テラーノベル
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——数日前。
屯所の一室。
空気は張りつめているはずなのに、どこか騒がしい。
「何? 高杉が?」
近藤の言葉に、土方は煙草を一度大きく吸い、ゆっくりと吐いた。
「ああ。間違いねぇ。
監察から入った確かな情報だ」
「あの高杉が…また江戸に」
重たい沈黙が落ちかけた、そのとき。
「高杉かぁ」
沖田がどこか楽しそうに口を挟む。
「確か前回は、見事にやられやしたね」
ぴくり、と土方のこめかみが動く。
次の瞬間、勢いよく沖田へ振り返った。
「お前がなっがい便所に行ってたせいでな!!」
「あれ?」
沖田はアイマスクを掴みわざとらしく考える。
「おかしいな…
その論法で行くと、真面目に働いてたどこぞのマヨラーは、俺以上に無能ってことになりやせんか?」
——チャキ。
土方の刀が一瞬で抜かれる。
「んだとゴラァァァァ!!」
振り下ろされた刃を沖田は軽々とかわし、そのまま後ろへ跳ぶ。
同時に、どこからともなくバズーカを構えた。
「土方さん、落ち着いてください。無能の働き者土方さん 」
阿耶が真顔で追い打ちをかける。
「てめぇら揃って喧嘩売ってんのか!!」
「トシ、やめとけ」
近藤の一言で、二人は渋々武器を下ろす。
阿耶は軽く肩をすくめ、表情を切り替えた。
「——攘夷浪士の中で、最も過激で危険な男。高杉晋助」
空気が、すっと引き締まる。
「噂では、人斬り似蔵らを中心に、
あの“鬼兵隊”を復活させたらしいです」
「最近、辻斬りが横行している件も……」
阿耶は視線を落とし、続ける。
「似蔵の仕業で、まず間違いないでしょう」
「だが、今更そんなものを作って……」
近藤の疑問に、土方が答える。
「恐らく、強力な武装集団を作り、
クーデターを起こすのが奴の狙いだ」
そして、はっきりと言い切った。
「近藤さん。ヤツは危険だ」
「……分かった」
近藤は頷く。
「トシ。奴らの情報収集に全力を尽くしてくれ」
「了解だ」
土方が答えた、その直後。
「それから近藤さん」
「素振りは……全裸でなくてもいいんじゃねぇか」
近藤が素振りをする横で、阿耶が声を上げる。
「目のやり場に困ります」
——そのとき。
廊下の奥から、慌ただしい足音が響いた。
「た、大変です!!」
山崎が息を切らして勢いよく飛び込んでくる。
「また……辻斬りが出たそうです!!」
一瞬で、空気が変わった。
さっきまでの騒がしさが、嘘のように消える。
近藤と土方の表情が引き締まり
沖田も、さっきまでの軽さを失っていた。
阿耶は、何も言わずに視線を伏せる。
張り詰めた沈黙の中で、
ただ一つ、確かなものがあった。
その事実だけが、部屋に重く残った。
_______。
——そこで意識が浮上した。
最初に感じたのは、鼻をつく薬草と煙草の匂い。
次に、天井の木目がゆっくりと視界に滲んだ。
「……」
声を出そうとしてみるが、喉がひくりと鳴るだけで終わる。
身体を動かそうとすると、腹の奥に鈍い重さが走った。
(……屯所……?)
見慣れた梁。
障子越しの灯り。
確かめるように息を吸うと、胸がわずかに上下した。
「目ェ 覚めたか」
低い声が聞こえた。
視線を向けると、部屋の隅に立つ影。
土方だった。腕を組み、いつものしかめ面でこちらを見下ろしている。
「……無事とは言えねぇな」
ぶっきらぼうな言い方とは裏腹に、その声はどこか張り詰めていた。
阿耶は小さく息を吐く。
(……戻れた、か)
腹部に残る違和感が現実をはっきりと告げていた。
無茶をした記憶も、途切れ途切れに蘇る。
屯所は静かだった。
阿耶は天井を見つめたまま、ゆっくりと目を閉じる。
少し経った後
障子がきぃ、と小さく鳴った。
「おやおや」
ひょい、と顔を出したのは沖田だった。
「ずいぶん派手にやられやしたねェ。
川に飛び込むなんて、入隊試験にありましたっけ?」
阿耶は、視線だけを向ける。
「……死ぬかと思いました」
「はは。元気そうで何よりでさァ」
軽い調子だったがその目は、はっきりとこちらを見ていた。
冗談で誤魔化しているだけだとすぐに分かる。
阿耶はゆっくりと息を整える。
「沖田、隊長」
「?」
「……アイツが、使っていた刀は……」
空気が一段、低くなる。
「普通の刀じゃない」
その言葉に、沖田の表情が変わった。
阿耶は思い出すように天井を見つめた。
「斬られた感覚が、違った。
まるで……生き物みたいだった」
「間違いない…あれは_。」
部屋の中がしんと静まり返る。
「しばらくは大人しくしてな」
そう言い残し、沖田は障子を開けた。
「——ここからは、俺たちの仕事でさァ」
戸が閉まる音がやけに重く響いた 。
残された部屋に再び静寂が戻る。
土方も戸を開け、虚ろな目をした阿耶に言う。
「ガキが1人隊士の所へ助けを求めに来た」
「お姉ちゃんを助けてってな」
阿耶は、腹の奥に残る鈍い重さを感じながら、目を閉じた。
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新きら(銀魂)
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