テラーノベル
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「という感じで全体的に“卒業”をコンセプトにした商品で
パッケージも、“映え”などを意識した派手なものではなく
あえてシックで、シンプルなものにして、味も少し大人な、苦味まではいかないまでも
オレンジピールなどを使って、ほのかな苦みと、芳醇な香りの紅茶を作れたらと思ってます」
と星夏(せいか)が商品企画のプレゼンを行った。
「なるほど。これで全員か」
と星夏で全員のプレゼンが終了した。
「えぇ〜、まず。皆さん素晴らしいプレゼンでした。お疲れ様でした」
と言われて全員ペコッっと頭を下げる。
「本当なら素晴らしい全員のアイデアを商品化したいところですが
話し合って全員のアイデアを集約するか、誰か1人のアイデアに決めたいと思います」
ということで話し合った結果…
「あぁ〜…」
自分のデスクで項垂れる星夏。
「ダメだったな。ドンマイ」
と夕彩(ゆあ)が星夏に言う。
「オレのことをライバル視しないからオレに出し抜かるんだぞ?」
と言う俊。そう。結果的に俊のアイデアが採用された。
「まーあれだな。経験の差だわな。塩地はまだこっち(企画部)に来て日浅いからな。
たしかに有恩(ありお)の入学式とか新学期とかの、新しい始まりっぽい爽やかな感じも
塩地の卒業とかもいいんだけど、…発売時期がな?
今の時期に企画開発して世に出すってことは、5月とかに世に並ぶってことだからな?
だとすると入学式とか卒業ってのはな?
オレみたいにもっと新緑の季節を想起させる、新生活の緊張感とかのほうがいいかもなぁ〜」
と得意気に言う俊を
「てか塩地先輩、自分のコンセプトパクったじゃないっすか。パクらないって言ったのに」
「パクってないよ。有恩くんは始まりで私は卒業をコンセプトにしたから」
「いや、自分からインスピレーション受けてるでしょ」
「まあぁ〜…否定はしないけど」
無視して話を続ける怜視(さとし)と星夏。
「…先輩は寂しいぞ?」
と言う俊の肩に手を置いて「ドンマイ。先輩はそんなもんよ」とでも言いそうな顔をして
「…ぷっ」
っと笑う青音羽(あおば)。
「おい、篠時(しのじ)。同期として声かける場面だろ」
「すまん。おもしろすぎたわ…」
「お前」
「いいから自分の企画通ったんだから仕事しろー」
と言われた俊は仕事に取り掛かる。
「あ、そうだ。次の商品企画のテーマなんだけど、もう決まってて」
と言われ、デスクで項垂れていた星夏がパッ!っと顔を上げる。
「次のテーマはワイヤレスイヤホンで、うち(会社)もちょいちょい電気製品も扱ったりしてるけど
性能の面で見たら電化製品の会社とかオーディオメーカーとかには到底敵わないから
コラボ商品や話題性重視のものにする予定」
と言われて
コラボ、話題性か…
とまたやる気になる星夏だったが、怜視がバッっと立ち上がり
「次の企画、自分にまかせてください」
と珍しく目を輝かせて宣言した。
「お、有恩くん自信あり?」
と青音羽が言う。
「はい。一定層にはほぼ確定で売れます」
「おぉ〜。じゃ、プレゼン用に資料作ってねぇ〜」
「はい!」
と自信満々の怜視に、次回もダメかもしれない…とまたデスクに項垂れる星夏。
「ワンチャンあるかもしれないじゃん」
と夕彩が星夏に言う。
「…負け戦だというのに私は次回までのプレゼンまでになにをすればいいと言うのさ…」
デスクに額をつけたまま言う星夏。そんな星夏の頭にドスッっと資料を置く俊。
「じゃ、手伝え」
「…先輩のをっすか?…」
「そ。今MD studio(Mina Designer studio)にメールしたら
対面で打ち合わせしたいってことだったから、今から行くから、付き合え」
「私先輩に恋愛感情1ミリもないんですいません」
「ふざけてんならオレだけで行くからなー」
とバッグと上着を持つ俊。
「あぁ。冗談です冗談です!行きます!」
ということで俊についていくことにした。会社前の道路でタクシーに乗り込む2人。
「え、電車とかで行かないんすか?」
「そっか。塩地はMD studio行くの初めてか」
「初めてっす」
「MD studioは徒歩でも行けるから」
「そんな近いんすか?」
「近いんです」
