ケットが割り当てた役割分担は完ぺきだった。いぬさんチームが木材を整形し、クマやゴリラ、ナジュミネがそれらを運ぶ。運ばれた木材はリゥパやねこさんチームが組み上げている。
さて、ムツキは何をしているのか。
「にゃー」
「ん? ここがいいのかな?」
「にゃー」
「そうか、そうか。ここがいいのか」
「にゃー」
「みゃー」
「お前たちも撫でてほしいのか。そうか、そうか、お前たちはそういうやつなんだな。おぉ……ふふっ……かわいいなあ……」
ムツキは仕事と関係ない猫たちとおモフに耽っていた。一人だけロッキングチェアに座り込み、仕事もせずに猫と楽しく遊んでいるように見えるが、実は彼がこの中で一番仕事をしている。
「ご主人がリラックスしていると一番効率が良いニャ」
妖精の原動力は正の魔力で、魔力が少なくなると疲れが出始めて休息をとる必要がある。しかし、魔力が周りに豊富にあれば、身体は疲れを知ることもなく気分も常に良い状態になっている。
つまり、妖精たちは魔力が豊富にあれば、何の苦労もなく働き続けることができるのだった。さらに言えば、新鮮な魔力を得ることで、妖精たちにはデトックス効果も生まれている。
「にゃー」
「あはは……舐められたらくすぐったいって」
「みゃー」
「にゃー」
さらに、妖精が消費した魔力の搾りカスのようなものがムツキへと流れる。その搾りカスに再度魔力が充填されることで、この工事現場では魔力の循環が起きている。
要はムツキが小さな世界樹のような役割を果たすことで全員がイキイキと仕事をできているのであった。
「でも、本当にこんなのでいいのか? 俺も働いた方が……」
「どうしてもご主人じゃニャいとできニャい部分は改めて頼むニャ。今はリラックスしていてほしいニャ」
ケットにそう言われ、ほかの妖精たちからも感謝されるので、それ以上食い下がることのできないムツキではあるが、何となく引っ掛かる部分があった。
「……ニャジュミネさん、ニャジュミネさん」
「ん? ケットか。どうした?」
ケットは力仕事で予想以上の働きをしているナジュミネに話しかける。クマもゴリラもそれに負けじと頑張るので想定よりも仕事が早い。
「ここは大丈夫だから、ご主人とおモフをしながら、話し相手にニャってほしいニャ」
ナジュミネは歩みを止め、軽く顔の汗を拭きつつ、ケットを見つめる。
「それは構わないが、妾は旦那様のように皆には魔力供給できないぞ? 働かないことになってしまうが」
ナジュミネは「働かざる者、食うべからず」を信条としており、仕事がないとケットに仕事を要求するほどの生真面目な魔人族だった。ムツキが1番仕事をしていることは分かっているので、自分は2番目になれるようにがんばろうと奮起しているところだった。
「そんニャことニャいニャ! ご主人が変な罪悪感を持ってしまって、魔力の循環効率が落ちる方が大変ニャ。力仕事をする時は効率が大事ニャ。申し訳ニャいけど、ご主人の罪悪感を減らすために協力してほしいニャ」
ケットもまたナジュミネが仕事を欲し喜んでいることを知っているので、彼女に頼むのは少し心苦しい部分もあったが、全体最適を考えている彼にはこの手段が最適と判断したようだ。
「ニャるほど……じゃなかった、なるほどな。その方が良いなら協力しよう」
ナジュミネもケットにそう言われると弱い。役割が変わったと気持ちを切り替える。そうして、彼女がムツキの方へと向かい、談笑を始めると彼の笑顔が明るくなった。ケットは魔力がより綺麗に流れ込んでくるのを感じる。
「リゥパ。ちょっといいかニャ?」
「ケット様、どうしました? 何か間違っていましたか?」
リゥパは2階部分の組み立てをしていたが、ケットに呼ばれて、ふわりと落ちてきた。
「そんニャことニャいニャ。大助かりニャ。ただ、ご主人の相手をしてほしいニャ」
リゥパはピンときて、恭しく礼をした。
「なるほど、効率を落とさないようにムッちゃんと話す役をがんばります」
「よろしく頼むニャ」
「ムッちゃーん。私も混ぜてー」
ケットは魔力を敏感に感じられるリゥパをムツキの近くに置いて、効率が落ちないようにしっかりと見る役を言外に言い渡していた。彼女はそれに気付いたようで早速向かった。
「これで一安心ニャ。さて、みんニャ、がんばるニャ!」
ケットは働く妖精たちに声を掛け続け、その後、大きな問題もなく数日で増改築が終わった。
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