テラーノベル
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#ntjo組
#イラスト
そっか
706
キャプションをお読みの上、ご覧ください。
trkr
前日譚。1話よりも前の話です。
krさんがインキュバスというかサキュバスというかそんな感じです。作中では性別のない夢魔と表現しています。その為猫しっぽではなく悪魔しっぽが生えています。
今日も今日とて社会の歯車として働いて、へとへとで歩く駅から家まで十分少々の道のり。駅でタクシーを拾おうとするも捕まらず。タイミングが悪かったなと諦めて歩くこと五分。
十二時を少し過ぎた住宅街は静まり返り、街灯の明かりだけが点々と夜を照らしているのみ。小さい頃から心霊だとかそういう、所謂怖い話が苦手な俺は少し先の街灯を見て思わず立ち止った。
「…、」
街灯に照らされた白い円の中に、誰かが立っている。
…いやいや、俺だって今まさに家に向かって歩いているわけだし、別に誰かいたっておかしくないだろ。
そう思い直し、そのあたり見ないように地面を見ながら歩みを再開する。靴がアスファルトを蹴る音が鼓動のように忙しなく、例の街灯へ近づくにつれて手に汗がにじむ。幽霊なわけないと思っていても、ほんの一瞬頭をよぎった嫌な想像は心を占めて、次々と過去に見た心霊映像やホラー演出を思い出させる。
だから嫌いなんだよ怖い話は!なんて宛てのない怒りを覚えるも、もはや恐怖心は消えてくれない。
「…っ」
恐怖心とは厄介なもので、さっき見たソレが消えたりしていないかこちらを見ていないか、はたまた動いていないかなんて考えてしまって、見たくないと思いながら確認せずに居られなくなる。
恐る恐る件の街灯を確認すると、その人はまだそこにいた。
真上からさす街灯の明かりを受け、足元にできた自分の影を見ているような体制でうつむき加減に立っているその人は、小さい背格好で男物にしては可愛らしいデザインのパーカーにジーンズ姿。
「…大丈夫ですか?」
「…?」
俯いた姿が行き場をなくした子供の様に見えてしまって、つい声をかけてしまった。
「こんな時間に、こんなところで…」
「…ああ、ただの散歩ですよ。お兄さんこそ、こんな時間まで仕事だったんですか?」
「え、ああ…まあ…、」
こちらを見上げる青年は華奢な背格好も含めて10代そこそこにも見える。不確かな明りの中でも分かる輪郭の整った顔立ち。すっと通った鼻筋に、薄い唇は口角がきゅっと上がって愛らしい。下からこちらを覗き込む様子は子猫を連想させる。俺がそうして見ていると、白髪を耳にかけ、彼はまるで女性のような仕草で首をかしげた。
「お兄さん?」
「え、…あ、何?」
「もう。聞いてなかったんですか?お兄さん名前は?」
「…と…トラゾー…、」
「そっか、トラゾーね」
次々と訊かれるままに答えて、はたと違和感を覚えた。
さっき迄前髪と夜の暗さに紛れて見え辛かった瞳が俺を射抜いて、逸らせない。
「トラゾー、俺ね」
悪戯っぽく笑う彼もじっと俺の目を見つめ、楽しそうに俺の名前を呼んだ。
トン、とたった一歩の距離を詰められ俺は息を止める。
「おなかすいちゃった」
―その声と緑色の瞳に見惚れたまま、俺は彼を自分の家へと案内した。
「名前こうやって書くんだぁ」
昨日テーブルへ出してそのままにしていた郵便物を見て青年が言う。当の俺は、ベッドから起き上がった体制のまま頭を抱えていた。
「ねえ、いつまでそうしてるの?」
簡潔に言えば、俺はあの後彼と寝た。当然同姓と寝るのなんて初めてだし、男が恋愛対象だったわけじゃない。どうしてそうなったのかは曖昧で昨日の俺は何を考えていたんだと泣けてくる。しかも相手は未成年かもしれないんだ。