と話して少ししたらタクシーが止まった。俊が料金を支払いタクシーから降りる。
「ここです」
「ここですか」
ビルに入る2人。エレベーターに乗って「Mina Designer studio」がある階へ。
「こんにちはぁ〜」
と入ると
「あぁ!?うるせぇハゲ!!」
「ハゲてねぇわ!!ハゲてるように見える!?見えるなら眼科行ってこいボケ!!」
「んだと!?」
「なんだよ!?早く彼氏と別れて路頭に迷え」
「別れませんー。バーカ」
と女の人と男の人が言い合いをしていた。
「あ…タイミング悪かったっすね…」
と星夏が言うと
「すいませーん。日常茶飯事なんで気にしないでください」
と言いながら女性の方が俊と星夏のほうに来る。
「あ、青牙さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です。あ、こちらMD studioの」
と俊が言うと
「あ、はじめまして。Mina Designer studioでデザイナーさせてもらってます
音多木野(オトキノ)恋呼音(ここね)と申します」
と恋渡音が名刺を出す。
「あ」
とバッグをその場に置いて、キーケースから自分の名刺を取り出して
「株式会社Mina Meet Nice(ミナミナ)の企画部に所属してます、塩地星夏と申します」
と名刺を出して
「頂戴します」
「頂戴します」
と名刺交換をした。
「あ、じゃあこちらどうぞ」
とソファーに案内されてソファーに座る俊と星夏。
恋呼音がコーヒーを入れてきてくれて、ソファー前のローテーブルに置く。
「あ、すいません。ありがとうございます」
「ありがとうー」
「いえ」
座る恋呼音。
「メールで確認しましたけど、パック飲料のパッケージのデザインで」
「そうなのよ。おおまかには資料で送ったとおり」
「はいはい」
「でー…直接話したいってのは」
「あぁ」
と言って立ち上がり恋呼音は自分のデスクに行ってタブレットを持ってきて
ソファーに座りタブレットをいじって
「ここなんですけどぉ〜」
とタブレットを俊、星夏に見せる。
「あぁ〜新緑の感じ?」
「そっす。これってまんま黄緑っぽい感じっすか?それとももっと淡い感じ?」
「あぁ〜…。そうねぇ〜…」
「たとえばっすけど」
と言って恋呼音は自分のほうにタブレットを向け、タブレット用のペンでスラスラスラッっとなにかをする。
その後、俊と星夏のほうにタブレットを向ける。
「ま、たとえば葉っぱを使うとしたら、こんな色なのか、それともこっちみたいな色なのか」
タブレットにはリアルな葉っぱが表示されていて、その葉っぱの左上に①と②と書かれていて
①は濃い黄緑で②は①よりも薄い黄緑色だった。
「すごい!今描かれたんですか!?」
と星夏が驚きながら言うと
「あ、いえいえ」
と恋呼音は笑いながら否定して
「素材を貼り付けて、色いじっただけです」
と言う。
「なるほど」
「①のイメージかな。新緑の色濃い感じ」
「なるほどっすね」
「でもこれくらいならメールで聞けば済んだんじゃないですか?」
と星夏が聞くと
「あぁ〜。いや、メールじゃ伝わらない、直接話さないと伝わらないニュアンスってのがあるんすよ」
と恋呼音が答える。
「か、カッコいい」
「んなことないっすよ」
「ま、でも実際に開発段階に入ってある程度固まってサンプル届いたら持ってくるから
それ飲んでみてデザインに落として込んでもらえる?」
と俊が言う。
「わかりました。ま、最初っからそのつもりでした」
「そっかそっか。さすが」
「いえいえ」
「でもMina Designer studioなんて
うち(会社)もMina Meet Nice(ミナミナ)だから、なんか親近感湧きますよね」
と星夏が言うと
「あ、そっか。塩地は知らないか」
と俊が言う。
「ん?なにをっすか?」
「ここ(Mina Designer studio)うち(会社)のデザイン部なのよ」
と俊が言う。
「…ん?」
軽く首を傾げながら言う星夏。恋呼音を見る。すると恋呼音は笑顔で頷く。
「え?」
「塩地は知らないかもだけど、うち(会社)ってデザイン部ないのよ」
「えっ!?ないんすか!?」
「ないのよ」
「あ、え。そうなんすか」
「そうなんすよ」
「どうりで親近感あると思ったら」
恋呼音はにっこりしながら軽く頭を斜めに下げる。
