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うわわわわわわ、卒業式めっちゃ感動です…!! GLあんまり見ないけど、なちょすさんのは好きだ👍💗
ちょっとした息抜きでいつもと趣向を変えてみました🌸 連載の方もしっかり進めていくので今しばらくお待ちを…!🙇♀️
ノベルです。
単発・GL のあえとです。
女子3人がメインで他メンバーはあまり出てきません。出てきてもモブキャラ程度の扱いなので注意。
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授業が終わり、ホームルームも済んだ教室内。部活や委員会がある生徒はそそくさと鞄を手に教室を出ていき、そうでないものは友人とお喋りをしながらゆっくりと帰り支度を始める。そんな中帰り支度もせず窓際の席に集まり話す女子生徒が3人いた。
3人の生徒の名はのあ、るな、えとといい彼女らはいつも放課後になるや窓際の席ののあの元へとやって来て、近くの椅子を引き寄せぐだぐだと身の無い話に花を咲かせる。今日もまた例に漏れず3人仲良く頭を突き合わせていた。
るな「今日出た課題ムズくないですか?るな出来る気しないんですけど」
話の種を撒くのはいつもるなが多い。
えと「私も無理、今日の授業聞いてなかった からどうやって解くのかも分かんない」
るな「ねー?」
えと「ねー?」
あまり褒められたものではないことを自信満々に言い切るえととるなは顔を見合わせて同意し合う。それに苦笑混じりにため息を溢すのあは、この二人は勉強と言うだけで強い苦手意識をもって初めから諦めてしまうけれど、やる気にさえなればそれなりに理解できるのだから勿体無いものだなと思いながら、まあ分からないことがあれば聞いてよと救いの手を差し伸べる。
るな「さっすがのあさん頼りになる~!」
えと「ほんと、うちらのあさんがいなかったらテストとか乗り越えらんないもんねぇ」
そんなのあの心境などどこ吹く風で能天気にやったーと喜ぶ二人に、のあは甘やかしすぎかなぁとは思うが、頼られて悪い気はしないのでまぁいいかと結局また懇切丁寧に解き方を教えてしまう。けして答えを写させるわけではないところがのあの良いところだがその分二人が理解するまで付き合ってあげるのは少しばかり骨が折れる。
それからも、今日の授業で学んだ聞き馴染みのない単語について語感の良さだけで連呼してはけらけらと笑っていたが、花の高校生であれば勉強の話なんてものはそう続かず、もっぱら関心の高い恋愛話へと意識しておらずとも移行していくもので……
るな「るなはー、今C組のヒロくんが好きなんですよね、あの人かっこよくないですか?」
るなはまさにその道を突き進み、さっきまで明日に控える小テストにげんなりしていたはずだったがいつの間にかうきうきと表情を変えていた。
えと「あーあのいつも女子に囲まれてる人?」
るなの言うヒロという生徒に覚えがあったえととは反対に、他組の生徒まで覚えていないのあは、一人首をかしげてぽやんと話についていけていないようだったが、すぐにまぁいっかと頬杖を付き聞き役に徹する。
るな「そうそうモテてる人!こないだ体育の時にC組の前を通ったら『体育頑張って』って言われてぇ、にこって笑ったあの顔が超可愛くてかっこよくって!!」
あの人もちょっとくらいるなのこと良く思ってくれてるから声かけてくれたんだと思うんですよね、と少しばかり飛躍した解釈で気分が舞い上がっているるな。それを見つめる二人の眼差しにはどこか呆れのようなものが含まれていた。
えと「へぇ、てかるなって惚れやすすぎじゃない?」
のあ「そうですよね、ついこないだまでは、なんだっけ?なんとかって先輩がいいとか言ってたじゃないですか」
