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瑛太side
私たちが逃げ込んだこの森の中の廃屋は、想像以上に静かだった。
壁はひび割れ、床は軋み、窓は半分落ちかけているが──
今の私たちには十分すぎる仮宿だ。
埃を払った椅子に腰を下ろし、私は深く息を吐いた。
瑛太「……いやはや。異世界初日の寝床が廃屋とは、召喚した方々に申し訳なくて涙が出ますね。」
江都は床に座り込み、どこかほわっとした笑みのまま、自分の脚を眺めていた。
江都「なんかのぉ……さっきから足が、妙に軽うて……。わし、ああも走れたかの?」
瑛太「ご本人が一番驚いているのは面白いですね。いや、本当に。」
私がそう返すと、江都は困ったように首をすくめた。
ほわっとしているが、さっきの跳躍はどう考えても人間離れしていた。
普巳が腕を組んで言った。
普巳「てかさ。あのドガァン!!で起きたんだよ俺ら。あれ反則だろ。心臓止まるかと思ったぞ。」
帝偉「兄貴はビビって転んでただけだろ。」
と帝偉。
普巳「え? 今の褒めてる?」
帝偉「褒めてるわけないだろ。」
帝夜だけが無表情のまま壁にもたれ、低く呟いた。
帝夜「……あれで起きないやつはいない。地震かと思ったしな。」
私は苦笑しつつ、ふっと思考があの時へ戻る。
この森に逃げ込む前──
私たちは城の中庭らしき場所の石畳に倒れていた。
この轟音で、私たちは完全に目を覚ました。
石畳を叩き割るような亀裂。
叩いたのではなく、蹴って割った音。
周りにいた貴族たちも、エイラと名乗っていた少女も、国王らしき者も全員が目をむいた。
驚いて上を見上げると──
もう残像のような人影が空中にいた。
城壁の縁を蹴って、さらに跳躍。
弾丸のように城外へ消えていく。
誰一人として顔を見られないまま。
……ただ、ひとり。
日向だけが、その軌跡を凝視していた。
日向「……あの感じ……あの跳躍……あの人以外いない……」
北実が驚いて聞く。
北実「日向、お前わかったのか?」
日向「ええ……間違いありません……あれは──」
言いかけた瞬間、エイラが混乱して割り込む。
エイラ「な、ななな、何が起きたのです!?!?いまの動き、人間の範囲を超えていますよ!?!?」
いや、私もそう思う。
そして日向は、心底イヤそうにつぶやいた。
日向「……なんであの人が来てるんですか……」
江都が消えた後、残りの仲間たちも次々に目を覚まし始めた。
そこから先は、もう地獄のような騒ぎだった。
米太の絶叫。
仲間たちのパニック。
そして──混乱の渦の中。
俺たち四人は、そっと人の波から外れた。
瑛太「……今なら、誰も気づきませんね。」
帝偉がこくりと頷く。
普巳が口角を上げる。
帝夜は無言で扉の影に滑り込む。
こうして、五人の脱走劇が始まった。
私はふうと息を吐いた。
瑛太「……まあ、あんな騒ぎがあれば逃げられますよね。ありがたいことです。」
普巳が笑いながら言う。
普巳「いやありがたいはおかしいだろ。てかじいさん、あれマジで自分でもわからんの?」
江都はほわっとした顔で首を傾げた。
江都「わし、あないに飛んだ覚えはないんじゃが……気づいたら、城壁の上でのぉ……」
帝偉は額に手を当ててぼそり。
帝偉「もう怖すぎるだろ……本人が一番わかってないの……」
帝夜が目を細めた。
帝夜「……まあ、戦力としては文句ないが。」
私は苦笑し、軽く肩をすくめた。
江都がふんわり笑う。
江都「しかしまあ、みんな無事でよかったのぉ。ここ、静かじゃし……ほっとするわい……」
私はその穏和な笑みに、皮肉気味の微笑みを返す。
瑛太「ええ。崩落しなければ最高の宿ですよ。崩れなければ、ですが」
江都「ひぇっ……ほ、本当に崩れんよな……?」