「え、でもなんで外にあるんすか?名前も近いけど違うし」
「あぁ〜それね。いや、社内にあると会社の商品のデザインの仕事が主になるでしょ?」
「まあ、そうっすね」
「ま、外部から発注来ても、その会社ありきで回ってくる仕事だから。
そもそも外注ってあんま多くないらしいし」
頷く星夏。大きく2回頷く恋呼音。
「でもデザイン部を独立させることで、うちの会社に縛られることなく
いろんな依頼が来るから、あえて独立させてるんだってさ」
「へぇ〜。なるほどっすね」
恋呼音も笑顔で頷き
「らしいっす」
と言う。
「あれだもんね?テレビ番組のコーナーのロゴデザインとかもしたことあるんだもんね?」
と俊が言うと
「あ、はい。自分じゃないっすけど、ありますね。今もときどき来ますよ。
あとはボーイズグループとかガールズグループとかアイドル
アーティストのグループロゴのデザインとかも。Super Visualって知ってます?」
と言う恋呼音。
「知ってます知ってます」
「あのグループのロゴ、デザインしたのもうちの者(もん)っす」
「スゴっ!」
「他にもっすねー、Talkative eys、Pretty or Dead、UNDER THE MOONLIGHT
More Fair、A phantom tree、Envied Model、KAWAII scene creaters
愛嬌ファーストクラス、The CUTEST in the planets、Art Wizardなどもそうっす」
「すご!UNDER THE MOONLIGHTとかA phantom treeとかEnvied Modelとか、私でも知ってます!」
「ま、とびきり売れてたり、とびきり地下だったりしますけどね。私でも知らないアイドル多いですもん。
あと売れてても、本人たちはグループロゴをデザインした人のことなんて
1ミリも気にかけてないでしょうし」
なんて話をしてコーヒーを飲んで
「んじゃ、またなんか会ったらメールで」
「うっす」
「私もデザイン頼めるように企画通せるように頑張ります」
「うっす。待ってます」
と言ってMina Designer studioを出た。そしてタクシーを呼んでタクシーで会社へと戻る。
「塩地、このままオレの商品開発手伝うか」
「え」
「だって次は有恩に勝てる気しないんだろ?」
「まあぁ〜…。あんな自信見せられたら…」
「だったらオレのを手伝って感性磨いた方が次に繋がるんじゃねぇか?ってな」
「あぁ〜…。たしかに」
「ま、ぶっちゃけ、若い子の感性も借りたいって思ってたからな」
「若い子って。先輩も然程変わんないじゃないっすか」
「まあな?」
ニカッっと笑う俊。会社についてオフィスに戻る。
「戻りましたー」
「たーだいまぁ〜」
「おかえりぃ〜」
「おかえりなさい」
星夏が自分のデスクのイスに座ると
「どうだった?初デザイン事務所は」
と夕彩が近寄ってきて聞く。
「いやぁ〜、なんかすごかった」
「すごかった?」
「入った瞬間めっちゃケンカしてた」
「あぁ〜私のときもそうだったわ。金髪の人と茶髪のショートカットの女の人だったでしょ」
「そうそう」
「茶髪の人、那須場(なすば)明音心(あおこ)さんっていってさ?私の商品のデザインしてくれた人でさ?」
「え、へぇ〜。そうなんだ?」
「うん。飲み行ったことあるんだけど、バンドマンと付き合ってるんだって」
「マジで!?現実にいるんだ?バンドマンの彼女」
「そらいるでしょーよ」
「なんか、身近ーではないけど、こんな近くにいるとは思わなかった」
「あぁ〜。その気持ちはわかる」
と話していると
「塩地ー。なんかコンビニかなんかでグリーンアップルの味の買ってこい」
と俊が言う。
「へーい。グリーンアップルだけでいいんすか?」
「グリーンアップルと…オレンジ系、あとミントもあればいい」
「全然グリーンアップルだけじゃないじゃないっすか」
「ま、いいから」
立ち上がる星夏。俊の近くへいって手を出す。俊はお金を手渡す。
「あ。レシート。忘れんなよ?」
「うす」
「なに?おつかい?」
夕彩が星夏に聞く。
「ま、そうだね。てかそう。私、青牙先輩の商品開発の手伝いすることになったんよね」
「え。なにそれ」
「いやぁ〜、次回の企画プレゼンは有恩くんには敵わなそうだからさ?