これまでの付き合いの中でそれなりにるなの性格を理解していた二人はそう言ってまた始まったとちらりと視線を交わした。熱しやすく冷めやすい、そんな性格のるなはこれまでも少し優しくされたり、笑いかけられたり、いい香りがしたからと、様々な些細な切っ掛けで心を踊らせ一人で盛り上がっては、すぐに他の人に心移りしていくということを繰り返していた。なので今回好きになった人もまた数週間経てば他の人に変わるんだろうなと二人はそれほど親身になって話しには付き合わずさらりと受け流す。薄情というよりは当然の成り行きであろう。
るな「あー、うり先輩?まあ彼女いるみたいですし、奪ってやる!みたいな肉食精神はるなにはないですから」
部活には入っていないが、時々趣味程度に体を動かしにバスケ部へと助っ人参加するるなは先日その部活先で話した先輩にこれまた熱を上げ、数日間バスケ部へ足繁く通う浮かれようだったのだが、今ではもうすっかりその面影はない。
そんな話をしているとるなの視線がついと横に向き、話の矛先がえとに向かった。
るな「えとちゃんは?いないんですか好きな人」
えと「私?んーいるよ、片想いしてる人」
るなの話を半分聞き流すように空にぷかぷかと浮かぶ雲を目で追っていたえとが掛けられた問いに特に大きなリアクションもなく答えるとるなのテンションが目に見えて上がった。
るな「うっそ!?マジですか!えー誰々どんな人ですか!?」
惚れっぽい自分と違いあまり恋愛話を積極的にしないえとの恋愛事情にるなは興味津々とばかりに身を乗り出しえとに詰め寄る。そんなるなにのんびりとした口調で、でも空を見つめたままえとは答える。
えと「えっとねぇ、頭良いよ」
るな「お、才女」
えと「でもね、あんまし運動は得意じゃない」
その姿を思い出すかのようにくすりと小さく口元に笑みが浮かんだ。そんなえとの横顔を見やるのあの瞳に滲んだ色は明るくない。
るな「ほーギャップ萌え?どじっ子とか?」
えと「んーん、ドジとかじゃなくて真面目でこう頼りになるっていうかぁ」
雲を見つめているはずのえとの目尻が緩やかに下がり柔らかく瞳が細まった。
あぁ終わってしまったな、と未だ瞳に灯す光が弱いままのあは思う。
えとは恋愛などに興味がないのだと思っていた。サバサバした性格で、必要があればクラスの男子と話すこともあったが自分から話を広げようといった様子はなく、かといって特別男子が苦手とかそういった感じでもないえとを見ていたのあは、えとの中の世界は積極的に恋愛を必要としていないんじゃないかと、そんな分析をして勝手に安堵していたのだが、どうやらそれは自己満足な思い込みでしかなかったようだ。今こうして自分が知らない誰かに思いを馳せるえとを見ていると、相手を妬ましく思うというよりも、ただ静かに暖めて暖めて大きく育ってきたこの想いをどう処理したらいいのだろうかと、浮かばれない想いだと分かった上でそれでも止めなかった気持ちがえとのあまりにもあっさりと告げた言葉に吐き出す場所を失い胸のうちをぐるぐると回る。
るな「年上?あ!大学生とか?」
えと「んふふ、秘密」
楽しげなるなに秘密と言って綻ぶ笑顔に胸の奥がきゅっと締め付けられる感覚を味わった。けれどそんなえとの幸せそうな笑みに素直に可愛いと思う自分もいて、えとが幸せになるのであればこの思いなど容易く無下に出来るであろう未来が簡単に想像できてしまうことに自嘲した。
るな「うわーまじですか、ならのあさんは?のあさんもいるでしょ好きな人!」
それ以上えとへ追求するのをやめ標的を変えたのあのほぼ確定的な問いかけに、その手の話はいつもはぐらかすようにしていたのあだったが今回は逡巡したのち躊躇いがちに肯定した。それは先のえとの言葉を受けて、やりどころのなくなった感情を少しだけ吐露したくなったからなのかもしれない。
のあ「……まぁいますけどぉ」
るな「おー、どんな人ですか?えとちゃんも言ったんだからのあさんも言っちゃってくださいよ!」
日頃自分ばかりがする恋ばなに二人が加わることが嬉しく、ついつい上がってしまうテンションのままのあを促す。
のあ「…あー、とまぁさっぱり系?かな」
るな「それだけ!?」