わいわいと賑やかな声が、廃屋にほんの少し安心を満たしていく。
こうして、脱走組五人の静かな夜が始まった。
森の空き家の朝。
壁の隙間から差し込む光が、古い木の床を照らしていた。
瑛太「……よく寝た、とは言えませんが……朝ですね。」
私が軽く伸びをしていると、
部屋の隅で丸まっていた江都が、もそりと起き上がる。
江都「ぬ……まぶし……朝かのぉ……」
帝偉は首を鳴らしながら立ち上がる。
帝偉「んー……身体、バキバキだな……」
普巳は椅子の上で足を組み直す。
普巳「ま、俺はいつでも完璧だけどな!」
帝夜は壁にもたれたまま、片目だけ開ける。
帝夜「……で、今日も逃げんのか。早めに出るぞ。」
窓へ近づき、外の様子を覗く。
ふと、耳を澄ます。
瑛太「……? 皆さま、静かに。」
空き家の周囲──木々の間に、
かすかな金属のきしむ音が混じっている。
帝夜が視線だけ向ける。
帝夜「……足音。複数いる。」
普巳が息をのむ。
普巳「おいおい、もう追ってきたのかよ……」
帝偉はすばやく荷物をつかむ。
帝偉「逃げるぞ!」
私は短く頷き、出口へ向かう。
瑛太「では、朝の散歩と参りましょうか。走りますけど。」
5人は空き家の裏手から森へ駆け出した。
帝偉「そっち囲まれてるぞ!」
帝偉が叫び、別方向へ走る。
兵士たちの影が木々の間から次々と現れ、
重い鎧の音が四方から迫ってくる。
帝偉「こっちも来てるぞ兄貴!!」
普巳「うるせぇ! 走れって!!」
江都も思いのほか速い足でついてくる。
江都「ほぉ、これは忙しいのぉ……!」
帝夜が前方の茂みをかき分けて進みながら、低く吐き捨てる。
帝夜「……ったく、人数多すぎだろ。」
5人は木々の間をすり抜け、
兵士の動きを読みながら進路を変え、なんとか包囲の隙間を突破していく。
普巳「お、よし、この先抜けられ──」
その瞬間。
普巳が言葉を飲んだ。
そこに、ひとり立つ影があった。
翡翠色の髪を朝日が照らし、
純白のローブが風に揺れている。
──エイラだった。
表情は先日見た通り穏やかだが、
その目だけは逃げる彼らをまっすぐ射抜いている。
エイラ「……おはようございます。ずいぶん早いご出発ですね。」
私は足を止めて尋ねる。
瑛太「……エイラさん。これは偶然ではありませんね?」
エイラ「もちろんです。」
エイラは両手を胸の前で軽く組む。
その指先に、淡い光が集まった。
エイラ「──もう逃がしませんよ。」
パァンッ!!
地面を走るように金色の線が広がり、
5人の足元を瞬時に覆った。
帝偉「うわっ!?」
普巳「ちょっ、なんだこれ!?」
光の縄は一瞬で形を成し、
それぞれの体に絡みつき、強く締め付ける。
江都は驚きながらも、どこかほわっとした声で言う。
江都「ぬお……こりゃあよくできとる縄じゃの。」
帝夜は顔をしかめたまま動けずに言う。
帝夜「……くそ……魔法か何かか……?」
私も腕を縛られ、肩を落とす。
瑛太「これは参りました。完全にお見通しだったわけですね。」
エイラは一歩近づき、静かに告げる。
エイラ「ようやく見つけました。勇者のお仲間方。」
そして、はっきりと言い切った。
エイラ「今度は逃すわけにはいきませんからね。」
号令を受け、後方から兵士たちが追いついてくる。
そのまま5人は光の縄に拘束されたまま、
城の方向へ連れて行かれるのだった。
光の縄で拘束されたまま城へ連れ戻された5人は、
応接室のソファに並べて座らされていた。
全員そろって正面に座るエイラ。
表情は優しい。けれど目だけは少しだけ怒っている。
エイラ「……まずは、お帰りなさい。」
普巳「は、はい……ただいま?」
エイラ「逃げましたね?」
帝偉「……はい、すみません。」
エイラ「逃げましたね?」
普巳「いや、ちょっと勢いで…!」
エイラ「逃げましたね?」
帝夜「三回言わなくても分かるって。」
