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#カンヒュ好きと繋がりたい
八つ橋さん
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八つ橋さん
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#女主人公
coco🌹🫶
297
これは、路地裏で助けを呼ばなかった世界
ラインハルトに出会わなかった彼等は、一体どうなったのか…
意識を支配したのは、肉体の中心を発端とした激しい『熱』だった
「ぐ、ぅぅぅぅ!熱ッ」
『…また、か…』
口を開ければ、悲鳴の代わりにこぼれ出たのは大量の血だ
――いったい、自分が何をしたというのか。
そんな泣き言を脳裏で繰り返し紡がせる
「あぁ、クソ……」
これだけ傷付いても、これだけ苦しんでも、これだけ死ぬような目に遭っても
脳裏に焼き付く少女の姿は、微笑みと、悲しい死相ばかりが繰り返されるから
「俺が」
――お前を、救ってみせる。
ナツキ・スバルは命を落とした。
見慣れた光景を再び目にしたことに、スバルは奇妙な安堵と脱力感を覚えていた
「無事、戻れまして安心してございます、ってか」
『えーと、何回目かなぁ。50は超えてるよね』
「その辺は数えてねえ」
「異世界召喚ものって、思ったよりキツイんだよなぁ」
「……いくか」
『おーけー』
スバルは拾った木の枝を右手に下げたまま、ぼんやりとした足取りで裏通りへと足を踏み入れた
「よお、兄ちゃん。少し俺らと遊んでいこうや」
『はぁ、いつもの三人衆。もう見飽きちゃったよ』
「おいおい、呆けた面してどうしたよ」
「状況がわかってないんだろ。教えてやったらいいんじゃないか」
この三人組に対する経験値だけならば、スバルはすでに百戦錬磨だ。
「――あ?」
油断する巨漢――三人組をトンチンカンと名付け、トンに向かって腕を突き出す
その腕には、木の枝が握られており、先端が、喉に食い込み突き破る
「おい?」
その、一瞬の出来事にトンが目を見開き、左右に立つチンとカンも硬直した
これでトンは戦闘不能だ
そして、硬直する二人のうち、チンの方に空いた手を伸ばし、勢いを付けて、一気にその頭部を横の壁に叩きつける
これで、二人が戦闘不能に陥った。残すところ、あと一人
「ひ」
「ぐ、が、ぁぁ……」
細い首に手を回し、スバルは力を込めてカンを後ろの壁に押し付けた
「これで、俺が通算で何回、お前らと会ったかわかるか?」
「く、こ……」
「50回以上だよ、笑えよ」
「首、絞めるのはスマートじゃないな。……感触も気持ち悪いし、もうやめよう」
『だねぇ。他の2人の対処は完璧、読み込みが早いねえ昴は』
「もう慣れたよ、流石にな」
スバルは急ぎ足に表通りを抜け、目的の場所へと足を進めた
「――――」
通りの様子を眺め、間に合ったと安堵に胸を撫で下ろす
「――待って!もう!待ちなさい!!」
一際、大通りの喧騒を高く切り裂いたのは、聞き惚れる銀鈴の声音だった
切羽詰まった雰囲気を孕
「へへっ」
と、猫のような笑みをこぼし、人の隙間を縫って抜けるのは金髪の少女だ
そうして、その少女へ目掛け、氷槍が飛びかかっていった。
「――ッ!!」
思わぬ攻撃に少女が驚き、跳んだり跳ねたりを駆使してその氷槍を躱す
『彼女』を目にした瞬間、スバルは世界の全てが凍結したような感覚を味わう
彼女の目的は、直前にすり抜けた金髪の少女フェルトだ
フェルトに何かを奪われ、取り返すために追うのが避け難い不幸の運命へ続く道なのだ
だが、そんなことはさせない
「俺が、必ず、お前を救ってみせる」
遠ざかる彼女の背中に、何度目かもわからない誓いを立てる
他の女のために何度も死ぬ好きな人を見て澪はもはや何とも思わなかった
『だって、昴のお願いなんだから、手伝わないとね』
『昴が満足できるならそれでいいんだ、私は』
『…昴のこと、理解できるのは私だけなんだから…』
傲慢は、直ぐそこへ
スバルは間違いなく歪んでいるだろう
ならばその歪みを好み、受け入れ、手助けする澪はどれほど歪んでいるのだろうか
