中学校の帰り道、俺は突然の大雨で近くのバス停に逃げ込み雨が過ぎるのを待っている。
「はぁ・・・よりによってここで待たなきゃなのかよ・・・ちっ、制服びっしょびしょ・・・」
俺がちょうど歩いていた所は細い真っ直ぐなあぜ道で、両側には田んぼがあり、特に店も家もなくただ平野が広がっている。
人工物といったら俺が今居るバス停しかなかった。
俺が住んでいる村は超がつくド田舎で人口100人ほどのとても小さい集落だ。どこを見ても山、山が連なっている。山に囲まれていると言った方が正しい。
人とは滅多に会わず、ここのバス停も半日に1回しかバスが通らない。
「雨久しぶりだな・・・1年・・・ぶりかな」
雨雲が近くに来ても山にぶつかるので滅多に雨は降らなかった、珍しいなと思いながらびしょびしょになり貼り付いた半袖のシャツの袖をしぼる。
この大雨が続くと田んぼが冠水する恐れがあるので、走って帰ろうと何度も考えたが、1寸先が見えないほどの大粒の雨が降り注ぐこの状況であぜ道を走ると田んぼに落っこちる危険性がある。
土の匂いと雨の湿っぽい匂いが混じった独特の香りを感じる。
前髪から滴り落ちる水が鼻にぽたっと付きむずむずする。
「は、くしょん・・・・・・さむ・・・・・」
ぶるぶるっと身震いをする。流石に気温は高いものの濡れると体は冷えるものだ。
帰ったらすぐお風呂に入って、暖かい味噌汁を飲もうと考えていた
(・・・ん?)
「え、なにあれ」
大雨が降りしきる中、ふと視界の端に何かが揺れているのが見えた。最初は木の枝か何かが風に揺れているのだと思った。しかし、どうにも違和感が拭えない。目を凝らしてよく見ると、それは木でも枝でもなく、人型の何かだった。
それは異常に背の高い男のような姿をしていた。雨音に混じって、ぬるりとした足音がこちらに近づいてくる。傘もささず、濡れることを気にも留めない様子で、ゆっくりと、しかし確実に歩を進めている。
「・・・こっち来るのかよ」
向こうが歩いてくるにつれて、段々と輪郭が見えてきた。
その人型の何かは、黒いシルクハットを深く被っていた。雨で濡れているはずなのに、その帽子だけは妙に乾いているように見える。顔は見えないが、肌が異様に白く生気を感じられない。
その男はあと一歩で俺の居るバス停という所で止まった。そのまま通り過ぎて欲しいと思っていた。何より怖いのは彼がこちらを向いているように見える事である。
身長が普通の人間ではありえない程高く、確実に人間ではない
しばらく無言の時間が続く。心臓の音がどくどくと大きく脈打ち、相手に聞こえてしまうのではと錯覚する
「お、おい」
「・・・・・・・・・・・・」
勇気を出して話しかけてみたが、返事がない
「お、お前、ここらで見かけない奴だな、どっからきたんだよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「聞こえてんのか?・・・おーい!あんた!こんな所まで来て、なにしてんだよ!」
大雨のザーザーという轟音で聞き取れなかったのか・・・。今度は大声で話しかける
今度は絶対聞こえると思う声量で喋ったんだが返事は何時になっても帰ってこない
ただでさえ生気がなくて恐ろしいのに、こちらを見られているような感覚がある。段々と冷や汗をかいてくる。緊張で喉がからからに乾き、彼から目を逸らせない
「なぁ、ちょ、なんか喋れよ、怖ぇんだよ・・・」
何故話しかけてしまったのだろう・・・こんな奇妙な人に・・・話しかけなければ良かった。そこらの不審者よりずっと恐ろしい。得体の知れない何かに触れてしまった後悔がどっと押し寄せる
最初にも言ったが、この道は人が通るなんてごく稀で、更にしょぼい小さな町なので大抵の人は知り合いなのだ。俺らのような小中学生かじじいしか居ない。だから若い男の人なんて珍しい
どこ出身とか、何歳なのか、なんでそんな背が高いのか、とか知りたかったから、話しかけてしまった。今更それを酷く後悔した
「変なやつ・・・」
俺の声が聞こえているのか分からない
だって返事もしないし、顔も見えないし・・・とっつきにくい奴だな・・・
「・・・ひぇ!」
(入ってくんのかよ・・・!)
