? 嬉しいよぉ!」
大泣きする峰田。頭皮からのもぎりすぎによる慢性的な頭痛が続いている。
ファットガムが「バイタルは正常や。頭皮の炎症も薬で治るからな」と頭を撫でる。
「オイラ、あんなにビビりまくってたのに、なんでヒーローなんて目指してんだろって、ときどき自分が情けなくてさぁ……」
ミルコが「ビビりながらも前に出ただろ! それがヒーローの証拠だ、胸を張れ!」と背中を叩いた。
八百万百
「終わって……安堵と同時に、これからの復興への責任を感じております」
副委員長らしく凛とした態度。しかし、物質創造による急激な脂質減少に伴う、慢性的な目眩と関節の痛みを抱えていた。
ジーニストが「バイタル、栄養バランスともに低下気味だ。休息を最優先に」と数値を提示。
「創ることでしか貢献できなかった自分が、前線で傷つく仲間たちを前に、どれほど無力だったか。その悔しさが、今も胸を焦がすのです」
環が「君の創ったものが……すべての勝利の土台になった」と静かに語りかけた。
第2章_20人目
全てのクラスメイトの面談が終わり、部屋の空気が一変する。
重い足取りで、しかし不遜な態度を崩さずにドアを開けたのは、爆豪勝己だった。
彼の右袖は、痛々しく垂れ下がっている。
右目は薄いヴェールで覆われたように焦点が合いづらそうで、歩くたびに微かに胸をかばうような前傾姿勢になっていた。
ソファに深く腰掛け、少し俯いて、大人を見る。
その視線は大人たちを射抜くように鋭かったが、その実、限界まで張り詰められた糸のようでもあった。
質問1:「この戦いが終わってどうだったか」
オールマイトが、最も心を痛めていた教え子に、優しく問いかける。
「爆豪少年。この大戦が終わって、今、君はどう感じているかい」
爆豪は息を吐き、視線を右斜め下へと移動させる。
「……結果的に勝てたからいいんじゃない。それ以上も以下もねえよ」
その冷淡とも取れる言葉の裏に、どれだけの壮絶な覚悟が隠されているか、この場にいる全員が知っていた。
ミルコが痛ましそうに目を細め、エンデヴァーは何も言わずに爆豪の姿をじっと見つめる。
質問2:「なにか体に違和感はあるか、体は痛いか」
続いてベストジーニストが、彼の衣服の揺らぎから呼吸の浅さを察知し、問いを重ねる。
「爆豪。体になにか違和感はあるかい。どこか痛む場所は」
爆豪は答えなかった。
無言。
ただ、唇を固く結び、右手をわずかに動かそうとして、それをやめた。
痛みに鈍感なわけがない。だが、「痛い」と口にすることは、あの戦場での自分を、そして自分を繋ぎ止めてくれたエッジショットたちの選択を否定するような気がしていた。
質問3:現在のバイタルデータの開示
ホークスが、手元のホログラムモニターを起動する。そこには、赤く点滅する警告文字がいくつも並んでいた。
ホークスは努めて冷静に、しかし事実を突きつけるように数値を読み上げる。
「爆豪くん、これが君の今のバイタルだ。しっかり聞いておいてほしい」
画面には、不規則に乱れる心電図が映し出されていた。
「心臓、および肺の機能は、今なお『重症』の域を出ていない。エッジショットの外科縫合とジーニストの処置で形は保たれているが、組織の損傷は深く、常に細心の注意が必要だ」
「そして、右目の視力は著しく低下している。戦闘時の衝撃と神経への過負荷が原因だ」
「最後に……右腕の神経ネットワークだ。医者からも遠回しに言われているだろうけれど、『以前と完全に同じ状態まで治ることは、現代の医療では極めて困難』だというデータが出ている。爆破の反動に耐えうるだけの強度は、もう……」
「わかってる」
爆豪が、ホークスの言葉を遮るように短く言った。
その声は驚くほど冷えていて、震えていた。
わかっている。息をするだけで、胸の奥が灼けるように痛むことも。右目で捉える世界が、半分霞んでいることも。右腕が、自分の意志とは無関係に鉛のように重く、指先のリコイルを感じられないことも。
質問4:「今思っている、モヤモヤしていたり悲しかったりすることを打ち明けてほしい」
部屋が静まり返る。
