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アリスはよろよろと一歩退いた、ショックだったからだが、すぐに北斗が隣に来て彼女を支えてくれた
この人はいつも傍にいて支えてくれる、ほんの束の間アリスは背中を彼の胸に預けた
しっかりした壁を背にしているような、安心感に勇気をもらいやっと言葉が出た
「いったい何を考えているの鬼龍院は?彼はこの土地の住人ではないわ!彼がここの議員になる理由は?まさか隠居でもして田舎暮らしを堪能したいと? 」
虚栄心丸出しの鬼龍院が、あっちのパーティこっちのパーティに、毎日忙しく顔を出している所ををアリスは思い出した
「絶対それはないわ!熱があって病院には行かなくても、セレブの集まる所には行く人よ?その根拠は?彼がそんなことをする理由は? 」
嫌な予感がする、全員が顔を見合わせた、お福がハラハラ見守っている
「アリス」
北斗がアリスの両肩を持ちなだめるように言った
「鬼龍院の頭の中まではわからないからある程度推測するしかないんだが・・・アイツはこの牧場を手に入れたがっている」
「どうしてこの町の町会議長になったら、この牧場がアイツの手に入るの?」
アリスが尋ねた
「実は・・・この牧場は親父が残した税の分、国に借金があるんだ・・・もちろんあと少しで払い終わるんだが・・・
それまで正式にはこの牧場は国のものだ、脱税分をキチンと払い終わって、正式に俺達のものにするまでは、それまではここの管理権はこの町の町議会のものなんだ」
直哉が水のボトルに口をつけながら言った
「つまり・・・この牧場を好きにできるのは、北斗さん達が税を払い終わるまでは、その町会議長に権利があるってこと?」
北斗がコクンとアリスを見つめて頷く
「残りの脱税分は?いくらなの?」
「およそ1億」
アリスが両目を閉じた、ああ・・・私の資産があれば・・・
しかしアリスは母と喧嘩して勘当された時、弁護士の前で彼女の伊藤家の財産権の一切を放棄したのだ
「鬼龍院はどうしてこんなことを!」
そこでアリスはハッとして両手で口を覆った
―私が北斗さんと結婚してここに来たからだわ―
「あいつはこの牧場も君も手に入れるつもりだ」
「私はモノではないわ!」
これまで感じたことがない怒りが、アリスの胸に込み上げて来た
許さない!この牧場を取り上げるなんて!
自分のバックからスマートフォンを取り出すと、猛然とスクロールしていく、アリスが画面に夢中になってるのを全員が見ていた
「おいおい・・アリス!何をしてるんだ!」
直哉が呼びかける
ああ、もう!どうしてこんな時に出てこないの!指が震えて動き、繊細なタッチスクリーンがいろんなページにジャンプする
「アリス、誰に電話しようとしてるんだ?」
北斗が尋ねた、質問に答えないでいるとまた彼の手が肩に置かれる
「誰だ?」
和也も首を伸ばして、アリスの行動を不思議そうに見ている
あった!彼の番号だ
「これから鬼龍院忠彦に電話してやるわ!梅毒を持ちながら私と結婚しようとした男よ、この牧場を乗っ取るなんて絶対にさせないと言ってやる! 」
「いや!それはやめた方がいいな」
ジンが言った
「北斗!彼女を止めろ!」
切迫感がにじむ、北斗がアリスの手からスマホを取り上げた、アリスは北斗に向かって怒りをぶつけた
「返して!」
北斗は気の毒がってる様子だったが、彼女の求めに応じる気はなさそうだった
「返してよ!アイツにひとこと言ってやるんだからっっ!どうしてお母様もアイツも、私を放っておいてくれないの!どうして私を所有しようとするの、私はここにいたいの!北斗さんの傍にいたいのよ!」
「落ち着いて・・・天使ちゃん・・・」
ヒック・・・「牧場を取られたら北斗さん達はどうなるの?ナオ君は?アキ君は?みんなどこに住むっていうのよ、鬼龍院が私に個人的な恨みがあるからってそんなことしていいとは限らないわ!私がいることで北斗さん達に迷惑がかかるなんて耐えられない」
アリスは泣きながら、北斗の胸を叩いたが硬い筋肉を感じるだけ、北斗にとっては痛くも痒くもないが、彼女の心の痛みは感じられた