しばらくコチラの様子を伺っているのか固まっていたが、ふと屋根に手をかけて屈み、バス停に入ってくる。屋根は2メートル以上あるのに、屈んで入れる事に驚く。
「わ、ぁ」
その男は俺の隣に座ってきた。年数が経っており錆が付いたベンチがギィと悲鳴をあげる。バス停が狭いので俺が少し動いたら腕がくっついてしまいそうだ。
この男、少し動いたら天井に頭がついてしまいそうだ。俺の頭が男の胸辺りで、恐らく2メートルと30〜40cmくらいはある
(ほんとに身長たっけぇな・・・)
前かがみになっているため帽子で顔が見えない、気になって顔を覗き込んでみる
男は人間とは思えないほど整った顔立ちをしている。彫刻のように鋭い輪郭と、完璧なまでに均整の取れたパーツが、どこか現実離れした印象を与えている。その美しさには奇妙な違和感があった。
そうだ、彼の目だ。ぎょろりと不気味に動く赤黒い瞳がじっとこちらを見つめている。確実にこちらを見下ろしているのに、どこを見ているのか分からない。
「み・・・・・・みかけないかおだな、どこからきたんだ?」
覗き込みながら、また、何故か無意識に話しかけてしまっていた。こいつに惹き付けられるものでもあるのだろうか
声をかき消す勢いで雨がザアザアと降っているため、結構大きい声で隣の男に話しかけたが、返事はかえってこないので、やはり威勢のいい独り言になるだけだ
「・・・・・・」
話しかけてしまったのなら、もう少し質問してみようか。
正直とても怖いがそれよりも不思議と男のことを知りたいと思う好奇心の方が勝る。
「あのさ、お前だれ?どっからきたんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
男は黙っている。真隣で話しかけてるから大雨で聞こえてないって事はないはずだ。こちらを見る彼の目は鮮血のように赤いのに、表情はまるで人形のように変化がない
「・・・・・・どこ出身なんだ?」
「・・・・・・・・・・・・」
どうしよう。めっちゃ気まずい
そうだ
俺は下に置いていた通学バックを開け、中から湿気でしっとりとしてヨレヨレになった鶴を取り出した。
「みろよ、今日、学校でつる折ったんだよ、つるって何か知ってる?」
ちょっとバカにしてみた。やはり返事はない。
その男は首をこちらに曲げ、鶴を凝視している。
耳が聞こえないとばかり思っていたがそんなことも無いようだ。
「・・・・・・・・・あんた人間?」
勇気をだして1番気になることを聞いてみた。男は顔をこちらに向けた。赤い瞳と再度目が合い心臓が跳ねた
「ま、まぁ、人間じゃなくてもいいけどね、ほ、ほらよっ!」
怯えているのを悟られないように、わざと声を張る。
「・・・・・・?」
「や、やるよ、つる、学校で折ったんだ」
男の膝に置かれている手をとり、裏返して手のひらに小さいつるを置いた。
しわくちゃで汚いから断るかと思ったが、意外にも男は素直に受け取った。
「もっとけよ、俺いらないから」
男は俺の馴れ馴れしい態度にも反応を示さず、ただ俺を見つめている。男の手の上ではつるがとても小さく見えた。
「お前、て、おっきいんだなぁ」
その身長に見合う手の大きさと指の長さだ
長すぎて俺の首くらいなら片手で包み込めそうだ
ごつごつとした筋張った冷たい手と俺の手を重ねると、やはり2倍ほどの大きさがある。
ありえない大きさに思わず凝視していると、男は俺の笑顔を見て嬉しそうに目を細めた。なんだ、感情があるんじゃないか。
「・・・・・・・・・わ、なに」
