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ある日の午後、ひまなつ先生のクラスとこさめ先生のクラスは合同で家庭科の授業を受けることになった。
テーマは「お弁当作り」
教室にはにぎやかな声と、食材の香りが漂っている。
「みんな、今日は楽しんで作れよ~」
ひまなつ先生は、柔らかい笑顔でクラスを見渡す。
料理の手際が良い生徒を見つけると、ふと口を滑らせる。
「おぉ、上手だな~。良い嫁になるんじゃない?」
普段の穏やかさの中に、ちょっとした甘さが混ざった言葉。
生徒たちは一瞬息をのむと、顔を赤くして嬉しそうに笑った。
私たちの班が作ったおかずを見せると、ひまなつ先生はにこやかに言う。
「上手上手。みんなの心がこもってるの、楽しみだな~」
その優しさに、班の生徒たちは思わず笑顔を弾けさせる。
どこか面白そうに、でも心から楽しそうに食べてくれるひまなつ先生の姿は、生徒だけでなく私の目にも柔らかく映った。
しかしその様子を見て、少し面白くない顔をしている人物がいた。
それは、こさめ先生だった。
こさめ先生は、元気かと思えば人見知りなのか大人しくて真面目な数学教師。
しかし料理に関しては壊滅的で、おにぎりすら上手に握れないと自嘲するほどだ。
男子生徒がこさめ先生に近づき、一緒に作ったおかずを食べようと誘う。
「先生も一緒に食べよ!」
男子生徒の笑顔に、こさめ先生は少し戸惑いながらも微笑む。
「え、あ、ありがとう。じゃあ、いただきます」
ぎこちなく箸を持ちながらも、笑顔を見せるこさめ先生。
普段の冷静な印象とは違う、ほんの少し照れた様子がクラス全体の空気を和ませた。
授業が終わる頃には、ひまなつ先生もこさめ先生も、笑顔で教室を後にしていた。
互いに距離は近く、まるで自然なペアのように、生徒たちの間でもすでに“仲良しの先生”として存在感を放っている。
私は少し離れた場所でその光景を見守りながら、心の中で思った。
(……ひまなつ先生も、こさめ先生も、やっぱり優しいな…… こうして見てるだけでも、ほっこりする)
夕陽が教室に差し込む中、二人の笑顔は柔らかく輝き、合同授業の賑やかさをより温かく包み込んでいた。
放課後の家庭科室。
片付けもだいたい終わり、夕日がオレンジ色に机を照らしている。湯気の残る鍋やまな板の匂いが、今日の授業の名残をふわりと漂わせていた。
こさめ先生は、片付けの手を止めたまま、ぽつんと俯いていた。
その気配を後ろからそっと覗き込むように、ひまなつ先生が近づく。
「……なーに拗ねてんの?」
からかうような声で言いながら、そのまま腰に手を回し、ゆるく抱き寄せる。
突然の温もりに、こさめ先生の肩がびくっと揺れた。
「べ、別に……拗ねてない……」
「嘘。めっちゃ顔に書いてある」
ひまなつ先生は耳元に唇を寄せ、くすぐるような息を落とす。
「……料理下手でごめん、とか思ってんでしょ?」
図星を突かれ、こさめ先生は唇をきゅっと結んだ。
返事ができないまま、胸の奥がじわっと熱くなる。
ひまなつ先生は、そんなこさめ先生の顎先をそっと指で持ち上げ、優しく笑った。
「苦手でもさ。前に俺のために一生懸命おにぎり握ってくれただろ? あれ、めちゃくちゃ嬉しかったんだけど?」
低く甘い声が耳に落ち、こさめ先生は思わず目を見開いた。
「……ほんとに?」
「ほんと。形いびつでも崩れかけでも、こさめが作ってくれたってだけで、俺はぜんっぜん満点」
そんなふうに微笑まれたら、もう反論なんてできない。
胸の奥につかえていた不安が、ふわふわ溶けて消えていく。
「……なつ、先生」
名前を呼ぶ声が震え、次の瞬間、こさめ先生はぎゅっとひまなつ先生の胸にしがみついた。
ひまなつ先生も、優しく背中を抱き寄せる。
「よしよし。……俺のこと、そんなに想ってくれてありがとな」
夕日の差し込む家庭科室で、二人はしばらくそのまま、静かに抱き合った。
コメント
1件
ああ、この2人にしかだせない甘さがよい