死して時間を巻き戻す力、『死に戻り』
「あれこれと、試行錯誤を重ねてみたもんだが……トンチンカンみたいにはいかねぇ」
『エルザはヤバいよねえ、毎回と言って良いほど腹裂かれてるよ』
腹を開くのを好むサディスト、エルザは戦って勝てる相手ではない
その結論を受けた上で、スバルが選んだ戦法は――、
「素敵!もっと、私を楽しませてくれると嬉しいのだけれど!」
「ぐあああ――!!」
黒刃が次々に翻り、風が巻き起こるたびに血が噴出する
「……これも失敗、か」
嘆息し、屋根の上に潜むスバルは惨状を俯瞰しながら目を細めていた
エルザと剣を交え、倒れていくのは王都の衛兵だ
善意の一市民から通報を受け、危険人物を発見し、その捕縛のために挑んで命を散らした人々
「まさか、ここまで普通の衛兵とエルザとの間に実力差があるとはな……」
『まぁエグ強だしね』
「これ以上は見てるだけ無駄か」
そう、スバルが結論し、その場を離れようとしたときだった
「あら」
足を止め、エルザが凶刃を振り上げたまま、血に濡れた唇を舌でなぞった
「――そこまでだ」
赤い、炎がそこに立っているのかとスバルは幻視した
『昴…エグいよ、これはエルザにも勝てる…』
「騎士ラインハルト……!」
「君たちは下がっていてくれ。すでに犠牲者が多すぎる。これ以上は出したくない」
生き残った衛兵の震える声に、青年――ラインハルトが微かに目を伏せて言った
「ラインハルト・ヴァン・アストレア。『剣聖』の家系ね。素敵、素敵だわ!」
「過分な評価の重みに潰れそうな日々だよ。君は、『腸狩り』で間違いないね」
「ええ、その通りよ」
「本来であれば、僕は投降することをお勧めするんですが……」
「この惨状を前にして、あなたは私にそう言ってくれるの?優しいのね。残酷なぐらいに」
「いえ、僕も同意見です。ここで君に手心を加えることは、彼らの死に対して誠実とは言えない。だから、投降してほしいとは言いません」
「剣を」
「どうか、お願いします」
指示された衛兵が剣を差し出すと、ラインハルトはそれを握り、感触を確かめた
「腰の剣は使わないの?」
「生憎、この剣は抜くべき相手を見極める性質があるんだ。剣は君をお気に召さないらしい」
「ふうん」
腰の剣ではなく、受け取った剣を構えたラインハルトにエルザが吐息する
「『腸狩り』、エルザ・グランヒルテ」
「『剣聖』の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア」
互いに名乗り合い、広場の中心で風になる両者が激突する
勝負は一合、たったそれだけで決着した
何の変哲もない斬撃、それは光の渦を生み、衝撃波が貧民街の一角を崩壊させる
その光景を、ナツキ・スバルは目を見開いて、見ていた
期待したものとは異なる展開ではあったが、最大の目的は果たされたと言っていい
予想外だったが、願いが叶ったならば万々歳だ
おかげで、サテラの徽章を取り巻く事象は無事に解決する
だから――、
「あなたは、どうして私を手助けしてくれるのかしら?」
『強くて、使えそうだから…使えるものは使わないとね』
「別に信用してくれなくてもいいけどな。衛兵に囲まれたいんなら、俺を斬り捨てて好きに逃げろよ」
「俺が見当違いの方向に誘導してやったから、気付くのにしばらくはかかるだろうよ。傷は?」
「すごく痛いわ。痛くて痛くて、死んじゃいそう。ふふ、素敵ね」
「俺にはわからねぇ感性だよ。死なれちゃ困るから、なんとかしてぇけどな」
「貧民街の、南東まで道を作っていただける?そうすれば、私は妹と合流できるわ」
「妹!姉妹でとは抜け目ねぇし、救えねぇ話だ」
エルザの言葉にスバルはこの 難局を乗り切る算段を付けた
逃げる過程ですでにかなり南へ来ているのでエルザの指示した場所へ移動するのにそうはかからない
「わからないのは、あなたの目的ね」
「お前に貸しを作っておきたいんだよ。」
「貸し、ね。それが不思議だわ。あなた、そんなに私を殺したがっているのに」
「俺は、お前を殺したい。いつか殺すよ」
「そう」
隠すまでもないと、スバルは自分の腹の底をエルザに打ち明けた