その時間を無駄なプレゼン資料作って過ごすよりは、青牙先輩の手伝いしてってほうが有意義かなと」
「なるほどねぇ〜」
「んじゃ、ちょっといってくるわ」
「ん。いてらー」
「いってきまーす」
とオフィス内全体に言う星夏。
「「いってらっしゃい」」
「いってらっしゃーい」
「いてらー」
いろんな「いってらっしゃい」を聞いてオフィスを出た。
一方、マジックバー&バー「immature lure portion(インマター ルーア ポーション)」には
恋斗が掃除のために鍵を開けるために向かっていた。するとすでに店のドアの前に美陽楼(みひろ)がいた。
「あ、すいません九尾さん」
「あ、ううん。全然」
店の鍵を開け、中に入る恋斗と美陽楼。
「じゃ、掃除しますか」
「だね」
ということで2人で店の掃除を済ませた。
「店開けるまで時間あるんで、好きに過ごしてください」
「うん。じゃ、ちょっとコーヒー飲んでくる」
「はい。ごゆっくり」
「うん。いってきます」
「いってらっしゃい」
と美陽楼が店を出ていった。恋斗は店のテレビで映画を流しながらカードマジックの練習をしていた。
すると店のドアが開く。
あぁ〜…このタイミングで美陽楼さんが戻ってくるわけないし…
いや、もしかしたら忘れ物なんてこともあるかもしれないけど〜
どうせ一希さんか舞雪くんか真白くんのホスト誰かだろうなぁ〜
と思い
だぁ〜れだっ
っとドアのほうを見ると
「オシャレなとこだなぁ〜」
「どうもぉ〜」
と金髪の男性とミルクティー色の肩に髪がかかるかかからないかの男性2人が入ってきた。
「あ、どうも。えぇ〜っと…、もしかして一希さんとこの」
「あぁ、そうっす。柳後(やなご)良豪(りょうご)っていやーす。よろしゅうお願いします」
と金髪の良豪が挨拶する。
「僕は御新野(おにの)夜凪(やなぎ)っていやーすー。よろしゅーお願いしますー」
なんかふわふわした感じの夜凪が挨拶する。
「もしかして一希さんに聞いて」
と恋斗が言うと
「あのおっさんに聞くわけにゃーじゃにゃーっすか」
と言う良豪。
「おっさん…」
「すみません。良豪は一希さんをライバル視しとるので」
と言う夜凪。
「あ、なるほど」
「あのおっさんだけじゃねぇ。2位の同じ顔の2人もだ」
「あぁ、舞雪くんと真白くん」
「そうなんですぅ〜」
「このオレ、「Unique 1nveder(ユニーク インベイダー)」から上がってきた轟(とどろき)豪(ごう)(源氏名)様が
名古屋県民の誇りを持って「Run’s On1y」で天下獲るんじゃ!」
「でー…なんでうち(マジックバー&バー「immature lure portion」)に?」
「一希さんや舞雪さん、真白さんが行っとる店に行きゃあ
ナンバー1に上がれる秘密が掴めるかもしれん。ってことで
一希さんの後をつけて、この店にたどり着いたって訳です」
と夜凪が説明する。
「なる…ほど?」
と話していると
「いくらナンバー1、2が行っとる店がわかったらゆーても
元の実力が無けりゃーナンバー1どころか、3(スリー)にも上がれんゆーのにな。ほんま笑わせてくれるわ」
と言う声がして
「あぁん?」
と言いながら振り返る良豪と笑顔で振り返る夜凪。そこには黒髪ショートカットの男性が立っていた。
「あ、世界さん」
と夜凪が言う。
「おぉ〜鬼ちゃん。おはようさん」
と世界と呼ばれた黒髪ショートカットの男性がパッっと手を挙げて笑顔で挨拶する。
「世界…」
良豪が睨むようにして言うと
「なんやぁ〜?ナンバー3様を呼び捨てとはどーゆー了見やねん。なあ?ナンバー4の轟豪さん?」
と世界が言う。
「あんだと?」
「なんやねん?事実やろ」
「…ん?おかしいなぁ〜」
と辺りを見回す良豪。
「なにがやねん」
「あんたの友達はどこにおるんですか?」
「友達?」
「いるがね。いまだに「Unique 1nveder」から抜け出せとらんやつ」
「後輩や」
「後輩か。なんか福岡の福(源氏名)くんとナンバー1、2争いしとるらしいやん。
見てみ?オレら名古屋組は2人揃ってRun’s On1yに昇格して、2人揃ってナンバー4と5や。
それがナンバー3の後輩さんは「Unique 1nveder」から抜け出せんどころか
ナンバー1をキープできてすらいにゃー」