オールマイトが、一歩前に出た。その瞳には、かつてのNo.1としての威厳ではなく、一人の教師としての、そして彼を息子のように想う大人としての深い慈愛が宿っていた。
「爆豪少年。君がどれほどのものを背負って戦ったか、私たちは知っている。だが、ここにいるのは君の味方だけだ。今、君の心の中にある……モヤモヤしていること、悲しいこと、苦しいこと。どんな小さなことでもいい、私たちに打ち明けてはくれないだろうか」
爆豪はしばらくの間、自分の膝を見つめていた。
部屋の空気の重さに、彼の心臓が、ドク、と不快な跳ね方をする。
(……はっ……)
一瞬、視界が暗転する。
目の前に、死柄木の巨大な手が迫る幻影が見えた。
耳の奥で、自分の心臓が止まった瞬間の、あの不気味な静寂が鳴り響く。
冷や汗が背中を伝う。パニックになりそうな理性を、左手の爪を手のひらにくい込ませることで強制的に繋ぎ止めた。
『寝たら、そのまま心臓が止まるんじゃないか』
ここ数週間、毎夜彼を襲う恐怖。ベッドに入り、目を閉じると、二度と目覚めないのではないかという終わりのない闇が彼を侵食する。結果として、まともな睡眠など取れていなかった。
今だって、呼吸をひとつするたびに、胸の奥でガラスの破片が暴れているような激痛が走っているのだ。
しかし、爆豪勝己は、そのすべてを、強靭なプライドという名の鎧で覆い隠した。
顔を上げ、大人たちをまっすぐに見据えて、彼は言い放った。
「……特にない」
その一言が、彼の限界の証だった。
第3章_大人の連携
「……そうか。分かった」
後ろに控えていた相澤消太が、静かに告げた。
爆豪はそれ以上何も言わず、ソファから立ち上がると、俯きながら足早に部屋を出て行った。ドアが閉まる音が、静かな部屋に響く。
目は見えなかった。
「……アイツ、完全に無理してやがんな」
ミルコが悔しそうに机を叩いた。
「バイタルを見ただろう。心拍数も呼吸数も、あの短い問答の中で異常な数値を叩き出していた。フラッシュバックを起こしかけていたね」とホークス。
「寝ていないのだろうな」
エンデヴァーが、自身の過去の経験を踏まえるように呟く。
「死の淵を覗いた者が、眠りを恐れるのは当然だ。ましてや、心臓を一度失いかけた身体だ……」
オールマイトは、爆豪が座っていたソファを見つめ、拳を強く握りしめていた。
「爆豪少年は、自分の弱みを人に見せることを良しとしない。だが、このままでは本当に彼の心身が崩壊してしまう」
ベストジーニストが、静かに立ち上がる。
「イレイザーヘッド。これからの彼のカリキュラムだが……」
「ああ、すでに手配してある」相澤が頷く。「明日からの実技演習は、すべて『爆豪専用の特別座学および戦術解析補習』に切り替える。A組の連中には、右腕のリハビリを兼ねた個別課題だと伝えておく。周囲に悟られず、彼を休ませる場所は俺が確保する」
「私も、彼の衣服の繊維を通じて、常にバイタルを遠隔で監視できるようサポートしよう」とジーニスト。
「ファットガム、お前は彼が食べやすい、かつ栄養価の高い差し入れを頼む」
「任せときや。あの子のプライドを守りながら、きっちり太らせてみせるわ」
部屋にいるプロヒーロー、そしてビッグスリーの面々が、それぞれの役割を確認し合う。
爆豪勝己は「特にない」と言った。
だからこそ、大人たちは、彼が何も言わなくてもすべてを受け止め、支えるための網の目を、裏で完璧に張り巡らせる。
彼が、再び本当の意味で前を向き、最高のヒーローとして羽ばたくその日まで、彼らの不器用で、しかし絶対的な庇護は続いていくのだった。
第4章_崩壊の足音
カウンセリングの部屋を出た爆豪は、重い足取りでA組の寮へと向かっていた。
(……はっ、……く、……)
息をするだけで、胸の奥が引き裂かれるように痛む。
ホークスに告げられたバイタルデータが、呪いのように頭の中でリフレインしていた。
『心臓、および肺の機能は、今なお重症』
『右腕は、以前と完全に同じ状態まで治ることは極めて困難』
(分かってんだよ……そんなこと、自分が一番……ッ!)