のあ「えー……じゃあ、才能豊か、とか」
勉学の方ではあまりその才能が発揮されることはないが、えとは興味さえ持てばそれをとことん突き詰めて会得してしまう。特に運動なんかは。
のあは興味を持つとそれをよく知る者に教えを請い道筋の極められた課程を進み習得するが、えとは独学で自分のモノにしてしまう。そういったところに惜しみ無く掛ける努力や情熱に才能を感じ、1つの美点として惹かれた部分もあった。
るな「へぇ、のあさんも才女系?」
のあ「いや、そういうのじゃなくて、秀才ってタイプとは違うかなぁ、でも人として憧れるっていうかそういう面があります」
るな「あーなんかのあさんって彼氏に求める理想高そうですもんね」
のあ「そうですか?でもその人に関してはどんなにダメな部分を知っても許せるっていうか、それでも好きでいるんだろうなって、思います」
のあが話す間も窓の外へ視線をやるえとの横顔を見つめ、こちらを見てほしいなとのあはふと思った。けれど同時に見てほしくないとも思う。たぶん今、のあの目にはえとに対する好意が隠しきれていないだろうから。
るな「のあさんマジで好きなんですね!ベタ惚れっていうか、ねっえとちゃん?」
他意はないだろうし話の流れ上自然な振りだが、のあは少しやめてくれとるなを咎めたくなった。それは他でもない彼女に対する素直な気持ちだったから本人の反応を知るのが怖いという臆病な部分がそう思わせた。とはいえ、そんなのあの思いを知らぬえとは話を聞いていたのかどうか怪しげな反応を示す。
えと「うん、そうだねぇ」
反応を知るのに躊躇いがあったものの、いざあまり興味の無さそうな反応を見てしまうと、もう少し何かリアクションがあってもいいのにと思ってしまう自分に呆れるが、
えと「なんか羨ましいな」
のあ「え?」
ぽつり、と続いた言葉に思わず期待の籠った声が出た。もしかしたら自分が想いを寄せる相手がえと自身だとは知らずほんの少しでも寂寥の情を窺わせてくれたのかもしれない、とのあの頬が僅かに上がる。しかし、さらに続くえとの言葉に頬はまた元の位置へと戻った。
えと「そんな風に思える気持ちっていうか、一途な感じとか。…るなも見習ってみたら?」
るな「それ酷くないですか?」
えと「だってるな最短二時間で心変わりしてたじゃん、あれまじで面白かった」
あはは、と声をあげる大人げに見える顔に、まあそうだよねと落胆が苦笑として表に出る。
そのまま話はるなの恋愛観に移り、再びのあは二人のやり取りの聞き手に回った。
るなはいつも瞬きをする間に相手を好きになることが多いが何故かその先、告白までいく事は少ない。それに対し「るなは恋することが好きなんです、付き合ったりするのはまた違うんですよね」と独自の持論を自慢げに話し、えとに「変なの」とクスクス笑われる。
えとの柔らかな笑い声が辺りを包み、のあはただぼんやりとその声に耳を傾ける。
秋も深まった今、木枯らしの吹く校庭を横目に、えとの笑い声は雪解けの春を連想させる仄かな暖かみがある気がすると、ふと思った。ふふ、とこぼれる息吹がふわりと春風を起こし春の始まりを告げるような……、たかが笑い声ひとつにそんなことを思う自分は相当惚れ込んでいるものだなとのあは一人笑いたいのか泣きたいのかわからない気持ちになった。
春、か。
来年の春にはこうして3人でのあの机を囲むこともなくなるだろう。三年生であるのあたちは、秋ともなれば進路はもうほぼ決めかけていて、推薦の決まっているのあに、受験の合否如何ではあるもののえととるなも志望の進学先を1つに絞っていた。学力の差もなくはないがそれぞれが真剣に将来自分がやりたいことをするためにと選んだ大学は見事にバラバラで、普段わざわざ口に出すことはないがあと数ヶ月もしたらこうした日常もなくなってしまうのだと感じているのは互いに分かっていた。