「にゃーにゃーにゃーにゃーうっさいねんボケェ!!」
「んだと!?おみゃーがおると店ん中がソース臭いんだわ!!」
「こっちこそなぁ?自分がおると味噌臭ーて敵わんわボケェ!!」
「あんだと?」
「なんやねん?」
と世界と呼ばれた黒髪ショートカットの男性と良豪が睨み合う。夜凪は恋斗のほうに寄っていく。
「あの人ナンバー3なんだ?」
「そうなんです。斧尾(おのお)一界(いっかい)さんっていって、源氏名が世界さん。
僕たちと同じ「Unique 1nveder」出身で「Run’s On1y」に登り詰め、今やナンバー3です」
「鬼ちゃんって呼ばれてたのは」
「あぁ〜。僕の源氏名ですねぇ〜」
と言いながら夜凪は名刺入れを出して恋斗に名刺を手渡す。
「夜野(よるの)鬼(おに)です。よろしゅーお願いしますー」
「夜野鬼。スゴい名前」
ポワポワ、ふわふわした夜凪を見て
似合わない源氏名だな
と思う恋斗。
「ほな、今日の売り上げで勝負するか?」
「おぉ〜ええじゃねーか。やってやるがね。名古屋のほうが上だってことを証明してやるがね」
「笑わしてくれるわ。大阪は今や東京をも凌ぐ大都市や。名古屋ごとき到底敵わないってことを証明したるわ」
と良豪と一界が言い合ってからしばらく睨み合う。
かと思ったら同じタイミングでスマホを取り出して忙しなくスマホを操作する2人。
そして電話をかけているのか耳にスマホをあてる。
「あぁ〜。同伴合戦が始まったー」
と呟く夜凪。
「あぁ、営業の電話か」
電話をしながら店から出ていった良豪と一界。
「えぇ〜っとぉ〜…夜凪さんはいいんですか?」
「ん?なにがですか?」
「え。いや、同伴とか」
「んん〜。僕はあんまり無理したくないタイプなんで」
「あ、そうなんだ」
「それじゃ。僕も失礼します。またゆっくりお邪魔させてもらいますね」
と言う夜凪。
「あ、はい。お待ちしております」
と恋斗に言われて夜凪は出入り口から出ていった。
「…嵐みたいに去っていった…」
と呟く恋斗。
「嵐みたいな1日だった…」
イスの背もたれに寄りかかれるだけ寄りかかりながら天井に吐き出す星夏。
「しかもたぶんちょっと太ったしな」
と言う夕彩。
「太ってー…ないでしょ」
とは言うものの自信はない星夏。
「もう上がるっしょ?」
「上がる上がる」
「行く?」
どこにとは言わなかったが
「行く!」
察した星夏。
「お疲れ様でしたー。お先でーす」
「お疲れ様でしたー。お先でーす」
と夕彩、星夏がオフィスの全員に挨拶して会社を出た。
電車に乗って真新宿で降りる。向かった先はもちろん祭都鈴(まつり)町。様々な店のしつこいキャッチをかわし
ホストクラブ「Run’s On1y」や「Unique Inveder」「Top Rough(Laugh)」などの看板を通り過ぎ
マジックバー&バー「immature lure portion」の前についた。
「ひさびさ?」
「いや…そー…でも…ないんじゃない、かなぁ〜…。夕彩は?」
「私はMD studioの那須場さんと来たから」
「あぁ、ここ来たんだ?」
「居酒屋行ってからのここ。私の定番コース」
「男の人が言うセリフだよね」
と話してドアを開く。
「いらっしゃいま、あぁ!いらっしゃいませ」
と途中で2人に気づいたRENがカウンターを手で指し示す。2人が席に座るや否や、2人の前にコースターを出し
「千石さんはシャンディーガフでよろしかったですか?」
とRENが言う。
「はい!」
「銘柄は」
と聞かれて夕彩が答える。
「すいません。今日は翔輝(しょうき)はいないんです」
と言いながらビールを取り出す。
「あ、いや。ま、残念は残念ですけど」
「千石さんの推しですもんね」
「推し。まあ、推しですね」
RENがシャンディーガフを作り終えるまで注文するのを待つ星夏。
「シャンディーガフです」
RENが夕彩の前のコースターにシャンディーガフを置く。
「ありがとうございます」
「お決まりですか?」
とRENが星夏に微笑む。
「あ、なんか、グリーンアップル系のものってあったりしますか?」
「グリーンアップルですか?ありますよ?」
「グリーンアップルで柑橘系のカクテルとかって作れますか?」
「グリーンアップルで柑橘系。一応グリーンアップルのリキュールを使ったモヒートが
