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帰れなかった。そもそも、いつも帰れていないのになんで帰れると思ったんだ。数十分前のかっこよくキッパリ帰る決断をしていたわたしに言いたい。
そんなこんなで今は午後4時。2人が帰ったのでわたしも帰ろうとしていたとき、中庭に誰かいることに気がついた。雨がぽつぽつと降り始める。それでも中庭の誰かは動かない。怖くなってきたわたしは声をかけることにした。
恐る恐るわたしが1歩中庭に足を踏み入れると、その誰かが振り向いた。それも、歓喜に満ちた表情で。
それは咲さんだった。毛先が黒い、特徴的な髪だから間違えることは無い。わたしがどうしたのか
聞こうとしたが、それよりも先に咲さんが口を開いた。
「さっき、お友達2人と、私の話、してたよね」
背筋が震えた。きっといま鏡をみたら、わたしの顔は真っ青だろう。咲さんが笑顔なのが余計に怖い。
何を聞かれ、何をされるのだろうか。怒られる? それとも脅される? それっぽいことは何個も思いつくのに、どれもありえないように思えてくる。意図が読めない。それから、わたしは今からどうする? 今からならどうだってできる。素直に謝ってもいいし、全力で駆け出し、逃げることだってできる。それなのに、足が動かない。口が動かない。金縛りにあったみたいに。
雨がぽつぽつと音を鳴らすばかりの、無言の時間が長いこと続いた。その時間を破ったのは、意外にも咲さんだった。
「別に、怒ってるわけじゃないよ。ただ、確認したかっただけ」
咲さんは笑顔だった。不気味なくらい。それと同時に、違和感も感じた。確認なんてしなくても、聞こえていたなら分かるはず。それなのに聞いてきたのは何が理由があるのか。
私が質問に答えるのを待つように、咲さんは一言も話さない。このままわたしが話さなかったら一生帰れないんじゃないか。流石にそれは嫌なので声を出してみる。
「確かに、友達と話してましたけど…… わ、私は、咲さんのこと、悪く思ってないですよ!」
咲さんはわかっていたような表情で私の言葉を聞いていた。
「大丈夫だよ。怒ってない」
変わらないトーンで話し続ける。
「それで、本題なんだけど。明日、中央公園に来てくれない?」
私はとりあえず、返事をして、その日は家に帰った。その頃には、もう雨もやんでいた。
それにしても、なぜ中央公園なのだろう。 中央公園とは、私の通う中学校のすぐ近くにある公園だ。毎年咲く桜が綺麗で、前は家族とよく花見に行っていた。今は恥ずかしくて行っていないけど。
そんなことも考えながら、私は眠りについた。