視界の右半分が、かすれた砂嵐のように霞んでいる。
寮の共有スペースに入ると、すでにカウンセリングを終えたA組の連中が、それぞれ安堵や疲労の表情を浮かべてソファに集まっていた。
「あ、爆豪くん! お疲れ様。カウンセリング、どうだった?」
麗日が心配そうに声をかける。その声に反応して、緑谷が、切島が、轟が、一斉に爆豪へと視線を向けた。
「……別に」
短くそれだけを返し、爆豪は誰とも目を合わせずにエレベーターへと向かう。
「おい、爆豪! 飯、ファットさんから美味い差し入れ届いてるぞ! 一緒に食おうぜ!」
切島が後ろから声をかけるが、それに応じる余裕すら今の彼にはなかった。
自室に戻り、鍵を閉めた瞬間、爆豪はその場にへたり込んだ。
限界だった。
胸元を掴み、狂ったように脈打つ心臓を押さえる。
「はっ、あ、……つ、……」
酸素が上手く吸えない。肺がまともに機能していない。
ベッドに倒れ込み、目を閉じようとしたその瞬間――頭の奥で、あの戦場の爆音と、死柄木の冷酷な瞳がフラッシュバックした。
『寝たら、止まる』
『目を閉じたら、二度と目覚めねえ』
その恐怖が引き金となり、心臓がドクンと大きく、不快な跳ね方をした。
凄まじい激痛が胸を貫く。
「……が、はっ……あ、……っ!」
声にならない悲鳴が漏れる。
冷や汗がシーツを濡らし、全身がガタガタと震え出す。右腕は鉛のように動かず、左手だけで必死に胸元を掻きむしった。
眠ることもできず、起き上がることすらできない地獄のような時間が、彼をじわじわと削っていった。
第5章_限界の糸、断絶
翌朝。A組の教室は、いつもと違う重苦しい空気に包まれていた。
教壇に立った相澤消太が、いつも通りの気怠げな声で告げる。
「昨日も伝えた通り、爆豪は今日から『個別カリキュラム』に伴う別室補習だ。右腕のリハビリと並行して、戦闘理論の再構築を行う。お前たちは余計な心配をせず、今日の演習に集中しろ」
緑谷は、その相澤の言葉に微かな違和感を覚えていた。
(リハビリ……? でも、かっちゃんの昨日の歩き方や呼吸は、そんな簡単なものじゃない気がする……)
切島もまた、昨夜まったく部屋から出てこず、飯も受け取らなかった爆豪の様子に、胸騒ぎを覚えていた。
その頃、校舎の最上階にある特別休養室。
ここは相澤が手配し、ベストジーニストがバックアップする、爆豪のための「隠れ家」だった。
部屋には大きなソファと医療用のモニターが備え付けられており、爆豪はそこに一人、座らされていた。
「ここで、今日の午後まで大人しく課題をこなせ。お前の分のレポートだ」
相澤はそう言って束の間の書類を机に置き、教室へと向かった。
一人きりになった部屋。
静寂が、逆に爆豪の神経を尖らせる。
「はっ、……く、……」
座っているだけでも、心臓が痛い。
息を吸うたびに、胸の奥を針で何度も刺されているような痛撃が走る。
机の上のペンを左手で握ろうとするが、指先が小刻みに震えて力が入らない。
(動け……動けよ、クソが……ッ!)
心の中でどれだけ叫んでも、身体は言うことを聞かなかった。
数日間の完全な不眠、フラッシュバックによる精神の摩耗、そして重症のままの心臓。
全ての限界が、同時に彼を襲った。
ドクン!!!!
突然、これまでにない規模の激痛が心臓を襲った。
完全に脈がバラバラになり、ドクドクと不規則に暴れ出す。
「――っ!? あ、……が、は、……ッ」
視界が急速に狭くなっていく。右目の霞が完全に真っ暗になり、左目の視界すらもぐにゃりと歪んだ。
頭から血の気が引いていくのが分かる。
(あ、……呼吸が、でき、ねえ……)
爆豪は机を支えようとしたが、力が入らない右腕は虚しく空を切り、そのまま上体が前に倒れ込んだ。
ガタァン!!!
