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こちら、南雲監察官室。
第10層に仕掛けておいたサーベイランスによって、攻略パーティーの小競り合いを目撃していた南雲さん。
当然のように口から流れ出すコーヒー。
ご自慢の思考の相棒が、最近は実にもったいない消費のされ方をしている。
誰がいけないのだろうか。
六駆がいけないのかもしれない。
「南雲さん。どうします?」
「ああ。まずは替えのズボンを用意してくれ。熱々のコーヒーが股間にこぼれて、死ぬほど辛い」
「それは知りませんよ。あいつらの処罰です。ダンジョン内での探索員同士のスキル使用。これは見過ごせませんよ」
「山根くん。君はクールだな。普通はまずコーヒー噴くだろう。次にコーヒーを拭くだろう」
「いや、南雲さんのリアクション見てたら、自分は仕事しなくちゃって思えます」
「うん。君のそういうところを私は高く評価しているよ。給料アップ査定だな」
南雲は自分でズボンを穿き替えて、改めて事態を整理する。
チーム莉子が面倒な輩に絡まれた被害者なのは明白なため、その点に関しての議論は彼の中ですぐに片付いた。
「梶谷とか言う探索員のパーティーは何と言ったか」
「ファビュラスダイナマイト京児です」
「なにその名前。よく彼をAランクに昇格させたね? どこの監察官がやったの、その人事」
「自分も同じランクとして恥ずかしいんで、話を進めて下さい」
ファビュラスダイナマイト京児のリーダー、梶谷京児のBランク降格が略式ながら南雲の名において即刻決定された。
コーヒー噴いてばかりいるが、南雲は監察官の中でも良識のある方であり、探索員の不正は見逃さない。
健全な秩序こそが集団において不可欠であるとは、彼のモットーであり、それはこの世の正しい在り方のひとつでもあった。
「それで、またしてもチーム莉子のデータが新たに手に入ったわけだが。これはまあ、嬉しい誤算と言おうか。わざわざモルモットになった梶谷探索員には悪いけども。結果として得られた情報は、有効に活用させてもらうとしよう」
逆神六駆の戦闘データ入手はこれで2度目。
今回のものも、実に解析のしがいがありそうだと南雲は思った。
チーム莉子が一体どれほどの力を持っており、その種類は善なのか悪なのか。
突き詰めれば、探索員協会にとっての脅威となり得るのか。
その精査こそ自分に課せられた使命であると、南雲は燃えていた。
「南雲さん、梶谷のスキル攻撃のシーンを全て解析し終えましたよ」
「そうか。では、山根くん。1つ目の電撃と氷の複合スキル。これをどう見る?」
「悪くないと思いますよ。練度もそこそこな感じですし。初手としてもまずまずじゃないですか? 相手の足を止めるのは基本ですから」
#ダンジョン
#学園
「そうだな。では、逆神六駆の対応について考察しよう」
「考察って言うか、地面思い切り踏んだらスキル吹っ飛ぶっておかしいですよ」
「君はたまに身も蓋もないことを言うな」
南雲は考える。
恐らく、逆神六駆は煌気を足に集中させたのち、スキルの核となる部分に一撃を加えて霧散させたのだろうと。
考えたのは良いが、それはあくまでも理論の話。
初見のスキルの核をどうやって見抜いたのか。
そもそも、効果も分からないスキルに対応する際は、まずガードが基本。
次に考えられるのは、こちらもスキルを撃っての相殺狙い。
とりあえず足ドンでスキルをぶっ潰そうという発想には至らない。
「もう、次だ。ウインドキラーと電撃の複合スキル。と言うか、この梶谷って子も電撃が好きだな。もう少しバリエーション考えないと、強敵には通用しないぞ」
「まあ、Aランクになりたてみたいですからね。あと、電撃系のスキルが得意ってデータに載ってますし。長所を伸ばすのも戦略ですよ」
山根くんは梶谷京児のスキルについて所感を述べて、本題に移る。
「逆神六駆が素手でスキル消してるんですけど。自分の大好きなラノベにこんな感じの能力持ってる主人公がいるんですよ。この子、すごいっすね」
「山根くん。現実逃避せんでくれ。せめて私も連れていけ。とりあえず今度そのラノベ貸して。読むから」
南雲は無理やり考える。
先ほどの応用で、手の平に煌気を集めて風の刃を破壊したのだろうと。
既に自分の理屈が机上の空論になっている事は承知していた。
だが、そう考えないと納得のいくロジックが組めないのだから仕方がない。
考察を重ねて真実を見つけるスタイルの彼にとって、理屈は生命線。
「では、最後に逆神六駆の攻撃についてだが。映像を出してくれ。……よし。言わなくても分かっている。5倍スローなのだろう?」
「いえ。10倍スローです」
「それでもほとんど見えないんだけど。何が起きてるの、これ」
超高速の殴打だろう。
その結論には最初から辿り着いている。
問題は、Sランク探索員の南雲が『サーチアイ』を使って視力を超強化してもかろうじてギリギリ見えない速さの六駆の動きである。
この『光の連撃弾』は六駆が『三重』で繰り出しているため、かろうじて何が起きているか分かるだけでも相当な実力者の証明になるのだが、南雲がその事実を知る由もなく、彼は何杯目になるのか知れないコーヒーで「サッパリ分からん。何してんのこの子」という言葉を飲み込んだ。
その後味は非常に苦かったと言う。
だが、南雲は更に真実に近づいていた。
今回も六駆の後ろで観戦している莉子の表情に着目する。
ポイントは芽衣が梶谷に狙われた瞬間であった。
明らかに驚いている。
逆神六駆の師匠が小坂莉子と言う仮説は、もしかすると誤りなのではないか。
そんな疑念が南雲の中に生まれていた。
さらに、その発想を一歩、二歩と進めてみる。
もしかして、ヤバい探索員は逆神六駆なのではないか。
南雲修一、監察官としてついに限りなく答えに肉薄する。
繰り返すが、彼は実に優秀な研究者であり、探索員協会内でも屈指の知恵者として勇名を馳せているのだ。
ただ、ここからが彼にとっての苦難。
逆神六駆は善なのか悪なのか。
協会本部にとって、強力な矛となるのか、凶悪な毒となるのか。
監察官、南雲修一の調査は続く。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、チーム莉子。
「もう、本当にすみませんでした。俺たちはチーム莉子様には逆らいません。むしろ、何なりと命令して下さい」
ちょっと目を離した隙に、山嵐組が全面降伏していた。
「どうする、莉子? こんなこと言ってるけど?」
「どうするって、どうもしないよぉ。敵意のなくなった相手に追い打ちをかけるなんて、人の心があるなら絶対にしちゃダメだもん!」
六駆くん、「『大竜砲』撃てるかな?」とワクワクして構えていた両手をすぐに引っ込める。
続けて最高の笑顔で「そうだね! 人の心って大事だよ!!」と莉子に答えた。
逆神六駆の異世界周回者として失った人の心を取り戻す長い旅が、もしかするとたった今始まったのかもしれない。
だが、それはダンジョン攻略と関係ないので、他所でやって頂くことにする。