コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
あれから数分後、筆記試験が始まり、俺は特に遠慮することも無く全ての回答欄に正解の答えを埋めて終わった。別に全国模試でもないので、自重する必要はなかった。
「皆様、これから行われる実技試験では特殊狩猟者として魔物を討伐することが可能な実力があるかどうかを審査します。こちらでは武器の使用は勿論、魔術やその他特殊な技能の使用も許可されます」
広い体育館のような空間には五十人程の受験者が並んでいた。他にも十数人、スーツを着た大人が立っている。その内の何人かは紙の乗ったボードにペンを持っているので俺たちの実技を記録、若しくは審査する役割を持っているのだろう。
「最初の試験として、実戦形式に近い内容としてゴーレム獣型、ゴーレム人型、最後に試験官との模擬戦闘を行っていただきます。当然、殺傷や致命傷を負うことがあれば賠償責任が生じる場合がありますが、軽傷の範囲であれば問題はありません。が、ゴーレムとの戦闘における負傷は完全な自己責任となりますので、無理はせずに危険を感じたら直ぐに降参して下さい。試験官との模擬戦闘に関しては自身の技能に関するアピールが可能な場合もありますので、事前の申し出がありましたら戦闘開始前に試験官にお伝え下さい。また、こちらの試験によって特別好成績を示した方は筆記試験で及第点を逃した場合であっても特別指導を行うことで特殊狩猟者の免許を得られることがあります。更に、同じようにこの後の聴力検査や視力検査において基準を下回っていた場合でも特別に合格を認められる可能性があります」
なるほどな。どんだけバカで筆記試験が終わっていても実技試験で実力を見せればその後に特別指導を行うことで合格にするって話か。その後に筆記試験を再度行うとは言わないってことは特別指導を受けた時点で合格決定なんだろう。そんな試験自体を否定するような制度があるなんて、よっぽど人材が枯渇しているのか?
「それでは、受験番号一番」
番号を呼ばれた男が線で区切られたフィールドに入ると、そのフィールドが僅かに上昇する。更に、フィールドの中心に穴が開き、幾つかの武器が浮き上がってくる。魔術による仕掛けのようだが、この仕掛けは本当に要るのか?
「持ち込みの武器が無い場合は気に入った武器を一つ手に取り、合図があるまでそちらの白い円の内側で待機してください。但し、特別性の高すぎる持ち込み武器を使用される場合、採点に影響がある場合があります」
まぁ、魔剣や聖剣を振り回してもしょうがないしな。
「戦闘が始まるとゴーレムの破壊か降参、どちらかが無ければ結界が開くことはありません。結界が展開されている間は中から外に出ることは出来ません」
受験番号一番、推定三十代前半くらいの男は緊張の表情を浮かべながらも頷いた。武器はスタンダードな剣を取ったようだった。
「それでは、準備はよろしいですか?」
「……はい」
男が頷く。すると、フィールドの端から白いドーム型の結界が展開された。もう直ぐ始まるのだろう。男の表情には、僅かに怯えが見える。今頃、後悔しているのだろうか。自ら命を賭けて金を稼ぐ最低な職業に足を踏み入れたことに。
『カウントを始めます。戦闘開始まで十、九、八……』
結界の内側から声がする。機械によって再生されている声だ。いきなりファンタジーから現代に引き戻された感じがする。
『三、二、一、戦闘開始』
冷たいシステム音声が告げると同時に、男のいる白い円の向かいにある円に穴が開き、そこから大型犬のような姿をしたゴーレムが現れた。
「う、うぉおおおおおおおおおおおッッ!!!」
自分を鼓舞しているのか、叫びながら剣を振り上げて走る男。
「ハァッ!!」
振り下ろされる剣。しかし、土気色の石で作られた犬のゴーレムは身軽な動きでそれを回避した。
「見え見えの弱点だな、余りにも」
石で作られた獣。そういえば凄く強そうに聞こえるが、弱点はある。獣の牙も爪も無ければ、動きも本物程ではない。それに、信じられない程分かりやすく核《コア》が胸に埋め込んであるのだ。
このコアを破壊する為にどんなやり方を見せるか、それがこの試験で重要な所なのかもしれない。
「うわッ!? ひ、ひぃッ!? くッ、や、やめろッ!!」
飛び掛かる犬ゴーレム。ここがチャンスだ。地面に向いていた胸が思い切り露出する瞬間。ここでコアを破壊するのが一番楽だ。が、ダメそうだな。
「うぉおッ!? こ、降参ッ! 早く止めてくれッ!!」
降参、その言葉が出た瞬間に犬ゴーレムは動きを停止した。
「降参となりましたが、この後の試験はどうなされますか?」
「む、無理だ……俺は、俺には、無理だ……」
男は怯えきったような表情で試験場から歩き去っていった。彼にも何かの事情があったのだろうが、あのゴーレムを倒せないならこの仕事から退いて正解だな。きっと、彼には荒事は向いてない。傷付けるのも、傷付けられるのも恐れている。
「それでは、受験番号二番」
こんなことも珍しくないのか、平然と試験を進める女。受験者たちは多少ざわついているが、それでも逃げ出す者は居ない。
「はい」
さっきの惨状を見ても怯え一つ見せずに前に出たのは、十八くらいの少年だった。