エイラは、肩の力を抜くように息を吐いた。
怒っているというより、本気で心配した顔だ。
エイラ「全く、皆さん。本当に危ないんですよ?見知らぬ国で、まだ素性も伝えていないのに……勝手にどこかへ行ってしまったら、どうなるか分かりません。」
私は素直に頭を下げる。
瑛太「心配をおかけしたこと、お詫びします。……逃げたのは事実ですから。」
帝偉も気まずそうに頷いた。
帝偉「……悪かった。」
普巳「いやほんと悪ぃって! 俺だけじゃねぇし!」
帝夜「……まあ、反省はしてる。」
江都はほわっと笑って。
江都「うむ、迷惑かけたのぉ……」
エイラは全員を見て、ようやく少し微笑んだ。
エイラ「戻ってきてくれたので怒りません。……本当に、無事でよかったです。」
エイラはソファから立ち上がり、
棚から分厚い資料を取り出してどさりと机に置いた。
エイラ「では……これからいろいろお話ししますね。本当はお伝えしたかったことが、たくさんありますから。」
帝偉「お、おう……」
普巳「いろいろって量じゃねぇ気がするんだけど……」
帝夜「長くなるやつだな……」
私は苦笑しつつ、紳士らしく姿勢を正す。
瑛太「では、耳を傾けるといたしましょう。」
江都はのほほんと頷く。
江都「頼むぞい……」
エイラは微笑み、彼らの前に腰掛けた。
その後、かくかくしかじか──
長くて詳しい説明が始まったのだった。
広い測定室に移動してきた。
淡い魔力光がゆらめく魔法陣の中心へ、まず私が進む。
エイラ「順番にみなさんの能力を測定していきますね。大丈夫ですよ、怖くありませんから。」
私は軽く礼をして、上品に微笑む。
瑛太「もちろんですとも。」
どこか腹黒い気配をまとった紳士の笑顔。
魔法陣に立つ。
ス…ッ
魔法陣の光が揺らぎ、瑛太がわずかに帽子のつばを触った瞬間、
光が一度乱反射したように散った。
エイラ「これは……珍しい反応ですね。」
魔法陣に浮かび上がる文字。
エイラ「瑛太さんの行動が本気なのか、演技なのかを、観察する側が判別できなくなる能力……みたいです!」
普巳「何それ怖っ!」
帝偉「敵が読み間違えたら即死だろ……」
帝夜「……性格によく合ってるな。」
私は軽く笑う。
瑛太「どうも。」
言い方が紳士なのに腹黒さが滲む。
次に普巳が胸を張って中心へ。
普巳「よーし、俺の番な!」
魔法陣に触れた瞬間、光が一度止まる。
ほんの一瞬、世界の動きすら止まったかのように。
エイラ「……っ、これは……!」
魔法陣が再び動き出し、文字が浮かぶ。
エイラ「普巳さんは、その瞬間起きるはずだった結果を一度だけ完全に破棄する力みたいです!」
帝偉「は?めちゃくちゃ強くね?」
普巳「だよな! 俺やっぱ天才!」
エイラ「ただし……破棄した結果は別の形であとで返ってくるようです。」
普巳「は?なんで?!そんなの聞いてない!」
次に帝偉がやや気だるげに進む。
帝偉「……測ればいいんだろ?」
魔法陣に立った瞬間、
周囲の光がふっと薄くなった。
エイラ「あ……!?」
帝偉の姿が揺れ、影が滲むようにぼやける。
魔法陣に浮かぶ文字。
エイラ「帝偉さんは、自分の存在の薄さを自在に操れるようです!気配、影、認識そのものをずらすことができます!」
瑛太「影が薄いとのはむしろ才能だとよく言っていましたが……本当に才能でしたね。」
帝偉「褒められてんのかバカにされてんのか分かんねぇな……!」
帝夜「姿消すの得意そうだし、役割は多いな。」
普巳「帝偉、薄いのが強みって珍しいな!」
帝偉「黙れ。」
次に帝夜が静かに中心へ。
足取りは軽く、目つきは鋭い。
帝夜「……さっさと終わらせてくれ。」
魔法陣に立つと、冷たい空気が揺らぎ、
床に薄い氷がきらりと走る。
反射した光が帝夜の横に氷の残像を生んだ。
エイラ「わ……! 綺麗……!」
文字が浮かぶ。