「素敵ね。あなたと、私とを憎しみで結び付ける」
血に濡れて赤く染まった唇を緩め、エルザがまるで恋する乙女のように微笑んだ
「また必ず会いましょう?」
「じゃあね、お兄さん。エルザのことは感謝してあげるわあ」
合流した濃い青髪の少女にエルザを引き渡し、スバルは安堵に息を吐いた
『エルザとの連絡手段はゲット、まあまあの出来だと思うよ』
『次はどうする?私は君が望むなら、不可能だって可能にしてみせるから』
「それはすごく、心強いな」
血の汚れが渇いたジャージの上着を脱ぐと、スバルはそれを腰に巻いて歩き出す
サテラが無事に徽章を取り返せたのか、それだけが気にかかった
時間をかけ、盗品蔵に辿り着いたスバルはその光景に目を丸くする
「これは、予想外だった」
『うーん、盗品蔵が氷の中に閉じ込められてる…?』
何があったのか、近くの住人に軽く聞き込みしてみると、
「盗品蔵の顔役だった爺さんと、その孫娘が衛兵にしょっ引かれたんだよ。なんでも、おっかねえ魔法使いを敵に回したとかなんとか…」
「その、孫と爺さんは無事なのか?魔法使いは?」
「ケガはねえって話だが、どっちもよく見たわけじゃねえよ。もういいだろ」
『死人は出てないだろうね。サテラも無事、あとは次どうするかを昴が決めるだけだよ』
「俺がどうするか、か」
頭を掻いて、スバルは自分の目的が空っぽになったことを自覚する
「できれば、サテラのことをもっと詳しく知っておきたいけど……」
『どうやら、お客様のようだよ、昴』
「それは、お前らが教えてくれるのかな?」
氷漬けになった盗品蔵の前で、スバルはポケットに両手を入れながら振り返る
人の気配は、ない。なのに、スバルの視界には無数の人影が立っているのが見えた
いずれも、目が死んでいる。狂気に染まり、狂喜を求めている
怖いぐらいに冴えた月が、凍れる盗品蔵と、狂人たちを無言で見下ろしていた。
サテラの素性が詳しく判明したのは、それから二ヶ月近く経過してからだった
「王選!銀髪のハーフエルフ!ロズワール・L・メイザース辺境伯の推薦!サテラじゃなく、エミリア――!」
何の進展もなく、続報の途絶えていたところに飛び込んだ詳細情報に飛びつき、スバルは歓喜の表情で両手を叩いた
「王選、王選か……道理で、気品とかに溢れてたわけだよ。エミリア、エミリアかぁ」
『やっと本名が知れたね、昴』
「偽名を使った理由はわかってる」
「俺を危険から遠ざけるための、苦肉の手立てだったわけだ」
「ナツキ・スバル!サクライ・ミオ!寵愛の信徒よ!ここにいるのデスか!?」
「探したのデス!何故に、何故にこんなところで怠惰を貪っているのデスか!?我々は!勤勉に!愛に応えねばならぬ身だというのにぃぃぃぃ!」
「言い掛かりはやめてくれよ、ペテさん。俺は『福音』の指示に従ってるだけさ。」
『私は昴に従ってるだけ、それが『福音』からの指示なんだから』
「なんと!この時期に、この機会に、こんな状況で、アナタほどの信徒を何故に遊ばせておくのか、いったい魔女は何をお考えなのか、ワタシ如きでは推し量ることさえ!さえ!できぬのデスか」
好感など持ちようのない狂人だが、スバル達にとっては有用な相手に違いない
重要なのは、一般教徒とはかけ離れた権限を持たされた立場にある、このペテルギウスの来訪の目的だ
この二ヶ月、スバルはとある集団に迎えられ、一応は何不自由しない生活を送らせてもらっている
実際に澪はペテルギウスが用意した一般教徒を依代に、正確には取り憑くようにして実体化できるようになった
もっとも、行動と精神的には不自由なことばかりだ
コミュニケーションについては、澪の実体化が叶ったおかげで、コミュ力お化けの澪がなんとかしてくれるのだが
「で、何の用事だって?」
「ご存知ないのデスか?この国で、今まさに行われんとしている愚かな行事を!」
『王選ですか、ペテルギウスくん』
「そうデス!デスが、問題はそこではないのデス!重要なのは王選そのものではなく、王選に参加する存在!すなわち、銀髪の半魔!」
ペテルギウスは王選のお触れを持参し、それを突き付けた
