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丁寧に手入れされたシザーを手に取り、シャンプー仕立てのやわらかい髪を静かに切る。3センチ程切った髪を床に放ち、シザーをシザーケースに戻した、水野颯星は鏡越しの客と目を合わせた。
「これくらいの長さで大丈夫でしたか?」
「はい!この長さで大丈夫です」
「かしこまりました。ではこの長さでほかのところも切っていきますね」
颯星はそう言ってからカットに戻った。
客は自然な笑みで鏡を眺めている。
その表情を見る度、颯星の美容師魂は星のように輝いていくものだった。
水野颯星 27歳
颯星は名古屋市内の有名な美容院で美容師として働いていた。
美容師としての立ち振る舞いや客に寄り添う姿勢から業界内では”天才オメガ美容師”として呼ばれている。
颯星はその呼び方を嫌っていた。
この世界には第二の性というものがある。
アルファと呼ばれる人間の鏡のような存在や
いわゆる普通の人口の大半を占めるベータ
そして、颯星の第二の性のオメガ。
オメガは男女問わず妊娠が出き、月に一度ヒートと呼ばれる発情期がくる。
それが理由でオメガ差別というものが行われていた。
でも、それは10年以上も前の話だ。
今じゃオメガのヒート抑制剤やアルファがオメガのフェロモンを感じない手術も出てきている。
それらがある以上、オメガ差別は行われにくい。
さらに最近の研究結果ではオメガが才能に長けているという結果も出ている。
そして、オメガの生まれつきのその可愛らしい容姿と才能、それらを理由に最近はオメガのことを”羨んだり”“自称したり”する人が増えてきた。
だから颯星はその名前を嫌っていた。
オメガだからカットが上手いのではない、
自分の努力でここまで来たんだ。
そう思えば思うほど、自分の第二の性が嫌いになる。
でも、そんな颯星のことを狂おしい程に愛していた人がいた。
きっとその人はもうすぐ”ここ”にくる。
そう思う颯星の胸はどんどんの高まっていき、シザーを掴む手の力は強まっていた。
「いたっ………」
「あ…申し訳ございません。大丈夫ですか…?お怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫です。ごめんなさいね。大袈裟な反応をしてしまったって」
「申し訳ございません。お怪我がないなら良かったです」
颯星はなんとかシザーを持つ手の力を弱め、落ち着きを取り戻した。
客に痛いと言わせるのは美容師失格だ。
そう思った颯星は”その人”を頭から消し、目の前のカットに集中した。
1時間後――
颯星の担当していた客のカットは終わり、颯星は床に散乱した髪をほうきで片付けていた。
カット中は結局”その人”のことを忘れることは出来なかった。それに忘れようとするほど思い出し、胸は高鳴る。
そうなる理由は”その人”がこの美容院には一年に一度しか現れないからだ。
かつては愛し、愛されていた”その人”だ。
一年に一度という織姫と彦星のような頻度で通っている”その人”にはさすがに胸が高鳴ってしまう。
しかし、颯星の中には不安という気持ちもあった。
からんからん
聞き慣れた美容院の鈴の音が鳴る。
高鳴る胸と不安を抱えながら見たドアの先にはその人”蓮見天音”がいた。
颯星は受付が終わり、ソファに座っている天音の元へと向かう。
「こんにちは。今回もカットを担当させていただきます。水野颯星です」
「一年ぶりですね。颯星さん。今回もよろしくお願いいたします」
「はい、よろしくお願いいたします。ではまずはシャンプーしますか」
「わかりました」
颯星は天音の荷物を美容師に預け、シャンプー台へ導く。
椅子に座った天音を確認した颯星は天音の顔にフェイスガーゼを乗せ、シャワーを手に取り、髪にお湯を浸からせ始めた。
