大好き
心の底から、そう思える人
いつから、なんてそんな事全然覚えてないけど
でも、多分———•••
あの時
——————
中編
…誰
『なぁ、何やってんの?』
中学の頃
いつも通り人目のつかない所で壁に寄りかかってると、上から声が降ってきた
窓枠に腕をかけて頬杖をつく彼は俺を見下ろしている
「俺今日転校してきてさぁー、お前何やってんの?」
白い歯を見せて笑うさとみくん
そんな彼に放った言葉は、印象の悪いものだった
「…誰だよ」
「ふっ、ははっ!」
「…?」
「ごめん、名乗るのが遅かった。俺は桃夜さとみ」
お前は?と楽しそうに笑いながら聞いてくるさとみくんはジッと俺の返答を待った
「……赤鬼、莉犬」
「莉犬……いい名前だな」
不意に見せた微笑みに、微かに目を見開く
さとみくんは頬杖をやめるとそのまま軽々と窓枠を乗り越えて隣にドサリと座り込んだ
「いつも此処に居んの?サボり魔?」
「……教室戻りなよ」
「それがさぁ、俺お前の隣の席でさ、校舎見て回るついでにお前探してこいって言われたんだよ」
連れて帰るまで戻っちゃいけないの、とやれやれとした表情で話を進めるさとみくんに俺はなんなんだ、と嫌気がさしていた
ひらりと桜の花びらが落ちてくる
それを手に取り、見つめた
「…君も、いい名前だね」
——————
きっと、一目惚れだったんだと思う
あの日から俺の日常に彼が加わって、世界が色づいたのだから
どうして、こうなってしまったのだろう
「…………」
カラン、と小瓶に入った薬が音を立てる
隣で眠る彼の背中をしばらく見つめて再び薬へと視線を戻した
『__…これを飲んで猫になった莉犬くんに態度がころっと変われば、それまでなんじゃない?』
「……なんか、乗る気しないなぁ…(笑)」
瓶を持った手に力が入る
誰だって、好きな人にはすかれていたいのだから
『__…どうかな。試してみないと分からないよ』
ふと、あの時見せたなーくんの顔が思い浮かぶ
「そうだね、やってみないと…分からないよ」
俺は勇気を振り絞って薬を飲み込み、彼の腕の中に潜り込んだ
___
ずっと、好きだった
あいつは覚えていないだろうけど、あの日、一目見た時から、ずっと__…
桃side
ふわり、と顎を掠める柔らかい感触に目を覚ます
視界に映った赤い髪色に頬が緩み心が暖かくなるのと同時に、違和感を覚えた
何かがおかしい
なんだろうか、と頭を撫でて確認して、あることに気がついた
こんなに耳が小さかっただろうか、と
密着していた身体を少し離して顔全体を見る
「……………」
数秒見つめて、ふと顎を撫でてみる
するとコロコロととても可愛らしい音を出すではないか
明らかに感じる違和感に、まだ覚醒していない脳で懸命に考えていると、2件の通知が鳴った
スマホを開き、送り主であるるぅととなーくんのトーク画面を開く
『覚えとけ』
『次はないよ』
一体なんの話なのだろうか
意味のわからないメッセージに眉間に皺を寄せ、スマホの電源を落とした
「………りいぬ〜、おーい」
優しく頬を撫でて名前を呼ぶが、一向に起きる気配のない愛らしい恋人に起きるまでもう1度寝ようと俺は莉犬の体を抱きしめた
赤side
ふと、大好きな香りが鼻をくすぐり、目を覚ます
数度瞬きをした後、小さな寝息が聞こえて顔を上げる
普段の大人びた顔がまるで嘘かの様に幼さの残る可愛らしい寝顔に頬を緩めた
そっと頬を触れるとピクリとまつ毛が揺れ、ゆっくりと開かれる海の色
さとみくんはとろんと眠気の残った少し低く柔らかい声で俺の名前を呼んだ
「………おはよ、りいぬ」
「…おはよ、さとみくん」
「その耳と尻尾、どうしたの?」
体を起こしたさとみくんを追う様に俺を起き上がるとさとみくんは俺の頭を見つめた
「…あぁ、えっと…なーくんに猫になる薬もらったんだ」
「………へぇ、いいじゃん。似合ってる」
「顔洗ってくるから、待ってて」
さとみくんはヘラリと笑い、立ち上がって部屋を出て行った
________…は?
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