ライムとミントを使ったカクテルになりますけど」
「それで!」
ドンピシャのがあって思わず大きな声が出て恥ずかしくなる星夏。RENは笑顔で
「かしこまりました」
と言って作り始める。
「このカクテルシロップで甘さ変えられるんですけど。甘めがいいですか?」
「あぁ〜…。ほのかに甘みを感じる感じにできますか?」
と星夏が言うと
「難しいですね」
と言いながら笑うREN。
「でもやってみますね」
と笑顔で言うREN。
「すいません。お願いします」
「ここでもグリーンアップルか」
夕彩が言う。
「まあ…。できればいろんなの試したいじゃん?」
「お仕事ですか?」
とRENがカクテルを作りながら聞く。
「あ、そうなんです」
「じゃあもしかして企画が」
と言うとあからさまに肩を落とす星夏。
「すいません…。せっかくRENさんにトランプ貰ったのに…」
「いえいえ!…そうですか…。じゃあなんの」
「先輩の手伝いで」
「あ、そうなんですね」
「次回の企画、後輩の子が自信満々で勝てる気しなくて
そしたら「じゃあ手伝って感性磨いたらどうだ?」って」
「なるほど」
と話しているうちに
「グリーンアップルモヒートです」
と星夏の前のコースターにグリーンアップルのモヒートを置いた。
「ま、とりあえず」
夕彩がグラスを持ち上げる。
「だね」
星夏もグラスを持ち上げて
「「かんぱーい!!」」
と乾杯した。
「…あぁ〜。なるほど…」
「どうです?」
RENが聞く。
「あ、そうですね…。アルコールが強い…かも」
「あぁ〜。じゃあ次はラム抜いてみます?」
「あ、ラムが入ってるんですね」
「そうですね」
「じゃ、次はラム抜きでお願いします」
「了解しました」
と笑顔でRENが言う。しばらく夕彩と星夏で談笑していた。
「デザイナーってすごいよねぇ〜」
「わかる。私も絵へただから絵うまいってだけで尊敬する」
と話していると
「尊敬するですって」
とRENが夕彩の隣の席に座っていた人に向かっていう。
「やめてよ」
と笑う男性。星夏も夕彩もそちらを見る。
そこには右目が隠れる前髪をした、2本の棒状の揺れるチャームのピアスや
ヘリックス(軟骨)やアウターコンク(ピアスの部位)などにピアスをしたイケメンがいた。
「もしかしてデザイナーさんですか?」
と星夏が聞くとそのイケメンは星夏、夕彩のほうを向いて
「あぁ、いえ。無職です」
と微笑んで言った。
「む、無職?」
「はい」
「でも絵がうまいって」
「いえいえ全然。普通の人よりほんのすこーしうまく描けるかなー。くらいで」
と言うイケメン。
「そうなんですね」
コクンと笑顔で頭を下げ、前を向くイケメン。
「MD studioのデザイナーの皆さんも、あんな感じで実は真面目なんだろうね」
「なんで?」
「なんでってそりゃー、いつもデザインのことを考えて過ごして
これデザインに使えるなーとか」
「あぁ〜。でもあのデザイン事務所の名前さ」
「ん?Mina Designer studio?」
「そうそう。あれって「みんなデザイナーなんだよ」って意味らしいよ?」
「…みな、デザイナー…あぁ〜!なるほど?」
「そうそう。だからデザイナーって聞くと「スゴい!」とか「私には無理!」って思われるけど
実は特別な存在じゃなくて、特別な資格とかもいらない、誰にでもなれる職業なんだって。
だからMina Designerなんだって、那須場さんが言ってた」
「へえぇ〜。なんかカッコいい」
「わかる」
と話した後、星夏はグラスを持ち、半分以上飲み、氷がカランっと音を立てる。
「でもみんななにをモチベーションに頑張ってんだろ」
と呟く。
「なにをモチベーションって?」
「いや、自分の企画とか、自分のデザインがパッケージになるんなら
それがモチベーションになるのはわかるよ?」
「あぁ、先輩の手伝いのこと?」
「…まあ…。たしかに商品開発に携わるのは、経験しといたほうが得だとは思うけどさ?」
「あぁ〜ねぇ〜」
RENは黙ってテレビを見る。
「モチベがわからん」
「…まあまあ。せっかく飲みに来てるんだから仕事のこと忘れて、マジック見せてもらいましょうよ」
と夕彩が言う。
「マジックですか?」
RENが夕彩、星夏のほうを向く。