エイラ「氷の反射で自分の残像を作り出す能力みたいです!本体とフェイクの判別がつきにくいので、戦闘で有利に立ち回れます!」
普巳「うわ、あんまり戦いたくねぇタイプ!」
帝偉「動き読めねぇだろこれ……」
瑛太「帝夜さんの場合、敵を翻弄するどころか狩りに行きそうですね。」
帝夜「……まあ、やれと言われればな。」
クールで自信家な彼らしい短い返事。
最後に、ほわっと歩いて江都が中心へ。
江都「ええと……ここに立てばよいのじゃな?」
エイラ「はい、ゆっくりで大丈夫です!」
江都が魔法陣の中心へ立つと──
部屋中の魔力が一気に上へ跳ね上がった。
普巳「え、なに!?」
帝偉「空気の密度変わったぞこれ……」
魔法陣の光が爆発的に輝く。
エイラ「江都さんは自分や味方の身体能力を爆発的に引き上げる能力みたいです!効果は短いですが、とても強力です!」
瑛太「おそらく、召喚された瞬間に飛び去ったあの時は、無意識のうちに能力を発動していたのでしょう。」
帝夜「……怖ぇな、じいさん。」
江都は目を丸くして、
江都「わし、そんな大それた力があったのかの? いやはや……」
と、ほわっと笑った。
エイラは胸の前で手を叩いて、ぱあっと笑顔になる。
エイラ「みなさん、本当にすごい能力です!」
普巳「俺の能力、絶対悪用するわ〜!」
帝偉「やめろ、返ってくるんだぞ。」
帝夜「……面白くなってきたな。」
江都「ほほほ……なんだか忙しくなりそうじゃのう。」
こうして、私たち脱走組の能力は正式に判明した。
能力測定がひと通り終わると、
エイラは満足そうに頷き、扉の方へと身を向けた。
エイラ「それでは皆さん、今日から使っていただく寮へご案内しますね。」
普巳「お、住むとこ確保! 一気に現実味出てきたな!」
帝偉「……城の地下牢とかじゃないよな?」
エイラ「大丈夫ですよ。ちゃんとした建物ですから。」
そう言って、エイラは先に立って歩き出す。
五人は並んでその後を追った。
城の中庭を抜け、少し歩くと、
勇者パーティーが使っている寮が見えてくる。
そのすぐ隣──
距離にして数十歩ほどの場所に、
同じ造りながらやや小ぶりな建物が一棟あった。
エイラ「こちらが、皆さん用の寮になります。」
瑛太「随分と近いですね。……監視にしては露骨ですが、合理的とも言えます。」
エイラは困ったように笑う。
エイラ「いえ、純粋に連携が取りやすいので。敵意があるわけではありませんからね?」
帝夜「……まあ、距離は悪くないな。」
普巳「他の奴らと顔合わせしやすいってことだよな?」
帝偉「揉め事増えそうだけどな……」
エイラは建物の扉を開け、中を軽く見せる。
部屋は五人分きちんと用意されており、
簡素だが清潔で、生活には十分そうだった。
エイラ「こちらが基本的な居住スペースです。共同部分もありますし、必要な物はあとで調整できますよ。」
そのとき、
江都が少しだけ遠慮がちに手を挙げた。
江都「のう……ひとつ、頼みがあるのじゃが……」
エイラ「はい、何でしょう?」
江都は中庭の方を指差す。
勇者パーティーの寮の中庭。
そこには、異様なほど大きな一本の木が立っていた。
幹は太く、枝は空を覆うほど広がっている。
江都「わしは、ああいう木の近くが落ち着くんじゃ。できれば……あの木の中で暮らせんかのう?」
一瞬、空気が止まる。
普巳「……木?」
帝偉「……中?」
帝夜「……本気か?」
瑛太は軽く目を細め、木を観察する。
瑛太「確かに、普通の木ではなさそうですが……住居にする発想はありませんでしたね。」
エイラは少し考え込み、
やがて、にっこりと微笑んだ。
エイラ「いいですよ。」
全員「え?」
エイラ「外見は一切変えずに、内部だけを魔法で拡張・改装すれば問題ありませんね。」
江都「おお! ありがたい…!」