のあの通う大学と降りる駅こそ違えど同じ沿線の大学に進路を決めたるなはまだしも県境に近い大学を志望するえととは頻繁に会うこともままならないだろう。このまま離れてしまうならいっそ卒業するまでにこの想いだけ伝えてしまおうかと気持ちが揺らいだこともあったが、答えを知る勇気のなかったのあは実行に移すことなく今日を迎え、えとの酷な告白を聞き殊更頑丈にその気持ちに鍵をかけ胸の奥へしまうこととなった。
えと「ねえ、」
少し自らの思考に意識を落としていたのあはえとの声に視線をあげる。のあを見るえとは先ほどの笑みが残ったまま僅かに口角が上がっていた。くふりと笑みの混じった声音につられてのあの口元も弛む。
そして、
えと「すき」
落とされた言葉はさらりと空気を滑りのあの耳に周りの音を排して届く。
えと「って、相手の人に言わないの?」
どうやら話の流れが戻ったようで一瞬ドキリとしたものの誰が誰にとその言葉に付属しなかった部分も難なく自分で補完できたのあは少しの驚きを見せる。この手の話に食い下がることのないえと自ら言及してきたことに、だ。いつもるなの恋愛話をへぇそうなんだと無難な相槌でやり過ごしているえとを見てきたのあにしてみれば、今日はいやに積極的に話に加わるえとを不思議に思った。
るな「そうそうコクればいいじゃないですか!当たって砕けるのもアリですよ!」
他人事だと思うとノリも軽くなり、こちらの事情も知らず、あっさり難題を吹っ掛けてくる二人にのあは内心で溜め息を吐いて困ったように微笑みを形作る。
のあ「そう簡単にはいかないでしょう」
ふーん、とつまらなそうに口を尖らせるるなを少し憎らしく思いながらも、パッとえとへと顔をあげるるなに、彼女の思考のスイッチャーの切り替えの速さには毎度の事ながらも感嘆すると思いつつ、視線を前へと流しえとを視界に納める。のあがえとを見る一瞬前に、何か言いたげな様子でのあを見つめるえとの瞳がすっと伏せられたことには気付きようがなかった。
るな「えとちゃんは告んないんですか?」
えと「私はいいや、今のままで満足してるし」
緩く首を振るえとにるなは不思議そうに首を傾げる。
るな「え~なんですかそれ、そんなんじゃ誰かに先越されてその人に彼女できちゃうかもしれませんよ!?」
えと「そしたらるな慰めてよ」
るな「失恋パーティーしちゃいます?」
二人で進む会話に口は挟まず見守っていたが、先の明るくない話に物憂げな表情を覗かせるえとにのあの胸の内がざわざわと揺れる。そんな顔しないでよ、せめてるなのように恋は楽しいとニコニコ笑ってくれたならこの想いの諦めも早々に付くだろうに、なんて責任転嫁も甚だしいだろうか。
えと「んー、なんか近々ほんとに開かれそうで怖いなあ」
るな「大丈夫大丈夫、その人もえとちゃんのこと好きかもしれないですし」
どことなく無責任なるなの応援に、どうだろう?そうならいいのにねと答えるえとのわずかに苦みを帯びた笑みにのあは堪らず口を開く。
しかし、
「るなぁ!あんたこないだ貸した雑誌そろそろ返してよねー!」
るな「あー!ごめんなさい!それ持ってきてるから今返します!」
突如、教室内に響いたるなの友人らしき別クラスの生徒の声に行き場をなくした口許を引き結んだ。
そのまま友人のもとへと席をたちるながいなくなると、一気に騒がしさがなくなり一瞬静かな空気が流れる。
のあ「告白するだけしてみたらどうですか?悔い残すより可能性はありますよきっと」
改めて口を開いて紡いだ言葉は、上っ面だけの言葉で、自分の事を棚に上げてそれらしいアドバイスを掛ける自分の気持ちが見えないと内心でかぶりを振った。
えと「可能性かぁ、1000分の1くらいはあるかもね」
のあ「だったらッ」
いつの間にかえとに己れの不甲斐なさを投影し、自分に出来ないことをえとに重ねて語尾が熱くなる。それに、自分と違いえとが好きな相手は異性のはずだ。ならばその告白が上手くいく可能性はのあの何倍にもなるだろう。
えと「でも、嫌われたくないから。私の告白が成功するのと同じ確率で言った途端二人の間に溝が出来る可能性があるなら、私は言わずにいる方を選ぶ。ただそれだけのことだよ」
