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ー翌朝。
「ねぇ、何でお前人のベッドで寝てるの」
如何にも不機嫌そうなディオンの声で、リディアは目を覚ました。
「もしかして……夜這い?」
「そんな事、ある訳ないでしょうが!」
どうやら昨夜の事はすっかり忘れている様だ。こっちは被害者なのに、逆に疑われていて朝から腹が立つ。
「ふ~ん、そうなんだ」
急につまらなそうな態度になり、興味が失せたのかディオンは欠伸をすると、またベッドに転がった。その姿にリディアは脱力する。本当に勝手な奴だ。
「ねぇ……本当に、覚えてないの?」
「何がだよ。と言うかさ、俺もう一度寝るからさっさと出て行ってよ」
有無を言わせず追い出そうとする兄にリディアは腹は立つが、ため息一つ吐いて締め部屋を後にした。部屋から出る際に振り返り立ち止まるとベッドを見る。兄はこちらに背を向けもう寝息を立て始めていた。
(やっぱり、腹立つ)
「全く、うちの兄ったら信じられないでしょう?」
「ふふ」
「笑い事じゃないのに……」
「ふふ、ごめんなさい。でも、リディアちゃんもっと落ち込んでいると思っていたから、元気そうで良かった」
リディアが今いる場所は、エルディー公爵家の屋敷だ。そして目の前に座っている彼女は友人であるシルヴィ・エルディー公爵令嬢だ。彼女とは知り合って数年だが、親友と言ってもいい位に仲がいい。
よく二人でこうやってお茶をしている。だが婚約してからの半年程は会う事すら出来なかったので、今日は久しぶりのお茶会だった。
「婚約破棄されたって聞いた時は、本当に心配で……」
シルヴィは眉根を寄せ言葉を詰まらせる。余程心配を掛けてしまっていた様だ。リディアは申し訳なさで胸がいっぱいになる。
「まあ、私もまさかあんな風に婚約破棄されるなんて思っていなかったから、落ち込む……というよりも正直驚いたわ。一目惚れしたって言われて、したくもない婚約をさせられて、しかも強引に別邸で暮らす様にと言われたから行ったのに……。なのに相手はひと月もしないで全く帰って来ないし。かと思ったら浮気相手の屋敷で一緒に仲良く暮らしていて、終いには浮気相手を連れてきて逆ギレされて婚約破棄よ? 本当、笑っちゃう」
リディアは淡々と事の顛末を語った。最早リディアの中では過去の話であり、笑い話と変わらない。
「……何だか、情報量が多すぎて直ぐには処理しきれないわ……。こんな事言ったら不謹慎かも知れないけど……リディアちゃんのお兄様はリディアちゃんが帰って来てくれて喜んでるのね」
意外な事を言われてリディアは呆然とした。あの兄が出戻りした妹を喜んでいる?そんな事、天地がひっくり返ったとしても考えられない。昨夜は大した事は言われずに済んだが、多分内心リディアを莫迦にして見下しているに違いない!と思う。
「それは絶対ないから!……昨日は一応気を使ってくれてたみたいだけど……嫁の貰い手がなくなったね、って莫迦にされたのよ! こっちは被害者なのに……本当、無神経よ」
「あら、ですって。朗報じゃない、兄さん?」
シルヴィが愉しそうに笑いながら、後ろを顔だけで振り返った。するとそこには、二人の青年が立っていた。