フェイスガーゼ越しに見える彼の顔はとても美しく、お湯越しに伝わる彼の匂いも懐かしい、
そう感傷に浸りながら、颯星は静かに髪を洗っていた。
蓮見天音 27歳
彼は特定看護師やNPと呼ばれる麻酔がかけられたりと医者と協働することができる看護師の資格を持っている。
天音はアルファだ。
端正な顔立ち
均一に付いた筋肉
物腰柔らかな姿勢
一目見ればすぐに分かる。
そんな天音は颯星と同じ通信制高校に通っていた。
二人は共に通学したりするなどどこから見ても仲の良い関係を築いていた。
それに二人は”運命の番”で結ばれていた。はずだった。
――10年前
二人は高校二年の17歳だった。
「はやちゃ〜ん!」
「うわっ!なんだよ!」
「びっくりした?びっくりしたでしょ」
天音は颯星の肩に飛び乗った。
それにあまりにもびっくりする颯星のことを天音はにんまりとした表情で見つめる。
「びっくりしたけど……」
「あははっ、だよね〜!」
二人が通っているのは市内では有名な通信制高校だ。
過去二人は第二の性が関係する差別に遭っていた。
颯星はオメガという立場から性被害に遭い、
天音はアルファという立場から過度にオメガから接触され、暴力事件を犯した。
過去に第二の性での事件があるという共通点を持っていた二人はすぐに仲良くなった。
そして、二人からは言葉には表せられない、友達とも言えないようなやわらかく、温かい空気が流れていた。
数ヶ月後――
この日はスクーリングの日だった。
スクーリングとは通信制高校である合宿をして勉強をする制度だ。
二人が通っている学校は2泊3日の計画が立てられていた。
「ふ〜、やっと終わった、」
「ね〜、ほんと疲れたね」
「いや、ほんとにずっと座って勉強するのって疲れるよ」
「まあ、しょうがないよね。ね、これからのお楽しみの時間に向かってホテルへダッシュしよ」
「え?今なんて?ちょ、ホテルがなに?」
「はい、じゃあ、よ〜いどん!」
「はあ!?ちょっと待って!おい!聞けよぉ!」
「はははっ、ほらほら!おいで!」
二人はホテルへと走っていた。
二人が通っている高校では一人一人ビジネスホテルの一室が貸される。
仲の良い彼らや友人らは夜ご飯を食べると部屋に集まり、ゲームをしたりと各々自由な時間を過ごしていた。
二人も例外ではなく、友人らと天音の部屋に集まり、ゲームをする。
同じ高校に通っている彼らは同じような悩みを持っていることから、気を使わないで遊ぶことができていた。
「…天音っ!ちょっと待ってっ…!」
「がんばれ〜!はやちゃ〜ん!」
天音は笑いながら少し遠くにいる颯星に手を振っていた。
それに応えるように天音は足を動かせ、颯星の元へと走っていく。
「あと、もうちょっと!がんばれ!はやちゃん!」
「黙って応援してろよ!」
「いやいや、こういうのは声に出すんだよ!がんばれ!はやちゃん!」
「だからぁ゛!…あっ」
天音の応援に答えると言わんばかりに颯星は足を思いっきり動かしていた。
そのせいか、颯星は目の前にある石に気付かず、前に転びそうになる。
「…よいしょっ」
「…………ぇ?」
「大丈夫だった?颯星」
颯星が転びそうになったところで天音は床と颯星の間に入り、颯星の下敷きとして颯星のことを抱きしめていた。
颯星の胸には天音の胸の振動を感じる。
そして、甘い香りも、
そのせいか颯星の耳はりんごのように真っ赤に染まっていた。
「んふふ、はやちゃん耳真っ赤」
「…だまれよっ…」
「えぇぇ…」
「いや、なんで黙れないんだよ……口閉じるだけじゃんか……」
「俺は口閉じるだけじゃ黙れないんだよ」
「は?なんで……」
颯星がそう言いかけた途端、天音は颯星の首に腕を巻き付け、
唇に唇を触れさせた。
「……ぇっ、ちょっ」
「俺はこうじゃなきゃ黙れないんだよね〜」