ふと、男が手をゆっくりした動作で伸ばしてきたと思ったら、雨に濡れてひたいにくっ付いた前髪を撫で、もう片方の手で合わせていた指をずらし絡ませてきた。
「んな、なんだよ、きもい」
恋人にするようなスキンシップに思わず振りほどき手を引っ込める。
でも、悪い気はしない。だって仕方ない。顔が良い
彫刻のような通った鼻筋、鋭い目付きに驚くほど左右対称な顔、俺は男だが、その美しさについ見惚れてしまう。
こんな人形のように整った顔のやつも、世の中にはいるのだな
俺が普通に話しかけた事がよほど珍しかったのか、つるをあげた時からずっと見つめられている。俺も何故か分からないが、男から目が離せず数秒間見つめあっている状況だ
(こいつ、み、見すぎだろ⋯)
急にものすごく気まずくなりふい、と目をそらす。目の端にまだこちらをじっと見つめる男の横顔が見える
「・・・・・・ま、まだ止まなそうだな・・・」
意識を他に持っていこうと雨でろくに見えない景色に目を向ける。まだ雨は止む気配すらない。
「ぶぇっ!くしょ!」
不意にむずっとし、小さくクシャミをする。濡れたから風邪をひいたのだろうか。
しかも心無しかさっきよりも体温が高くなっている気がする。
(熱が出たらまたじいちゃんに怒られるな・・・)
首から下は雨でびしょ濡れで寒くて仕方が無いのに頭は熱がこもっている感じがする。
目の端では男がまだ俺を見ている。あぁ早くこの地獄のような空気から救ってくれ。誰か・・・。
「ひぇッ!・・・な、なんだよ・・・・・・ッ!」
突然、男は俺の頬を撫で、顔を近づけてくる。その表情には何故か先程とはまったく違う生気を感じ、急に空気が変わる感じがした。
なんだか、なんだかとてつもなく怖い
「ぽ」
「ひっ、あ、え・・・・・・?」
男は俺の耳元で、フクロウの鳴き声のような単語を喋った。初めて聞いた声は鳥肌が立つほど低い
「ぽ・・・ぽぽ」
「ぁ・・・・え・・なに」
「!うぁっ!いだっっ!なんだよっ!」
俺は、いきなり肩を押され、その反動でベンチに頭を打つ。
立ち上がろうと肘をつくが両足を掴まれずりっ、と引っ張られ、また頭をぶつける。
痛みで視界がぐらついた隙に男の腰に乗せられる。
「ひ、ぁ、なんらよ!や・・・やめ・・・・・・・・・ひ」
背をぐにゃりと曲げ俺の頭の真横に肘をつき覗き込んでくる。体がすっぽりと包まれてしまい恐怖で喉がつっかえる。
唇が震えて全身が硬直してしまう。
至近距離で見つめられる
目が、目がぎらぎらしている。さっきは全く生気がこもっていなかったのに、酷く興奮しているようだった
「ぁ・・・こ、こわい・・・ひ・・・なんだよ・・・」
強ばる顔を撫でられる。そして男は心底愛おしいものを見るような目で、にやりと笑った。
「シュン、久シぶり」
「・・・は?・・・・」
一瞬耳を疑った。さっきまで聞こえていた雨の音すら耳に入らない。男から目を離せない
赤い瞳がぎらぎらと光る。その目は、獲物を狙う肉食獣のようだった。
戦慄が体を突き抜ける
なんで
俺の名前知ってんだ
教えた覚えはないはずだ
「合ってる、よね?シュン」
「・・・ち、・・・ちが・・・ぅ」
合っている、合っているが違うと言わないと、何かとてもまずい事になる気がする。
精一杯出した声は震えてしまい、語尾がしぼんで自分でも聞き取れないほどだ
全身の汗が吹き出す。今すぐ逃げ出したい。だが押さえつけられていて逃げられない。
男は俺の両手を、片手でいとも簡単に押さえつける
「あっ!?ひぇ、な、なにしゅるんだよ!」
ばたばたと抵抗するが更に拘束を強くされる
(こ、こいつ、やべぇ⋯!)
