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アランの指がゆっくりと頬をなぞる。
その冷たい感触に、背筋が粟立つのが分かった。
「……っ」
思わず身体を強張らせると、アランは愉快そうに笑う。
「怖がるなよ、カイル君。僕はただ、君に“協力”してもらいたいだけなんだからさ」
口調こそ穏やかだが、その瞳の奥は焦燥と苛立ちに満ちていた。
こいつ……上手くいってないな。
じわじわと、状況が見えてくる。
アランは本来なら、もっと余裕を持ってフランベルクを引きずり下ろし、自らの計画を推し進めるつもりだったはずだ。
けれど、レイが水面下で動いていた。元はと言えばアルベルトが捕らえられたことから計画が恐らくは狂い始めている。
だから俺をこうして縛り、無理矢理でも利用しようとしている。
結局、父親と同じところにいきついているわけだ。
「……お前、焦ってんじゃん。うまく行ってないんだろ?計画がさ」
俺が口の端を吊り上げてみせると、アランの眉がピクリと動いた。
「強がりかな?……それとも、まだ自分の立場が分かってないのかい?」
「さあ……どっちだろうな?」
挑発するように言葉を返すと、アランは舌打ちして俺の髪を乱暴に掴んだ。
「っ……!」
頭部に引きつられる痛みが走った。
首が強く引かれ、顔が上に向く。
「フランベルクの“鍵”っていうのは、もう少し大人しくしているもんだと思ってたけどねぇ」
アランの笑みが深くなる。
「君がいる限り、結界は維持される。……なら、少しぐらい遊んでも問題はないかな?」
指が顎から首へと滑り、胸元へと伸びる。
悪寒が走る。
「……本気で、俺を傷つけようってのか?」
「傷つける?いやいや、君には“分かって”もらうだけだよ」
アランの手が服の襟を掴み、一気に引き裂いた。
胸元が空気に晒されてひやりとし、俺は思わず息を呑んだ。
分かって、というのは……まさか、と思う。そういうのはエロ同人だけでいいんだわ……。
だいたい、俺……男なんだけどな。そりゃ俺とレイだって男同士だけどさぁ!
弄ぶのはくっころ女騎士とか相場は決まってるだろうに。
俺が心の中で苦虫を潰した、その時。
——ガタンッ!!
突然、外で大きな音が響いた。
「……?」
アランの手が止まる。
……何の音だ?
俺がそう言うよりも早く、小屋の外で怒声が飛び交った。
「くそっ、奴ら早すぎる!」
「こっちに向かってるぞ!」
外にいたアランの手下たちが慌てて声を上げる。
アランが舌打ちしながら立ち上がり、入り口へと向かった。
——レイが来た!
分かった瞬間、俺の中に希望が灯る。
「おい、見張りを増やせ!応戦を出して攪乱させるんだ!」
アランが苛立ちを隠さず叫ぶ。
俺を見下ろす彼の目には、今までにない焦りが滲んでいた。
「……ふーん、随分と余裕なくなってきたな?」
ニヤリと笑ってみせると、アランは低く笑いながら腰の短剣を抜いた。
「君、もう少し痛い目見た方が良さそうだね?」
冷たい刃先が頬に当てられる。
「っ……!」
息を呑むが、恐怖を悟られたくなくて歯を食いしばる。
その動きとアランの剣を引く動きが重なって、頬に裂くような感覚が生じて、温かいものがそこから流れ落ちた。
──血だ。
ぽたりぽたりとそれは俺の膝上に落ちていく。
アランを見上げると歪んだ笑みで俺を見ていた。
——レイ、頼む……早く……!
外では剣戟の音が響き始めていた。