テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#銀魂夢小説
AOTYA
104
814
94
——数日前。
屯所の一室。
空気は張りつめているはずなのに、どこか騒がしい。
「何? 高杉が?」
近藤の言葉に、土方は煙草を一度大きく吸い、ゆっくりと吐いた。
「ああ。間違いねぇ。
監察から入った確かな情報だ」
「あの高杉が…また江戸に」
重たい沈黙が落ちかけた、そのとき。
「高杉かぁ」
沖田がどこか楽しそうに口を挟む。
「確か前回は、見事にやられやしたね」
ぴくり、と土方のこめかみが動く。
次の瞬間、勢いよく沖田へ振り返った。
「お前がなっがい便所に行ってたせいでな!!」
「あれ?」
沖田はアイマスクを掴みわざとらしく考える。
「おかしいな…
その論法で行くと、真面目に働いてたどこぞのマヨラーは、俺以上に無能ってことになりやせんか?」
——チャキ。
土方の刀が一瞬で抜かれる。
「んだとゴラァァァァ!!」
振り下ろされた刃を沖田は軽々とかわし、そのまま後ろへ跳ぶ。
同時に、どこからともなくバズーカを構えた。
「土方さん、落ち着いてください。無能の働き者土方さん 」
阿耶が真顔で追い打ちをかける。
「てめぇら揃って喧嘩売ってんのか!!」
「トシ、やめとけ」
近藤の一言で、二人は渋々武器を下ろす。
阿耶は軽く肩をすくめ、表情を切り替えた。
「——攘夷浪士の中で、最も過激で危険な男。高杉晋助」
空気が、すっと引き締まる。
「噂では、人斬り似蔵らを中心に、
あの“鬼兵隊”を復活させたらしいです」
「最近、辻斬りが横行している件も……」
阿耶は視線を落とし、続ける。
「似蔵の仕業で、まず間違いないでしょう」
「だが、今更そんなものを作って……」
近藤の疑問に、土方が答える。
「恐らく、強力な武装集団を作り、
クーデターを起こすのが奴の狙いだ」
そして、はっきりと言い切った。
「近藤さん。ヤツは危険だ」
「……分かった」
近藤は頷く。
「トシ。奴らの情報収集に全力を尽くしてくれ」
「了解だ」
土方が答えた、その直後。
「それから近藤さん」
「素振りは……全裸でなくてもいいんじゃねぇか」
近藤が素振りをする横で、阿耶が声を上げる。
「目のやり場に困ります」
——そのとき。
廊下の奥から、慌ただしい足音が響いた。
「た、大変です!!」
山崎が息を切らして勢いよく飛び込んでくる。
「また……辻斬りが出たそうです!!」
一瞬で、空気が変わった。
さっきまでの騒がしさが、嘘のように消える。
近藤と土方の表情が引き締まり
沖田も、さっきまでの軽さを失っていた。
阿耶は、何も言わずに視線を伏せる。
張り詰めた沈黙の中で、
ただ一つ、確かなものがあった。
その事実だけが、部屋に重く残った。
_______。
——そこで意識が浮上した。
最初に感じたのは、鼻をつく薬草と煙草の匂い。
次に、天井の木目がゆっくりと視界に滲んだ。
「……」
声を出そうとしてみるが、喉がひくりと鳴るだけで終わる。
身体を動かそうとすると、腹の奥に鈍い重さが走った。
(……屯所……?)
見慣れた梁。
障子越しの灯り。
確かめるように息を吸うと、胸がわずかに上下した。
「目ェ 覚めたか」
低い声が聞こえた。
視線を向けると、部屋の隅に立つ影。
土方だった。腕を組み、いつものしかめ面でこちらを見下ろしている。
「……無事とは言えねぇな」
ぶっきらぼうな言い方とは裏腹に、その声はどこか張り詰めていた。
阿耶は小さく息を吐く。
(……戻れた、か)
腹部に残る違和感が現実をはっきりと告げていた。
無茶をした記憶も、途切れ途切れに蘇る。
屯所は静かだった。
阿耶は天井を見つめたまま、ゆっくりと目を閉じる。
少し経った後
障子がきぃ、と小さく鳴った。
「おやおや」
ひょい、と顔を出したのは沖田だった。
「ずいぶん派手にやられやしたねェ。
川に飛び込むなんて、入隊試験にありましたっけ?」
阿耶は、視線だけを向ける。
「……死ぬかと思いました」
「はは。元気そうで何よりでさァ」
軽い調子だったがその目は、はっきりとこちらを見ていた。
冗談で誤魔化しているだけだとすぐに分かる。
阿耶はゆっくりと息を整える。
「沖田、隊長」
「?」
「……アイツが、使っていた刀は……」
空気が一段、低くなる。
「普通の刀じゃない」
その言葉に、沖田の表情が変わった。
阿耶は思い出すように天井を見つめた。
「斬られた感覚が、違った。
まるで……生き物みたいだった」
「間違いない…あれは_。」
部屋の中がしんと静まり返る。
「しばらくは大人しくしてな」
そう言い残し、沖田は障子を開けた。
「——ここからは、俺たちの仕事でさァ」
戸が閉まる音がやけに重く響いた 。
残された部屋に再び静寂が戻る。
土方も戸を開け、虚ろな目をした阿耶に言う。
「ガキが1人隊士の所へ助けを求めに来た」
「お姉ちゃんを助けてってな」
阿耶は、腹の奥に残る鈍い重さを感じながら、目を閉じた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!