そこには当然、穴が開くほどに見つめた愛しい少女の顔がある
ペテルギウスの骨と皮だけの指も、やはりその少女の顔を指差した
「見るのデス!風体も!出自も!まさしく、魔女への冒涜!これは、試練の時なのデス!」
『試練…』
「合えば擁し!合わねば排し!魔女に相応しき器であるか確かめ、それに適うのであれば我らの下へ受け入れるのデス!」
『それで、私達も一緒に?』
「ええ、その通りデス!他にも声をかけましたが、不信心なあのものたちが応じるとはとても思えないのデス!唯一、『憤怒』だけは可能性がありましたが、今は王国から遠く……故に!我々だけでも赴かねば!」
『そうですね、我々だけでも行きましょう、ペテルギウスくん』
「同行したらいいのかな?」
「同行してくださるのデスか!あぁ!嗚呼!それはなんとなんとなんとなんとなんとんとんとんとんとんととととと……喜ばしいことなのデスか!」
「はしゃぎすぎでしょ」
「すぐにでも、発つのデス!道中、すでにワタシの『指先』には指示したあと……メイザース領へ。そこで、『福音』の導に従うのデス!」
「了解」
『そういえば、試練とは?』
「当然の疑問デス。魔女の器に相応しきものか試す……すなわち、入れ物が魔女の魂を収める強度が、質が、何よりも資格があるか、試す行いデス!」
『なるほど、理解できました』
「わかったぜ」
「さあ、さあさあ!さあさあさあ!行くのデス!試すのデス!此度の器が相応しからんば、魔女は再びこの世に再臨せりデス!この、我々が数百年ぶりに、全ての席を埋めたこの機会に!」
「魔女サテラが下りてくるとなると、器の子は……」
「尊い犠牲となるのデス!デスが、それは光栄なことなのデス!」
「そうか、消えるのか」
『昴』
「嗚呼…」
「こんなこと言っても信じちゃもらえないだろうけどさ」
「な、ぜ……」
「俺は、ペテさんのこと、嫌いな奴の中じゃマシな方だったよ」
『私は素直に好きだったよ、勤勉に、好きな人の為に一生懸命頑張るペテルギウスくんのこと』
血溜まりに倒れるペテルギウス・ロマネコンティがいる
「ここまで、状況を作るのに苦労したぜ。あんたはちょっと周到すぎた」
『いやあ本当、流石の私もペテルギウスくんの勤勉さに頭抱えたよ』
「何を、言って……るの、デス、か……?」
「俺達が、ここまでくるのにどれだけ試行錯誤したかって話。いや、作戦もそうだけど切り札とかも本当にヤバかった」
「最初は『見えざる手』も見えなかったし、『指先』の対処にも困らされて……今は、なんとかできた達成感に満たされてる」
「ぐ、うう、うぅぅ……」
流れる血が、そのままペテルギウスの命の残量だ
不可視の黒い掌を操る『見えざる手』
ペテルギウスの腹心、それどころか予備の肉体のストックである『指先』
そして、その予備の肉体へ乗り移り、命を長らえる『憑依』
これらを駆使し、実に勤勉であるペテルギウスを下すのには本当に骨を折らされた
ここまで辿り着くのに、実に二百の試行錯誤を要することになるとは
『私が実体化できたのは貴方がいたから、すごく感謝してる』
『憑依、常套手段だったんだろうね。私にもやり方を教えてくれて、ありがとう』
「間違いなく、あんたは俺にとって、この世界で一番言葉を交わした間柄だ」
「なに、を……何を、何を、何を何を何を何を何をおぉぉぉぉ!!」
「魔女の寵愛に背く裏切者!許すわけに、許すわけには、いかないの、デス!!」
声を荒らげ、ペテルギウスが血塗れの腕を伸ばした
ここで、ペテルギウスが縋る手段はただ一つ
「アナタの、体を――!!」
奪う、その意思を込めたペテルギウスに、スバルは小さく吐息した
『私は精霊で、昴は私のパートナー』
『ペテルギウスくんは、未契約の精霊術師にしか乗り移れない。昴は契約済みだからさ』
『これが早々にわかったから、きっと二百程度の命で済んだんだろうね』
『まあでも、干渉できないままだったらどうなってたかはわからないよ。実体化中だから精霊認識を貰えただけで』
「人生で一番長い三日間だった」
「ナツキ・スバルぅぅぅぅ――!!」
「エミリアを狙ったんだ。後悔は長くしろよ」
実時間では短く、体感時間ではあまりに長かった、ペテルギウスとの激闘が終わった