激しい音を立てて、爆豪の身体が床へと崩れ落ちる。
床に投げ出された彼の顔面は、土気色を通り越して真っ白に変色していた。
浅く、速い、引き攣ったような呼吸。
左手が、自身の胸元を震えながら掴んでいる。
「…ぉ、……る、ま……」
薄れゆく意識の中で、彼が最後に求めたのは、かつて自分を救ってくれた、そして憧れ続けた背中だったのかもしれない。
だが、その言葉が紡ぎ切られる前に、爆豪の意識は深い闇の底へと沈み、左手から完全に力が抜けて床に落ちた。
第6章_大人のスクラム
その瞬間、職員室のベストジーニストの手元にある端末が、けたたましいアラート音を鳴り響かせた。
赤く点滅する『心肺停止危険シグナル』
「爆豪……!」
ジーニストは顔色を変え、すぐさま『個性』を発動して窓から飛び出した。
同時に、演習場にいた相澤のインカムにも、ホークスからの緊急連絡が入る。
『相澤さん! 爆豪くんのバイタルが完全にクラッシュした! 心停止の恐れがある、早く!!』
相澤は目の前にいたA組の生徒たちに背を向け、
「演習は一時中断! 各自、その場で待機しろ!」
とだけ言い残し、捕縛布を使って全速力で校舎へと跳んだ。
「え……!? 相澤先生!?」
緑谷が叫ぶが、相澤の背中はすでに遠くへ消えていた。
「おい、今の焦り方……ただ事じゃねえぞ!」切島が顔を強張らせる。
「爆豪くんの部屋の方だわ……!」麗日の言葉に、A組の全員が、言い知れぬ恐怖に包まれた。
特別休養室のドアを、ジーニストが繊維の力でこじ開ける。
「爆豪!!」
床に倒れ伏し、ピクリとも動かない爆豪の姿がそこにあった。
呼吸は止まりかけており、脈は微弱で、今にも消え入りそうだった。
「リカバリーガールへ連絡を! 心臓の微細縫合が外れかけている可能性がある!」
ジーニストがすぐさま爆豪の服の繊維を操り、心臓への圧迫を外から物理的に補助する。
遅れて飛び込んできた相澤が、爆豪の身体を抱き起こした。
「爆豪! 爆豪、しっかりしろ!!」
相澤の叫び声が響くが、爆豪の首は力なく後ろへ傾いたままだ。髪で、目が見えない。
そこに、オールマイトとセメントス、そして医療班がストレッチャーを持って雪崩れ込んでくる。
「爆豪少年……! ここまで無理を……!」
オールマイトの顔が、悲痛に歪む。
「今すぐ集中治療室へ運ぶ! ジーニスト、衣服の補助を緩めるな! 相澤、AEDの準備を!」
大人たちが、持てる全ての力を尽くして、倒れた少年の命を繋ぎ止めるために動き出す。
誰もが心の中で、あの最悪の戦場の光景を思い出していた。
二度と、この少年を死なせるわけにはいかない。大人たちの、プロたちの、血を吐くような連携が、再び始まった。
第7章_融解する鎧
集中治療室の無機質な機械音が、規則正しく室内に響いていた。
リカバリーガールの迅速な処置と、エッジショットから引き継いだジーニストの精密な繊維縫合により、爆豪の心臓は再び、辛うじてその形を維持し、脈を刻み始めていた。
倒れてから丸一日。
夕暮れの赤い光が差し込む病室で、爆豪はゆっくりと目を覚ました。
「……あ、……」
視界の半分はやはり霞んでいる。
残された左の視界に映ったのは、ベッドの左右に佇む相澤消太とオールマイトの姿だった。
彼らの顔には、色濃い疲労と、それ以上の深い安堵が浮かんでいる。
自分の鼻に宛てがわれた酸素マスク。腕に繋がれた何本もの点滴。
それらを目にした瞬間、爆豪の瞳に、強烈な自己嫌悪の色が走った。
「……せんせ、い……」
酸素マスクのせいで、掠れた声が上手く響かない。
爆豪は点滴の繋がれた左手でマスクを外そうとしたが、相澤がその手を静かに制した。
「外すな。まだお前の心臓は、自分で十分に酸素を取り込める状態じゃない」
「……、……なんで、ここに、いんだよ……。俺は、別に、なんとも、ねえ……」