頬杖をほどき、自分の確かな意思を瞳に秘めてえとはのあの言葉を静かに遮る。
のあ「そんなの……悲しいですよ」
えとには笑っていて欲しい。だから悲しい恋はしてほしくない。これは身勝手なわがままだ。分かってはいるが好きな人の幸福を願うこともいけないのだろうか。
のあの呟きに、えとの口唇が人目に分からぬほど微かに歪んだ。
えと「そうだね。でも仕方ないよ、それ意外の選択肢を私は持っていないんだから」
諦めたような笑みにえとの存在が儚く消えてしまいそうに見えて、詰まった声を絞り出すように友人として慰めにもならない言葉を掛ける。
のあ「…っ私はえとさんが好きですよ、だからきっとその人もえとさんを悪く思うわけない」
えと「ありがとう、私ものあさんのこと好きだよ。でもね、それはまた違うんだ、……違うんだよのあさん」
見も蓋もなく受け流された好きという言葉。
ああ、伝えたいのはこんなことじゃないのに。
そう思ったところで、この関係を維持したいと変化を望まないでいるのあは己れの焦がれる想いを伝える術を持たなかった。
のあ「えとさん」
えと「うん」
せめてあなたの恋は叶うといいのに……
そう思うのに、えとの恋を応援しているからという言葉は口をついて出てくることがなかった。
それこそがのあの本心なのかもしれないということに本人は気づかないまま、話はとりとめのないものへ流れる。
そんな二人の恋は平行線を辿って、交わることを知らなかった。
季節は足早に巡り、早咲きの桜が散った卒業の日。
式も終わり校庭の花道を通ると、それぞれ友人や教師たちと別れの言葉を交わす。そんな中まさに号泣を体現するるなは話す言葉に濁音が付く有り様で、のあやえとを含むクラスメイトたちから仕方ないなと呆れられながらも、みな思わず涙腺が同調してしまいそうになるのを堪えていた。
のあ「るなさん泣きすぎです」
えと「ほんと、そんなんだと干からびちゃうよ?」
そうからかい混じりに笑いながらのあとえとがハンカチやらティッシュを手渡すとるなはさらに感極まったようで、「離れても友達ですからね!」と涙声過ぎてほとんどニュアンスでしか聞き取れないが、そう叫ぶと力いっぱい二人に抱きつく。もう鼻水付くから~、と口では言いつつ二人ともポンポンとしゃくり上げるるなの背を優しく叩いた。
その後も泣きながら親交のあった生徒たち一人一人に最後の挨拶をして回るるなにどこか手の掛かる子をもつ親のような眼差しを向ける二人は、どちらともなくフフっと笑い。穏やかな笑みを浮かべて瞳を合わす。
包む空気は和やかだが、胸中に抱えた想いは
如何程だろうか?
報われぬと決めつけてその想いを告げることなく互いの胸にしまったまま。浮かべる笑みと裏腹にきしきしと何かを訴えるように小さくひずむ心音には耳を塞ぐ。
暫くすると校庭に留まる生徒たちが1人また1人と三年間の学舎を去っていき、のあたちもそれに倣い、行こっか、と校門へと並んで歩く。慣れ親しんだ互いの歩幅に合わせて、でも心持ち普段よりゆっくりと別れの道を進んだ。
そして最後の最後まで、いつもと何も変わらぬ態度でまた明日があるかのように、ばいばい、と笑って手を振り校門を一歩出る。あまりにも名残なく背中を向けたのはこれ以上相手の姿を見ていたら溢れ出す何かを抑えられなくなりそうだったから。
のあ「好きでしたよ、えとさん。ううん、今もずっと変わらないんです」
えと「さよならのあさん、大好きでした…………っだいすき、です」
卒業の花を携えた帰り道、それぞれが呟いた言葉は風に乗って相手に届くこともなく吐き出す白い息と共に冷えた空気に消えていった。
人知れず流した涙の理由は本人しか知り得ない。
Dear friend, I wish you every happiness.
『親愛なる友へ あなたはどうか幸せに』
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友人としての壁がどうしても越えられなかった二人の話。