「あらあ?こっちももう終わってたみたいねえ」
「ああ、片付いた。助かったよ、メィリィ」
「いいのよお。報酬はもらってるしぃ。でもよかったのお?この人たち、お兄さんの仲間だったんじゃなかったあ?」
「どうだろ。最後に殺そうとしてこなければ歳の離れた友達って言えたかもだけど、俺のこと殺そうとしたからなぁ。惜しくも友達落第じゃね?」
『同意かなぁ。昴を殺そうとさえしなければ、勤勉な友達って言えたのに』
「それなら、わたしはお兄さん達のこと殺そうとしないからあ、お兄さん達のお友達ってことお?」
「その理屈だとそうだな。俺とお前は友達だよ、メィリィ」
『うんうん、友達だよ』
「わあい、やったわあ。これで、ペトラちゃんたちと合わせてお友達たくさあん」
「へえ、ちゃんと友達いるんだな」
「そうよお。もう、みいんなわたしが殺しちゃったんだけどねえ」
薄く微笑み、メィリィはそのことへの罪悪感などはない顔で言った
「なんにせよ、足りない手数をメィリィが補ってくれたおかげで助かった」
「別にいいけどねえ。でもぉ、国の騎士さんとかに頼めばよかったのにい」
「それだと、俺の目的の一部が果たせなくてさ」
「目的?」
『そー、目的』
「こっから先は大人の話だ。メィリィみたいなお子様は知らなくてよろしい」
「あ!もう、そんな風に子ども扱いするんだからあ!」
王選開始からの数日で、ルグニカ王国の版図はかなり大きく変化した
まずもって最大の変化は、王選最有力候補と目されていたクルシュ・カルステン公爵の脱落
もっとも、これに関しては事実関係を理解しているのは澪とスバルだけだ
クルシュという人物は『存在した』という事実ごと掻き消え、いないものとして世界に記録されたためだ
王選は元々四人で始まったものとなり、カルステン公爵を支持していたはずのものたちも異なる勢力に組する形になる
「白鯨の霧ってのはおっかねぇもんだ。他人の記録を消しちまうなんて」
それが、どうしてスバルと澪にだけ効果を発揮しないのかは謎だ
『そこは気にしても意味ないだろうけどね』
そうした、スバル以外には何の意味もない変化とは別の変化もある
「王選候補者の一人である、エミリア。長年、世界を苦しめてきた邪悪の徒、魔女教の大罪司教『怠惰』を討伐……!」
その報せに王国は沸き、功績は遠く他国まで知れ渡ったと聞いている
ナツキ・スバルが死を積み上げた挙句に得た勝利を、彼女を支援する、怪しげな道化姿の男に譲渡した結果だった
正直、賭けだったが
「気持ち悪いぐらい話のわかる奴だったからな」
辺境伯はあっさりと快諾すると、すぐにペテルギウス討伐の功績をエミリアのものとして発表した
「いいさ。好きにしろよ、あんたがエミリアの味方をする限りは、俺もあんたの味方をしてやる。王になるのは、エミリアだ」
そのためにできる限りを、ナツキ・スバルはこの『死』を覆す力で果たしてみせる
そのためにも
「せっかく拾ったんだ。役立ってもらわなきゃ困るぜ、『青』さん」
洞窟の奥、そこには申し訳程度の鉄柵を嵌められた牢獄がある
その冷たい空間で鎖に繋がれるのは、薄汚れた格好をした人物だ
その頭部に猫耳を生やし、華奢な体を近衛騎士の白い制服に包んだ少女――風の、男らしい。
後片付けに奔走している中でスバルが見つけ、戦利品として持ち帰った道具だった
ただ、噂に聞く治癒術を見せてくれる機会には今のところ恵まれていない
「……誰か、教えて。教えてよ。私は、何のために……殿下は?私は、何のために。誰かがいたの。いたはずなのに。」
「しかし、参ったな」
『霧に消されたクルシュ・カルステン。その一の騎士がここにいるフェリックス・アーガイル』
「白鯨の霧に消されると、記憶が違和感を持たない程度に変化に対応するってのが俺の見立てだったんだが、この調子を見るとな」
「誰か、誰か教えてよ……殿下、殿下は? 殿下、誰と一緒に……?」
「欠けた記憶を補い切れないぐらい大きいと、こんな風になっちまうのか」
『頑張って私がなんとかするよ、心と策略と武力は私の担当でしょ?』
「それだと俺は何担当?」
『覚悟、決断担当かな』
