何の変哲もない、美しい夜のことだった。
ツンのユウリは朝に行けなかったキャンマラを夜に回し、今急いで楽園のキャリーをしていた。
モチロン、この時間帯だからフレンドも不在。1人で巡るしかなかった。
_はぁ、楽園は複雑だから面倒くさい。
顰め面をしかがら間欠泉を抜け、洞窟へと向かう。
そんな時だった。
海の中に光る何かが浮いていたのだ。
その光る何かは踊るように、水面に彩りを足す。
_なんだあれ、海月か?
徐々に近づくと海月ヘアが水面に浮かぶように舞っている。
そして浅瀬に足がつくくらいになる途端に水面からほしのこが出てきた。
「ヴァァァァァァァ!!!」
ユウリは驚きのあまり、腰を抜かして、地面にしりもちをついてしまう。
出てきたのは海月ヘアの全裸のほしのこ。凛とした真っ青な瞳、まるで月に反射する水面のようだ。
「あなた、だれ?」
惚け顔をしたほしのこはユウリに近寄る。ユウリは腰が抜けて立てないのか這いつくばったまま、後退りをする。
「お、お、お、お前こそ、全裸で何してんだよ!」
慌ててユウリは海月ヘアのほしのこに指をさす。
「なにって、泳いでたのよ。」
この状況に混乱するユウリ、混乱してるのを察した海月ヘアのほしのこは、
「そう、今着替えるわ。」
と、しりもちをついてるユウリの横を素通りして洞窟の中に入っていった。
その洞窟は海月ヘアの精霊がいるところだった。
こじんまりしたその洞窟は、人気がない上に波の音が聞こえる、とても素敵な場所だった。
唖然としてる中、海月ヘアのほしのこは 立てる? とユウリの肩に触れる。
着替え終わった海月ヘアのほしのこは海月ケープに海月精霊が身に着けているズボン履いていた。
ユウリは恥ずかしがるように 別に と手を振り払った。
「お前、なんでこんな遅い時間に踊ってたんだよ。しかも全裸で。」
警戒するようにチラチラとほしのこを見る。
「昼間はここに来る子が多いの。だから、夜はフリーだし精霊だって見てくれてる。」
ほしのこは意味深なことを口にする。ユウリはそれにあえて触れず、名前は と聞く。
「カナメよ、あなたは。」
「俺はユウリだ。」
カナメは落ち着くように息を吐く。
そして数秒、取り留めもない時間が流れた。頬にあたる冷やこい風、静々と波打つ音、星の生物たちが無邪気に光り出すこの光景、嫌いではなかった。
「なぁ、カナメ。お前フレンドはいねえの?」
胡座をかいて座ってるユウリ、その隣にカナメは佇む。
「フレンド?知らないわ、何それ。」
ギョっとする。目を見開いてカナメのことを見る。
「ほら、あれだよ、一緒にキャリーしたり、綺麗な景色見たりする友達。」
「フフっ、私にはサッパリだわ。そもそもこの楽園から私は出たことがないわ。」
彼女は複雑な顔をしていた。嬉しそうな、寂しそうなその感情の読み取れない瞳でユウリの事を見る。
ユウリもかける言葉が無かった。きっと、きっと、彼女は辛い経験をしてきた、と、何となくこの会話で分かった。
会って15分も経ってないのに、カナメとは何故か分かり合えると、そんな気がした。
「ごめんなさい、無駄な時間を取らせて、ありがとう。久々に素敵な出会いをしたわ、またどこかでお会いしましょう。」
カナメは重い腰を上げ、洞窟へと向かう。
ユウリはそんな痛々しい背中を見ていられなかった。
「なぁ、お前、ここ以外の景色とか見たくねえの?」
ユウリは去っていくカナメの腕を掴み、恥ずかしそうな顔で見つめる。
ユウリにとっては、偉大なる1歩だった。
カナメは目を見開いてユウリを見る。そして、フフッと優しく甘く微笑む。
「もちろん見たいわ、きっとここ以外に美しくて、学びがいのある景色は山ほどあるはず。でも私、出たくてもここから出られないのよ。」
ユウリは胸が熱くなる。カナメの事情は知らないがこんなに悔しいことは無い。カナメの複雑な顔を見ると、何故か、何故か、救いたくて仕方がない気持ちになる。
「なんで出れねえんだよ。」
悔しそうに、妬ましそうに、唸るように、声を出す。
「ごめんなさい、言えないわ。」
カナメの顔は一瞬恐ろしい顔になる。ユウリはそれにゾッとし、一瞬キョドる。
「じゃ、じゃあ、俺とフレンドになってくれ。」
ユウリは少ないキャンドルを差し出す。
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