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メランコリー

1 - メランコリー

♥

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2023年09月18日

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❀nmmn作品


❀stxxx様の桃赤


❀地雷等自衛お願いします!


↓↓













受け取って欲しい、と一言。付き合って半年くらい経った頃に貰ったペアリング。



けど、それをお互いに着けることはなくて。

段々と俺も寝室の棚の飾り物として扱うようになってきてしまった頃。



「おはよ、莉犬」


付き合ってちょうど一年と少し、約束場所に立っていた彼の親指に光ったのは、あのペアリングだった。





メランコリー






彼も、自分から贈ったペアリングのくせに今までに一度もそれを付けているところを見たことがなかった。



もう、このリングの事なんて、忘れていると思っていた。


俺ばっかり引きずっていて、彼は俺に飽きてしまったのではないかとさえも考えた。



「……おは、よう」



彼が、何かに耐えるように目を細める。



髪色、変えたのかな。かっこいいな。

あのコート、この前俺がかっこいいって褒めたやつ。


靴も、見たことないな。



色々考えたけれど、あのリングから結局目が離せなかった。


そんな俺に勘付いた彼は、戸惑うように吐息を吐いてから、優しく笑って指輪のついていない右の手で、俺の手を握った。




「行こっか。店、予約してるから」



聊か震えた手を宥めるように、優しく握り返す。


いつもより小さい彼の背中を追うだけで、胸がいっぱいいっぱいの俺は随分疲れてしまった。








冷たいアイスティーを目の前に、黙り込む。



コップの表面から垂れた水滴が机に弾ける。

彼も、気まずそうな雰囲気を醸し出していた。



「あ、の。さとみくん」



ぽつりと莉犬が呟いた。

若干震えた声に顔を上げると、眉を下げた莉犬が不安げにこちらを見つめている。



「なに?」


「…えっと、なに頼みますか」



そっと差し出されたメニューにずっと莉犬が話しかけるタイミングを伺っていた事に気付く。

やっと俺がまともな反応を見せたからか、彼は顔に安堵を浮かべた。


「あ、ごめんごめん、俺はこれにする」



目についたパスタを適当に指差し、莉犬のくるりと揺れた瞳を見つめて、声が震える。


俺のそっけない返事に、また、彼を同じ顔にさせてしまった。



「……」



心配そうにこちらを覗き込む顔に、やってしまった。そう思った。


いつもこうなってしまう。情けない所を無様に晒して、一番綺麗なところだけを見せたいのに。



「りいぬは何食べるの?」


大丈夫だから、心配いらない。そう込めて微笑むと、莉犬はバツの悪そうな顔をして、俺もこれにする、と俺と同じメニューを選んだ


詰まった息を吐く莉犬を見て、行き場のない感情が芽生える。

なんて顔させてるんだ。


自分で選んだくせに、自分で決めたくせに。



後から運ばれて来たパスタはなんとなく味がしなくて、いつもより不味く感じた。







さとみくんの予約してくれたお店を出たあと、なんとか心配させないようにと彼と色々な場所に行って、楽しい素振りを見せ続けた。




本当はずっとそのリングの事が気になってる。


なんで今更、今日つけてきたの。

忘れたと、思ったのに。


もう忘れちゃって、距離を置かれたと思った。

好きが薄れたとかじゃなくて、関係が曖昧になった気がした。



さとみくん、そこまで本気じゃなかったのかなっ、て。


そう思ったら怖くて、ペアリングを受け取った時は嬉しくって堪らなかったのに、いつまで経っても着けていく事ができなくって。






すっかり辺りも暗くなってきた頃、人通りの少ない道を歩いていた。

凍みた風がそっと頬を撫でて、襟足の伸びた彼の髪を揺らす。


ぎゅっと握られた彼の左手のリングは、酷く冷たかった。




「ねえ、さとみくん」


「…なに、りいぬ」


付き合った時に言ってくれた、ずっと一緒にいようなんてきっと空約束だ。



彼は、俺の事をどう思ってる?



ちゃんと、好きでいてくれてるって事は痛い程に分かるけれど。

俺の好きはそんなに可愛いものじゃないの。



所詮男同士、いつか別れる。結婚なんてなおさら。


そうやって考えないと、俺はきっと本気でこの人に恋しちゃうから。

困らせるだけ、引かれるだけ。


分かってるのに。




暇乞いなんて、したくない。

出来る事ならば、死ぬまで一緒にいたいから。



あの時言ってくれた看取ってくれるという言葉を、ほんの少しだけ信じてしまっているから。




けど、こんな繕いだらけの曖昧な気持ちのままじゃ押しつぶされちゃいそう。

本当の気持ちで、話したいと思ってしまうから。




「それ、どしたの」



なるべく平然を装って、震える指を隠して。

長い睫毛を揺らして彼の瞳が揺れた。



──引かれたら、どうしよう。




ひゅう、と冷たい風が足元を吹き抜けて彼の髪を揺らした。





「ビクビクすんの、やめようと思っただけ」





嗚咽を噛み殺した様な声が情けなく震えて、俺の周りの空気を揺らした。

彼は目に憂いを浮かべて笑った。



「……そっか。」



それしか言えなくて、二人でその場に足を止めて暫く手を握りあったまま動けずにいた。


絡めあった指先がピクリと動くと、彼の肩が震えている事に気付く。

どうしたの、と問いかけるつもりで手を握り返すと、彼が突然振り返り俺のことを思い切り抱き締めた。



「さと、」



「なあ、莉犬。」


「笑わないか?」




「…何いってんのさとみくん。…笑わないよ」




強張った糸がゆっくり溶けるように、肩から力が抜ける。



それから、ゆっくりと喉に支えた自身の想念を語ってくれた。



“ずっと好きだよ、看取ってあげる。”

キザなセリフ、聞き方によってはクサイかも。


けれど、今の俺には十分で、さとみくんのこと好きでいいんだって。

安心したら目頭が熱くなって、溢れた雫が輪郭を描く。




「俺も、一緒がいい」


ずっと。

そう語尾に付け足すとさとみくんは瞳を揺らしながら笑った。



「俺、一人でずっと空回ってたってこと?」


「いや、俺もだよ。すげぇダサイ」





「…まあ、莉犬泣いてるけど」


「さとみくんだって泣いてんじゃん、人のこと言えない」



軽口を叩くと、いつもの調子が戻ってきたようでお前もだろ、とデコピンをおでこに食らった。


これじゃ子供みたい。でも、俺達らしい。

あぁ、好きだなぁって。





「莉犬も今度付けてきて。ちゃんとペアリングにしよ」



「ん、」




そっと頬に手を添えると、今度は幸せそうに笑った彼へ、踵を宙に浮かせて背伸びをしながら近付く。


そうすればなぁに、と後頭部へ手を回されて、優しく肩へ顔を押し付けられた。



「なに、急に」


にやにやしながら満更でもなさそうなさとみくんは愛猫に話しかけるときの様な甘ったるい声で笑う。



「ねえ、髪色変えた?」



綺麗にセットされて横に流れた前髪を少し崩すと、やんわり止められるように手を添えられて、変えたよと目を細めた。



「りいぬ、今日泊まる?」



「いいの?」



「いいよ。」



そうやって今度は俺の髪を触ってくる。

その手が段々と頬、肩へと到着したところで唇を近付けられる。

いつもなら突っぱねてしそうな場面だけれど。



あんな恥ずかしい話をしたし、今日くらい素直でいっか。


そっと近づいてきた頬に唇で触れた。

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