「ふーん?」
「誰か、お願い……教えて。私は、私はどうして……」
傷を癒す力、寄りかかる縁を失った騎士、これほど扱いやすい駒はそうはない
「今度は、お前が自殺しない方法をちゃんと見つけてやるからな」
何度でも、死のうとする意思と向き合ってやると、そう言い切った
屋敷の出入り口は全て封鎖した
「――ッ!」
凄まじい業火が巨大な屋敷を余すところなく包み込み、焼き焦がしていく
炎に包まれる豪邸、そこで黒焦げになるのは この屋敷で長く、苦痛の時間を過ごしてきた多くの女性たち
あまりにも惨い所業、そう思われても仕方のない蛮行
これが他でもない、女性たちが望んだことだったと、いったい誰が信じるだろうか
「ふざ、ふざけ、ふざけるなぁ!!」
声は、この状況を信じられないと、何が起きたのかと狂乱しながら、
「九十二番!百十四番!百二十三番でもいい!どこだ!?どこにいった!?僕を誰だと思ってる!?僕を残して、この状況で勝手に逝くなんて、いったいどこまでお前たちって女は無責任で身勝手なんだ!?」
癇癪を起した子どものように、裏返った声で叫ぶのは白髪の青年だった
「どいつもこいつも、この僕の限られた資産ってものを蔑ろに――」
「その、聞くに堪えない口を閉じてくれると嬉しいのだけれど」
「な」
怒り狂った男の顔面が、炎の壁を突き破って飛び出した靴裏に直撃される
「な、にが……」
「この炎は、あなたのたくさんの奥さんからの絶縁状へのサイン」
「賊が!この僕を誰だと思ってる!?馬鹿な真似をしたことを後悔……」
しろ、と口走り、両腕を振り上げることで男は女へ攻撃を仕掛けようとした
しかし、その目論見は軽い衝撃と、肘で切断された両腕が吹っ飛ぶのが視界の端に見えたことで頓挫する
「不死身?無敵?どちらだか忘れたけれど、その種明かしは済んでるそうよ。今のあなたはなんというか、ただ不愉快なだけの虫みたいな人ね」
「――ッ!お前みたいな、娼婦が――」
両腕の喪失も忘れ、プライドを傷付けられた男が汚い言葉で女を罵ろうとする。だが、女はその全てなど言わせず、 刃が死を描く
両腕が肘より上、肩でさらに切断され、足が爪先から徐々に腿の上へ向かって輪切りにされる
爪先、足首、脛、膝、腿と斬撃が入り、血をぶちまけながら男の体は見るも無残な状態へ早変わりした
「――僕を」
「その状態でも、まだ何か言おうとするのは立派なものね」
はるかに的が小さくなった胴体へ、女の直蹴りが突き刺さり、男の体を燃え盛る豪邸の外へ吹き飛ばした
「こんな、馬鹿なことがあってたまるかよ。……僕は、僕はこの世界で最も、完成された存在だ。多くを求めず、足りることを知って、無欲で清貧に、生きて……その、僕が、なんでこんな、お前たちみたいな、欠陥人間共にいいように……」
「そんだけ普段から悪し様に罵ってりゃ、離婚調停に持ち込まれて当然だろ」
「なぁ!?」
「まさか、ここまで周囲が協力的に運ぶとは思わなかったぜ、レグルスさん」
『みんなを、大事にしなかったツケですよ』
「お前、なんでここに……いや、お前が、仕組んだのか……?」
「他に何がある?」
『ないでしょ?』
「のろ、われろ、このゲス野郎!お前、自分が何をしたかわかってるのか!?愛する妻を、妻たちを!僕の前で、屋敷ごと焼き殺したんだ!それがどれだけ非道で、悪魔じみた行いかわかるのかよ!?この妻殺し野郎!」
「言っとくけど、命を差し出してくれたのは、他でもない奥さんたちだからな?」
「――馬鹿、な」
レグルスは、妻という名目で多くの女性を屋敷に囲い、逆らえば殺すと暴力で脅していた
彼の醜悪さはそこにとどまらず、自身の『心臓』を妻たちに預け、自らの肉体の時間を止めた『無敵』を実現した凶人だったのだ
大罪司教『強欲』、レグルス・コルニアスを殺すには、心臓を奴に戻すしかない
そのための手段は、奴が心臓を預ける対象とした妻たちを全員殺すこと以外になかった
この事実に行き合ったとき、さすがにスバルや澪も決断に苦心した
しかし、迷いを解いてくれたのが、他でもない女性たちだったのだ
「みんな、お前に一矢報いれるなら死んでも惜しくないってよ。あそこまでひでぇ言われよう、俺もなかなか聞いた覚えがねぇや」
