朝、6時半。僕は目を覚ます。
視界に映るのは真っ白な天井、
家じゃない。ここはどこだろう、
ふと起き上がろうとすると身体が動かない事に気がついた。
『…あれ?』
声を出したはずなのに、声も出ない。
段々不安で心が埋め尽くされて、過呼吸になっていく。
そうだ、ナースコールを、押さなきゃ。僕じゃない僕のぼんやりとした頭にそう浮かぶ。
それでも身体は動かなくて、
『誰か、助けて、』
そう声を上げた途端目の前に君の姿が映って
意識が途切れた。
もう一度目を覚ました時に見える景色はいつもの部屋の天井。
僕は身体を起こしてうんと伸びをする。
カーテンを開けると陽の光が差し込んで
気持ちが良かった。
リビングに向かっていつも通り母と食事を取る。父親は3年前に行方不明になった。
食事が終わって部屋に戻り制服に着替えて、家を出る。
門の前には きみ の姿。
「おはよ!緋翠、そろそろ遅刻だから急ごや。」
そう声を掛けられて、僕は立ち止まる。
『…誰?』
思わず口から出た。だって、知らないのだ。
いつも通りの朝のはずなのに、知らない。
いつもここで誰かが待っている事は頭の中に入っている。それでも、分からない。
知らない君は狼狽えていた。
「だ、誰って酷ない?毎朝来てあげてるやん。緋翠、寝惚けとる??」
そう言って心配そうに近寄って顔を覗き込んできた。
一瞬後退ろうと思ったけれど、ふと視界がぐにゃりと歪んでその場にへたり込む。
「緋翠!?なんや御前、どしたん!薬飲み忘れたんか!?」
薬、?そう言われて、僕はぐるぐると考える。
薬、くすり。そうだ、僕は、癌だ。
…あれ、じゃあなんで、病院に居ないんだろう
癌だと思い出すと共に、そう思った。こんなに息が苦しくなるなら、学校になんて行ってる場合じゃないのに。
僕はよろよろと立ち上がり、心配する君を差し置いて家の中に戻る。
「緋翠!?ちょ、俺遅れるから学校行くで??鞄持ってっといたるから来れたら来るんやぞー!」
そう叫ぶ声と物音が聞こえたけど、気にしないでリビングに戻る。
『母さん、』
と息が漏れるような声で呟く。
…かあさんって、誰だ。もう、わからない。
また、視界が歪んでいって、ついにはぷつりと意識が途切れた。
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