まだ強がろうとする。
マスクを外せなかった代わりに、上半身だけ起こす。
動かない右腕、息を吸うたびに走る胸の激痛を必死に無視して、爆豪は大人たちを睨みつけようとした。
だが、その声は小さく震え、言葉とは裏腹に全身が微かに強張っている。
「……また、……迷惑、かけた。……こんな、クソみたいな身体……いらな」
自分の弱さが許せなかった。
大人たちの手を煩わせ、特別扱いをされ、挙句の果てに自滅して倒れた。
その事実が、彼の誇りを内側からズタズタに切り裂いていく。
弱みを見せたくないのに、見せるどころか、完全に醜態を晒してしまった。自分への嫌悪感で、胸の痛みがさらに増していく。
こんな身体なんて、いらない。
そう言いかけたとき、食い気味に言われた。
「爆豪少年」
オールマイトが、静かにベッドの傍らへ一歩近づいた。
その衰えた、しかし限りなく温かい手が、爆豪の細くなった肩に触れる。
本当は、
「……触ん、な……。俺は、大丈夫、だ……。これくらい、すぐ、戻る……!」
違う、本当は、
爆豪は顔を背け、なおも突き放そうとした。
しかし、オールマイトは拒まなかった。
それどころか、拒絶する爆豪の身体を、壊れ物を扱うかのような優しさで、しかし決して離さない強さで、そっと抱きしめた。
「……っ、おい、……離せ、よ……!」
違うんだよ、本当は、最初から
「もういいんだ、爆豪少年。もう、いいんだ」
オールマイトの低い声が、爆豪の耳元で響く。
抵抗していた左手から力が抜ける。
「君は、誰よりも強くあろうとした。そのために、どれほどの恐怖と戦ってきたか。夜、目を閉じるのが怖かったのだろう? 心臓が止まるかもしれないと、一人で怯えていたのだろう?」
その言葉が、爆豪が必死に鍵をかけて閉じ込めていた心の奥底に、真っ直ぐに届いてしまった。
抵抗していた手が完全に止まる。
「私たちは君の教師だ。そして、君を救いたいと願う大人だ。君がどれだけ強がろうと、私たちは君の痛みに気づく。君が流さない涙を、私たちが代わりに流したいとすら思う。……だから、もう背負い込まないでくれ。ここでは、ただの『生徒』に戻って欲しい。」
抱きしめられた温もり。
そして、自分の恐怖をすべて見抜かれていたという事実。
爆豪の身体から、急激に力が抜けていった。
そうだ、本当は、最初から、
「……っ、……、……」
爆豪の顔は、ほとんど無表情のままだった。
感情を爆発させて叫ぶことも、顔を歪めて号泣することもしない。
ただ、大きく見開かれた両目から、大粒の涙が、堰を切ったように次から次へと溢れ出してきた。
「……、…、……」
声を出すことすら自分に許さないかのように、彼は喉の奥を鳴らし、ひどく苦しそうに、押し殺した呼吸の音だけを響かせる。
抵抗していた手をゆっくり下ろす。
右腕は動かない。だから、動く左手の甲を目の前に押し当て、溢れる涙を、乱暴に、何度も何度も強く擦りつけた。
擦っても、擦っても、涙は止まらない。
目の周りが赤くなるほど激しく拳で目を擦りながら、爆豪はただ、静かに、そして誰よりも深く、傷ついた心を解いていった。
相澤は何も言わず、ただその光景を静かに見守りながら、爆豪の背中を、大きな手でゆっくりと、一定の消え入るようなリズムで叩き続けた。
沈む夕日の光の中で、少年の不器用な鎧が、ようやく剥がれ落ちた瞬間だった。
デクと喧嘩した日、オールマイトに抱きしめられた日。
振り払ってしまったその手は、暖かかった。
本当は、抱き締められたかったんだよなぁ
第8章_大人の包囲網と、小さな返答
ICUでの涙の夜から数日後。爆豪は一般の特別療養室へと移されていた。
心臓の容態はひとまず落ち着いたものの、相澤やベストジーニストをはじめとするプロヒーローたちの「警戒レベル」は最大に引き上げられていた。