手を出したと知れれば社会的に終わりだし、警察のお世話になるかもしれない。一夜の過ちどころか一夜で大惨事、馬鹿、誰が上手いこと言えと。
「ん、ふふ、ぁはは、」
ふと顔を上げれば、青年が隣に戻ってきて口元を抑えて笑っている。何がそんなに面白いのかさっぱりではあるけれど、彼の言動次第で今後の人生が左右される身では怒ることも出来ずに首をかしげるしかなかった。
「ふは、あは、んふふ、」
ひい、なんて涙すら浮かべながらひとしきり笑った彼は、未だ気を抜けば笑い出してしまいそうですと言わんばかりの顔で俺に向き直る。
「トラゾー、俺ねえ、別に未成年じゃないよ」
「…は?」
「未成年だなんて言った覚えないし、一晩一緒に過ごしても気づかなかったの、結構びっくりしてるんだけどさ」
本人の口からそう言われても簡単には信じられなかった。顔つきも肌も、それこそ体格や仕草だって……、あれ?昨夜俺に声をかけてきた彼は、こんなにも俺と近い背格好だっただろうか。
―けれど確かに、てっきり未成年だと思い込んだ俺は夜道で声をかけた訳で。その後実際に彼の口から未成年なんですなんて聞いた覚えはなかった。
「…マジ?」
「マジよ?」
「っっっはぁ~~~…」
一気に気が抜けて、ぼすんとベッドに体を沈める。
「頭よさそうなのに抜けてるねえ、トラゾーは」
「そこに付け込んだ奴に言われたくねえよ…」
それはそうだ!とケラケラ笑う青年。
「あともう一つ言ってないことがあるんだけど」
「何、もう驚かないからな…」
「それ前振り?」
さも面白そうに笑った彼は、よく見ててね、とささやくような声で言い、着ていたパーカーをばさりと脱ぎ捨てた。その背中から生えて来たかのようにぶわりと広げられる、真っ黒な羽。ほぼ同時に下着の中からするりと這い出す尻尾。そうだ、昨日の夜俺はこれを見た。家に入るなり明りもつけないままベッドにもつれ込んで、俺の上にのしかかった彼は、今と同じ格好をしていた。
「おま、っ…‼」
「もうわかったと思うけど俺、人間じゃないんだよね。姿も声も全部、俺の自由に変えられるんだよ」
思い出した?なんて無邪気に問いかける彼は鮮やかに染まった目で俺の思考を覗く。彼は昨日、自身のことを何者だと名乗ったんだったか。昨夜の情景を思い出す。確かそう、服も乱雑に脱ぎ捨てながらキスをして、吐息交じりに俺は彼に名前を聞いたんだ。彼は笑ってごまかして、―悪魔だよ、人の精液を食べる夢魔っていうの。―そう答えた。俺はどうしてかそんなことじゃなくて名前をと訊こうとして、もう黙って、と叱られたんだ。
「ほんとは昨日で食い殺すつもりだったんだけどね」
―気が変わったから、生かしておいてあげたの。優しいね俺。そう口元だけでにこりと笑った青年に、気が変わったのはお前のせいだよと言外に言われた気がして、俺は当惑した。
「トラゾー、昨日なんて言ったか覚えてる?」
「な、んか言った…?」
またか、まだ他にもなにかあるのか。いい加減頭が痛い。つい昨晩のことがすぐに思い出せないのは、歳のせいか、ほかに原因があるのか。―覚えてないなんてひどいなあ。なんてどう聞いても思っていない声音で笑った彼は、存外すぐに答えをくれた。このあと俺が頭を抱えることになる、俺の発言を。
「トラゾーは、俺に、好きだって言ったんだよ?」
コメント
3件
あ”ぁ〜!!今回の前日譚ありがとうございます! 策士っぽいkrさんと終始落ち着きのないtrさんが大好きでした!
あおいです🌷第7話、前日譚を読ませていただきました。夜道で出会う二人の距離感が繊細で、特に街灯の下で立ち止まる緊張感と、その先に待っていた予想外の展開がとても引き込まれました。朝になって「好きだって言ったんだよ」と明かされるラスト、続きが気になりすぎます…!夢魔でありながら「気が変わった」というkrさんの心情も、どう転んでいくのか楽しみです。次の更新も楽しみにしていますね🤍