「そのスマホを返して!」
北斗は手を高く上げて、アリスが手を伸ばしても届かないようにした、こうなるともう無理だ取り戻せる可能性はゼロになる
彼の方がアリスよりずっと高く、力も強い、アリスは部屋にいる全員を見た、全員を見てからまた北斗を見た
「鬼龍院を町会議員長にさせてはいけないわ、わかるでしょ?この牧場を取られるのよ!ね!鬼龍院に電話させて、バカなことをするなと言ってやる」
アリスは部屋を見回した、そして最後に北斗に向き合った
「そうだわ!佐原議長に電話しましょう、このまま議長を続けてもらうようにお願いして!きっとわかってくださるわ」
北斗の顔がこわばり、鼻梁が膨らむ、口を真一文字に結びアリスをじっと見る、彼はアリスからスマホを取り上げておくことをすまなそうにしているがそれでも返そうとしない
「北斗さん!お願いだから!」
北斗は小さく首を横に振った、可哀想だけど君に返すわけにはいかないよと、無言で伝えて来る
「そうだよ・・・アイツを議長にさせなければいいんだ・・・」
直哉が立ち上がって、何かを悟ったみたいに宙を向いて呟いた
「議長にしなければって・・・・どうやるんだよ、他に候補者がいないんだからしょうがないじゃないか」
何も良い考えが出てこないのか、郵便局員の制服のままジンはソワソワして言う
ジンも和也もここの牧場を北斗のために、なんとか維持させようと先ほどから、知恵を絞ってくれている、大切な北斗の味方だ
ブツブツ・・・「なんとか法的処置でこの牧場の、権利を・・・ 」
北斗が口元に手をやって呟く
「候補者がいなければ立てればいいじゃない!」
アリスが辛辣な口調で言った、先ほどの怒りがまだ収まらない、北斗さんはスマホを返してくれない、アドレナリンの注射を打たれた気分だった
「そうだよ!その候補者が勝てばここは乗っとられることはないさ」
直哉がハッとしてアリスを見る、何か考えがあるんだな?と、片眉をくいっと上げる
「でも次に議長になったヤツが鬼龍院の、息のかかったヤツだと結局同じだぜ」
「鬼龍院の息のかかっていない人を候補者に立てるのよ!」
アリスが食い下がる
宝石と政治はなぜか切っても切れない縁だ、今までITOMOTOの令嬢として琴子の元で、大勢の政治家をアリスは見て来た
彼らはとてもズル賢い、アメーバーのようにあの手がダメなら、この手と自分が生き残るためには、どの人物も手段を選ばない人種だ
そして派閥もとても多い、あの琴子でさえ政治家と親しくするには、これ以上ないほど用心していた、いつの間にか自分が政治の策略の蜘蛛の糸に、引っかかる危険があるからだ、そしてそんなことは一般大衆は何もしらないことが常識だ
言っている内にアリスの心に次第に考えが固まり、決意がみなぎって来る
「それは誰だ?」
ジンがうんうん考えながらアリスに聞いた
「よいアイデアですわ!」
アリスの言いたいことがわかった、お福の背筋がすっと伸びた
「この町の新しい町議会議長はこの町を心から愛し、そして成宮牧場を国の権限を使って、個人の好きにしたりしない人よ! 」
アリスはテーブルに両手をつく
「そうだよ!次の町議会議員には、そんなヤツがいいぞ!」
和也も悟ったとばかりに言った
「だから誰なんだよ!」
ジンがみんなの言ってることがわからないと、ばかりに聞く
「その人は・・・・ 」
ジン以外が一斉に北斗を見た、沈黙が広がる
「あっ!そっか!」
ここでやっとジンも気が付いた
う~ん「この町のどこかにそんな人が・・・・ 」
腕を組んでうんうん考えている北斗に、みんなの視線が一斉に向いている、そして自分に視線が集まっているのに、気づいた北斗は目をぱちくりした
「な・・なんだ?俺の顔に何かついてるか?」
部屋中に沈黙が広がる、しばらく無言でみんなと見つめ合う
まだ彼は気づいていない、そしてようやくみんなが言いたいことが、理解できた北斗が唖然として叫んだ
「俺かっっ??」
人差し指を自分に向けてもう一度叫ぶ
「俺に周防町の町議会議委長に
立候補しろと言うのか?」