「……ちがっ、今って…」
「んふふ、キスだよ」
天音のその言葉を聞いた颯星の耳はさらに真っ赤になってしまった。
嫌ではない、
怖くもない、
本当はもっとしたい、
そう思っている自分のことは恐ろしくも感じない、
ただただ今のキスを受け入れるだけ、
そう感じていた、颯星は天音の首に腕を巻き付け、続きをしようとした。
そうしようとした颯星の身体は経験したことのないくらい熱く、苦しく、人間の本能が研ぎ澄まされているような感覚がする。
「……はやちゃん………もしかして、ヒートじゃない?」
颯星はその言葉を飲み込むまでに時間がかかった。
「……へ?………とゆこと」
「だから、ヒートが来ちゃったんだよ」
「……なんで…?」
「俺たちが……………だから」
「ごめっ………なんて……?」
颯星は天音の腰にそれに当てるように動きながらそう言う。
それをされた天音はなんとか冷静を保とうと、一度深呼吸をし、颯星と目を合わせた。
「ここでは話すことではないんだ。部屋に入ってから話をしよ?」
天音はそう言うと同時に力が抜けた颯星の体を抱き、部屋へと向かって行った。
その間の颯星の身体は経験をした事の無いくらいに疼いていた。
お腹の奥が『欲しい』と叫んでいるような声が聞こえるほどに颯星の身体は異変を感じていた。
「……はやちゃん、着いたよ」
「あまっ……ね……」
天音は布団をひくために一度颯星のことを床に寝転ばせた。
その姿を見た誰もが同じことを思うだろう。
『犯してやりたい』
と、
現にそれを本当にしてしまったのが颯星を傷付けたあの加害者だ。
天音は颯星を傷付けたくない、
その一心で理性を保ち続けていた。
「はやちゃん、布団ひけたよ」
「おれっ……どうなってるの…?」
颯星の声は震えていた。
その声を優しく包むように天音はいつもよりも優しい声で話す。
「ねぇ、はやちゃん、ちょっとお話してもいい?」
「……お話?」
天音は颯星の両手を握る。
手は今にも溶けてしまいそうなほど熱い。
「はやちゃん、俺らは……」
「………、」
「運命の番なんだよ」
「………運命の……番?」
「……やっぱり、はやちゃんは気付いていなかったよね」
「……え、どゆ…こと」
「俺らは神様から命じられた番なんだよ」
「神様から………」
それから颯星は天音から全てのことを話された。
今まで颯星を嫌な気持ちにしたくなくて話せなかったこと、
天音は颯星と会う時は必ず強い抑制剤を飲んでいたこと、
天音の目には颯星との赤い糸が見えていることも、
「……なんで、俺には赤い糸が見えないの?」
颯星は涙が溜まった目で天音のことを見ながらそう言った。
「俺にも分からない、でも俺は嘘を吐いていない。これは信じて欲しい、」
「…………ねぇ、」
「ん?」
「俺、天音のことが好き」
颯星がそう言う。
その瞬間、この場の空気だけ時計が止まったかのようになった。
「……は?」
「だからっ…天音のことが好きっ」
「いや…そんなこと…なかったじゃん…」
「ずっと変だなって思ってた。天音に近付くとドキドキして、甘い香りを感じると身体なんか疼いて、」
「いや、でも」
「天音は俺のこと好き?」
「好き、好きだよ。好きじゃなきゃこんなこと言わない。今だってずっと襲いたいと思っているくらいに好きだから……」
「じゃあ、シようよ」
この空間はまた時計が止まったかのように止まった。
でも先程とは違う。
重く張り詰めた空気。
それが二人の心情を表しているようだった。
「……え、えと、なにする…の?」
「そりゃあ決まってるでしょ、セックスだよ」
「は…なんで…」
「好き同士なら当たり前でしょ?…ね、俺さ身体がもう限界…」
「なに、頭おかしいこと言ってんの……俺はそんな無理矢理なんて…」
「無理矢理じゃない、合意だよ」
颯星は天音の腕を引っ張り、天音が颯星に覆い被さるよう姿勢にする。