「そんな、誰が信じるか……。僕は、僕は妻たちを愛してた!だから、あいつらだって僕を愛するべきだ!そうだろう!?でなきゃ、おかしいだろうが!なのに!あいつらが妻失格なだけで、どうして僕がこんな目に!」
「……本気で、言ってんだろうな」
『…基本的に、どんなゲスでもカスでも自分を殺そうとした相手でも、友達になれる私が初めて心の底から嫌悪したのが君だよ』
『おめでとう、世界で初めてだよ、こんなに嫌悪したのは』
「ぎ、ぁっぁぁ!」
レグルスの胸に、エルザがククリナイフを突き刺し、ずいぶんと軽くなってしまった体をゆっくりと持ち上げる
「一思いに?」
「いや……」
「そこの、弱火のところに放り込め。焼け死ぬのを見届ける」
「ええ、わかった」
スバルの残酷な指示に、エルザは何の呵責もない顔で頷いた
そうして、燃え盛る屋敷の端、わずかに火が燃え移っただけの廃材の山に、レグルスの体を投げ込む
身を焼かれ、死ぬまで炎に炙られ続ける男の絶叫が夜空に木霊する
「虫の方が、鳴き声が心地良い分、あれよりマシね」
長い長い断末魔がやむ頃に、ぽつりとエルザがそうこぼした
割れたグラスの音が、スバルには信頼の砕け散る音に聞こえた
「こ、れは……っ」
「ごめんネ。ホントにごめんネ。こんなこと、したくなかった。ホント、ホントだよ」
驚愕に声を震わせ、店の床に倒れ込む
手足の自由は利かず、血の気は徐々に引いていく
優美な顔つきをした男だ、まさに騎士らしい騎士
「『最優』なんて呼ばれてるのも納得だよ、ユリウス・ユークリウスさん」
「き、さまは……」
「けど、自分の立場を弁えるんなら、自分が狙われることも計算に入れとかなきゃ。」
苦しげに喘ぐ男…ユリウスに高説を述べるスバルの横で、澪は手を伸ばす
その腕が向かったのは、倒れるユリウスの隣の椅子に座っていた人物だ
華奢な肩をそっと引き寄せ、頭を撫でる。それだけで、『青』は陶然とした様子で眦を下げた
「ふぇ、りす……君は……」
「傷心につけ込むのもなかなか苦労したんだぜ?ほとんどが澪の苦労だけど」
『苦労した甲斐はあったよ』
「貴様等、は、何を企んで……」
「安心しろよ。俺の見立てじゃ、お前の主人には危害を加えなくて良くなるはずなんだ」
「昔の友達に呼び出されて、酒場で一杯飲んだ途端にこれだ。信頼ってのは甘い毒だね」
「……ぉ、く」
「誰にも誇れることをするのは楽だよな。生きやすくて羨ましいよ。」
永遠の沈黙に沈んだ死に顔を見下ろし、スバルはそう吐き捨てた
どこかスッキリしないのは、『最優』の騎士の命を奪われなければならない理由が全くなかったから
死なせる名分のない殺しを、スバルは初めて命じた
魔女教や大罪司教絡みの連中を死なせるのに、心が痛むことなどない
ただ、今回の殺しは単純に、どちらが簡単かで選んだ
常に護衛に囲まれるアナスタシア・ホーシンよりも、警戒度が低いユリウス・ユークリウスの方が簡単だと
「私はうまくやれましたか?」
『上手く出来てたよ、辛いことやらせてごめんね、フェリックス』
「いいんです、お役に立てれば。だって、これが殿下や、澪ちゃんが望んだ未来を形作るために必要なこと、なんですよネ?」
『うん…そうだよ、そのために、最優くんは生きてちゃダメだった…』
「はい……」
「おや、お取込み中でしたか?」
誰も入ってこれないはずの入口を開け、一人の優男が店内に入ってくる
「時間通りだな」
「ええ。時間は有限、『金銭と時は等価値』ってのが商人の考えですから」
「まだ商人を名乗れるなんて、ずいぶん厚顔だな。『死の商人』だろ」
「それを言われると何とも」
「名前は……聞いたことなかったかな」
「名乗るつもりも、名前を聞くつもりもありませんよ。その方がお互い、安心できる」
「ま、お前の言う通りだな」
「ええ。何かあればすぐ敵に回る。結果がこれでしょ?」
地に伏したユリウスの亡骸と、澪に寄り添った『青』を眺めて男が揶揄する
その皮肉には何も言い返さず、スバル達は店の出口へ足を向けた
毒の手配も後片付けも、秘密裏にこの男と協同して用意したことだ
魔女教を動かせば面倒なことになる
