私は罵倒される事に慣れていた。私と彼女が手を繋ぐといつも言われる言葉。
「キモイ」
「ありえない」
「なにやってんの?あいつら」
みんな私を化け物として見ている。私はそんなんじゃ無いのに。でも、彼女も一緒に罵倒される事が1番気に食わなかった。
中には私と彼女を離そうとする奴だっている。あることないこと言いふらして何がなんでも離そうとする。でも彼女は
「大丈夫。私は絶対疑わないよ」
そう言ってくれる。その言葉が私の心の支えだった。彼女の笑顔だけは、命に変えても守り抜くと、誓った。
なんで雌蕊と雌蕊はいけないのか。
そんな事ばかり考えている。彼女とお出かけする時も男らしい服を着て、否定される愛を隠す。
「多種多様の性」
そんな有って無いような言葉なんて信じたくない。
「ねぇねぇ。どこ行く〜?」
少し曇った私の顔を見て、心配に思ったのか彼女が聞いた。
「お洋服買いに行かない?」
「いいね〜!可愛いのあるかな〜」
そんな他愛もない会話。でもそんな会話でさえ、永遠に続くはずのないこの1秒1秒の思い出になっていく。
そんなある日、覚悟していたその言葉が飛んでくる。
「ねぇねぇ〇〇。今日いいことがあったんだよ!」
いつもより嬉しそうに彼女が言った。
「実は….彼氏、出来たんだ!」
分かっていた。いつかそんな日が来るだろうと。破綻するのはいつだって簡単なんだ。複雑な気持ち、なんかこう心臓がザワザワして、今にも潰されてしまいそう。
「そっか….どんな人?」
泣きそうな気持ちを押し込めて彼女に言った。
「優しくて、かっこいい人!それでね、もしかしたら会える日が少なくなるかも….ごめんね」
「うん….全然大丈夫だよ。幸せにね」
「ありがとう!やっぱり一生の友達だよ!」
嗚呼….友達か….私にとっては彼女だったのに、やっぱり友達止まりなんだね。私は涙を流した。
辛い、悲しい、今までのは何だったの?
「うぅっ…あ、ああ….」
冷たい風が吹く中で1粒、1粒と私から涙がこぼれ落ちていく。彼女の背中が遠くなっていく。追いかけたくても追いかけれない。少し大人になったその背中は、私と彼女の別れを表現しているようだった。
「じゃあ、バイバイ!」
彼女が笑顔で手を振る。私も大きく、大きく手を振り返す。これが最後になるような気がしたから。
どんなに私が悲しくなっても彼女には幸せになって欲しい。だってどんなに悲しくても、彼女の笑顔を見れば、不思議と笑顔が零れるから。
悲しい涙は、嬉しい涙にいつの間にか変わってたような気がした。
このノベルにトランスジェンダーの方々を差別する意図は一切ございません。
コメント
8件
自分に言うわ、1位おめ
凄い…ッ!!、 最近のLGBTの事をノベルにして物語にするなんて素敵…ッ✨ 起承転結の土台がしっかり固めてある上に、情景描写もとても細かくて登場人物の心情の変化が魅力の物語だね…ッ👍🏻💞