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「エリアスが迷惑ばかりかけているのかと思っていたんですが、私の杞憂だったみたいで、安心しました」

 

エリアスとフィルマンを見送ると、すぐにレリアがふふふっと笑ってみせた。

 

「め、迷惑だなんて……思ったことはないわ」

 

もうすぐ婚約式があるからなのか。先ほどのように人前であっても、エリアスは恋人の振る舞いを隠そうとしなくなった。

むしろアピールしているようにさえ見えてくる。

 

違う。邸宅にいた時は、私がやめてって言ったんだった。恥ずかし過ぎるから、とも。でもここは、邸宅じゃないから。

 

それにさっきのだって、フィルマンに対抗してやったのよ。けして私が寂しそうにしていたからじゃ――……。

ううっ。そうなのかな。自信なくなってきた……。

 

「分かっています。この数十分の間に、三度も見せつけられたんですから。想像以上でしたけど」

「茶化さないで、レリア嬢」

「茶化していません。マリアンヌ嬢もまた、エリアスを大事にされているんだなぁって実感したんですから」

 

レリアの言葉に、心が温かくなるのを感じた。

その瞬間、ふとある疑問が浮かぶ。

 

まさかと思うけど、エリアスにそんな意図があったのかな、と。ううん。レリアを邪魔者って言っていたくらいだから、きっと違うわ。……多分。

 

「……なら今度は、レリア嬢の話を聞かせて」

「先ほど言っていた質問……ですよね」

「勿論よ。まずは、そうねぇ。殿下の好きなところを是非、聞いてみたいわ」

「えぇぇぇぇぇぇ! いきなりその質問ですか!?」

 

私は笑顔で頷いてみせた。予め、レリアが動揺すると分かっていたからだ。

何せこの質問は、恋バナの中で一番盛り上がる話題でありながら、答えにくい質問だった。それを敢えて私は選んだのである。

 

因みに、恋バナあるあるの「好きな人は誰?」という質問は、言い辛いだけで、実は難易度としてはこちらの方が低かった。

 

「だって、出会いは聞けないでしょう」

 

もしレリアがマリアンヌの代わりをしていたとしたら、フィルマンの元婚約者、ロザンナ・ジャヌカン公爵令嬢から嫌がらせを受けていたに違いないからだ。

 

「た、多少は答えられます!」

「無理しなくてもいいのよ」

「いいえ。こっちの方がまだ、マシなので」

 

やり過ぎだったかな。でも私だったら、エリアスの好きなところ……い、言え……る、と思う、よ。

 

「……フィルマン様とお会いしたのは、王宮の庭園でした」

 

うんうん。マリアンヌもそうだった。でも、その先は――……。

 

「初めて王宮へ行った時、私は緊張し過ぎて、養父とはぐれてしまったんです。お上りさんに見えないように、気を張り過ぎていたんだと、養父に怒られました」

「……そうだったの。私はまだ、王宮に行ったことがないから、分からないけど。レリア嬢のように迷ってしまいそうだわ」

 

ヒロイン補正って、そういう時に働いたりするから。多分、迷うと思う。ううん、絶対に。

 

「ここは、そんなことはないって否定したいところですが、アレは迷います。凄く広いんですよ。ここに初めて来た時だって驚いたのに。それ以上で」

 

あくまで、迷子になったのは自分の責任じゃないかのように言うレリア。その必死さが可愛かった。

 

なるほどね。フィルマンもこんな風に思ったのかな。

 

「大丈夫よ。レリア嬢を疑ってはいないから」

「本当ですか?」

「えぇ。それで、どうなったの?」

「はい。その後、こともあろうに、庭園に迷い込んでしまったんです。両サイドが生垣になっている迷路のような道に。最初は自力で抜け出そうと頑張ったんですが、次第に疲れて、座り込んでしまいました。するとそこへ、フィルマン様が現れたんです」

 

思わず、おぉとなった私は、視線でその先を促した。

 

「当時の私は、フィルマン様の顔など知らず、渡りに船と思って声をかけました。そしたら……」

「うんうん、そしたら?」

「不審者として捕まってしまったんです」

「え?」

 

何それ。ロマンの欠片もない。

 

「だから、話したくなかったんです。皆、そういう反応をするから」

「あっ、ごめんなさい。レリア嬢」

「いいんです。マリアンヌ嬢も最悪な出会いと思いますでしょう」

 

すぐに否定することができなかった。だって、予想外の出来事だったから。

 

「で、出会いが良くないカップルなんて、結構いると思うの。ほら、恋愛小説にはよくあることでしょう。だから、気にすることなんてないわよ」

「恋愛小説……そうですね。特に王子様との恋は障害が多くて、とても参考になりました」

「フィルマン殿下には、確か婚約者がいらっしゃったものね」

 

ティーカップに手を伸ばして、そっとレリアの様子を窺った。

 

「はい。幼い時に結んだとお聞きしました」

 

沈むレリアの声に、踏み込み過ぎたかな、と後悔した。けれど、それは杞憂だったらしい。

 

「実は先日、ハイルレラ修道院に行ったのは、その方の様子を見るためだったんです」

「え? 修道院に? それも何で、ウチの領地なの?」

 

入れるなら、ロザンナの生家であるジャヌカン公爵領にある修道院が妥当だろう。なのに、どうして。

 

「ロザンナ様の。えっと、フィルマン様の婚約者だった方の父親、ジャヌカン公爵様が望まれたんです。ちょうど、ハイルレラ修道院に、同じ貴族令嬢が入るから、と」

「もしかして、オレリアのこと?」

「多分、その方だと思います」

 

まさかハイルレラ修道院に、王子ルートの悪役令嬢と、作品全体の悪役令嬢が集結していたなんて。

 

レリアが王子ルートを進めていたから? 二人が出会うことになったというの?

 

また私が知らないところで、微妙に乙女ゲームと現実が重なる。それを誰が予測できただろうか。

マリーゴールドで繋がる恋~乙女ゲームのヒロインに転生したので、早めに助けていただいてもいいですか?~

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