「ラッセルによろしく伝えておいてくれ。また頼むってな。右腕なんだろ?」
「あの人の右腕は右肩についてますよ。僕は、ただの奴隷です」
候補者を削り、立ち塞がろうとする大罪司教を削り、そのための暗躍を繰り返す
謎の集団、危険人物の巣窟、その上で内部では互いのことに過剰な干渉はしない
この魔女教という集団は、スバルにとって実に都合のいい隠れ蓑だった
大罪司教にも、仲間意識など微塵もない
正確に言えば澪はレグルス以外を友達認定していたようだが、毎回最後期は惜しくも友達落第だ
殺す方法を思索し、試し、実行可能そうなら根回しをする
失敗してもその都度、スバルには世界をやり直す力があった
何となく、この状況のスバルにも、仲間と呼べるような関係もできてきた
魔女教など一人も当てにならず、関係者など増やすべきではないとわかっているが
「この調子で、お兄さんが楽しいことをどんどん手伝わせてくれると嬉しいわあ」
「あなたは今も、機会があれば私を殺そうと思ってる。それが、なんだかとても心地良いのよ」
「澪ちゃんがいてくれれば、殿下の夢が叶います。だから、私はずっとついていきます」
「汚れ仕事を頼む間柄でしょう?」
「あと一歩、あと一歩で宿願が叶うかもしれないところへきているのさ。そーぉのためなら、私は悪魔に魂を売り渡していい。君という、悪魔にねーぇ」
『昴が望むなら、不可能を可能にしてあげるよ』
その内の1人は、仲間と呼ぶには深すぎる信頼の中にあったのだが
王都が火の手に包まれ、スバルは全身の軋む痛みに喘ぎ、空を仰いでいた
意識ははっきりとしている
腕の中に、スバルは動かなくなったメィリィと澪の体を抱えていた
『…ごめんね、昴…もう、一緒にいられないみたい…』
『ラインハルトは殺せない…だから、さ』
『…英雄の殺し方…忘れちゃ、ダメだよ』
『――愛してる』
数分前に、澪はそう言い残し死んだのだ
この2人が生きている姿はもう、二度と見られない
スバルは『死に戻り』して、この瞬間に舞い戻ってきたのだ
「なんで…なんで、お前まで死んだんだよ…」
「不可能を、可能にしてくれるんじゃなかったのかよ…!」
そこで、桜井澪の物語は終わる
その先のことは澪にはわからない
ただ、菜月昴の物語にもまた、結末があった
「俺が!いったい、どれだけお前を殺そうとしたと思ってる!?俺がいったい、何度何回何千回!お前に挑んだと思ってるんだ!?」
「俺にラインハルトは殺せない。だが、英雄を殺すことはできる」
「……なぁ、なんでなんだ?」
「なんで、お前はそんな強いんだ?お前は、なんで、俺があいつらを、死なせなきゃ届かないぐらい、強いんだよ?」
「なんで、あいつが死ななきゃいけなかった?ずっと、俺を助けてくれたんだよ、優しかったんだよ。最後まで、俺を庇って。なぁなんで、あいつを、死なせなきゃいけねえくらい強いんだよ」
「俺は、お前になりたかったよ、ラインハルト」
「これが、きっと最後の機会になるわね。楽しかったわ。すごく、素敵だった」
「さよなら」
「――そこまでよ、悪党」
「俺の名前はナツキ・スバル」
「魔女教大罪司教、『傲慢』担当、ナツキ・スバルだ!」
「世界を焼き焦がし、国を揺るがし、英雄を殺し、そして」
「君に、殺される男だ」
衝撃が、胸の中心を穿ったのを感じて、スバルは薄く微笑んだ
そして、息を抜くように、最後の一息に全てを乗せた
「――愛してる」
奇しくも同じ言葉により、彼等の物語は幕を閉じる
終盤は超ダイジェストでしたので、よければ原作版もお読みください。
リゼロ アヤマツルート と検索すれば出てくるはずです
コメント
1件
読ませていただきました……! この「もしも」の世界線、すごく胸に迫るものがありましたね。スバルが「傲慢」として歪んでいく過程と、それを受け入れながら寄り添い続ける澪の在り方に、ぞっとするような美しさと哀しさがありました。特にラスト、二人が同じ「愛してる」で幕を閉じる対比が、たまらなく切なかったです。この結末に至るまでにどれだけの死と選択があったのか……原作版もぜひ読んでみたくなりました。素敵な物語をありがとうございます🌷