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エメラとアディは魔獣界と魔界、2つの世界で結婚式を挙げた。
その後しばらくして、エメラは無事に女の子を出産した。
魔獣王アディと王妃エメラ、そして側近クルス。
肩書きは変わっても、今も変わらぬ3人が要となって魔獣界を治めている。
それから少しの月日が流れる。
「あ、エメラ! クルス見なかった? 最近サボりすぎなんだよアイツは。お仕置きが必要だね、まったく」
城の渡り廊下でエメラに会うなり、アディは不機嫌な顔をして愚痴を言い続ける。
今ではもう『エメ姉』とは呼ばない。娘が生まれてからは、すっかり父親の顔だ。
そんなアディの愚痴も日常茶飯事。エメラはいつでも笑顔で対応する。
「あら、ローラもいませんわね。という事は、決まってますわ」
ローラとは、エメラとアディの娘。現在、見た目の年齢は3歳くらい。容姿はエメラにそっくりな魔獣界のお姫様である。
会話が途切れて廊下が静かになった瞬間に、どこからか楽しそうな話し声が聞こえてくる。向かい合っていた二人は同時に中庭の方に顔を向ける。
中庭のグリーンの花畑の中に埋もれるようにして、黒いスーツの青年と黒いドレスの女児が楽しそうにじゃれ合っている。
「ねぇねぇクル兄ー!! いつローラとケッコンしてくれるのー?」
「結婚ですか、そうですねぇ……」
幼児のローラはクルスに恋をしている。これはもう溺愛。すでに結婚する気満々らしい。
そしてクルスもまんざらではなさそうだ。
「ローラ様が大人になるまでお待ちしてますよ」
「えー? それって、いつ? クル兄は、ずっとローラを待っててくれるの?」
ローラが大人になる時が、クルスの刑期が終わる時。その時、クルスは罪から解き放たれて自由になる。そして恋愛も。
……だが逆に、それが愛という名の束縛の始まりなのかもしれない。
愛しかったエメラのおもかげを残すローラを膝の上に乗せて、クルスはようやく手に入れた本当の幸せを抱きしめる。
「はい、何百年だろうと。待つのも追いかけるのも得意なんです。これが僕の執愛ですよ」
「しゅーあい? なにそれ!」
ローラは、希少種の魔獣『バードッグ』である両親から受け継いだ金色の瞳を満月のように丸くして首を傾げる。
そんな二人の世界には誰も入り込めない。
遠目で見ていたアディは何も声をかけられずに、さらに遠い目をした。エメラは笑顔で見守っている。
「あいつ……娘に変な言葉を教えないでほしいね」
「ふふ、ローラはクルスさんに取られちゃいましたわね」
「……なんかムカつくね」
見た目3歳児にして、もう娘を嫁に出したかのような切なさも感じる二人であった。
クルスの執念と執愛が世代を超えて、見事にアディの大切な『娘』という宝を奪い取った。
これはクルスの意図的な逆襲なのか、今では毎日『見せつけられている』のはアディの方なのだ。
「あいつ、ローラに魅了でも使ったのか?」
「使えませんわ。クルスさんの魔力を封印したのはアディ様ではありませんか」
「……そうだった。くそっ!」
悔しがるアディのセリフは、もはや負け犬のようであった。
「クルスのやつ刑期って事を忘れてないか? ずっと城に居そうだよね」
「まぁ、よろしいじゃありませんか」
願うならば今度こそ、クルスには罪のない恋愛をしてほしい。
「エメ姉!! 悔しいから、もう一人子供を作るよ! 今度は男子で、立派な魔獣王に育てて……」
「まぁ、アディ様ったら。悔しいのではなく、寂しいのでしょう?」
アディは寂しくなると無意識に『エメ姉』と呼んでしまう。子供が男子ならクルスに取られないとでも思ったのだろう。
狂愛のアディと執愛のクルスのマウントバトルは永遠に終わりそうにない。
「見てろよクルス~! 今夜、あっという間にエメ姉を身籠らせるよ!」
いつになっても、いつまでも、アディは変わらずアディなのであった。
エメラとアディの娘、ローラ。
その名は、エメラルドグリーンの花『イキシア・ビリディフローラ』から取った。
花言葉は『誇り高い』そして『秘めた恋』。
エメラのように誇り高く、幼い恋心を秘めて、ローラという花の蕾はいつの日か咲き誇る。
その時に、この花畑でまた新たな『約束』が結ばれる。
―完―