「お願いします」
「もちろんです」
と言ってRENがトランプを取り出す。
「じゃあトランプマジックを」
と言ってシャッフルをするREN。山札を2つに分けて、星夏と夕彩に渡す。
そしてそれぞれシャッフルしてRENに返す。
「では今日はお2人に協力してもらうマジックをしたいと思います」
「おぉ」
「協力?ですか?」
「じゃあまずは」
RENがトランプを扇状に広げる。
「星夏さんに1枚選んでもらって」
「はい。じゃ、これ」
と星夏が人差し指で1枚指指す。
「引き抜いてもらって」
と言われ引き抜く。
「見てもいいんですか?」
「はい。あ!でも千石さんには見せないで、1人で覚えてください」
「はい」
そう言われて1人でトランプを見る星夏。カードはハートの12(Queen)。
「じゃあ弾いていくんで、好きなところに差し込んでもらって」
と言いながらRENがトランプを弾く。カードを差し込もうと思ったら最後までいってしまって
「もう1回いきますね?終わらない前にお願いします」
と笑いながら冗談を言いながらもう1回弾いていく。今度は最後の方で差し込めた。
「じゃ、押し込んでもらってもいいですか?」
山札にカードを押し込む。
「で、シャッフルしますね?」
と手慣れた手つきでシャッフルするREN。そして山札をポンッっと置いて
「では。協力していただくと言いましたが、どうするのかと申しますと
星夏さんが引いたトランプを、千石さんにあてていただきます」
と手でトランプの山札を指し示した後、夕彩を指し示して言う。
「え、いやいやいや。無理無理無理」
と言う夕彩。
「そこが“協力”です。星夏さんが千石さんにカードのイメージを送ってください。あ、言っちゃダメですよ?」
と冗談を交えながら言うREN。
「ど、どんな感じで」
「念を送る感じで」
星夏が夕彩のほうを向き、真剣な眼差しを向ける。
「おぉっ。なんかキタかも」
「嘘つけ」
「じゃ、星夏さんはそのまま千石さんにイメージを送り続けてください」
「はい」
「じゃあ千石さん」
「はい」
RENがトランプを扇状に広げて、数字がスートが書かれている表面を見せる。
「今はどれかわかりませんよね?わかります?」
「これですね」
と夕彩がカードを引き抜く。そして星夏に見せる。ハートの3。
「違う。戻せ」
「はい」
カードを戻す夕彩。RENも広げたトランプをまとめる。そしてテーブルの上に置く。
「手をこうしてもらいたいんです」
と手に手を覆い被せるようにするREN。
「こうですか?」
「そうですそうです。で」
と言ってテーブルに置いていたトランプの山札を持ち上げるREN。
「ちょっと失礼しますね」
と言って被せているほうの夕彩の手に触れる。
「トランプを包んで欲しいんです」
と言いながら夕彩の両手の間にトランプの山札を入れ込む。
「今手の中に山札ありますね?」
「はい」
「星夏さん送ってます?」
「送りすぎて夕彩の頭貫通させました」
「やめろや」
「これで山札の一番上が星夏さんの選んだカードになってたらすごくないですか?」
「すごいです」
「じゃ、失礼します」
と言ってRENは夕彩の両手の横からの隙間から山札の一番上のカードを抜き出す。
「包んだままでお願いします」
と夕彩に言う。
「はい」
「じゃ、捲りますね」
と言ってテーブルの上にカードを捲るREN。スペードの5。
「これですか?」
「えぇ〜っと…。違います」
「違いましたかぁ〜…。…そうだ!手順1個忘れてました!もう一回!もう一回イメージを送ってください」
と言われて夕彩に真剣な眼差しを送る星夏。
「さっき忘れてたんですけど、千石さんは手の中のカードが
今星夏さんから送られているカードだけになるというのを強くイメージしてください」
「だけ?はい」
イメージする夕彩。
「これで、星夏さんのサポートで、夕彩さんのイメージしていることが起こったら不思議じゃないですか?」
「…不思議ー…ですけど、圧倒的に山札ありますよ?」
「もっと強くイメージしてください」
「はい」
「じゃ、いきます。3、2、1の後に開いてもらっていいですか?」
「はい…」
「いきます。3、2」
いや、全然山札ありますけど?
と思うがカウントは止まらない。
「1」
とRENが言ったので
えぇい!