遠くに見えた時点で、この男から逃げるべきだった。俺は今、自分の行動を悔やんでいる。
「なんだよ!おい⋯!」
男は顔を近づけて、俺を見つめる。
「ひっ!あぇ、ひぇ」
人形のように無表情な顔面がひどく歪むところを見た。口角が上がり、目を細め、まるで愛しいものを見ているような目だが、どこか不気味な印象を与える
「んぶっ!?」
いきなり、唇に柔らかくて冷たいものが押し付けられる。死人のように冷たい唇を重ねられたのだと気づいた時には、抵抗する機会を逃してしまった。
固く閉じた歯を指で無理やりこじ開けられ、大きくて暖かい舌がぬるっと侵入してくる。ビックリして男の服をぎゅっと握る。唇はひどく冷たいのに、口内はとても熱くて、全身が急速に熱を持ち、ぞわぞわと鳥肌が立つ
「やめっ!んぶっ!んぅ〜ーっ♡」
喉に届くほど長い舌で口内を犯されまともな思考が出来なくなってくる
生まれてから初めてのキスなのに舌を入れられて、無理やりされて気持ちいいなんてそんなの嫌だ、嫌なのに、体は言うことを聞かず、自然と舌を絡めてしまっている。
「ぁ・・・やらぁっ、やだ、やめひぇ♡ぁんっん・・・ふ」
男の唾液と自分のものを飲み込む度にくぐもった喘ぎ声が漏れる。呼吸が上手くできず、飲み込むタイミングが掴めておらず、口から唾液が溢れてしまう
男はかなり舌が長い。俺の舌にぐるりと巻き付き、搾り取るような動作をしながら歯列をなぞられ、舌の裏まで舐められる。口内をかき混ぜられる度に首筋がゾワゾワとする。
「んぅっ!ぷぁ・・・・・・!ふ・・・ん゛んっ!!」
「ウ゛ゥッ・・・・・・!」
男の舌と、口に突っ込まれている指を思いっきり噛む。男は痛みから唸り、舌を引っ込ませる。ずるっと喉から異物が抜けていく。
とろっとした唾液が名残惜しそうに繋がる
ごく、と飲み込んだ唾液には僅かに血の味がした。
「っはっ、ひゅ、げほ、ゴホッ、ぁ、男同士で、きも、っぐす、きもい・・・んだよ!」
口元を拭い、涙目になりながらも赤い目を睨む
男は俺の反応を楽しむようにニヤリと笑い舌なめずりをする。
血が男の口元を伝った。違和感を感じてそれを凝視する
「!?ひぇっ!」
男の血の色はどす黒く、明らかに人間の血液では無かった。別の何かか、妖怪の類だ。何故会ったばかりの段階で気づかなかったのだろうか。そもそも、元から話しかけたかった訳じゃないのに、何故か口から言葉が出てしまった。もしかして、話しかけるように仕向けられたのかもしれない
「・・・な、なんっ??・・・っん、うぁ♡、ァぐ・・・♡」
(なんだ、なんだ!?これ⋯)
体が急速に火照ってくる。心臓が熱した鉄球のように熱く痛いほどだ。心臓の音がバクバクと激しく打ち始める。
快感を逃したくて体をねじると下着がベタついている感覚がする。漏らしたのか?いや、尿などよりももっと、どろりとした、何かがついている気がする
「・・・ふっぁあっ!ぁ、ふ」
あつい、あつい・・・!