そこで二人は瞳の奥の奥のものを見るように見つめあった。
暗い瞳の中には何かがある。
綺麗ででも歪んでいて、
颯星も天音もそれを見合っている。
二人はそれが何か分かっているように瞬きをした。
それは欲望という言葉ではあまりにも綺麗で執着という言葉では汚く聞こえる言葉に表せられない何かだった。
「……じゃあシよ、セックス」
「うん、ありがとう、天音」
愛液と精液が混ざったぐちゃぐちゃとした音が部屋に響き渡る。
それに加え、天音の興奮の材料と颯星の声にならない声が静かに天音の元に聞こえていた。
「ぁ゛………っま゛っ…た゛っ……いっく゛」
「…ぃ…いよ……いって……っはやちゃんっ」
「んぁ゛ぁ……っ……ぁ゛っ」
颯星は静かに達する。
それを見た天音は精液を手に取り、口に運んだ。
「…ん、おいし、」
「……ぇ、なんで、なめっ……ぁ゛あ゛っ」
「はやちゃんのは……はぁっ……なんでもおいしいの…」
天音は本能に従うまま腰を振る。
傍から見れば兎の交尾のようだ。
そう感じるも、ただただ腰を振り、颯星を悦ばせることに集中していた。
これが二人の初夜だった。
野性的でロマンチックな初夜とは言えない。
でもこれが颯星の思い出に残っていたのは間違いはない。
この出来事があってもなお、二人はいつも通り仲良くし続けていた。
でも、ひとつだけ違うことがある。
二人はたまに体を重ね合う仲になった。
それでも今まで通り、仲がいいのは変わらないはずだった――
ある出来事は一年後に起きた。
「なあ、天音、天音ってどこの大学行くの?」
「…………、」
「天音…?」
何も喋らない天音のことを颯星はしたからグッと覗いた。
それなのに天音は目を逸らす。
「ねぇ?天…」
「俺、医療の大学行く。だから、話しかけないで……」
「は…………?」
颯星の理解は追いつかなかった。
颯星は天音が医療の大学に行くとは知らなかったからだ。
運命の番なら相談だってしてくれてもいい……
(あれ…?)
颯星の頭は疑問で埋め尽くされた。
運命の番だけど恋人でもなんでもない、
確かに、通信制高校から医療の大学に行くのは難しい。
でも、話しかけるなまでは…
そう考えるにつれ、颯星には怒りの感情が湧き出てきた。
「なんでっ、なんで!…話しかけちゃっ…ダメなの」
「勉強したいんだ。……颯星は美容師になるんだろ?……お互い勉強しなきゃいけないから…ね…」
颯星の手は震え、目には涙が溜まっていた。
「……もうっ……いいっ」
「ぁ……ちょっ…」
天音は颯星の腕を掴もうとするが、思いとどまり、ただ立ち尽くしていた。
この出来事があってから二人は全く喋らなくなった。
美容師になり、NPになったことは友人から知らされ、二人は知っていた。
連絡先も教えてくれると言われた。
でも、しなかった。
運命の番だとしても心が通っているとは思わなかったから、
そして、考えるにつれ、運命の番というのも怪しくなっていた。
そんな天音が一年に一度だけ美容院にくるんだ。
胸は高鳴るに決まっている。
そんな天音に対して、颯星の気持ちが消えたとは言えない、
オメガとして知ったあの悦びは今でも消えない、
本当は天音とあの時のように話したい。
そう思いながら、颯星は天音の髪を丁寧に洗っていた。
シャンプーが終わり、颯星は天音にセットチェアへと案内した。
「こちらどうぞ」
「ありがとうございます」
颯星は鏡越しに天音が椅子に座ったことを確認してから、今日のカルテを見る。
「えぇ、今日はいつも通りのカットとヘアセッ…トとメイ……ク…ですね」
「はい。合ってます」
「か、かしこまりました」
颯星の手は僅かに震えていた。
天音は普段、カットだけを頼む。
ヘアセットもメイクもしない。
「どれくらいの長さにしたいとかありますか?」
「こんな感じとかできますか?」
