九
後半開始が近づき、神白たちはコート内で円陣を組んだ。
「ヴィライアの選手は、この試合中よく集中してプレーできている。プレスも早く正確だ。だから皆、もうワンテンポ、球離れを早くしていこう。特にユースケ。君はボールを持ちすぎるきらいがあるよ。シンプルなプレーを心がけよう」
キャプテンのレオンが、澄んだ顔付きで所感を述べた。
「うっ、そうっすね。気をつけるっす」天馬が反省したような調子で応じる。
「前半は怪しい雰囲気だった。俺も正直、このまま後半も守り切られて負ける気がしていた。けど、監督はいつも通りだったな。皆、目は覚めただろう。後は勝つだけだ! 行くぞ(vamos)!」
「「おう(si)!」」
威勢良く締めて、神白たちはそれぞれのポジションへと走って行った。
十
全員が配置に付いた。しばらくして主審が笛を鳴らして、試合再開。
ヴァルサ9番が足裏で転がした。受けたレオンは、ゆるやかに前へとドリブルしていった。
敵7番が相対する。レオン、充分に引き付けてから右方の9番にパス。
9番は中に一度運んで、くるりと逆を見た。3番が一直線に上がっていた。
3番にパスが出た。右足外で止めてから、縦へと持ち込んだ。だが敵6番が従いていく。
急加速した天馬が接近。3番はすかさずそちらに転がす。マーカーの10番も追うが、天馬のほうが早い。
天馬は右足を引いた。3番が再び駆け出した。裏へのパスを予測した10番、しゃにむに足を出す。
「オレは囮!」自信満々に言い放つと同時、天馬はボールを上げた足の下に通した。
絶妙なスルーには8番が反応。ダイレクトで正面に転がし、斜め前にダッシュする。
ゴールを背にレオンが受けた。背後では暁が、がつがつとレオンの足を削りにかかっている。
レオンは暁を抑えつつ、真左に落とした。目標は8番だった。
8番はキック・モーションに移行。敵5番がとっさに足を出す。
しかし8番は撃たなかった。右足直下にボールが至ると、すっと足の内側でいなした。
軌道が水平から斜め前に変わった。7番が抜け出た。キーパーと一対一。
7番、キック・フェイント一度入れ、左足で冷静に転がした。ボールがネットを揺らす。
刹那、ベンチが歓喜に沸いた。ヴァルサの出場者は7番に駆け寄る。
「グッジョブ! ブルキッチ! 冴えてるじゃんかよ!」神白も、心のままに7番を讃える。クロアチア人の7番は、嬉しそうな笑顔でグーにした手を上げて応えた。
ヴァルサ、後半開始早々に追いついた。ゴドイの大喝で皆が奮起して生まれた、至高のパスワークからの完璧な同点弾だった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!