「……なんだ、それ?」
葵の声が震えた。
亡霊を操る自分が、”恐怖”を覚えるとは思わなかった。
バルドの影――いや、影から這い出てきた”何か”は、人の形をしていなかった。
いや、そもそも”形”があるのかも怪しい。
それは黒い霧の塊だった。
でも、ただの霧じゃない。
そこに無数の目が浮かび上がっている。
バルドの影から、数百の”目”が、葵を見ていた。
「俺がここで生まれたのは知ってるな?」
バルドは穏やかに言った。
「でも、それだけじゃない。……俺は”この船そのもの”でもあるんだよ。」
ゴゴゴゴゴ……!!
船が軋む。
金属の唸り声のような音。
まるで、船が生き物のように、呻いているようだった。
「……嘘つけよ。」
葵は笑おうとしたが、唇が乾いていた。
「俺は、俺の父が作ったこの船の”遺産”だ。」
バルドはゆっくりと歩を進めた。
影が伸びる。
亡霊たちが怯えたように後退した。
「お前の亡霊は、たかが数百年の”死者”だろ?」
バルドはニヤリと笑う。
「でも、俺の影にいるのは、”千年”の亡者たちだ。」
その瞬間――
影の中から、”人の顔”が無数に現れた。
「……たすけて。」
「お母さん……どこ……?」
「苦しい……まだ生きたい……」
葵はゾッとした。
自分が見てきた亡霊たちとは、”何か”が違う。
これは、”力”の亡霊ではない。
“呪い”の亡霊だった。
「どうする、葵?」
バルドはゆっくりと斧を肩に担いだ。
「お前の亡霊が勝つか……俺の呪いが勝つか……。」
「遊ぼうぜ。」
コメント
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すっごい…!!!(めっちゃ目があんのは怖い(((学校行く前に見れてよかった~…!!続き楽しみです!