天音はそう言いながら、スマホの画像を見せてきた。
その画像は颯星がかつて好きだと言っていた髪型の写真だった。
「いいですね。お客様に合うと思いますよ」
「やっぱりそうですよね。じゃあこれにします」
「セットはこの画像の感じでいいですか?」
「はい、大丈夫てす」
「……メイクは何かご希望ありますか?」
颯星は震えた声がバレぬよう、声帯を張って言った。
「ないので……お任せでもいいですか?」
「…はい、お任せください。ではカット初めていきますね」
「はい、よろしくお願いします」
カウンセリングも終わり、カットが始まった。
やっぱり天音の近くに行くと、あの甘い香りがする。
「お客様は今日なにかあるんですか?」
颯星はそう聞いた。
普段はしない施術までするんだ。
何か特別なことがあるに決まっている。
そう心がむず痒く、少し迷ったが口を開いた。
「そうなんです。今日は大切な人と会うんです」
「……あ、そうなんです…ね」
「はい、……………」
天音のその言葉を聞いた瞬間、颯星の心はバキッと折れたかのような感覚がした。
今まで持っていた希望を今完全に失った。
天音には大切な人がいるんだ。
それに運命の番だと言われ、裏切られた。
それがものすごくショックだった。
颯星のシザーを持つ手が微かに揺れる。
「大丈夫ですか?」
「あ、…すいません。大丈夫です」
これが最後になるかもしれない、
そう思った颯星は最後の時を楽しむかのようにシザーに力を入れ、口角を上げてから、鏡越しに天音の目を見つめた。
鏡越しからはあの時のように瞳の奥を見れない、
見れてもあの時の言葉に表せられない、あれは見ることができないだろう。
そう考える颯星の心は少しずつ星のように欠けていってしまった。
「こちらでいかがでしょうか?」
天音は施術を全て終えた。
それらを全て終えた天音の姿は颯星の想像を簡単に超えてかっこよく、素敵だった。
「ありがとうございます。これで大切な人も喜んでくれると思います」
天音は微笑みながらそう言った。
「…はい、良かったです。会計へご案内しますね」
「…はい。ありがとうございます」
颯星はなんとか言葉を絞り出し、笑顔でそう言った。
これから天音は大切な人と出会い、あの時のように大切な人に奉仕するんだ。
そう考えると涙が出そうだった。
気付くと閉業の時間になっていた。
いつもならカットの練習をするが、今日は早く帰ろう。
そう決めた颯星は荷物を手に取り、足早にドアへと向かった。
「お疲れ様でした」
『はーい!おつかれー』
裏から温かい声が聞こえてくる。
その声の温かさで颯星の心は包み込まれそうだった。
「…よしっ、家に帰ったら、どうしよっかな…」
颯星は歩きながらそう言う。
気付くと颯星の頬には涙が伝っていた。
颯星はその涙をゴシゴシと拭った。
今日は鼻がよく効くようだった。
天音の甘い香りがする。
鼻に残っているだけかもしれない、
そう思う颯星の胸はどんどん虚しくなっていく。
こういう時は早く家へそう思い、走り始めた。
「うわっ゛……」
颯星は滲んだ涙のせいで下にある石に気付かず転びそうになる。
瞬時に颯星は受け身を取ろうとする。
その時だった。
「ぁっ……ぶなっ」
「…………ぇ」
颯星は温かく、均一に筋肉が付いた肉体に抱きしめられた。
その人からは天音のような甘い香りがする。
気のせいだ、、
そうだ、、
そう思いながら、颯星は顔を上げた。
「………ぇ、なんで」
「……はやちゃん、」
「……あまね?」
視界は滲み庇ってくれた人の顔はよく見えない。
でも、声と、香りと、ずっと求めていた何かを感じる。
「…なんでいるの?…大切な人に…会うんじゃないの?」
「……大切な人は君だよ………はやちゃん」
「なんでっ、そんなはずっ」
「ごめん、はやちゃん。ずっと話せなくて、」
