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【sk】
ああ、こいつ本当俺のこと好きなんだなあって。
俺にだけ見せる笑顔とか、下手すぎる照れ隠しとか、全然隠せてない嫉妬とか。
感情を隠しきれない照と、大事な部分は全部隠しちゃう俺。
気付きたくなかったな。
全部分かってる俺の行動次第で今の関係性が一転するって、ものすごく怖いことなの分かってる?
「佐久間」
楽屋で康二とじゃれ合っていると、後ろから声をかけられた。
「どしたの照」
康二に引っ付いたまま振り返る。
平静を装ってはいるけど、その瞳の奥には嫉妬の影がちらついていた。
「振りのことでちょっと相談…」
本当は用事なんてないことがすぐ分かる歯切れの悪さ。
「いいよーなになに?」
その場で話を聞こうとするも、真面目な話だからあっちで、と隅にあるソファに誘導される。
「照兄やきもちやーん!かわええな~」
なんて康二に言われて、違うから!って否定してるけど耳真っ赤なの多分みんな気付いてるよ?
なんでかみんな照のこと応援してて、俺が鈍感みたいに扱われて、いつ壊れてもおかしくないバランスに毎日生きた心地がしない。
康二の野次を背にソファに横並びで座って、タブレットで振りの動画をチェックする。
不自然に隙間の空いた俺達の距離。
照が自分の気持ちに気付くまではなかった距離。
気付いてないふりをしている俺は、その不自然な距離を自然なものに見えるように埋めなきゃいけない。
ぴたっとくっつくと照の肩がぴくりと動く。
健気だな、可愛いなって思う気持ちをぐっと抑える。
俺の方がずっと前から好きだった。
照に女の影がちらつく度傷付いて、それを誰にも気付かれないように隠して、そうしてる内に感情を抑えることが当たり前になった。
隣からふわりと香る照の匂い、好きだなあと思って見上げると照と目が合う。
「なーに?」
蕩けそうな程下がった目尻、同性のメンバーを相手にしているとは思えない甘い声で問いかけられる。
「…今日も照いい匂いすんね!」
どろどろした感情を全部隠してニカッと笑う。
なにそれ、と言いつつ嬉しそうに微笑む照。
可愛い、好き、大好き、って感情がぶわっと体中を駆け巡る。
「照って、ほんとすごいよね…」
つい、呟いてしまった。
そんなに感情さらけ出して怖くないの?
俺は怖いよ、俺の気持ちも照の気持ちも、それを見てる周りのみんなの気持ちも全部怖い。
手に入らないと分かっていたときはまだよかった。
手に入るものになってしまったら、それは同時に失ってしまう可能性にもなるわけで。
幸せを与えられた後に全てをなくしたら俺はきっと耐えられない。
壊れたくないし、壊したくない。
照だってそんなリスクは分かってるはずなのに、なんでそんなに真っ直ぐでいられるんだろう。
「すごいのは佐久間だよ」
愛しそうに見つめられるだけで涙が出そうになるのを、なにー照れるじゃんってヘラヘラ笑って誤魔化す。
「ほんとに、佐久間はずっと俺の神様。」
ずっと、って簡単に言っちゃう照。
簡単には受け入れられないほどずっと照を見てきた。
ずっとって本当にずっとなんだよ?
全てを信じるには拗らせすぎた片思い。
照はいつか俺に伝えるのかな。
伝えるよな、こんなに真っ直ぐだもん。
その時俺はなんて答えるんだろう。
また誤魔化しちゃうのかな、我慢してた思いが溢れちゃうのかな。
「照~!だいすき!」
いつもみたいに抱きついて、感情だけを殺した本気の言葉をぶつけてみる。
「俺も、好きだよ」
熱を持つ感情の孕んだ声色には気付かないふりをして、両思いだね、と笑う。
近いうちにやってくるであろう選択の日はやっぱり怖いけど、今はまだ、もう少しこのまま。
優しく頭をポンポンと撫でる手を大人しく受け入れて、照のくれる温もりだけを感じたくてぎゅっと目を閉じた。