エイラは杖を取り出し、魔法を発動する。
淡い光が木の幹を包み込むが、
外から見れば、何も変わっていない。
エイラ「中は居住空間として整えました。寝床も、簡単な調理場もありますよ。」
普巳「外見そのままで中だけ家!?便利すぎだろこの世界!」
帝偉「隠れ家としては完璧だな…」
帝夜「……木から出てくる爺さん、人が見たら混乱するな。」
江都は満足そうに幹に手を当てる。
江都「うむ……落ち着く。ここなら、長く暮らせそうじゃ」
その後は、特に何事も起きなかった。
逃走、拘束、説教、能力測定──
さすがに全員疲れ切っていて、夕食もそこそこに各自部屋へ戻った。
普巳「…ベッドあるだけで神だわ。」
帝偉「今日はもう何も考えたくない。」
帝夜「同感。」
瑛太「では、おやすみなさい。明日からは多少、落ち着けそうですね。」
江都は中庭の木の中で、
静かに灯りを落とし、早々に眠りについた。
翌日は完全な自由行動だった。
普巳と帝偉は、さっそく街へ出ていた。
普巳「城の外、普通に栄えてんなー。異世界ってもっと荒れてるもんかと思ってた。」
帝偉「観光気分で歩くなよ……」
露店の串焼きを指差して、普巳が笑う。
普巳「腹減ってね? 行こうぜ。」
帝偉「金、使いすぎるなよ。異世界でも借金肩代わりとか嫌だからな?」
普巳「わかってるって!」
私と帝夜は、寮の共用スペースにいた。
帝夜は椅子に深く座り、壁に寄りかかっている。
帝夜「静かでいいな。」
瑛太「騒がしくないのは、確かに助かります。……逃げた割には、扱いも悪くありませんし。」
帝夜「油断はしてないけどな。」
瑛太「ええ。ですが、少なくとも即処罰という流れではなさそうですね。」
帝夜は短く鼻で笑った。
帝夜「……それだけで十分だ。」
江都は一日中、木の中で過ごしていた。
外の気配を感じながら、
枝の揺れと風の音だけを聞いている。
江都「静かじゃのぉ……」
誰もいないことを確認してから、
そっと外に出て、またすぐ戻る。
それだけで、十分だった。
その次の日は、さらに緩んだ空気だった。
普巳「なあ帝偉、今日は賭け屋見に行かね?」
帝偉「行かない。絶対行かないからな。」
普巳「えー?」
帝偉「えーじゃない。どうせまた大負けして借金しまくるんだろ。」
私は街で偶然、顔見知りの勇者パーティーの面々を遠目に見かけ、
気づかれない程度に距離を取った。
瑛太(……合流は、明日で十分でしょう。)
帝夜は訓練場を眺めながら、
一人で武器の手入れをしていた。
帝夜「……動きたい。」
だが、今日は何もしないと決めている。
そして、異世界に来て5日目。
城の一角、訓練場近く。
勇者パーティーの面々が集まっている場所へ、
瑛太、普巳、帝偉、帝夜の四人が向かった。
江都の姿はない。
普巳「じいさん、やっぱ来ねぇか。」
瑛太「無理に連れ出す理由もありませんからね。」
帝偉「……あの人は、あれでいい。」
合流すると、空気は一気にいつもの感じに戻った。
南実「……あ、生きてたんだ!」
普巳「失礼すぎだろ!」
北実「逃げたと思ったら、普通に戻ってきやがって。」
瑛太「ご心配をおかけしました。ですが、こちらとしては予定通りですので。」
北実「どの予定だよ…」
廉蘇は腕を組んだまま、周囲を見渡す。
廉蘇「……江都は?」
陸斗「来ないだろうな、父上は。」
帝偉「人多いと無理だしな。」
南実「木の中が落ち着くらしいね。」
帝夜「必要な時には、勝手に現れるだろ。」
その言葉に、誰も否定しなかった。
こうして、
脱走組と勇者パーティーは再び合流した。
ただし──
全員が同じ場所に立つ必要は、なかった。
それぞれの距離感のまま、
物語は、次の段階へ進んでいく。
お知らせ(?)ですが、今回は若返りのシーンは入れてないのでご容赦ください。
一応、ちゃんと5人とも若返ってます。