ある日の午後。リハビリという名目で集められた部屋には、相澤、ジーニスト、ホークス、そしてミルコが腕を組んで待ち構えていた。
逃げ場のない、プロヒーローたちによる「完全なるメンタル&フィジカル包囲網」である。
ベッドの上に腰掛けた爆豪は、いつもなら「なんだよテメェら!」と噛みつくところだが、己の限界を晒して泣いてしまった気まずさと、これ以上嘘が通用しない諦めから、完全に毒気を抜かれていた。
「――よし、爆豪くん。カウンセリングの続き、というか本番を始めようか」
ホークスがノート端末を開きながら、柔らかく、しかし有無を言わせないトーンで切り出した。
「まずは睡眠。一昨日の夜、寝る前にまた動悸がしたって看護師から報告が上がってる。また『目が覚めないかもしれない』って考えて、限界まで起きてたでしょ」
ホークスに真っ直ぐ見つめられ、爆豪は視線を斜め下に逸らした。いつもの尖った言葉が出てこない。
「……えー、、……」
「『えー』じゃねぇ。図星だなァ?」
すかさずミルコが身を乗り出す。
「テメェなぁ、痛いなら痛い、怖いなら怖いって、なんで最初から言わないんだよ。 アタシたちがそんなに頼りないか?」
「いや…………」
爆豪は視線をさらに落とし、小さく声を漏らすことしかできない。
すかさずジーニストが、爆豪の首元を覆う医療用衣類の繊維をそっと整えながら、静かに、しかし核心を突く質問を重ねる。
「爆豪。息をする時の胸の痛みだが、今はどうだい。衣服の圧迫を調整しているが、まだ針で刺されるような激痛が走る瞬間があるね?」
プロの観察眼からは、呼吸がわずかに浅くなる一瞬すら隠せなかった。問い詰められた爆豪は、唇を少し尖らせて、子供が白状を躊躇うようなトーンで呟いた。
「……うん、……」
「やはりね。肺の組織が完全に定着するまでは、呼吸の深さも制限しなければならない。痛みを隠して普通に呼吸しようとするから、心臓に余計な負荷がかかるんだ」
「それから、右腕のリハビリだ」
最後に相澤が、一歩前に出て爆豪の前に影を落とした。その鋭い眼光に、爆豪は思わず肩を小さく竦める。
「指先の感覚を確かめる時、お前、わざと俺たちの見ていない時間を選んでやってるな。変化がないことに焦って、夜中に一人で無理に動かそうとした形跡がある。……違うか?」
完全にすべての行動パターンを読まれていた。
かつてないほど大人たちに全方位から詰められ、一切の言い訳を封じられた爆豪は、消え入りそうな声で答えた。
「……あぁ、……」
「これからは、リハビリのメニューはすべて俺かジーニストが立ち会う。一人での『自主トレ』は一切禁止だ。破ったら即座に寮への帰還を無期限延期にする」
相澤の冷徹な宣告に、爆豪は今度こそ完全に観念したように、小さく頭を垂れた。
「……分かった、よ……」
いつもなら「クソ」だの何だのと吠える少年が、借りてきた猫のように素直に、短い返事しかできなくなっている。
その姿は、痛々しくもあり、同時にようやく大人を頼ることを覚え始めた「等身大の16歳の少年」の姿でもあった。
「よし、素直でよろしい。じゃあまずは、ファットガム特製の消化にいい特製スープを全部飲むことから始めようか」
ホークスが笑いながら、温かいトレイを机に置く。
爆豪は左手でスプーンを握り、大人たちの暖かい視線に晒されながら、静かにスープを口へと運ぶのだった。
おわり
個人的には第0章と第1章が好きです。
コメント
1件
読み終わりました……。一気に引き込まれました。特に爆豪くんの「特にない」に込められた苦しみと、それを見抜いて裏で支えようとする大人たちの連携が切なくて胸が締め付けられました。最後にオールマイトに抱きしめられて、初めて涙を流すシーン、本当に救われた気持ちになりました。怪我の描写やバイタルデータのリアルさが、戦争の爪痕を痛いほど伝えてきますね。続きが気になります…!🌷