顔を覗き込まれる。
自分が今どんな表情をしているか分からないが、ずっしりとした重くて硬いものが俺の下半身に押し付けられている。直接見ていないが、それは恐ろしいくらい大きいことが分かる
「あっ、やぇ、さわんな・・・っ!」
大きな手で、優しく頭を撫でられる。それだけでビクビクと腰が痙攣する
男が俺を見つめる。
こんな感覚は知らない、変なところ触られて、男にキスされて気持ち悪いはずなのに、気持ちいい
「んっ、はぁっ、はぁ・・・ひっ、なにすんだ・・・」
俺の火照った手に氷のような冷たい指が絡む。
「ん・・・・・・」
気持ちよくて、無意識に握り返してしまう。
(やだ、違う、俺、なんできもちいいって、思ってんだ)
「俊、すき、すき」
男は確かに、そう言った。俺を真っ直ぐ見つめながら。俺を愛おしそうに見つめる赤い目を見ると、どこかで会ったような気がする。特徴的な見た目の若い男は集落には1人も居ないので、記憶違いではない。
「・・・・・・は?あっ!なにすんだよ!ひ、やめろ!」
男の長い爪が、いとも簡単にシャツを引き裂く。薄い胸板にピンクの突起が無防備にさらされる。
「ヒッ、やぇ!ごめっ、やめてくださっ!ひぇ!」
(こ、こいつ⋯!物凄い力だ、ビクともしない)
反射で逃げようと体をよじるが、大きな体でのしかかられ、身動きが取れなくなる。乱暴にされたものの、不思議と肌に傷はついていない。
せめてもの抵抗で足をばたばたさせるが全く怯む様子がない。汗ばんだ首筋を強く吸われ、ひゅっと声にならない悲鳴が出る
「ァ、んぁっ♡、い、やめろっやめ・・・っ」
シャツがはだけて見えた胸板を揉まれ、突起をつままれる。長い爪で傷つかないようにか、指の腹で優しく撫でられる。気持ちよくないはずなのに、女のように反応してしまう。
「ん、ん・・・う゛ぅっ・・・・・・」
嫌だ、怖い・・・
「も、やだ、♡やだぁ!!・・・!!!?オェッ、ァ・・・」
いきなり、何かが喉に詰まったような感覚が襲う。
息、ができない
「はぁ、はぁ♡」
どんどん体が熱く火照ってくる。
こめかみに熱が溜まっていくばかりでジンジンと頭が痛くなってくる。
「・・・しゅん?」
心配そうな声がどこからか聞こえる。涙でぐちゃぐちゃにふやけた目元を撫でられる。
あぁ、冷たい、きもちいい・・・
男の首に腕を回し、力の入らない足を必死に腰に絡ませる。
そのまま顔を近づける。
「ん・・・・・・ん・・・♡は」
気づけば自分からキスを求めていた。舌を絡ませようとするが痺れているのか上手く動かない。髪を優しく撫でられ下半身に熱が篭もり始める。
「んぷぁ、はふ♡、ぁ、う♡」
舌を吸われ、かき混ぜられる。息が出来なくて苦しい、苦しいのにきもちいい
「ぷはッ、ひゅー♡、ふぅ、ふぅッ♡、ふ」
窒息寸前で唇を離した瞬間、ガクッと首が垂れベンチにもたれかかる。
ゴッ、と鈍い音が後頭部でしたが痛みは感じない。感覚が麻痺している。
しがみついていた手足もだらんとする。力が入らない。目の前が段々と暗くなって、何も考えられなくなる。
俺の額を冷たい手で触られる。じゅうっと焼けたような音がし、白い煙が男の手から出る。
「ん・・・ちめたい♡きもちいい♡」
男は俺の脇に手を入れ持ち上げる。そのまま抱き寄せられ、俺は男に寄りかかる。男の冷たい体が心地よくて頬を擦り寄せる。
「んふ、ぁ、ぁ〜」
頭がボーっとして体が動かない。
「んっ、あ♡」
剥き出しになった首をじゅっ、と吸われた後、黒い細かいものが視界を覆っていく。髪の毛?みたいだ。
不安で男の服をぎゅっと握っているが、手の感覚がない。俺は今服を握れているのだろうか。
「シュン」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
返事をすることも、瞼を開ける気力すらもない。首をだらんと垂らし、男にただもたれかかっている。支えられないと地面に落っこちる状態だ。
瞼を閉じていると酷く眠たくなってくる。うっすらと意識がかすんでくる。
ザアザアと小さく雨の音が聞こえる。雨音が数キロ先の音のように遠くで聞こえる感じがする。
「明日、の夜、迎えに行く」
俺が意識を手放す直前、人間にそっくりな声で男はそう言い、俺の頭を撫でた
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