と思い、手を開いた。すると手の中にあったのは
「え?」
「え?どーゆーこと?」
透明な塊だった。そして透明な塊の下にはハートの12(Queen)のカードがあった。
「えっ!すごっ!」
「お見事です。成功ですね」
とRENが微笑みながら小さく手を叩く。
「え、どーゆーことですか?」
星夏がRENに聞く。
「星夏さんのイメージが伝わって、星夏さんのサポートがあって
千石さんがそのイメージをキャッチして、手の中のトランプに想いを伝えたんですよ」
「え。じゃあ夕彩がスゴいん?」
「そういうこったな」
「自分でも驚いてなかった?」
「えっ、え?そう?」
「でも星夏さんがイメージを伝えなかったら、星夏さんのサポートがなかったら成功してないんで」
「私もスゴい?」
「ですね」
「お、おぉ〜」
少し照れる星夏。
「私らスゴいんだ」
「ね」
その後も談笑し、星夏は先程言ったラムなしのグリーンアップルのカクテルを
夕彩はシャンディーガフをおかわりして、その1杯を飲み終えてお会計をした。
夕彩の隣のイケメンも会釈してくれて、RENが出入り口まで見送ってくれた。
「RENさんありがとうございます」
「はい?」
「やる気というか、出ました」
「そうですか。よかったです」
「また来ます!」
「お待ちしてます」
「私もまた来ます」
「はい。今度は翔煌用意しときますね」
「よろしくお願いします」
と話して笑って手を振って帰っていった星夏と夕彩。RENはカウンター内に戻る。
「真鍵(まき)さん、なんで無職だなんて嘘ついたんですか」
RENが夕彩の隣に座っていたイケメンに聞く。彼の名前は亀岳院(きゅうがくいん)真鍵(まき)。
「え?いや、まあ、無職みたいなもんでしょー」
と笑う真鍵。
「全国のマンガ家さんが泣いてますよ」
「いや、他のマンガ家さんはさ?一般人にも人気のマンガ描いてて
大ヒットしてて映画化もしてたりするじゃないですかー。でもオレの描いてるマンガって
映画化なんて可能性は1ミリもない、一般人向けじゃないマンガじゃないですかー」
そう。真鍵は「マッキー」というペンネームでマンガを描いているマンガ家なのだ。
「いや、でも、自分も一般人だと思いますけど、普通におもしろかったですよ?」
と言いながら店のカウンターのお酒が置いてある棚の片隅に置いてある単行本を見るREN。
それは真鍵が何回かこのマジックバー&バー「immature lure portion」に訪れたとき
自分が“売れない”マンガ家だと打ち明け、RENがその単行本を買ってきて
次真鍵が訪れたときに表紙を捲った部分にサインをしてもらった「一喜一憂の日常」の1巻と
「本末くん!!転倒しすぎですっ!!」の1巻だった。
「まあぁ〜…」
「それに「本末くん!!転倒しすぎですっ!!」もアニメ化決まったんですよね?」
「あぁ、はい。今日もアニメ化に関してのことを話して、その帰りです」
「売れてるマンガ家さんは立派な職業ですよ。無職なんて言わなくても」
「立派な職業で言ったらRENさんには敵いませんよ」
と笑いながら言う真鍵。
「自分ですか?」
「とぼけちゃってー。さっきここにいた2人」
「あぁ。星夏さんと千石さん」
「どっちだかわかんないですけど
仕事のモチベーションがって話してたらからあのマジックをやったんですよね?
その人の意見が伝われば役に立つこと。
その人のサポートがあって成り立つことがあること。を伝えるために」
と真鍵が微笑みながら言う。RENは斜め上を見ながら
「な、ど、どうですかねぇ〜」
と言う。
「立派な職業です」
と微笑みながら言う真鍵に
「…。マンガ家さんの目は誤魔化せませんね。
さすがは人気マンガ家さんというところですかね?人間観察の達人」
と言うREN。
「いや、人気マンガ家ではないですよ。人間観察もただの趣味です」
と笑顔で言う真鍵に
いや、人気じゃないとアニメ化もされないし、ポツッターのフォロワーも20万人もいないって
と思うREN。
「ん?」
と微笑む真鍵に
この人の本音、わかんないんだよなぁ〜
と思うRENだった。
星夏は家に帰り、着替えたりメイクを落としたりして部屋の電気を消しベッドに入り
「よし!いい商品作るぞ!」
と気合いを入れた。しかし
…なんでRENさんのマジック見るとやる気になるんだろ…
とRENの意図は伝わってはいなかった。
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