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部屋には血の匂いと、絶え間ない荒い呼吸音が充満していた。一時間、あるいはもっと長い時間が経ったのかもしれない。床には、剥がれ落ちた数枚の爪が、無機質な貝殻のように転がっている。
「……あ、あ……っ……」
れてんの意識は、激痛の波に飲み込まれては引き戻されることを繰り返していた。すでに左手の指はすべて、無惨な赤に染まっている。指先が空気に触れるだけで、焼けるような熱が全身を駆け抜けた。
「ねえ、れてん。あと半分だよ。半分終わったら、ちょっとお休みしようか」
ジャダムの声は、どこまでも澄んでいて優しい。彼は手際よく、今度は右手の親指を掴んだ。れてんは力なく首を振るが、拘束された身体はびくともしない。
「ジャダム……もう、いいだろ……マジで、頼む、から……」
「『頼む』って? 何を? もっと強くしてほしいの?」
「違う……っ、やめて、くれほんとに……!」
ジャダムは少しだけ困ったように眉を下げて笑った。その表情は、まるでおねだりをする子供をなだめる母親のようだった。
「だめだよ。中途半端にやめたら、お前の指、かわいそうじゃん。最後まで綺麗にしてあげないと。……ほら、いくよ。ちょっとだけ痛いよ?」
「ぎ、あああああぁぁぁ!!」
再び、神経を直接抉るような鋭い痛みが走る。ジャダムはあえて一気に剥がすことはしない。ミリ単位で、少しずつ、爪と肉の間に癒着した皮を裂いていく。れてんの身体は弓なりに反り返り、喉が潰れるほどの悲鳴を上げた。
「すごいね、れてん。まだこんなに良い声出るんだ。俺、お前のこういう必死なところ、本当に大好きだわ」
ジャダムは剥がしたばかりの親指の付け根を、自分の指でわざと強く圧迫した。
「……っ!? ……ぎぁ、ううぅ……っ!!」
「痛いよね。痛過ぎて頭の中真っ白でしょ? 今、お前の世界には俺しかいないよね。他の誰のことも考えてない、俺の与える痛みだけを感じてる。……それって、最高に幸せなことだよな…」
ジャダムの瞳には、狂信的なまでの恍惚が宿っていた。彼は濡れたタオルを取り出し、れてんの顔に張り付いた髪を優しく拭う。その手つきは驚くほど繊細で、先ほどまでの残虐な行為が嘘のようだった。
「見て、あともう少し。人差し指、中指、薬指……最後は小指。一つずつ、お前の『自由』を剥がして、俺のものにしてあげる」
「……は、ぁ……っ、お前、マジで狂ってる……」
「狂ってるのはどっちかな。こんなにされてるのに、俺から目を逸らせないお前の方じゃない?」
ジャダムは次の一本、中指の爪に器具をかけた。
れてんはもう、抵抗する気力すら残っていなかった。ただ、ジャダムが作り出す痛みという名の快楽の沼に、ずるずると沈んでいくしかなかった。
「いい子だね。……じゃあ、次は一番痛いやつ、いくよ?」
ジャダムが微笑み、力を込めた。
暗い部屋に、再び、終わりを拒むような絶叫が響き渡った。
十本目の爪が床に落ちた時、れてんは完全に崩れ落ち、ジャダムの腕の中に収まっていた。
ジャダムは満足げに、血まみれのその両手を自分の頬に寄せ、狂おしいほどの愛を込めて囁いた。
「お疲れ様、れてん。……これでもう、お前は俺しがいないと何も出来なくなっちゃうね」