テラーノベル
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ある日、帰り道に霧が出た。まるであの日みたいに、視界がぼやけて、
遠くのものがすべて柔らかく溶けていく。
そのとき、団地の前の小さな公園で、
ひとり、ベンチに座る影が見えた。
近づけば、すみれだった。
変わっていなかった。
でも、どこか、痩せていた。
頬がこけ、目の奥に夜を飼っているような顔。
私の気配に気づくと、すみれは顔を上げて言った。
「……やっぱり、来てくれたんだ」
私は何も言えずに、ただうなずいた。
すみれは、小さく笑った。
でもその笑みは、泣きそうに歪んでいた。
「もう、戻れないと思ってた。
でも、あなたは、ちゃんと見つけてくれるって、
信じたかったの」
「信じてたよ」
私がそう言うと、すみれは、ふるえる声で答えた。
「じゃあ……もう一度、ふたりだけで、生きよう」
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