「ちがっ、俺なんてっもうっ」
「俺なんて、なんて言わないでよ。俺が勝手にしたことなんだからさ、俺が悪いんだよ」
天音は言葉を続けた。
「俺、あの時ものすごく頭の悪いことをしたなって思ってて、颯星のことだってきっと颯星以上に好きだったのに、裏切る真似をして…それから大学に行っても颯星のことはやっぱり忘れられなくて、だから颯星の働いている美容院を教えてもらって、一年に一度だけ通っていたんだ」
「………なんでっ」
「ごめん、ほんとにごめん、はやちゃんのこと裏切ってごめん」
「違うよっ、話しかけてくれたら俺だって話したよ。だって、ずっと話したかったから、でも天音は俺に対して敬語だし、もう知らない人みたいで、俺のこと忘れたのかと思って、運命の番っていうのも嘘なんだって思って…」
颯星は天音の胸に身を任せるようにしながらそう言った。
天音の胸からはドクドクと通常よりも早い鼓動が聞こえる。
「ごめん、はやちゃん、」
天音がそう言うと同時に颯星は天音の背中に手を回した。
そして、天音の胸に頭を預け、静かに口を開いた。
「俺、やっぱ天音のことが好き。運命の番だとかなんかもういい。ずっと天音と一緒にいたい。ね…天音はど……」
颯星は天音に最後の質問をしようとした時、
颯星の肩には天音の涙が、ぽとっと落ちた。
「……ごめっ………俺っ……嬉しくって」
「は、なんで泣いてんの…?」
「ねぇ……!好き!はやちゃんのことが……!」
天音は颯星と目を合わせた。
颯星は咄嗟に吹き出す。
「あはははっ!なにそれっ!」
「……えぇ?」
「ねぇ!天音っ!俺も好きだよっ!」
そう言いながら颯星は天音の顔に顔を近付け、口付けをした。
「天音っ!好きっ!」
「…んふふふ、俺も好きっ!」
天音と颯星は見つめ合い、瞳の奥の奥を見つめる。
あの初夜の時には見えなかったものが二人には綺麗に見えた。
欲望とも執着とも違う。
ただ二人の形。
「んふふ、天音、好きだよ」
「うん、俺も颯星のこと、好き」
雲ひとつない夜空の中で、あの二つの星は静かに二人のことを見守っていた。
今年もまた離れゆく星々とは違い、二人はもう、二度とその手を離さない。
❀ ┈┈┈┈┈┈✿ ┈┈┈┈┈┈┈❀
みなさま〜こんばんは
奥秋ちよです🍁🍂
本日は七夕です🎋
ということで七夕を記念した単話小説を書いてみました。
いかがでしたか?
ところどころ七夕の要素を入れてみたのですが、
分かりましたでしょうか?
みなさま一度窓を開けてみてください。
見えない方もいらっしゃるかと思いますが、きっと今この夜空の中で織姫様と彦星様は一度越しの再開をしているんだと思います。
七夕ってロマンチックですよね💕
ということでここまで読んでくださったみなさま、ありがとうございました。
ぜひ、♡、コメント、フォロー、共有をお願いします。
別の作品でも待っていますねꉂ🤭︎
ではまたお会いしましょう👋🏻︎︎𓂃⟡.·
#きゃらほうかいちゅーい
まっちゃ
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コメント
4件
ふえぇぇぇええ...好きすぎてやばいっなんか普通に暖かくなるし泣けるまじで感動やばぃ、リアルに感動で涙出てるやばい...オメガバでこういうΩちゃまが有能になってるの初めて見たからかな?わや好きになってもーたわ!!
みぅです🤍🥀 「颯星さんが天音さんを想い続ける切なさと、最後の夜空の下で結ばれる温かさ、すごく響きました…。一年に一度だけ会う“織姫と彦星”みたいな関係って言葉が、もう切なくて。でも、天音さんが『大切な人は君だよ』って言った瞬間、胸がぎゅってなって、一緒に泣きそうになりました。運命の番とかじゃなくて、ただお互いを好きだって認め合えたラスト、本当に素敵です。ありがとうございました🌙」