テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
れあ
893
羅苑(リエン)
329
蒼依ジン
445
耀聖(ようせい)
189
戦いが終わりを迎え、俺たちがダームウェルに戻った時には、すでに東の空が白々としていた。
【ダームウェル・ギルド前】
「早く寝たいから、さっさと決めろ」
「「殺されたくありません! 盗賊なんて辞めます!」」
捕らえた盗賊たちは、荒事から足を洗って冒険者として出直すなら、無罪にしてやるとガロンに言われる。
さらに促すように剣の切先を向けた匠に脅され、必死に頭を下げていた。
「「改心します! 冒険者になります!」」
そもそも彼らは冒険者崩れだ。
なので次は悪事を働かないよう魔法契約を結ばされ、強制的に再出発をすることになった。
「じゃ、俺たちは昼過ぎにギルドへ行くよ」
「お疲れさん、匠。色々手続きもあるから必ず来いよ」
疲れ切った俺とメアリーは、そのまま宿に戻り、泥のように睡眠を貪った。
そして――。
【ダームウェル・ギルド】
昼過ぎ。匠はまだ重く怠い体を引きずりながら、メアリーと共にギルドへと向かった。
扉を開けた瞬間、いきなり無数の鋭い視線が突き刺さる。
偉い奴でも待っているのかと思いつつ、匠が足を踏み入れると――。
「おお、『瞬殺の匠』が来たぞ!」
「いや、即ヤリの匠じゃねえの?」
「誰だ! いま言った奴つぁぁ!!」
瞬殺――。
グレート・サラマンダーを討伐した匠には、当然のように二つ名が付き始めていた。
だが、嬉しくない方の不名誉な呼び名までが、パワーアップして広まっている。
(何でこうも冒険者ってやつは理性が無いんだ……)
当然、匠は頭を抱えた――。
「次、その名を口にしたら殺す! ……竜斬りでも瞬殺でも好きに呼べ!」
今の俺はレベル1のよわよわ男子だ。この街で誰かに腕試しを挑まれるような事態は避けたいし、不名誉な二つ名が定着する前に、芽を摘むのが最適だ。
剣の柄に手を置き、ジロリと周囲を睨みつける――。
「ヒャー! すみませんでしたー!」
「おい、お前ら、もう少しまともな名前を考えろ! ハァ……」
呆れたような視線を向けていたメアリーは、男たちのくだらないやり取りを聞き流し、そのまま受付へと向かった。
「うひゃひゃー、楽しみ楽しみ♪」
昨日倒したグレート・サラマンダーの報奨金を受け取るため、彼女の瞳はすっかり「$」になり、るんるん気分だ。
「こちらが核になります。それと、今回の報奨金ですが……」
「ああ、やっぱり額が大きいのね……って、うひゃあ!?」
滅多に狩ることができないグレート・サラマンダーの素材を換金すれば、途方もない額になる。
皮も骨も最高級素材として取引され、肉に関しては超レア品として市場に流れるのだ。
その価値をすべて現金化すれば、出先のギルドでは到底支払いきれない金額になる。
預かり証を受け取ったメアリーは、そこに並ぶ「0」の数字を数えながら、ニンマリと口角を上げた――。
「十分すぎる程の路銭が稼げたね。それにしても大きな核だよな」
「ええ、そうですわね……」
渡された二つの核はとにかく大きく、売ってしまえば一生暮らせるほどの価値があるのは間違いない。
(この核は匠様ならきっと譲ってくださるでしょう。でも、それではさすがに借りを作り過ぎだわ……)
だが、グレート・サラマンダーを討伐したのは匠であり、その所有者はメアリーではない。
腕を組み、眉間に皺を寄せて悩む彼女の様子を見た匠は、そっと肩を叩いた。
「それは君のために使うと決めていたものだ。遠慮しなくていいよ」
「うぇ〜ん! ありがとうございます、匠様! 一生かけてお代をお返しします〜!」
そんな様子を見ていたギルド長のガロンが、匠に向かって一つの指輪を差し出した。
「匠、ありがとう。これは今回の俺からの個人的なお礼だ」
渡されたそれは、『次元指輪』だ!
