テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「あっ、ごっめーんw」
「ぶつかっちゃったわw」
そう言って笑う奴等は、いつだって嘘を吐く。
本当はごめんとも申し訳ないとも思っていない。
kn「…うん。いいよ」
「はい、これ」
目の前に差し出されたのは、上下逆さまの弁当。
ぶつかった時に落としてしまった、弁当。
kn「ありがとう」
「うっわ、お礼とかキモすぎ」
「まぁ今日も校舎裏か〜」
「あーあ、___の火付けちゃったw乙〜w」
kn「………」
何をしても、何を言ってもこうなることはわかっていた。
ありがとうを言ってもこれ。
ありがとうを言わなければキレられ。
無視すれば胸ぐらを掴まれる。
どうすればいいのだろう。
そもそも、何もなしで終われると思わない方がいいのか。
それなら休み時間も関わらない様にすぐに教室を出るのだけれど。
それよりも、また行かなければならない。
来いとは言われていないが、今の会話で察しろという感じだ。
行かなければ明日からどうなるかわからない。
最近、花瓶も落書きも頻度が少なくなってきていたから、その分をそっちで晴らそうとするのでないかと思い、気が気でならない。
kn「………」
人が少ない、旧校舎に向かう。
この弁当を食べる時間が、唯一1人で過ごせる時間と言っても過言ではない。
さっきまで五月蝿かった周りも、今は自分の足音しか聞こえない程に静かだ。
一番奥にある、少し埃の溜まった教室に足を踏み入れる。
窓から差す光が、微妙に眩しい。
弁当箱を開ければ、少し崩れた中身。
別に特別な事では無い。
kn「いただきます」
手を合わせ、1人で昼食と向き合う。
箸を使って口に入れても、美味しくなければ不味くもない。
なんとも言えない、中途半端な味だった。
kn「………」
校舎裏と似ている、匂い。
別に、この匂いが嫌いでは無い。
窓の外を眺める。
楽しそうに笑いながら昼食を食べる生徒達が、手の届かない程に遠い。
自分にもあんな生活を送れる世界線があったのだろうか。
想像もつかない、というより、想像したくない。
今の自分が、虚しく感じてしまうから。
教室の中の方に向き直り、目を閉じる。
少し聞こえる笑い声。
後ろから差す光。
風が葉を揺らす音。
ドアの開く音。
____誰かの、呼吸の音。
大抵は予想がつく。
何故ここが、と思いつつ、目を開ける。
kn「…なんで」
目の前には、自分の視線に合わせて立つ、彼の姿が。
その瞳は暖かい光を吸い込み、綺麗な青を放つ。
br「渡り廊下からきんさんの姿が見えて」
kn「ふーん…」
br「っていうか、僕も一緒に食べたかったぁ…」
br「ここなら誰からの視線も気にならないし」
kn「っ、」
それはどういう意味で言っているのだろう。
br「クラスメイトに話しかけられないでしょ」
br「面倒臭い奴も近寄って来れないし…」
br「きんさんとお構いなく話せるでしょ」
本当に、彼は何を考えているのだろう。
何故そこまで近づいてくるのかも、わからない。
kn「…俺は戻るよ」
ひょい、と着地をし、ドアに手をかける。
すると、すぐに後ろから足音が聞こえてくる。
br「えっ、ちょっと待ってよ!」
その声を無視し、クラスに向かって足を進める。
br「せっかく来てあげたのに」
kn「来てあげたってなんだよ」
br「1人じゃ寂しいだろーなーって」
kn「………」
いつもの自分なら、その言葉を嫌味としか捉えられない。
それなのに、何故か今は純粋にそう想われていると思ってしまう。
br「え、無視?無視??」
kn「……w」
br「あ、笑った」
kn「笑ってない」
br「ぜっっったい今笑ってたよ!!」
kn「じゃあそういうことにしといて」
br「きんさんつめたーい」
あぁ、駄目だな。
これ以上彼と居てしまえば、きっと彼の印象が悪くなる。
もしかしたら、彼も同じ目に遭うかもしれない。
ずっと、そう思っていたのに。
だから、出来るだけ関わりたくないと思っていたのに。
仕方なく、相手をしていた。そう思っていたのに。
いつの間にか、彼と話せることを嬉しく思う自分がいた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!