「ガロン、こんな高価なもの、俺が貰ってもいいのか?」
これは、冒険者や旅人にとって必需品ともいえる、格納スキルが付与された魔導具の指輪だった。
収納容量は埋め込まれた魔石の大きさで決まり、魔石が大きいほど価値も跳ね上がる。ガロンが差し出した指輪には一際大きな魔石が備わっており、お礼の品として申し分のない逸品だ。
「匠は持ってないだろ、助けてもらった礼には、これが一番だと思ったんだ」
「そうか、ありがとう。素直に貰っておくよ、このデカ物どうしようかと迷っていたところだったんだ」
貰った指輪はブカブカだったが、中指に通すとスッと小さくなり指になじむ。
深紅の魔法石を眺めた匠は、少しだけ口角を上げる。
「それとな、今夜この街で魔物討伐の祝賀会を開く。君は主役なんだから、必ず来てくれよ」
「ああ……正直気乗りはしないが、不参加は無理そうだな」
「お前は謙遜しすぎだぞ。それに、そんなにいい女を連れてるんだからな、ガハハ!」
S級魔物を討伐したという大金星の報は瞬く間に広がり、街を挙げて盛大な祝いの席が設けられることになってしまった。
【夕方・ギルド内特設会場】
「おお、主役が来たぞ! さぁこっちに来い!」
「ダームウェルの英雄のお出ましだ! さあ乾杯をするぞ!」
「どうせなら楽しまなきゃ損ですよ」とメアリーに促され、二人は身綺麗にして宴に参加した。
会場では、匠の神業とも言える剣技に惜しみない絶賛の声が寄せられる。
「あ、ありがとう。それじゃ遠慮なく……」
「はいはーい! お腹すいたからさっさと乾杯しましょう!!」
祝杯があげられ、運ばれてくる料理はもちろん、グレート・サラマンダーの肉尽くしだ。
皆が幸せそうな顔を浮かべ、豪快に肉を胃袋に放り込んでゆく――。
「うわぁ、めちゃくちゃ美味いなこれ、手が止まらないぞ」
グレート・サラマンダーの肉は、あの鎧のようなゴツい体表からは想像できないほど柔らかく、とにかく絶品だった。
匠も思わず食べることに集中してしまう――。
(……今日だけは、本来の自分を取り戻せた気がするな)
そんな確かな実感が匠の胸に去来した。しかし、同時にその喜びは冷たい影によって半減してしまう。
ふと視線を落とすと、昼間まで青く輝いていた例の指輪が、今は光を吸い込むような漆黒へと変化していたのだ――。
(次は……俺の命を吸わせないと、駄目なんだな)
指輪は静かに鈍い光を放っていた。それはまるで「次はいつだ」と催促するように。
あの力を使うたび、代償として削られるのは己の寿命。あと何度、この剣を振るえるのだろう――。
そんな匠の憂いなど露ほども知らない、ご機嫌な眼帯娘が酒杯を手に絡んできた。
「ねえ〜、たくみぃ〜さーま……!」
琥珀色の液体を見つめて深く考え込んでいた匠の隣に、すっかり出来上がったメアリーが千鳥足でやってきた。
「うおっ、メアリー!?」
どういう風の吹き回しか、酔っ払ったメアリーが妙に甘えた声を出し、その豊かな双丘を匠の腕にこれでもかと押し付けてくる。
(顔はタイプとは少し違うけどぉ~……やっぱり強い男は好きぃ~……)
本能的に強い男に惹かれる性質を持つメアリーにとって、戦場で圧倒的な無双を見せた匠の姿は、完全にド・ストライクだったらしい。
「たくみ……さま?……ほらぁぁ、顔色が悪いよねぇぇ」
「昨日の疲れだよ」
「これはねぇぇー……頑張った匠様への、ご褒美でしゅ……」
匠がその大胆な密着にドギマギしていると、ふと、彼女の豊かな胸の谷間に違和感を覚えた。
衣服の隙間から、薄く半透明に輝く、宝石のような不思議な「欠片」が見え隠れしている――。
「……メアリー、それ、胸のところにあるの何だ?」
「んあ? これぇ? ……アングがぁ、くれたうろこだよぉぉ……」
匠が指差して問いただすと、メアリーはとろんとした目で笑いながらそう呟き、そのまま匠の肩へ頭を預けてきた。
すぐにスー・スーと穏やかな寝息を立て始める。
「アングって……あの神獣の大蛇アングィスだよな……?」
あの大蛇が授けた鱗。その意味を考えながら、匠は腕の中で眠るメアリーの横顔を静かに見つめていた。
冒険者たちは笑い、酒を酌み交わし、誰もが明日も同じ日々が続くと信じていた。
――この中で、それが叶わないかもしれないと知っているのは、匠ただ一人だった。
【ギルドお勧めの宿・翌朝】
昨晩の宴は深夜まで続いた。
途中で眠ってしまったメアリーを抱え、匠は宿へ戻ると、そのまま眠りについた。
そして翌朝――。
「匠様! 確認なのですが……私をちゃんと宿に連れ帰ってくれましたよね!?」
朝目覚めたメアリーは、曖昧な記憶を辿りながら、恐る恐る確認してきた。
昨夜の自分の大胆な行動をうっすら覚えているのだろう。匠はニヤリと笑って答える。
「ああ、疲れて寝ちゃったんだろ?…… メアリーは意外に軽くて運びやすかったよ」
「!!ひゃーっ! 恥ずかしいぃぃぃぃ!」
お姫様抱っこだったのか、おんぶだったのか。
何にせよ、好みの男の子に運ばれたと分かって一発で赤面したメアリーは、両手で顔を覆って俯いてしまった――。
「コホン、呪いを解く素材は全部揃った。とりあえずアイツに連絡を入れた方がいいんじゃない」
「えーっと、まだ足りないのは神域に住む大蛇の鱗でしたっけ?」
「……いや、もう揃ってるだろ」
すでに手元にあるというのに、このお嬢さんには、神様と過ごしたという自覚がないらしい。
頭を抱えながら、匠は胸元にあるペンダントを指さした。
「あっ、あったわ」
意味が分かったメアリーは、照れくさそうにはにかみながら、ペンダントから一枚の鱗を取り出した。
こうして、二人の次なる目的地はウィッシュランド魔法皇国へと決まった。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第75話、読み終えました。 お疲れモードの匠とメアリー、ほっこりする日常パートが沁みました…。グレサラ討伐後の祝宴、みんなが楽しそうな中で、匠だけが指輪の黒ずみと寿命の代償に気づいてるもどかしさが切なくて。メアリーが酔って甘えてくるシーン、可愛かったけど「次は命を吸わせないと」って匠の内心が重くて…。 最後、鱗が揃ったところで次は魔法皇国へ。続きがすごく気になります!